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189.忌み子の系譜(3)
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「確かに3代様生存説は秘かに語り継がれて参りました」
と、シアユンさんが言った。
ウンランさんの話を聞いた後、自分を救けるために家宝を差し出したと伝えられたズハンさんは、大泣きに泣いてしまい、詳しい話を聞くことが出来なかった。
そのまま普段より遅く大浴場に向かったら、皆んな既に湯船に浸かってたけど、シーシが待ち構えてて、飛び掛かられるように、背中を流された。
いつも以上に、くにっくにっとキレ良く流してる間中、カンナの素晴らしさについて熱く語られた。役に立ったのなら良かった。
そして、脱衣所で祖霊祭祀に向かうシアユンさんを呼び止めたら、皆んなから「つ、ついに!」「一番槍はシアユン様が……」「やっぱり」と、盛大に誤解された。
それだけ俺が思い詰めた顔をしてたのかもしれないけど、顔を真っ赤にして否定したら生温かい目で見られてしまった。
エジャとヤーモンの結婚式で、祖霊を祀る壇を見て興味もそそられていたので、初めて祖霊廟に足を踏み入れ、シアユンさんの祭祀を見させてもらってた。
そして、シアユンさんと向き合っている。
「忌み子の……。そうでありましたか」
と、俺の話を聞いたシアユンさんは目を伏せた。
荘厳に装飾された部屋には、お香のいい匂いが立ち込めている。シアユンさんの胸に抱かれたときに、ふっと香った匂いだった。
「シアユンさんは、ウンランさんの話を信じていいと思いますか?」
「私は信じられると思います。まず、自らが忌み子の家系であることを打ち明けられたこと。わざわざ不名誉を明かされる理由が思い当たりません」
「なるほど……」
「詐称したところで、ウンラン殿に得のない詐称です。次に、言い方は申し訳ないのですが、大夫ごときに真心を示される。王都で爵位にあった方とは思えない優しさです」
「大夫っていうのは、そんなに低い身分なんですか……?」
「王都では特にそうです」
「そこまでは信じたとして、呪符の件はどうです?」
「現物を見るまでは、なんとも言えませんが、恐らく物があるのは本当でしょう」
「と言うと?」
「わざわざ外に囲った妾の存在を明かす理由がありません。子爵ともなれば側に置いても何の問題もないところ。よほど身分の低い者だったのでしょう」
シアユンさんがここまで断言するからには、信じてもいいのかな。
「……ダーシャンの貴族というのは見栄と誇りの化け物です」
と、シアユンさんがいつも以上に氷のような居住まいを見せた。ちょっと背筋にゾクッとしたものが走る。
「少しでも隙を見せれば足元を掬われます。王都の状況がどうあれ、侯爵家の人間である私に伝わることが分かっていて言ったことには意味があります」
「忌み子の家系だと公になれば、失脚するというようなことですか……?」
「仰る通りです。たとえ戯れ言でも、そのようなことを申す者はダーシャンの貴族ではありません。その話の中で、呪符の件だけが偽りというのは、ちょっと考えにくいと判断しております」
なるほど。お貴族様の価値観で判断すると、そうなるってことか。
3代マレビトが生きてる云々は、後回しにしても、祖霊の意見が聞けるっていう呪符には惹かれる。
「回廊決戦で第2城壁を奪還するまで待つか、外征隊に探索を依頼するかということになりますね」
と、シアユンさんが俺の考えを察したように微笑んだ。
「アスマ殿でしょう」
「アスマ……?」
「ええ。アスマ殿ならば呪符のなんたるかをご存じありません。妙に構えることなく事を遂行して下さるでしょう。また、マレビト様をお慕いされる気持ちも充分。アスマ殿の隊に密かにお命じになるのが、よろしいかと」
お慕いされる気持ちも充分と言われると、恋心を利用してるようで後ろめたくもなるけど……。
いやいや。俺は里佳1人にフラれただけで、ずっとグジグジしてるけど、目の前にいるシアユンさんだって俺に純潔を捧げようとしてる。大浴場の女子たち皆んなそうだ。恋心がどうとか言い出したら、誰にも頼みごとなんか出来なくなる。
確かにお願いするならアスマが良さそうだ。悩んでても仕方ない。出来ることはやろう。
思わず、ふふっと笑うとシアユンさんが不思議そうに俺の顔を見た。
その表情! 可愛いですよっ!
