上 下
190 / 297

188.忌み子の系譜(2)

しおりを挟む
「我が家は3代様のの家系よ」

ウンランさんは自嘲じちょうするような表情を浮かべた。

「忌み子?」

「3代様に愛されぬままに生まれた子供のことよ」

3代マレビトが望まないまま子種をさずけても、呪力じゅりょく発現はつげんしなかったって、シアユンさんから聞いた。その時に出来た子供ってことか。

「母方の初代様系として分家したゆえ、歴史からは抹消まっしょうされたが、忌み子は忌み子。後にあわれまれた3代様がおさずけくださった呪符じゅふよ」

「そんなものが……」

「3代様の血筋を受け継ぐ者だけが使える【託宣たくせん】の呪符じゅふじゃ。16歳を超えれば、祖霊から進むべき道が示される」

口から出まかせにしては、設定が細か過ぎる気が……。かと言って、迂闊うかつに信じて良いものか。

「シアユンとか言った侍女。マレビト累代るいだいの血筋と申しておったであろう?」

「ええ、言ってましたね」

「マレビト累代とは、初代様の子孫の娘が2代様に純潔じゅんけつささげ、そのまた子孫が3代様に純潔じゅんけつを捧げた家ということよ。あの者ならば、我が家の呪符じゅふを使えるであろう」

「使うと、どうなります……?」

生涯しょうがいで3つ、祖霊に問うことが出来る。大抵たいていは16になった時に、人生の指針ししんを問うて使い切るがな。例えば、人獣じんじゅうにどうすれば勝てるか? 祖霊に問うてみたくはないか?」

なるほど。興味はそそられる。

「じゃあ、ウンランさんは何と言われたんですか? 祖霊に」

「ふむ……。他人に言うようなことではないのだが、すで成就じょうじゅしたものだけ特別に教えよう。ひとつ目は『空色そらいろ髪のむすめを引き立てよ』じゃ」

「スイランさん……」

わしもそう思っておるが、本当にスイランのことを指しておったのかは分からん。ふたつ目は『ごくりてマレビトを助けよ』じゃ」

「え……?」

「ふふ。わしとしては、わしが生きている間にマレビト様を召喚せねばならんような危難きなんが訪れるのかと、随分ずいぶんなやんだものじや」

「えーと……」

ウンランさんが口のはしを少し曲げた。

「信じてもらおうとは思わん。……が、わしは第2王子から王都に残した息子を殺すとおどされておった。さもなくば、リーファ姫暗殺に協力せよとな」

「……」

「祖霊の【託宣たくせん】にあった『獄に入る』とは、このことかと思ったものよ……。そして、マレビト様も召喚された。送り込まれた暗殺者からは、早く手引てびきせよと矢の催促さいそくわしに出来ることは、足跡あしあとで侵入が判明しやすい大雨の日に隠し扉を開けておくことぐらいであった……」

あの日は雨だった。足跡よりも先にユエのおかげぞくの侵入が判明したけど、辻褄つじつまが合わないことはない。ただ、言いくるめられてる気もするなぁ……。

「それで、3つ目の託宣たくせんは?」

「3つ目はまだ成就じょうじゅしておらん。だから言わぬ」

ふむ。これはどうしたものか。

「シャオリンは? シャオリンは知ってるんですか?」

「あの娘は我が孫ではない。わしが王都でつかえておった第5王子の隠し子よ。王家に3代様の血は入っておらん。ゆえに使えぬ呪符じゅふの存在も知らせてない」

うわ。ややこしいな、これ。ただの作り話としてほうっておくことも出来るんだけど……。

わしは家宝を差し出した。それで、ズハンを釈放しゃくほうしてやってくれぬか……?」

「どうしてそんなに、ズハンさんにこだわるんです?」

「ズハンはわしが王都から左遷させんされたとき、一人だけ付いて来てくれた。わしが第2王子に脅されていたことも知って、一緒に苦しんでくれた。が、わしと関わらねば罪をおかすことなどなかった者よ」

「それだけですか……?」

「……いずれわしが罪を犯すとき、自らがすべてを負うつもりであったのだろう。マレビト様にも歯向はむかい、スイランに全てを渡すつもりでっておった……」

「ズハンさんは、どうしてそこまで?」

「それが分からんのだ。ズハンは気が付いたら、わし忠義ちゅうぎてするようになっておった」

「お話は分かりました。みんなとも相談させてもらってよろしいですか?」

かまわん」と、ウンランさんはかなな色を目に浮かべた。

「我が家の秘密であったが、すでみな、命はあるまい。せめて、ズハンだけでもたすけてやりたい……」

「最後にひとつだけ。3代マレビトが生きているっていうのは?」

「シアユンという侍女に聞くがいい。王家の周辺では、まことしやかに語り継がれてきたことよ。侯爵こうしゃく家の者ならば、わしより詳しく知っておろうよ……」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

踏み出した一歩の行方

BL / 完結 24h.ポイント:205pt お気に入り:66

最愛の人がいるのでさようなら

恋愛 / 完結 24h.ポイント:63,715pt お気に入り:650

大好きなあなたを忘れる方法

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:15,019pt お気に入り:1,027

俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:745pt お気に入り:38

【完】生まれ変わる瞬間

BL / 完結 24h.ポイント:674pt お気に入り:114

ファントムペイン

BL / 完結 24h.ポイント:340pt お気に入り:40

処理中です...