ポーリュプスの籠絡

橙乃紅瑚

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10.Lazward ※残酷描写あり

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 夢を見た。
 海の上を漂い続ける夢だ。

 どこにも陸地は無い。
 水の墓場にて、月だけが浮かぶ天を見上げている。

 夜に押し潰される。海に呑まれる。あの赤い月は不気味だ、影が顔のように見える……。
 何も動かせない。浮いているのに重石を括り付けられているのかと思うほどに身体が重く、指の一本さえ自由にならない。

 首だけは辛うじて動かすことができる。
 ゆっくり顔を横に傾けると、醜く膨れ上がった肉が見えた。

 ……自分の腕だ。

 水に浸かり続けた肌は不気味なほどに白い。含水した表皮は破れ、侵蝕された箇所からてらてらと光る肉が覗いている。こう水を吸ってしまっては重くなるのも仕方がない。この鬱陶しい肉の塊をどうにかしなければ。肩から綺麗に千切れやしないだろうか? そうしたら、この押し潰されそうな重みから逃れられるかもしれないのに。

 ふと、肉の間に蠢くものが見えた。
 大量の貝虫が腕を啄んでいる。虫はふやけた表皮を食い散らかし、流れ出る体液を啜った。

 群がる。蠢く。もたげる。破れる。
 食痕。侵蝕。分解。蚕食。損壊。自分の腕からどんどんと肉が失われていく。

 貝虫たちの愛おしさに顔が綻ぶ。喰われるというのはこんなにも心地が良いものなのか。腕が軽い。気持ちが良い。もっともっと食べてほしい。
 何と喜ばしいことだろう。自分は海の一部となるのだ。完璧なる世界の住人となるのだ!

 骨が覗く。曝け出されたばかりのそれに心を奪われる。硬質な曲線美、骨というものはあまりにも美しい。ずっと見ていたい。月に光るそれに感嘆の息が漏れる。もはや肉は要らない、早く完全な姿になってしまおう。いずれ迎えが来る。この暗い暗い海の底から救いの手が伸ばされる。全てを捨てた時、自分は真にのものとなる!

 破れた肉の間から、真っ青な液体が次々に溢れ出た。

 とろりと水に溶けていくそれを見つめる。
 血だ、私の生命の源だ。と同じ色……。自分の身体の中には、これほどに美しい色が巡っている。なんて綺麗な色だろうか。嬉しい。嬉しい!

 青、空の色。青、海の色。青、瑠璃の色。青、屍肉の色。青、孤独の色。青、陰鬱の色。青、青、青、青、青青青、青青、青青、青、青、青青青青青……。青、青、青青青青青青青青青青青青。

 青……。

 青、……あお?


 ちがう。


 違う、違う!

 凄まじい恐怖が全身を駆け巡る。
 これは私の血じゃない……。私の血はこんな色をしていない! 

 何故だ!? 私は何故ここにいる!?
 早くから逃げなければ!!

 もがく度に肉が水に溶ける。変わり果てた自分の腕に狼狽の叫びが出そうになったが、それははっきりとした声にはならず、僅かに喉を震わせただけだった。声が出ない。ひゅう、ひゅうと掠れた息だけが喉から出る。声を出そうとする度に水が体内に流れ込む。ああ、喉までも虫に食い破られてしまっている……。腕も、足も、臓腑を収める腹までも、何もかもが喰われ、失われていく。

 露わになった骨に蛸足が絡みついた。骨と骨の隙間にぬめるそれが挿し込まれ、私の新たな肉となるかのように蠕動する。口は触腕に塞がれ、息を飲み込むことしかできない。私は夜闇の中、幾百本もの蛸足が海上に突き出すのを目にした。蛸足はうねり、互いに絡み合い、私をすっかり覆い隠した。

 触腕の森に飲み込まれる。赤い月が、蛸の頭に変わっていく。
 耳元で、くぐもった笛のような音が響いた。

『██郢繝??補蔓██郢█繝晉腐██縲繝縺、繝感█』

 聞き取れない。何も解らない。
 掠れた息を吐くだけの私に、はなおも語りかけてくる。

『埋逃██リ蠢瘡ィ繝詛?ァ逃███、逃逃』

 頭の中を掻き乱される。脳の裏側を引っ掻かれているかのような強い不快感が止まらない。軋む、壊れる、声に蝕まれる。犯される。侵食される。苦しい……。


 自分が、変貌していく。


『██ずリ、らず――』

 駄目だ。何故、どうして? 
 狂った音の羅列を、私の頭は確かな言葉として認識しようとしている。

 私はおかしくなってしまったのか? 

