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188.忌み子の系譜(2)
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「我が家は3代様の忌み子の家系よ」
ウンランさんは自嘲するような表情を浮かべた。
「忌み子?」
「3代様に愛されぬ儘に生まれた子供のことよ」
3代マレビトが望まないまま子種を授けても、呪力が発現しなかったって、シアユンさんから聞いた。その時に出来た子供ってことか。
「母方の初代様系として分家した故、歴史からは抹消されたが、忌み子は忌み子。後に憐れまれた3代様がお授けくださった呪符よ」
「そんなものが……」
「3代様の血筋を受け継ぐ者だけが使える【託宣】の呪符じゃ。16歳を超えれば、祖霊から進むべき道が示される」
口から出まかせにしては、設定が細か過ぎる気が……。かと言って、迂闊に信じて良いものか。
「シアユンとか言った侍女。マレビト累代の血筋と申しておったであろう?」
「ええ、言ってましたね」
「マレビト累代とは、初代様の子孫の娘が2代様に純潔を捧げ、そのまた子孫が3代様に純潔を捧げた家ということよ。あの者ならば、我が家の呪符を使えるであろう」
「使うと、どうなります……?」
「生涯で3つ、祖霊に問うことが出来る。大抵は16になった時に、人生の指針を問うて使い切るがな。例えば、人獣にどうすれば勝てるか? 祖霊に問うてみたくはないか?」
なるほど。興味はそそられる。
「じゃあ、ウンランさんは何と言われたんですか? 祖霊に」
「ふむ……。他人に言うようなことではないのだが、既に成就したものだけ特別に教えよう。ひとつ目は『空色髪の娘を引き立てよ』じゃ」
「スイランさん……」
「儂もそう思っておるが、本当にスイランのことを指しておったのかは分からん。ふたつ目は『獄に入りてマレビトを助けよ』じゃ」
「え……?」
「ふふ。儂としては、儂が生きている間にマレビト様を召喚せねばならんような危難が訪れるのかと、随分悩んだものじや」
「えーと……」
ウンランさんが口の端を少し曲げた。
「信じてもらおうとは思わん。……が、儂は第2王子から王都に残した息子を殺すと脅されておった。さもなくば、リーファ姫暗殺に協力せよとな」
「……」
「祖霊の【託宣】にあった『獄に入る』とは、このことかと思ったものよ……。そして、マレビト様も召喚された。送り込まれた暗殺者からは、早く手引きせよと矢の催促。儂に出来ることは、足跡で侵入が判明し易い大雨の日に隠し扉を開けておくことぐらいであった……」
あの日は雨だった。足跡よりも先にユエのお陰で賊の侵入が判明したけど、辻褄が合わないことはない。ただ、言いくるめられてる気もするなぁ……。
「それで、3つ目の託宣は?」
「3つ目はまだ成就しておらん。だから言わぬ」
ふむ。これはどうしたものか。
「シャオリンは? シャオリンは知ってるんですか?」
「あの娘は我が孫ではない。儂が王都で仕えておった第5王子の隠し子よ。王家に3代様の血は入っておらん。故に使えぬ呪符の存在も知らせてない」
うわ。ややこしいな、これ。ただの作り話として放っておくことも出来るんだけど……。
「儂は家宝を差し出した。それで、ズハンを釈放してやってくれぬか……?」
「どうしてそんなに、ズハンさんにこだわるんです?」
「ズハンは儂が王都から左遷されたとき、一人だけ付いて来てくれた。儂が第2王子に脅されていたことも知って、一緒に苦しんでくれた。が、儂と関わらねば罪を犯すことなどなかった者よ」
「それだけですか……?」
「……いずれ儂が罪を犯すとき、自らがすべてを負うつもりであったのだろう。マレビト様にも歯向かい、スイランに全てを渡すつもりで振る舞っておった……」
「ズハンさんは、どうしてそこまで?」
「それが分からんのだ。ズハンは気が付いたら、儂に忠義立てするようになっておった」
「お話は分かりました。皆とも相談させてもらってよろしいですか?」
「構わん」と、ウンランさんは悲し気な色を目に浮かべた。
「我が家の秘密であったが、既に皆、命はあるまい。せめて、ズハンだけでも救けてやりたい……」
「最後にひとつだけ。3代マレビトが生きているっていうのは?」
