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氷の宮殿、半地下の部屋⑷
しおりを挟む「私はおそらく、炎の鳥によってクレアからミーシャへ生まれ変わったのでしょう。前世の記憶と、ごくわずかな魔力を持ったまま。ただし、誰でも、いつでも復活できるわけではありません」
リアムを見つめ、ほほえんだ。
「クレアは、オリバー大公殿下が作った魔鉱石を焼き尽くそうと、炎の鳥に命を捧げました。同時に、リアムの幸せを最後まで願いました」
「俺は師匠の死を否定した。クレアがいなければ幸せになどなれないと。炎の鳥を止めるために魔力を暴走させた」
「私は母親から復活の方法を聞いていませんが、それらの因果か重なった結果、ミーシャとして復活できたんだと思います」
炎の鳥と一体となったとき、身体は消えてしまった。クレアの命は、まだエレノアのお腹にいたミーシャに宿ったのだろう。
「つまり、復活できるのは、炎の鳥と契約している魔女だけと言うことか? 万の民は関係なかったのか?」
「……検証できないので、わかりません」
万の民の命を犠牲にしても生きかえるのは一人だけ。そもそも、安らかに眠っている人を生きかえらせるわけにはいかない。
「二回目の復活は? どうしてそのままミーシャなんだ」
「私の心臓は止まりました。でも、厳密に言えば死んでいなかった」
「どういうことだ?」
オリバーは怪訝そうに眉根を寄せた。
「リアムと、サファイア魔鉱石のおかげです」
リアムはミーシャの背に触れた。
「彼女の背には、今もサファイア魔鉱石が埋まっている」
「それは、……びっくりだな」
ミーシャを刺したオリバー本人が一番びっくりしていた。もう、除去済みだと思っていたらしい。
「俺と叔父さん、甥のノアは、魔力を持つ王家の中でも特別で、凍結耐性を持っている。体温が零度以下になっても、細胞内の水分が完全に凍結しないから、生き延びることができる」
「つまりリアムは、変温動物ってことだよね? 蛇とか蛙とか亀みたいな……」
ミーシャの発言にリアムは苦笑いを浮かべた。
「蛇みたいに脱皮して大きくはならない。基本は人と一緒だ。それに近いってこと」
「えっと……、そっか」
「……もしかしてミーシャ、今まで俺のこと、蛇や蛙と思ってた?」
「まさか! リアムは冬眠しないから人間!」
リアムに凄まれて、あわてて首を横に振った。
「まあ、いい。それで、俺たちの身体は寒い環境に適していて、そこへ氷を操る魔力が加わっている。俺の父親や、兄クロムには魔力はあったが、凍結耐性はなかったと聞いている」
「先帝たち、雪や氷は操れたけれど、身体は人だから極端な寒さに耐えられなくて、命を縮めてしまったのね」
ミーシャの言葉にリアムは頷くと続けた。
「仮説だが、エルビィス先生は短時間に一気に魔力を使いきり涸渇してしまうと、命、寿命を消費しはじめてしまうんじゃないかと言っていた。その状態では魔力を使うほどに、自身の身体、細胞を壊してしまうらしい」
実際にリアムは魔力を使い切り、凍ってしまいそうになったと言う。
リアムはミーシャの背に再び触れた。
「あんたは、魔女を、ミーシャを凍らせて殺そうとしたんだろう」
「そうだ。魔女が死にかければ、おまえは俺に泣きつくと思った。魔鉱石のありかを言うと思ってね。まさかミーシャが持っているとは思わなかった」
「ミーシャの身体が冷たくなり、皮膚に霜が降りるのを見て、凍化病のようだと思った。このままでは兄や父のように死ぬ。そう思ったときに、凍化しながらも冷凍睡眠で生きながらえたあんたを思い出した。冷に特化したサファイア魔鉱石を俺は扱える。自分が持つ凍結耐性を、ミーシャに付与すればもしかしたら助かるかもしれないと、咄嗟に魔鉱石に魔力を込めた」
オリバーは目を見開いた。
「魔女には冷への耐性がない。だから、凍化で細胞がすべて死んでしまわないようにしたのか」
「そうだ。ミーシャは炎の魔女だが、背中にサファイア魔鉱石がある限り、凍って死ぬことはない」
そのためリアムはずっと、心臓が止まったミーシャをその腕に抱き続けていたという。万の可能性を信じてくれたおかげで、今がある。
リアムはオリバーではなくてミーシャを見つめると、小さく笑った。
「魔女は死なない。また舞い戻ると言ってくれただろ。だけど、再び十六年待つのはいやだった」
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