 人外の声が、人間の男の声に変化する。


『何者も我から逃れることはできぬ。何者も、決して』


 ……そう、どこにも逃げ場はない。
 邪神に目をつけられてしまった時点で、私の運命は決まっていたのだ。


『何者も我から逃れることはできぬ。たとえ肉体が朽ちようとも、お前は永遠に我のもの』


 全身に触手が絡みつく。指の一本一本まで、ぬめる蛸足に捕らわれる。

 暗い暗い海の底へと誘われる。
 強い潮の臭いが私を満たす。


 恐怖と狂気に蝕まれ、私は力なく水底に沈んでいった。


 ********




 ぼやけた視界で、見慣れた病室の天井を捉える。
 薬液のつんとした臭いに、窓から吹き込む爽やかな風。サイドテーブルに置かれた果物かごからは柑橘の香りがほのかに漂っている。日当たり良好な、いつも通りの部屋。

 戻ってきた。
 これは、現実だ……。やっと夢から覚めたのか。

  ラズリはゆっくりと起き上がり、重苦しい溜息を吐いた。

「……………はあ」

 まただ。またあの夢を見てしまった。
 海上を漂い続けた挙げ句、巨大な蛸の足によって水底へと引きずり込まれる夢。

 頭の奥で、不気味な邪神の声がまだ響いている。

 ――何者も我から逃れることはできぬ。何者も、決して。

 自分はずっとあの夢を見続けている。いい加減おかしくなりそうだ。ルブラはもういないのに、彼は自分の中から消えてくれない。邪神は夢の中で執拗に語りかけてくる。お前の魂は我のものなのだと……。

「……怠い」

 強い目眩に吐き気を催す。寝衣は汗にびっしょりと濡れていて、背中にべとりと張り付く布が不快だ。ずっと寝ているというのに、あの夢のせいで全く休めた気がしない。

 ラズリは腕に巻かれた包帯を緩め、肌に鋭い爪の角を立てた。勢いよく指を滑らせれば、すぐに赤い筋が走る。自分の血が青くないことを確かめ、彼女は安堵の息を吐いた。


 あの狂気の島を去ってからおよそ一ヶ月。
 ラズリは未だ病床に臥せっていた。

 マーシュに保護された時のラズリは酷く衰弱し、何日も食事を摂らなかったせいで痩せこけていた。白い肌は潮風に乾燥しきり、ところどころ深くひび割れてしまっている。外傷、栄養失調、そして精神的なショックにより、ラズリはまともに受け答えができない状態だった。彼女はマーシュにすぐさま入院させられ、大病院の広々とした個室にて、丁寧な治療を施されていた。

 ラズリは淀んだ息を吐いた。

 身動ぐ度、隣の点滴台が金属音を立てるのが鬱陶しい。サイドテーブルに置かれた薬と檸檬の匂いが鬱陶しい。開け放たれた窓から吹き込む風が鬱陶しい……。あの夢のせいでいつまでも快復しない。不安が消えない。腕に繋がれた管を引きちぎって、衝動のまま叫びたくなる。

 何もかもが嫌になり、ラズリは意識的に優美な天井を見上げた。

 何度見てもこの病室の天井は変わっている。この病院を建てた者は、余程信仰深い者だったのだろうか? それとも、死出の旅へと出る者に深い安らぎを与えたかったのだろうか……。

 寝台の上でそんなことを思いつつ、ラズリはぼんやりとその絵を見つめた。


 それは、神のもたらした豊穣を讃える絵だった。

 白亜の天井いっぱいに、空色を基調とした壮麗なフレスコ画が描かれている。花々咲き誇る天上の景色を描き出したそれは、窓から射し込む陽の光を浴びて神々しく輝いた。

 藤、睡蓮、薔薇、向日葵、オリーブ、檸檬、小麦。細緻を極めた植物、そして色鮮やかな鳥たちが輪を作るその中心に、七色七対の翼を持つ女神が佇んでいる。白銀の盾と、燃え盛る槍を持つ戦乙女。目が覚めるような青い衣を纏いしその女は、天井を見上げる者に柔らかな笑みを向けた。

 罪と血、そして争いによって穢れきった下界に、安寧と希望の光をもたらした天空の女神。
 彼女の神秘の力によって海は鎮まり、陸には緑が溢れ、空は清浄な空気で満たされた。それはこの国に住む者ならば、誰もが知る神話であった。


 空の女神ラズワード。

 虹の橋を渡る者。幾万もの鳥を従える天の門番。青き炎とも云われる神。希望の灯火を投げかけ、正義の焔を焚きつけるもの。


 鮮烈な青が心の澱みを忽ち和らげていく。
 それはかつて、空を見上げた時の心地よさとよく似ていた。

(水神を封じたという天空神とラズワードは、同一の存在なのだろうか……?)

