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第二章 恋のレッスンまだですか?
なぜか囲いの使用人になりました。
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最初はマナーを気にしながら食べていた私だけど、料理の美味しさに視線など気にならなくなってきて、むぐむぐとリスのようにご馳走をいただいた。
デイジー様は上品にナイフとフォークを操りながら、ずーっと私をニコニコ顔で眺めている。
虎獣人のベンさんと、熊獣人のジェイドは似た者同士、隣り合ってガツガツと男らしい食べ方をしていた。
だけどやっぱり人間の姿に虎模様の耳と尻尾がついているベンさんより、熊そのもののジェイドの方がワイルドに見えるなぁ。
私は大好きな獣人さんたちをチラチラと鑑賞しながらペレ様のお話に耳を傾けた。
「私はね、元々はバリバリの貴族だったんだよ。獣人なんて人とは思っていなかったね。馬車で使う馬と一緒で、人権なんて気にしたこともなかったんだ」
そしてペレ様は、デイジー様を愛おしそうに見つめた。
「私の妻はね、結婚前は高位貴族の伯爵令嬢だった。そんな彼女が、低位貴族の中でも末端の男爵位である私に縁談の申し込みをしてきた時には驚いたよ」
「うふふ。そんな風にご自分を悪く言ってもダメですわ。私、街へ出かけていた時、偶然あなたの馬車の馬が怪我をしているのを見て、その馬をどうするのか気にして見ていましたのよ。普通はすぐに殺処分にしてしまうのに、あなたは獣医を呼んで手当てをしたでしょ」
「そりゃ、馬だって生きてるから、安易に殺処分の判定を下したくはないさ。だが、治療不可なら、今の時代、殺処分して食料になってもらうしかないから、私はそうしていたと思うが」
「ええ。辛いけれどそれは仕方がないことです。この世界の怪我馬全てを買い取る力など私にはないのですから。でも、あの時のあなたの表情は、馬を心配している顔でした。それで私、あなたとなら愛情のある家庭を築けると確信したのですわ」
デイジー様が美しい笑顔でペレ様を見つめると、それに答えるようにペレ様も微笑んだ。どちらも若い頃は美男美女だったんだろうなぁ。その二人の見つめ合う姿は絵画のようで、私はしばしその情景に見惚れた。
「まあ、そんなわけで私たちは結婚したんだが、この愛しい妻はとんでもない変わり者だったのだよ。何でもかんでも情を移してしまっては涙を流す。特に弱くて小さなものには庇護欲をそそられるようでね。それで伯爵家から持ってきた持参金を全部傷ついた獣人たちを保護する活動に使ってしまったんだ。そんな妻を見ているうちに、私も感化されて奴隷制度反対派になったんだよ」
そんな夫妻は、奴隷制度反対派の教会が行っている獣人奴隷の保護活動に時々顔を出しては寄付したり手伝いをしているらしい。酷い扱いを受けている獣人奴隷を買い取ってその教会に預け、治療をした後、もっとまともな扱いをしてくれる人間に買い取ってもらう活動だそう。
「それで、教会にいる間に、料理の才能を見出したベンは、私たちのところへ引き取ったというわけよ」
デイジー様がそういうと、ベンさんはニカっと笑って教えてくれた。
「俺はもともとコロッセオで戦わされる戦闘奴隷だったんだ。試合で俺が負けた時、大損をした俺の元飼い主は俺を半殺しにして捨てたんだ。それをラノール夫妻が買い取ってくれ、教会で長いこと治療させてもらったのさ。その間に料理に興味が湧いて、動けるようになってからは手伝うようになった。それで今は、ここの用心棒件料理人というわけさ」
そんな物語のような悲しくも温かい話を聞きながら、私は食後のお茶を飲んでいた。
隣のジェイドは......例のごとく熊のフルフェイスなので、どんな気持ちでこの話を聞いるのか分からない。でも、ジェイドはとっくのとうに食事を終えて慣れないテーブルセットの椅子に座ってるのが大変そうに思えたので、そろそろお暇しようと挨拶をした。
「素敵なお話を聞かせていただいて、ありがとうございました。お食事も、とても美味しかったです。二日間、私たちを働かせてくださってありがとうございました。私たちは明日の仕事を探しにギルドへ行かなければならないので、そろそろ失礼させていただきます」
そう言って私が立ち上がると、ジェイドも合わせて立ち上がった。
「まあまあ、まいさん。お話はまだ終わっていなくてよ」
デイジー様がもう一度座るように目で合図した。
私とジェイドは再び椅子に腰掛けた。
「話はこれからが本番なんだが。君たち、私の屋敷の使用人として、囲われる気はないかね?」
ペレ様の言葉に、私たちは再び目を見開いて顔を見合わせることになったーー。
***
もちろん私たちは、ペレ様の申し出を断るはずなかった。
だって、お屋敷にそれぞれの個室を提供してくれるっていうし、お仕事がどんなに失敗しても、わざとじゃないなら鞭で打ったりしないって約束もしてくれたから。(これはジェイドが夫妻に聞いてくれたんだ。私を鞭で打ったりしないと約束して欲しいと。罰は自分が受けるからって。そしたら夫妻は、ジェイドも鞭で打ったりしないと約束してくれたのだ)
