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前世の事を思い出しました
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「迷惑? どうしてそう思うの」
「私は兄のように勉強も出来なければまともな所作も出来ません。けれど、殿下が私をお友達にと言って下さった事が父の耳に入ればきっと……あの」
「ああ、彼なら色々画策するかもしれないね。例えば婚約とか」
エバーナの父であるゴレロフ侯爵は、忠臣と名高い人物だけれど俺の父に心からの忠誠を誓っているだけに厄介な存在だ。
自分が一番の忠臣と考え、王と国の役に立てるなら利用出来るものはなんでも利用するし自分の地位を守る事も国の為と考えている様な人物だ。
彼女の父と兄の違いは野心の方向だろう。
ゴレロフ侯爵は王と国の為、自分の地位を守ろうとしているある意味融通が利かない堅物だ。
それは俺の勘違いではなく、俺の父も兄もそう考えている。
だが、彼女の兄フォルードはちょっと違う。
高位貴族の息子である事を鼻にかけ、下位貴族や平民を馬鹿にしているのは言葉の端々に感じるし、家や自分の自慢をするのが大好きで自尊心が高い上に野心家だ。
俺に近付いてゴマをすっているのは、俺ではなく俺の兄であるこの国の第一王子の側近になりたくて少しでも兄に自分を印象付けようとしているだけなのだ。
「侯爵ならそれはありえる話だね」
自分の家の繁栄の為というよりも、王家と血の繋がりを持つ事でより自分が国の役に立てる様になる。そんな風に考えて娘だろうと簡単に政略の駒として利用しようと考える様な人間だ。
だから、俺の言葉を巧みに利用し、婚約まで持ち込もうとする可能性は十分にある。
そもそも侯爵家という家柄を考えれば、第二王子の婚約者になっても不思議はない。
「はい、ですから兄に先程は戯れを言われただけと話して頂けないでしょうか」
エバーナが幼いのは外見だけのようだ。
自分の父親の性格を考え、俺に迷惑を掛けるかもしれないと思いついたのだろう。
「そんなに気にすることはないよ」
「でも」
「僕は兄と違い気軽な立場だからね、まだ兄にも決まった相手はいないし大丈夫だよ」
侯爵の性格を考えればごり押しをしてくる可能性もあるけれど、今はまだ具体的な話にはならないだろう。
「もしもということもあります。その時は」
「うん」
思い詰めた様にハンカチを握りしめ、エバーナは上目遣いにこちらを見つめる。
「遠慮なくお断り下さい。私のようなものは嫌だと」
「どうして」
「仮に婚約が成立してしまえば廃するのは容易ではありません。殿下にご迷惑を掛けるわけにはいきません」
「もしも本当に成立したらどうする? 君は僕と婚約する?」
「もしも、成立したら……殿下が私を厭わしいと思われる様になるその日まで、精神誠意お仕えいたします」
それは自分のは意志ではどうにもならないから、俺に拒否して欲しいって事だろうか。
涙は消え、青い瞳はただ俺を見ている。
光の加減で赤く見える金色の髪、赤と金の髪を持つのは魔力が強い証拠。
兄や彼女の父親の様な平凡な焦げ茶色の髪とは違う。どちらかといえば、俺の髪の色に近い色だ。
王家の人間は皆強い魔力を持つ。
父と兄は遠くからでも光輝いて見える程の見事な金髪だけれど、光の加減ではなぜか燃える様な赤い色に見えるし、それは俺も同様らしい。
王家の祖先は竜だという伝説があるが、その竜の鱗が赤と金だったと言われていてそれが金と赤の髪を持つ人間は魔力が強いと言われる元にもなっている。
まあそれは迷信ではない様で、実際父も兄も俺も膨大な魔力を持っているし、宮廷魔法使いで実力があるといわれる人物の殆どが、金か赤の髪色をしているのだ。
「そうか。それならば」
それならば、なんだと言うんだろう。
流石に十歳という年齢で、しかも兄を差し置いて婚約するわけにはいかない。
『エバーナ・ゴレロフ、君という人間にはほとほと愛想が尽きた。今日限り婚約を破棄する』
あれ? 今のはなんだ。
『俺と同じ色を持つそなたに惹かれていた過去を、これ程後悔することになるとは思わなかった』
これは俺? でも、違う。
見えているのは俺とエバーナと、それにもう一人。
なぜ俺が俺を見ている? これはなんだ。
「殿下?」
「エバーナ君の母親はフォルードの母親とは違う人」
「どうしてそれをご存知なのですか」
どうして俺はそんな事を知っている? なんの記憶だ。
『エバーナってさあ、何も悪くないんじゃないの? 姉ちゃん、悪いのって浮気した殿下の方じゃね』
『しょうがないでしょ。今の流行りはそうなのよ。芸能人の不倫だって女性は責められるけど、男性はすぐに禊ぎはすんだとか言われちゃうじゃない。あれと一緒よ』
『なんか違う気がするんだけどなあ』
これは誰とした会話だ。
姉ちゃんって、誰?