 ラズリは壁画が語る奇譚を思い出した。
 歴史の陰へと追いやられた、もうひとつの神の物語を。

 遥か古の時代、この星の覇権を巡って水神と天空神が激しく争った。
 水神は争いに敗れ、天空神によって海に封じられた。水神は海底都市にて永い眠りについている。だが星辰が正しい位置についた時、海底都市は浮上し、世界の全てが水神のものとなる……。

(けれど、私のせいでルブラは完全な復活を遂げることができなかった。水神は私によって殺された。……殺してしまった)

 罪悪感に胸が張り裂けそうになる。あの島に縛り付けられるのは何としても避けたかったが、ルブラを殺してまで逃げるつもりはなかった。自分はルブラが好きだった。あんなことをされても、彼への愛は消えることはなかった。

 ルブラは本当に死んでしまったのだろうか。彼は神だ、もしかしたら海底都市に戻り、傷付けられた身体を癒やしているのかもしれない。海から這い上がってきて、再び自分の前に現れてはくれないだろうか?

(……会いたいよ、ルブラ。私がもっと早く振り返っていれば……。いや、私があなたを避けるような真似をしなければ、こんなに拗れなかったのかな?)

 戻ってきてくれるなら蛸の姿でも怪物の姿でもいい。とにかくルブラに会いたい。きちんと目を見て話せなかったことを謝りたい。ルブラの体温が、思い出が、あの金の目が次々に蘇ってきて止まらない。

 ルブラの喪失を心の底から後悔している。だからきっと、あんな夢を見てしまうのだ。怖ろしくも、彼の影を確かめるような夢を……。

(はは。私って、ルブラのことがこんなにも好きだったんだ……。なんだ、恋を終わらせることなんて最初からできなかったじゃない……!)

 もうルブラに会えないのだと思うと死んでしまいたくなる。耐え難い心の痛みに、ラズリはうずくまり大きく嗚咽した。


 控えめに扉が叩かれる。
 ノックの主はラズリの泣き声に僅かに逡巡し、そしてそっと扉を開けた。

「……ラズリくん、入るよ」

 マーシュはラズリに近づき、痛みを堪えた表情で彼女を見下ろした。

 今日も彼は檸檬が入った袋を小脇に抱えている。ラズリの気が少しでも晴れるようにと、マーシュは爽やかな香りを放つ檸檬やライムを見舞いの度に持ってきた。
 かつて好んだ柑橘の香りが今は鬱陶しく感じるとは言えず、ラズリは唇を噛み締めながらただ涙を流した。

「ラズリくん。ラズリくん……。ここに怖いものは何もないんだ。君はもう、泣かなくてもいいんだよ……」

 大きな手に頭を撫でられる。労るような動きにルブラを重ねてしまい、ラズリはマーシュの痩せた身体に縋りつきながら大声で泣いた。

「ひっ……ぅ、ぐすっ、……まーしゅ、隊長……」

「……血が出ている。君はまた、自分を傷付けたのか」

 ラズリの傷に気が付いたマーシュは、ざっと顔を強張らせ彼女の腕を掴んだ。マーシュは素早くラズリを手当てしながらも、白い肌に刻まれた無数の引っ掻き傷を見て、耐え難い後悔に苛まれた。

 ラズリは度々自傷行為に走るようになった。彼女をこうしてしまったのは自分なのだ。自分のせいだ……。大切な部下をここまで追い詰めてしまったという事実に、マーシュもまた涙を流した。

「……君には本当に済まないことをした。救出が遅れたこと、そしてラズリくんひとりに重責を背負わせ、ここまで追い詰めてしまったこと。全ては僕の責任だ。何度謝っても許されることではない。本当に、済まなかった」

 包帯越しに傷口を撫でながら、マーシュは幾度も幾度もラズリに謝罪をした。深く頭を下げ、ひたすら許しを請うようにラズリの手を握る。

 ラズリはそんな彼の様子に違和感を抱いた。

(マーシュ隊長。あなたはどうして………)

 どうしてそんなにも自分に謝るのか。
 この男は一体、何について謝っているのだろうか?

 マーシュにこうして謝られるのは初めてではない。毎日、執拗とも言えるほどに謝罪をされる。その様子はどこか含みがあるように思え、ラズリは兄と慕うマーシュに対し、不信が込み上げるのを感じた。

(……隊長は大事な何かを隠している。私が欲しいのは謝罪ではない、真実だ……。どうして私はあの島に行かなければいけなかったの? どうして私は、ルブラを殺すことになってしまったの?)

