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大元帥と女王様

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ローラントとクリスタが集会所から出てくると、仮設の大きなテントが広場の中央に建てられていた。
白い大きなテントの横で、何故かクラインとアイスラーがニヤニヤ笑って待っている。

「どうしたのよ、気持ち悪い」

「いんや、わりと短かったと思ってな」

クラインは上品な顔立ちの癖に、思い切り下品に笑ってみせた。

「クライン兄さんが思うようなことはしてませーん」

唇を尖らせてツンと言うクリスタにローラントが被せて言った。

「そうだな、残念だがそれは全て終わってからゆっくりと、時間をかけて……」

「はいはい、元帥閣下、さぁ、話し合いの時間です!」

ローラントの暴走を感じ取ったクリスタは、その手を引いていそいそとテントの中に入っていった。


テントには長いテーブルが2つ、向かうように並べられており、遠い方にザックス、トビアス、とその横に空席が。
こちら側にはヴィクトール、その隣に空席がある。
クリスタは当然のようにトビアスの隣に座ろうとして、大きな腕に阻止された。

「元帥閣下……あの、座らないと始まりませんが……」

一応交渉の場である。
記録もきちんと取るので、あまりおかしなことは出来ない。
それも踏まえて、クリスタはいつもよりよそよそしくローラントに告げた。

「君にはいつもの席があるだろ?」

まさか…………

ローラントはヴィクトールの隣に座り、その膝をポンポンと叩いた。

ああ!やっぱり……… 

「あの、元帥閣下?ここはそういった場ではないと思うので……」

いつものように最後まで言わせてもらえないまま、半ば強引にその膝に座らせると、元帥閣下はそれはもうご機嫌になった。

「さぁ、はじめよう」 

はじめよう、じゃないわよ!
ヴィクトールはいいとして、ザックスとトビアスはもう、気を使ってあらぬ方向を向いている。
あとで、ちゃんと謝っておかなくては。

「これ、ファルタリア女王は元帥閣下の膝の上に乗り……って文言入れた方がいいか?」

書記係を努めるクラインにクリスタは拳を作って見せた。

「殴るわよ」

「あー………じゃあまず、ファルタリア独立の件とクレセントナイトの権利についてはこれを承認。独立するとして、統治者はどうする?」

記録を取りながら、クラインがクリスタに尋ねる。

「統治者というか、指導者?ザックスがやればいいと思うわよ。組合長なんだし。でも後々ファルタリアは自分達で代表を選んだらいいと思うの」

「議員のようにか?」

「そう、自分たちの責任で自分たちの代表を。二度と悲劇を起こさないように」

ザックスとトビアスも深く頷いた。
公家が悪かったとはいわない、だけど、科学者達を増長させ、止められなかった責任は確かにある。

「わかった。そう書いておく。クレセントナイトはそのまま鉱石組合が管理して、ああ、そうだ、フローリア商会がクレセントナイトの流通に一枚噛みたいらしいぜ。帝国としてもその方がいいしな」

「ああ、もちろん!マイロとはずっとそういう話をしていたんだ」

ザックスは頬を緩め、トビアスと顔を見合わせた。

「それじゃあ、あとは、あれか。女王サマの嫁ぎ先の件。元帥閣下はほんとにコレが欲しいのか?」

「コレって私のことかしらっ!?」

憤慨するクリスタを後ろから抱きしめながら、ローラントがクラインに言った。

「コレしかいらない」

コレって言わないでよー!

「しょうがねぇなぁ、ファルタリアの独立とクレセントナイトの代わりがコレって、なんかめちゃくちゃだが、閣下が言うんだからなぁ、うん」

コレ…………もう、いいわ。

「ま、ファルタリア自治区の運営は、ザナリアの経済に結構な打撃だったからなぁ。独立すればザナリアの経済は少し回復するだろうし、クレセントナイトの権利が無くてもフローリア商会が中に入れば潤うし。女王サマはオマケだから」

コレからオマケになりましたよ。
昇格かな?降格かな?

「アドミリアもこれからファルタリアと同じ道を辿るだろうが、いいモデルケースになったな。あの国もザナリアが支えれば、また同盟国として新しい関係が築けるようになるぜ」

アドミリアとの戦争も近いうちに終結するんだろう。
アドミリアは王族も軍部も全てなくして、残っているのは民だけだ。
だからこそ、新しく始められる。
国なんてものは、人がいればいくらでも再生するのだ。

「じゃあ、書いとくな。ザナリア側は独立とクレセントナイトの権利を認める代わりにファルタリア女王の身柄を引き受け、それを元帥閣下の妻とする。っと」

「妻………か……」

そう呟くと、ローラントはクリスタの背中に顔を埋めた。

「本当に、オレのものになるんだな…」

「そんな……今更??」

「いや、結構切実だ。婚姻申請書が出されてなかったり、記憶喪失になったり、一回別れたり、また死にかけたり……」

そういえばそうね。

「帰ったら出さないとね、婚姻申請書」

「あれ、君が持っているよな?」

「ええ、白い本の中に……………」

白い本の中。
あら?あらら?
思い出したわよ。

「ローラント」

クリスタの低い声に、ローラントは肩を震わせた。
彼女がこういう声を出すとき、それはかなりご立腹の時だった。

「……なん、だ?」

「手紙、どうしたの?」

「えっ!?」

「あなたが最初に書いた手紙よっ!私の記憶がないのをいいことに、手紙を隠したでしょう!?」

「あっ、あれは、あの………あ?君、記憶戻ったのか?」

気づくの遅っ!
ヴィクトールとオズワルドのことを知っている時点でおかしいと思わなかったのかな?

「離宮で戻りました。で!?手紙は!?」

「なんで、あれを欲しがるんだ……君だって、最悪だって思ってただろ?」

「それでも!それでも、あれは、あなたからもらった最初の物よ!大切なの!」

驚いた顔をしたローラントは、その後すぐに弾けるような笑顔になった。
今まで見た中でも5本の指に入るくらい素敵な笑顔で、ぎゅうぎゅうクリスタを抱き締めるとその頬に自分の頬を擦り寄せた。

「君は本当にオレを喜ばせる天才だな……ああ、今すぐ抱きたい」

全員の目が一気に二人に釘付けになった。

「待て待て!ここでおっ始めるなよ!せめて今夜まで待て!おい、待てるよな?なっ?」

ローラントの恨みがましい目がクラインに注がれる。
その腕の中でクリスタは………圧迫死寸前だった……。

「クリスタ様?!」

トビアスがクタッとなったクリスタの顔色を見て叫ぶ。

「元帥閣下!腕を!弛めて!」

「え?あっ!クリスタ!!あ、あ……」

すぐに腕を離すと、今度は肩を揺さぶって心配そうにその顔を覗き込む。

「大丈夫、いきなり絞められて意識がなくなったのでしょう。すぐに戻りますよ」

「そうか!ああ、良かった……」

今度は締めすぎないように、ふんわり横抱きにして抱え込み、額や頬に何度も口付けた。

そういえば、とローラントは思い出した。
ハインミュラー邸でクリスタに言われたことを。
『その馬鹿力で殺さないで下さいね』と。

ああ、どうしよう………。
手紙の件と、これで、オレ、2倍怒られる………。
早く目覚めろと思いつつ、まだ寝ててもいいぞと矛盾する気持ちを抱えてローラントは苦笑いした。




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