「シアユンという侍女に聞くがいい。王家の周辺では、まことしやかに語り継がれてきたことよ。侯爵家の者ならば、儂より詳しく知っておろうよ……」
ウンランさんは自嘲するような表情を浮かべた。
「忌み子?」
「3代様に愛されぬ儘に生まれた子供のことよ」
3代マレビトが望まないまま子種を授けても、呪力が発現しなかったって、シアユンさんから聞いた。その時に出来た子供ってことか。
「母方の初代様系として分家した故、歴史からは抹消されたが、忌み子は忌み子。後に憐れまれた3代様がお授けくださった呪符よ」
「そんなものが……」
「3代様の血筋を受け継ぐ者だけが使える【託宣】の呪符じゃ。16歳を超えれば、祖霊から進むべき道が示される」
口から出まかせにしては、設定が細か過ぎる気が……。かと言って、迂闊に信じて良いものか。
「シアユンとか言った侍女。マレビト累代の血筋と申しておったであろう?」
「ええ、言ってましたね」
「マレビト累代とは、初代様の子孫の娘が2代様に純潔を捧げ、そのまた子孫が3代様に純潔を捧げた家ということよ。あの者ならば、我が家の呪符を使えるであろう」
「使うと、どうなります……?」
「生涯で3つ、祖霊に問うことが出来る。大抵は16になった時に、人生の指針を問うて使い切るがな。例えば、人獣にどうすれば勝てるか? 祖霊に問うてみたくはないか?」
なるほど。興味はそそられる。
「じゃあ、ウンランさんは何と言われたんですか? 祖霊に」
「ふむ……。他人に言うようなことではないのだが、既に成就したものだけ特別に教えよう。ひとつ目は『空色髪の娘を引き立てよ』じゃ」
「スイランさん……」
「儂もそう思っておるが、本当にスイランのことを指しておったのかは分からん。ふたつ目は『獄に入りてマレビトを助けよ』じゃ」
「え……?」
「ふふ。儂としては、儂が生きている間にマレビト様を召喚せねばならんような危難が訪れるのかと、随分悩んだものじや」
「えーと……」
ウンランさんが口の端を少し曲げた。
「信じてもらおうとは思わん。……が、儂は第2王子から王都に残した息子を殺すと脅されておった。さもなくば、リーファ姫暗殺に協力せよとな」
「……」
「祖霊の【託宣】にあった『獄に入る』とは、このことかと思ったものよ……。そして、マレビト様も召喚された。送り込まれた暗殺者からは、早く手引きせよと矢の催促。儂に出来ることは、足跡で侵入が判明し易い大雨の日に隠し扉を開けておくことぐらいであった……」
あの日は雨だった。足跡よりも先にユエのお陰で賊の侵入が判明したけど、辻褄が合わないことはない。ただ、言いくるめられてる気もするなぁ……。
「それで、3つ目の託宣は?」
「3つ目はまだ成就しておらん。だから言わぬ」
ふむ。これはどうしたものか。
「シャオリンは? シャオリンは知ってるんですか?」
「あの娘は我が孫ではない。儂が王都で仕えておった第5王子の隠し子よ。王家に3代様の血は入っておらん。故に使えぬ呪符の存在も知らせてない」
うわ。ややこしいな、これ。ただの作り話として放っておくことも出来るんだけど……。
「儂は家宝を差し出した。それで、ズハンを釈放してやってくれぬか……?」
「どうしてそんなに、ズハンさんにこだわるんです?」
「ズハンは儂が王都から左遷されたとき、一人だけ付いて来てくれた。儂が第2王子に脅されていたことも知って、一緒に苦しんでくれた。が、儂と関わらねば罪を犯すことなどなかった者よ」
「それだけですか……?」
「……いずれ儂が罪を犯すとき、自らがすべてを負うつもりであったのだろう。マレビト様にも歯向かい、スイランに全てを渡すつもりで振る舞っておった……」
「ズハンさんは、どうしてそこまで?」
「それが分からんのだ。ズハンは気が付いたら、儂に忠義立てするようになっておった」
「お話は分かりました。皆とも相談させてもらってよろしいですか?」
「構わん」と、ウンランさんは悲し気な色を目に浮かべた。
「我が家の秘密であったが、既に皆、命はあるまい。せめて、ズハンだけでも救けてやりたい……」
「最後にひとつだけ。3代マレビトが生きているっていうのは?」
「シアユンという侍女に聞くがいい。王家の周辺では、まことしやかに語り継がれてきたことよ。侯爵家の者ならば、儂より詳しく知っておろうよ……」
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