 ラズリはマーシュの腕から抜け出し、サイドテーブルの引き出しから短剣を取り出した。

 陽光にきらりと光る白い短剣。愛しい男を燃やし尽くした忌まわしきもの。本音を言えばすぐにこの短剣を捨ててしまいたかったが、真実への手掛かりとなるであろうそれを、ラズリはどうしても手放せないでいた。

「……隊長、私に謝らなくてもいいです。それよりも教えてください。あなたは何のために私を島へと送り出し、何のためにこの短剣を渡したのですか?」

 真実を知りたい。知らなければならない。
 マーシュの深みのある茶の目を見つめながら、ラズリは切れ味のない短剣を彼に差し出した。

「この短剣は一体何なのですか? この短剣から放たれた光がルブラの身体をずたずたに引き裂き、彼を燃やし尽くしたのです。この短剣を使ってルブラを殺すこと、もしかしてそれが私のやるべきことだったのですか……? 答えてください、隊長……。何も分からないままあれこれ巻き込まれるのは、もううんざりなんです!」

 冷静さを打ち捨てたラズリの激昂に、マーシュは眉を下げた。

「……そうだね。何も知らされぬまま謝られても、君が戸惑うだけだね。僕は君に、全てを説明する義務がある」

 沈んだマーシュの声はいやに硬い。いつも飄々としている彼のそんな声は聞いたことがなく、ラズリはゆっくりと目を瞬いた。

 ふわふわとした前髪の下の目から、絶えず雫が流れ出ている。唇が震えているのは何かを怖れているのか、それとも緊張しているためなのか。マーシュは口を噤み中々話し出そうとはしなかったが、湿り気のある溜息を何度か吐いた後、静かな声で語り始めた。

「まず君に話すのは、遠い過去の話だ。決して空想の話ではない、実際にこの地球ほしで起きたことだ……」



 ……大洋到達至難極。
 海上で、陸から最も遠い場所のことを指す。

 陸も何もない、ただ水だけが広がる場所であろうと予想されながらも、そこに到達することは好奇心が強い者たちの憧れであった。

 遥か昔のこと。各国で大規模な航海が行われた時代の話だ。

 ある探検隊が国の威信を背負い、大洋到達至難極へと向かった。病や栄養失調で人員を失い、時には酷い嵐に巻き込まれながらも、探検隊はやっとの思いで絶海へと辿り着いた。

 そして彼らは、そこで信じられぬものを目にした。

 そこには、巨大生物の遺骸があった。
 海上に突き出たそれは山のように大きく、そして形容し難い姿をしていた。昆虫を思わせる骨ばった複数の腕に、植物のような胞子をつけた数本の付属肢。五芒星形の頭部、七対の翼……。未知の骸だが、探検隊の者たちは危険を感じなかったのだという。

 朽ちた肉から覗く骨は真珠のように光り輝き、その煌きは海面を虹色に彩った。遺骸の周りには蓮に似た花が咲き誇り、辺りを爽やかな香りで包み込んでいた。汚染と腐敗から程遠いそれは、ただひたすらに清らかな空気を滲ませ続けていたと記録されている。

 探検隊は骸から骨を切り取り、大切に保管した。その骨を船に乗せていると不思議と天候が安定し、彼らは無事に祖国へ帰ることができた……。


「ラズリくん。君も似たような話を聞いたことがあるんじゃないか?」

「……色々と異なる部分はありますが、隊長の話はこの国で有名な神話に結末が似ていますね」

 船乗りたちが嵐によって大海原を彷徨っていたところ、天空の女神ラズワードの遣いが彼らの前に現れた。
 天使は船乗りたちに祝福を授け、陸への道筋を示した。その導きによって、船乗りたちは安定した天候の中、無事に祖国へと帰還した……。

「神話の中には、未知なる巨大生物とやらは出てきませんが。それよりも、なぜそんな話を? その話とこの短剣に、何か関係があるのですか?」

「……船乗りたちがその時に持ち帰った骨がね、君に渡した短剣だよ。骸は神話で語られる通り、本当に天空神の遣いだったんだ」

 マーシュはラズリが握る短剣に指を這わせた。彼の手の動きと共に、短剣から青い光が溢れ出る。

「ははっ……。ラズリくん、信じられないという顔をしているね? だが最初に言っただろう、僕が話すことは実際に起きた出来事なのだと。探検隊と天の遣いの邂逅は、今は神話として語られるのみ。それも長い時間をかけて、本来の形からかけ離れたものになってしまった。全貌を知る者はごく僅かしかいない。そして、その話には秘められた続きがある……」


 ……朽ちた骸は、探検隊の者たちに厳かな声で語りかけた。

 聞け、矮小なる人間ども。
 我は空の遣い。青き炎を身に宿す者。

 空と海の争いから幾十万年、この星には醜き魚どもが蔓延るようになった。空のしもべは忌々しき魚人の軍勢に討たれ、滅ぼされ、残るは骸に意志を遺した我のみ。このままでは避けようのない災厄が訪れる。お前たち人間の短い繁栄も無に帰すだろう。世界の全てが、海に飲み込まれようとしているのだ。