「殿下、お体の具合が悪いのですか。お顔の色が」
「大丈夫、なんでもないよ」
困惑する俺をエバーナが不安そうに見つめる。
姉ちゃんて誰だよ。芸能人の不倫ってなんだよ。
頭の中に急に現れた情報に戸惑いながらも、必死に冷静を装うしかなかった。
「私は兄のように勉強も出来なければまともな所作も出来ません。けれど、殿下が私をお友達にと言って下さった事が父の耳に入ればきっと……あの」
「ああ、彼なら色々画策するかもしれないね。例えば婚約とか」
エバーナの父であるゴレロフ侯爵は、忠臣と名高い人物だけれど俺の父に心からの忠誠を誓っているだけに厄介な存在だ。
自分が一番の忠臣と考え、王と国の役に立てるなら利用出来るものはなんでも利用するし自分の地位を守る事も国の為と考えている様な人物だ。
彼女の父と兄の違いは野心の方向だろう。
ゴレロフ侯爵は王と国の為、自分の地位を守ろうとしているある意味融通が利かない堅物だ。
それは俺の勘違いではなく、俺の父も兄もそう考えている。
だが、彼女の兄フォルードはちょっと違う。
高位貴族の息子である事を鼻にかけ、下位貴族や平民を馬鹿にしているのは言葉の端々に感じるし、家や自分の自慢をするのが大好きで自尊心が高い上に野心家だ。
俺に近付いてゴマをすっているのは、俺ではなく俺の兄であるこの国の第一王子の側近になりたくて少しでも兄に自分を印象付けようとしているだけなのだ。
「侯爵ならそれはありえる話だね」
自分の家の繁栄の為というよりも、王家と血の繋がりを持つ事でより自分が国の役に立てる様になる。そんな風に考えて娘だろうと簡単に政略の駒として利用しようと考える様な人間だ。
だから、俺の言葉を巧みに利用し、婚約まで持ち込もうとする可能性は十分にある。
そもそも侯爵家という家柄を考えれば、第二王子の婚約者になっても不思議はない。
「はい、ですから兄に先程は戯れを言われただけと話して頂けないでしょうか」
エバーナが幼いのは外見だけのようだ。
自分の父親の性格を考え、俺に迷惑を掛けるかもしれないと思いついたのだろう。
「そんなに気にすることはないよ」
「でも」
「僕は兄と違い気軽な立場だからね、まだ兄にも決まった相手はいないし大丈夫だよ」
侯爵の性格を考えればごり押しをしてくる可能性もあるけれど、今はまだ具体的な話にはならないだろう。
「もしもということもあります。その時は」
「うん」
思い詰めた様にハンカチを握りしめ、エバーナは上目遣いにこちらを見つめる。
「遠慮なくお断り下さい。私のようなものは嫌だと」
「どうして」
「仮に婚約が成立してしまえば廃するのは容易ではありません。殿下にご迷惑を掛けるわけにはいきません」
「もしも本当に成立したらどうする? 君は僕と婚約する?」
「もしも、成立したら……殿下が私を厭わしいと思われる様になるその日まで、精神誠意お仕えいたします」
それは自分のは意志ではどうにもならないから、俺に拒否して欲しいって事だろうか。
涙は消え、青い瞳はただ俺を見ている。
光の加減で赤く見える金色の髪、赤と金の髪を持つのは魔力が強い証拠。
兄や彼女の父親の様な平凡な焦げ茶色の髪とは違う。どちらかといえば、俺の髪の色に近い色だ。
王家の人間は皆強い魔力を持つ。
父と兄は遠くからでも光輝いて見える程の見事な金髪だけれど、光の加減ではなぜか燃える様な赤い色に見えるし、それは俺も同様らしい。
王家の祖先は竜だという伝説があるが、その竜の鱗が赤と金だったと言われていてそれが金と赤の髪を持つ人間は魔力が強いと言われる元にもなっている。
まあそれは迷信ではない様で、実際父も兄も俺も膨大な魔力を持っているし、宮廷魔法使いで実力があるといわれる人物の殆どが、金か赤の髪色をしているのだ。
「そうか。それならば」
それならば、なんだと言うんだろう。
流石に十歳という年齢で、しかも兄を差し置いて婚約するわけにはいかない。
『エバーナ・ゴレロフ、君という人間にはほとほと愛想が尽きた。今日限り婚約を破棄する』
あれ? 今のはなんだ。
『俺と同じ色を持つそなたに惹かれていた過去を、これ程後悔することになるとは思わなかった』
これは俺? でも、違う。
見えているのは俺とエバーナと、それにもう一人。
なぜ俺が俺を見ている? これはなんだ。
「殿下?」
「エバーナ君の母親はフォルードの母親とは違う人」
「どうしてそれをご存知なのですか」
どうして俺はそんな事を知っている? なんの記憶だ。
『エバーナってさあ、何も悪くないんじゃないの? 姉ちゃん、悪いのって浮気した殿下の方じゃね』
『しょうがないでしょ。今の流行りはそうなのよ。芸能人の不倫だって女性は責められるけど、男性はすぐに禊ぎはすんだとか言われちゃうじゃない。あれと一緒よ』
『なんか違う気がするんだけどなあ』
これは誰とした会話だ。
姉ちゃんって、誰?
「殿下、お体の具合が悪いのですか。お顔の色が」
「大丈夫、なんでもないよ」
困惑する俺をエバーナが不安そうに見つめる。
姉ちゃんて誰だよ。芸能人の不倫ってなんだよ。
頭の中に急に現れた情報に戸惑いながらも、必死に冷静を装うしかなかった。
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