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第一章 契約ではなく、約束しましょう

獣人さんがいる世界に転生したようです。

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「......シャッ!」

 私は目の前に広がる、異世界な風景を前に握り拳に力を込めた。

「私、異世界に転生できたんだわ!」

 目の前には外国風の市場が広がっていて、たくさんの人間と......獣人さん、が働いている。だからここは異世界だってわかるし、前の私は死んだんだなぁってわかっちゃったよ。

 でも良かった。大きな手術を受ける予定だった前世の私は、生まれつき病弱で、お父さんにもお母さんにも迷惑かけっぱなしだったからね。

 成功率20%と言われる難しい手術を受けたりしたら、例え失敗しても両親は多額の費用を払わなくちゃならなかったんだ。後一週間後に手術を控えてた私は、急な発作に見舞われ意識を失ったんだけど、きっとその後回復せずに死んだのだろう。

 ......お父さん、お母さん、今までこんな私を愛してくれてありがとう。何も親孝行できずに逝ってしまった親不孝な娘を許してね。私のせいで、二人とも入院費や治療費を稼ぐために働いてばかりだったから、これからは好きだった旅行を楽しんだりして幸せに暮らして欲しいな。


 私はしんみりと前世の両親を思った後、近くにあった噴水に近寄り、水面に自分の姿を映して見た。

「ええ~、前の私とほとんど変わらないじゃん。転生したら、美少女になれるって思い込んでたのにがっかりだよ~」

 黒髪黒目で、十人並みな日本人顔の少女が水面に映って揺れている。私はそこから視線を外し、自分の手と腕をまじまじと眺めた。

「......でもいいや。前とは違って、こんなに腕に肉がついているし、血管が青く浮き出るような青白い肌でもない。今の私は〝健康〟なんだもの!」

 美少女に生まれ変われなかった私はちょっとだけ不満を漏らしてしまったけれど、骨と皮だけみたいだった前世の私からしたら、標準体重はありそうな今の自分に感謝しようと思い直した。そして再度、目の前の風景を観察してみることにした。

 市場にはたくさんの人が賑わっている。

 お客と思われるほとんどが「人間」で、その人間に付き従っているのが「獣人」だ。犬っぽい獣人さんや鳥っぽい獣人さん、あれは馬獣人さんだろうか......。いろんな姿の獣人さんがいる。

 そして働いている側にも人間と獣人さんがいるけれど、明らかに獣人さんの方が使役されている立場だとわかった。

 何故って獣人さんたちの首には頑丈そうな首輪がかけられているから......。

 あれは、隷属の首輪。
 主人に逆らったら、とんでもない苦しみをもたらす、反抗の意思を封じるための首輪だって私は知ってる。だって私は獣人さん(もふもふ)大好きな、ファンタジー好き少女だったんだもの。
 長い長い入院生活では、本を読むことくらいしかできなかったからね。

 フィクションの中での獣人奴隷さんは、読んでいてもロマンスのエッセンスにしか感じなかったけど、こうして現実に〝奴隷〟を目の当たりにするのは非常に心が痛んだ。

 私は「獣人さんに会いたい」とは言ったけれど、獣人さんが奴隷として存在するなんて、なんて悲しいの。


 私は、前世の自分が意識を失った時出会った神様? 仙人様? との会話を思い返したーー。

「今世のお主は可哀想な一生だったからのう。次の生では、お主の望みをいくらか聞いてやろう。希望があったら述べてみよーー」

 
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