 あの者だ。
 主が海に封じたあの者が、目を覚まそうとしている。

 聞け、人間どもよ。我らの望みをお前たちに託すことにする。あの者の復活を阻むのだ。何としても海に封じるのだ。我が主は空に散ったが、その魂の欠片はいつか化身となって現れるだろう。主が戻るまで、我が骨を守れ。決して魚どもに見つかってはならぬぞ……。


 己の骨を託した天の遣いは、無数の色鮮やかな鳥に姿を変え、世界中に散っていった。

 探検隊は当時の国王に状況を報告し、彼らが持ち帰った骨は大教会に秘匿された。だが他国との戦争、それによる略奪によって骨は行方知れずとなり、話を知る探検隊の者たち、大教会の関係者、国王、あるいは彼らの子孫が……何者かによって殺された。

 そうして骸が遺した言葉は歴史の陰に追いやられ、忘れ去られてしまった……。


「……これが話の続きだ。天の遣いは、海に封じられたが復活することを怖れていた。それが何なのか、ラズリくんはもう知っているだろう」

 水神『xxxxx』。自分がルブラと名付けたもの。
 男の狂気に塗れた瞳が脳裏を過ぎり、ラズリはそっと俯いた。

(隊長の話は信じ難い。でも嘘を吐いているとも思えない。十年間共に仕事をしてきた人だもの。彼が嘘を吐いているかそうでないか、私にはすぐ分かる……)

 マーシュは己の目に真剣な色を宿している。
 ラズリは彼の顔をじっと見つめ、歴史の陰に追いやられた話をなぜあなたが知っているのかと尋ねた。

「……さて、ここからは僕の話だ。君はあの島で、水神に繋がる幾つもの手掛かりを目にしたと報告をくれたね? 水神と天空神の争いを記録した壁画、秘密教団、そして魚人。……忠実かつ強大な水神の下僕――古のものも、見たかもしれないね」

 るるるり、りららら……。ラズリは美しい声で歌う魚人の男を思い出した。大きな体躯を持つ、知性溢れる魚人と話したと伝えると、マーシュはゆっくりと頷いた。

「僕はね、古のもの――xxxの血を引いている。僕はxxx秘密教団の司祭の家に生まれたんだ。海底都市に眠るxxxxxの復活を目的として、人間たちの間で広く知られる天空神への信仰を途絶えさせること。それがxxxの血族である僕に課せられた使命だった」

 上司の口から次々に飛び出す異界の響きに、ラズリはぎょっとし肩を震わせた。
 自分には決して発音することができぬ、ぞわぞわとした恐怖を呼び起こす名。流暢にそれらを発音したマーシュは、ラズリの青い目を見つめながら続けた。

「水神信仰を広めるために多くの血族が陸で暮らしているが、本来は皆、海に生きる民。僕の両親も魚に変貌し海に還った。僕は神の呼び声に抗いながら、何とか陸で五百年余りを過ごしてきたけどね。……ああ、驚いたかい? xxxの血を引く者は長生きなんだよ。永遠ともいえる時間を生きるんだ」

 丸みのある瞳に、すっと通った鼻筋。人好きのする柔和なマーシュの顔には、島民たちのようなは一切見られない。

 あなたは島で見かけた村人と随分顔つきが違う。
 ラズリがそれを指摘すると、マーシュは「君のお陰だ」と返した。

「……失礼するよ」

 ラズリの手が、マーシュの大きな手にそっと握られる。すると肌が触れ合っているところから、次々に青い光が溢れ出た。

「分かるかい? 君の肌に触れると僕の手が焼ける。君は、水神の祝福をかき消す独特の霊気を放っているんだよ。君の傍にいると僕は魚にならず、人の姿のままでいられるんだ。……ラズリくん、君のその力が必要だった。君の存在は、この世界を救うために無くてはならないものだったんだ」

 マーシュの目が、手から漏れ出る光を受けて青く煌めく。彼は己の皮膚が焼けるのも構わず、ラズリの手を握り続けた。

「……xxx秘密教団の目的のひとつは、水神信仰を人間に広めることだ。古のものの血族は、人間社会の中に溶け込みながら熱心に、しつこく布教に努めた。僕の祖父もその一人でね。表向き交易商人として振る舞いながらも、裏では拷問を取り入れた布教や、仇敵の抹殺を行っていた。は順調でね。祖父の働きによって、僕の家も教団も栄えた」

「ある時、祖父は他国の商人から奇妙な骨を手に入れた。由来不明、この地球ほしのどの生き物とも生物的特徴が合致しない、不思議な骨だ。真白く強靭なそれを祖父はいたく気に入り、自分用のペーパーナイフに仕立てた。悪趣味な装飾も施してね」

 マーシュは嘲るような目で華美な装飾が施された短剣を見た。

「さて。気が付いているだろうが、僕の祖父がペーパーナイフにしてしまったものは、天空神の遣いだ。陽射しの強い真夏日、短剣に反射した陽光が祖父を始め、その場にいた家族全員を焼き尽くした。陽光は清らかな青い炎となって、永きを生きる魚人たちを一瞬にして葬ったのだ。生き残ったのは、僕だけだった」

(青い炎? それって……ルブラを焼いたあの炎と同じ?)