祖霊に話を聞けたら、なにかいいアイデアもらえるかもしれないし!
と、シアユンさんが言った。
ウンランさんの話を聞いた後、自分を救けるために家宝を差し出したと伝えられたズハンさんは、大泣きに泣いてしまい、詳しい話を聞くことが出来なかった。
そのまま普段より遅く大浴場に向かったら、皆んな既に湯船に浸かってたけど、シーシが待ち構えてて、飛び掛かられるように、背中を流された。
いつも以上に、くにっくにっとキレ良く流してる間中、カンナの素晴らしさについて熱く語られた。役に立ったのなら良かった。
そして、脱衣所で祖霊祭祀に向かうシアユンさんを呼び止めたら、皆んなから「つ、ついに!」「一番槍はシアユン様が……」「やっぱり」と、盛大に誤解された。
それだけ俺が思い詰めた顔をしてたのかもしれないけど、顔を真っ赤にして否定したら生温かい目で見られてしまった。
エジャとヤーモンの結婚式で、祖霊を祀る壇を見て興味もそそられていたので、初めて祖霊廟に足を踏み入れ、シアユンさんの祭祀を見させてもらってた。
そして、シアユンさんと向き合っている。
「忌み子の……。そうでありましたか」
と、俺の話を聞いたシアユンさんは目を伏せた。
荘厳に装飾された部屋には、お香のいい匂いが立ち込めている。シアユンさんの胸に抱かれたときに、ふっと香った匂いだった。
「シアユンさんは、ウンランさんの話を信じていいと思いますか?」
「私は信じられると思います。まず、自らが忌み子の家系であることを打ち明けられたこと。わざわざ不名誉を明かされる理由が思い当たりません」
「なるほど……」
「詐称したところで、ウンラン殿に得のない詐称です。次に、言い方は申し訳ないのですが、大夫ごときに真心を示される。王都で爵位にあった方とは思えない優しさです」
「大夫っていうのは、そんなに低い身分なんですか……?」
「王都では特にそうです」
「そこまでは信じたとして、呪符の件はどうです?」
「現物を見るまでは、なんとも言えませんが、恐らく物があるのは本当でしょう」
「と言うと?」
「わざわざ外に囲った妾の存在を明かす理由がありません。子爵ともなれば側に置いても何の問題もないところ。よほど身分の低い者だったのでしょう」
シアユンさんがここまで断言するからには、信じてもいいのかな。
「……ダーシャンの貴族というのは見栄と誇りの化け物です」
と、シアユンさんがいつも以上に氷のような居住まいを見せた。ちょっと背筋にゾクッとしたものが走る。
「少しでも隙を見せれば足元を掬われます。王都の状況がどうあれ、侯爵家の人間である私に伝わることが分かっていて言ったことには意味があります」
「忌み子の家系だと公になれば、失脚するというようなことですか……?」
「仰る通りです。たとえ戯れ言でも、そのようなことを申す者はダーシャンの貴族ではありません。その話の中で、呪符の件だけが偽りというのは、ちょっと考えにくいと判断しております」
なるほど。お貴族様の価値観で判断すると、そうなるってことか。
3代マレビトが生きてる云々は、後回しにしても、祖霊の意見が聞けるっていう呪符には惹かれる。
「回廊決戦で第2城壁を奪還するまで待つか、外征隊に探索を依頼するかということになりますね」
と、シアユンさんが俺の考えを察したように微笑んだ。
「アスマ殿でしょう」
「アスマ……?」
「ええ。アスマ殿ならば呪符のなんたるかをご存じありません。妙に構えることなく事を遂行して下さるでしょう。また、マレビト様をお慕いされる気持ちも充分。アスマ殿の隊に密かにお命じになるのが、よろしいかと」
お慕いされる気持ちも充分と言われると、恋心を利用してるようで後ろめたくもなるけど……。
いやいや。俺は里佳1人にフラれただけで、ずっとグジグジしてるけど、目の前にいるシアユンさんだって俺に純潔を捧げようとしてる。大浴場の女子たち皆んなそうだ。恋心がどうとか言い出したら、誰にも頼みごとなんか出来なくなる。
確かにお願いするならアスマが良さそうだ。悩んでても仕方ない。出来ることはやろう。
思わず、ふふっと笑うとシアユンさんが不思議そうに俺の顔を見た。
その表情! 可愛いですよっ!
祖霊に話を聞けたら、なにかいいアイデアもらえるかもしれないし!
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