そんな訳で、これまでの報告書とこれからの求人票を預かって、私たちは一旦ギルドへ向かい、手続きを経てラノール家の別荘へと戻っていった。
デイジー様は上品にナイフとフォークを操りながら、ずーっと私をニコニコ顔で眺めている。
虎獣人のベンさんと、熊獣人のジェイドは似た者同士、隣り合ってガツガツと男らしい食べ方をしていた。
だけどやっぱり人間の姿に虎模様の耳と尻尾がついているベンさんより、熊そのもののジェイドの方がワイルドに見えるなぁ。
私は大好きな獣人さんたちをチラチラと鑑賞しながらペレ様のお話に耳を傾けた。
「私はね、元々はバリバリの貴族だったんだよ。獣人なんて人とは思っていなかったね。馬車で使う馬と一緒で、人権なんて気にしたこともなかったんだ」
そしてペレ様は、デイジー様を愛おしそうに見つめた。
「私の妻はね、結婚前は高位貴族の伯爵令嬢だった。そんな彼女が、低位貴族の中でも末端の男爵位である私に縁談の申し込みをしてきた時には驚いたよ」
「うふふ。そんな風にご自分を悪く言ってもダメですわ。私、街へ出かけていた時、偶然あなたの馬車の馬が怪我をしているのを見て、その馬をどうするのか気にして見ていましたのよ。普通はすぐに殺処分にしてしまうのに、あなたは獣医を呼んで手当てをしたでしょ」
「そりゃ、馬だって生きてるから、安易に殺処分の判定を下したくはないさ。だが、治療不可なら、今の時代、殺処分して食料になってもらうしかないから、私はそうしていたと思うが」
「ええ。辛いけれどそれは仕方がないことです。この世界の怪我馬全てを買い取る力など私にはないのですから。でも、あの時のあなたの表情は、馬を心配している顔でした。それで私、あなたとなら愛情のある家庭を築けると確信したのですわ」
デイジー様が美しい笑顔でペレ様を見つめると、それに答えるようにペレ様も微笑んだ。どちらも若い頃は美男美女だったんだろうなぁ。その二人の見つめ合う姿は絵画のようで、私はしばしその情景に見惚れた。
「まあ、そんなわけで私たちは結婚したんだが、この愛しい妻はとんでもない変わり者だったのだよ。何でもかんでも情を移してしまっては涙を流す。特に弱くて小さなものには庇護欲をそそられるようでね。それで伯爵家から持ってきた持参金を全部傷ついた獣人たちを保護する活動に使ってしまったんだ。そんな妻を見ているうちに、私も感化されて奴隷制度反対派になったんだよ」
そんな夫妻は、奴隷制度反対派の教会が行っている獣人奴隷の保護活動に時々顔を出しては寄付したり手伝いをしているらしい。酷い扱いを受けている獣人奴隷を買い取ってその教会に預け、治療をした後、もっとまともな扱いをしてくれる人間に買い取ってもらう活動だそう。
「それで、教会にいる間に、料理の才能を見出したベンは、私たちのところへ引き取ったというわけよ」
デイジー様がそういうと、ベンさんはニカっと笑って教えてくれた。
「俺はもともとコロッセオで戦わされる戦闘奴隷だったんだ。試合で俺が負けた時、大損をした俺の元飼い主は俺を半殺しにして捨てたんだ。それをラノール夫妻が買い取ってくれ、教会で長いこと治療させてもらったのさ。その間に料理に興味が湧いて、動けるようになってからは手伝うようになった。それで今は、ここの用心棒件料理人というわけさ」
そんな物語のような悲しくも温かい話を聞きながら、私は食後のお茶を飲んでいた。
隣のジェイドは......例のごとく熊のフルフェイスなので、どんな気持ちでこの話を聞いるのか分からない。でも、ジェイドはとっくのとうに食事を終えて慣れないテーブルセットの椅子に座ってるのが大変そうに思えたので、そろそろお暇しようと挨拶をした。
「素敵なお話を聞かせていただいて、ありがとうございました。お食事も、とても美味しかったです。二日間、私たちを働かせてくださってありがとうございました。私たちは明日の仕事を探しにギルドへ行かなければならないので、そろそろ失礼させていただきます」
そう言って私が立ち上がると、ジェイドも合わせて立ち上がった。
「まあまあ、まいさん。お話はまだ終わっていなくてよ」
デイジー様がもう一度座るように目で合図した。
私とジェイドは再び椅子に腰掛けた。
「話はこれからが本番なんだが。君たち、私の屋敷の使用人として、囲われる気はないかね?」
ペレ様の言葉に、私たちは再び目を見開いて顔を見合わせることになったーー。
***
もちろん私たちは、ペレ様の申し出を断るはずなかった。
だって、お屋敷にそれぞれの個室を提供してくれるっていうし、お仕事がどんなに失敗しても、わざとじゃないなら鞭で打ったりしないって約束もしてくれたから。(これはジェイドが夫妻に聞いてくれたんだ。私を鞭で打ったりしないと約束して欲しいと。罰は自分が受けるからって。そしたら夫妻は、ジェイドも鞭で打ったりしないと約束してくれたのだ)
そんな訳で、これまでの報告書とこれからの求人票を預かって、私たちは一旦ギルドへ向かい、手続きを経てラノール家の別荘へと戻っていった。
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