 邪神を焼き尽くした炎の柱を思い出し、ラズリは身を強張らせた。

「僕は祖父や弟たちを滅ぼした骨の正体を探り始めた。世界中に散らばった秘密教団を訪ね、先祖が陸に遺した記録を読んだ。そして、その過程で隠された歴史を知ることになったのだ」

「遥か昔、大海原の真ん中で天空神の遣いと探検隊が邂逅したこと。空の遣いは朽ちた骸と成り果てながらも、己の骨を人間に分け与えたこと。それを知った僕の先祖たちが、探検隊の者や当時の国王を殺し回ったこと。戦争と略奪によって骨が行方知れずとなってしまったこと……。皮肉なものだね。骸が遺した言葉は、善良な人間ではなく怨敵である海の民の間で伝えられてきたんだ」

「短剣は、xxxxxの霊気に反応してその力を発揮するようだった。敵を殲滅するという天の意志が込められた骨、それは海の民にとって非常に大きな脅威だった。……だが、僕はこの事を教団に明らかにはしなかった。家族の死と共に、この短剣の存在を秘匿したのだ」

 なぜ、とラズリは尋ねた。

「この短剣は、水神や眷属たちにとって脅威なのでしょう。なぜ信奉する神に仇なすような真似をしたのです?」

 丸眼鏡の奥にある茶の目が優しく細められる。
 マーシュはラズリの手を摩りながらにっこりと笑った。

「信奉? まさか! 僕はxxxxxが嫌いなんだ。彼の忌むべき祝福を受けた者たちも、そしてその血を引く者たちも、まるごと全てを滅ぼしてやりたい気持ちだよ」

「ほっ、滅ぼす? どうして?」

 ラズリが高い声を上げると、マーシュは何かを懐かしむように目を瞬いた。

「長く生きているとね、色々な出会いがあるんだよ。親友、仲間、かつて愛した人、そしてその子孫。水神が世界を手にするということは、彼らの命も、生きた証も、何もかもが海に飲み込まれて消えるということだ。人間を始めとした陸の生き物は、全て息絶えてしまうだろう。…………そんなの、許す訳にはいかない」

 マーシュは眼鏡を掛け直し、深く息を吐いた。

「という訳で。僕は血族を裏切りつつ、水神の復活を阻むための行動に出た。神の糧は、己への信仰だ。僕はxxxxxを信仰する者の数を減らせば、水神の力を奪うことができると考えた。時には軍人、時には宰相、時には警備隊長として人間社会で暗躍し、各地にある秘密教団と争った」

「神の復活を阻止する。その目的を達成するための最優先事項は、水神信仰の心臓部と呼ばれる、ある離島を破壊することだった。……ああ、そうだ。その離島こそ、君を向かわせたあの島だ。あの島は、水神が眠る海底都市の上に造られた、海の民にとっての聖地だ。聖地を穢せば神は衰える、僕は魚人を殺すため数多くの同志を島に差し向けた。だが狡猾な魚人に抗える者は誰一人としておらず……。全員が帰ってきた」

 ――異物は追放せよ。追放できぬならば恐怖と孤独を与えよ。それが適応への始まりとなる。

 地下神殿で目にした拷問の跡。黒ずんだ染みに、床に転がった骨のかけら。ラズリはマーシュの同志に加えられたであろう拷問を想像し、ぎゅっと目を瞑った。

「僕は島に幾つもの魚雷を打ち込んだ。だが古のものが使う不可思議な海の魔術によって、島は守られたままだった。水神の目覚めがあと少しで訪れてしまうのに、それを止める術が見つからない。僕は焦っていた。星揃う時まであと十年という頃になって、僕はラズリくんを見つけたんだ。天空神の化身である、君を……」

 崇拝、尊敬、懇願、安堵、親愛。
 その他あらゆる感情を宿した顔で、マーシュはラズリに微笑んだ。

「……隊長、何を言っているのですか? 私はただの人間ですよ?」

「勿論、ラズリくんは人間だ。だが君の肉体には、天空に生きるもの特有の青い霊気が巡っている。その短剣と同じように、海の民を焼き尽くさんとする清浄な炎が宿っているのだ。ひと目見て分かったよ、骸が言い遺した化身とは君のことなのだと。唯一水神に対抗できる存在、この世界の救い主。……それが君だ、ラズリくん」

「私が、天空神の化身……?」

「君の存在自体が、xxxxxにとってはこの上ない脅威なのだ。君を島に送り出せば、あの邪神を海に封じることができるかもしれないと考えた。僕はラズリくんに全ての望みを託すことにした。十年かけて君を鍛え上げ、過酷な環境に置かれても折れぬ精神を身に着けさせた……」

 点と点が繋がっていく。
 最後の島民であった魚人との会話を思い出しながら、ラズリはマーシュの話を噛み締めた。

 ――そなたは自分が何であるか知っていたのではないか? 人間となっても、その魂には我々を破滅させるという欲求が根付いているに違いない。

(……私が、天空神ですって?)

 陽光が、天井に描かれた女神ラズワードを美しく照らす。
 青空に似たその色を見上げながら、ラズリはふうと一息ついた。

「水神を封じたという神と、天空の女神ラズワードは同一の存在なのですか?」

「そうだね。海の民がxxxxxに対する信仰を広めたように、天空神の眷属たちもまた主への信仰を広めた。邪神に打ち勝った天空の神は、陸に生きる者たちの間で、善神ラズワードとして広く知られるようになった。ラズワードという名も、そしてあのような女神の姿も後世の脚色だろうがね。……それにしても、あの天井画は見事だ。君が纏う青い霊気が、炎という形で美しく描かれている」

「……マーシュ隊長。あなたは、ラズワードの化身である私を聖地に向かわせ、水神の復活を阻もうとしたのですね」

「そうだ。僕は君に何も説明しないまま、水神の復活を阻むという役目を押し付けた」

「酷い……酷いです隊長……。なぜあなたは何も教えてくれなかったのですか? 私があの島でどんなに苦しんだかあなたは分かっているのですか!? 真実を知っていれば、これほど苦しむことはなかったかもしれないのに……」

 真実を知っていたら、ルブラを愛することはなかったかもしれないのに!

 ラズリはマーシュの胸倉を勢い良く掴んだが、彼は目を閉じ、怒りを全て受け止める姿勢を見せた。

「君の怒りは尤もだ。僕は君に殺されても仕方のないことをしたと思っている。だが、島に行く前に君に真実を話すことはできなかった。万が一君に逃げられてしまったら、全ての望みが断たれてしまうから。騙してでも、何をしてでも……ラズリくんには絶対にあの島に行ってもらうつもりだった。改めて君に謝罪する。本当に済まなかった」

 上司の謝罪にだらりと腕を下げる。
 マーシュを突き飛ばし、ラズリはぽろぽろと涙を流した。

「白々しい。あなたはとぼけたふりをして、のんびりと島にやってきましたね。私がどれだけ本部に便りを出してきたのか、あなたは知っているのですか? 私は島民に脅されて怖い思いをしました。繰り返される入水に頭がおかしくなりそうでした。殴られて、殺されかけて、後をつけられて、何度狂いそうになったか!」

「迎えが遅れたのは本当に申し訳なかった。だがあの島に中々辿り着けなかったというのは事実だ。水神の力によって、あの島は外からすっかり覆い隠されていた。君の眷属たちの導きがなければ、僕は島に辿り着けなかった」

「私の眷属?」

「鳥のことだ。己の骨を人間に託した骸は、無数の鳥に姿を変えた……。強大な力を誇った天空神の眷属たちは、今は鳥として君のことを見守っている。かつての力を奪われながらも、鳥は天空神である君の助けであろうとした。彼らは水神の霊気に傷付けられながらも、僕の元に便りを届けてくれたよ」

 巡視の際、あるいはルブラに追い詰められた時、上空には色鮮やかな海鳥の群れがあった。鳥は自分を助けようとしてくれていたのだ。ラズリは自分と外界を繋いだ鳥たちに心の中で感謝した。

「…………最初から、この短剣を渡してくれなかったのは何故ですか?」

 陽の光を反射し、短剣から青い光が溢れ出る。
 ラズリは刃をなぞりながらマーシュに低い声で尋ねた。

「骨には別の役目を与えていた。xxxxxの呼び声から、海沿いの都市に住む人間を保護するという役目だ。水神の囁きは、適性ある者を海の民へと変えていく。天空神の霊気に満ち溢れたそれを都市に配置することで、住民を水神の手から守ろうとした」

「だが島が外から隠されたことで、君の存在を以てしても水神の復活は止めることが出来なかったのだと気が付いた。だから僕は短剣を持ち出した。この手で秘密裏に邪神を葬るために。あるいは我々が離れ離れになってしまった時に備えて、君に水神を殺してもらうために……」

 乾いた笑い声が漏れ出る。
 ラズリは目に呆れと怒りを宿し男を睨んだ。

「最初からこの短剣を持たせてくれたら、私はさっさとあの島から出られたかもしれないのに。ルブラを殺すのが私の役目だって教えてくれたら、ここまであの男に入れ込むことは無かったのに! あなたが早く来てくれないから、私はルブラと交流を深めてしまった。そして酷く苦しむことになってしまった! ……ねえ、隊長。あなたは本当に残酷なことをしましたね」

「……ラズリくん」

「マーシュ隊長。私に避妊薬を渡して気が付いたんじゃないですか? 私はルブラと肉体関係があった。恋人ではなかったけれど、彼のことを深く愛していた……」

 編み込まれた金の髪。長方形型の瞳孔。金の目。屈強な肉体。全身に施された刺青。快活な笑顔。少し掠れた声。共に暮らした思い出。彼の口から紡がれた愛の言葉。

 ルブラの何もかもが恋しい。あの狂気の瞳さえ懐かしく感じる。

「馬鹿みたい。ラズワードの化身である私が島に行ったことで、邪神は人間として復活してしまった。……私の役目は彼を封じることなのに、隊長が何も教えてくれなかったせいで、私はあの男にすっかり心を傾けた! ルブラなんて名前をつけて、一緒に暮らして、身体を重ね合わせて、彼を夫にする想像までした!」

「……xxxxxがあのような形で復活してしまうのは、僕としても想定外だった」

「はっ、想定外? 笑える……。あなたが立てためちゃくちゃな計画のせいで、私はここまで傷付けられた! あなたは最低よ! この傷は一生治らない。もう元には戻れない! ……返してよ。ルブラを返しなさいよ! なぜ私が、彼を殺さなければならなかったの……? 酷いよ、隊長……!」

 ラズリは泣き喚きながら、マーシュを刺々しい言葉で責め立てた。

「ルブラは、私を愛してると言ってくれました。狂気的な男だったけれど、私は彼の愛を嘘だとは思えない。私と夫婦になりたい、それが叶うなら世界なんて要らない。ルブラはそう言ったのです……!」

「…………まさか」

「私は怖ろしい目に遭いました。ルブラに監禁されて、散々犯されて……彼の肉を食べさせられた。ルブラがしたことは罪に他ならない! ……でも。でも、ルブラを滅ぼす必要があったのでしょうか? 私さえ手に入るなら他には何も要らないと言った、彼を――」

「信じるな」

 マーシュは硬い声で吐き捨てた。
 ラズリの言葉を無理やり遮り、彼は早口で捲し立てた。

「xxxxxは野望に塗れた怖ろしい神だ。世界なんて要らないだと? そんな筈がない! あの邪神は世界を支配するという欲望のために、何万年も、何十万年も海底都市で眠り続けたのだぞ! 数多の者が邪神にそそのかされ破滅を迎えた。決して奴の甘言に耳を傾けるな! 奴に人質を取られたか? 世界を滅ぼしてやると脅されたか!? ルブラとやらに危険な目に遭わされたから、君は短剣を振るったのだろう!」

「……それは」

「君が目の当たりにした残酷さこそ奴の本性だ! 惑わされるな、あの神はどこまでも邪悪なのだ! あれは、人間の尺度では決して推し量れぬ存在。何百万年も生きる神にとっては人間など虫けら同然だ。矮小な人間の女を愛するだと? はっ……笑わせる、そのような感情があの神にある筈がない!」

「そっ、そんなことはありません! ルブラは私を愛していると何度も言ってくれたのです。この青い目ごと、私を愛していると言ってくれたのですよ!?」

「それは空の霊気を纏う君を穢し、籠絡するための嘘だ! あの邪神は弱者を弄ぶことを何よりも好む。君に囁いた愛、あるいは君に見せた涙や喜び、それらは全くの嘘なのだ! ラズリくん、天空神の化身である君はxxxxxの敵だ。恨みあり余る敵なのだぞ! 奴に憎まれることはあれど、決して好かれることはない。それを覚えておきなさい!」

 マーシュは厳しい声で言い放ったが、肩を震わせながら嗚咽するラズリにはっとし、眉を下げた。

「……済まない。冷静さを失い、君を傷付けるようなことを言ってしまった。だが、邪神の怖ろしさは君よりも僕の方がよく解っている。あの邪神に心を奪われることで、君の清らかな魂を穢してほしくないんだ。……忘れなさい。君の中から、ルブラという存在を追い出してしまいなさい。辛いだろうが、君の愛したルブラはもういないのだから」

「ぅ、ぅううっ……! ふっ……。う、あああぁぁっ……!」

 女の悲痛な泣き声が響く。
 俯き、反応を返さなくなったラズリの頭をそっと撫で、マーシュは静かに病室を後にした。
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