パチンカスだった男、ダンジョンの出現によりダンジョン依存症になる。

蜂谷

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第二十七話 解散は近いんだけどなぁ

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 舞とのファイスピリット退治を繰り返して4か月が経過した。あの後警察に連れていかれることもなく、平和に過ごしている。そして遂にSR装備すべてが揃った。SR水の装備セットだ。以前の装備よりむしろ強化されたのではないか。

 この半年近い強制レベリングによって、舞の動きもかなり鮮麗されてきた。俺との毎日に及ぶ戦闘の成果だろう。美人度が更に増した気もする。

「これでようやくSR装備揃ったわね、それじゃあ10層に潜って様子を見ましょう」
「10層行く必要あるか?もう十分強くなったと思うけど、そもそも自分でも実感してるんじゃないか?自分の強さ」
「うるさいわね、予定じゃ10層で活動出来るような装備を整えることでしょ、実際に行ってみないと分からないじゃない」
「それもそうだな」

 確かに、実際に体験してみないと分からないこともある。
 俺も手痛い体験をしたことがあったので舞の提言を素直に受け取る。

 俺たちは9層を抜けて10層へと降り立つ、10層をちゃんと探索するのは1年ぶりくらいか?俺はSSR氷の装備をつけるが、なにやら装備が嫌がっているような感じがしたので、SR水の装備セットに切り替えた。
 
「で、どうやって確認するんだ?」
「そうね、……あんたは私の後ろで何かあった時の為に待機、私はソロで動けるかの確認、戦闘を行ってみる」
「危なくなったら、確認する前にいくから安心しろ」
「当然でしょ」

 それじゃあ行ってくるわね、と舞が俺の前に出て進んでいく。今まで後ろにいた舞を後ろから見守る。
 さっそく目の前にレッドリザードマンと遭遇する。まずは距離がある舞がウォーターボールを使って攻撃を仕掛ける。変温動物であるリザードマンの動きが鈍るのを見ると、前に駆け出してナイフで首の頸動脈を狙って一突きする。

 お前、そんな肉体派な戦いかたするのか、てっきり魔法で全て解決すると思っていた。

「魔法は精神力使うんだから、乱発出来ないのは常識でしょ。ポーションも無駄にできないし、必要なのは腕力よ腕力」

 そういって力こぶを作る彼女の腕はそこまで太くない。しかし引き締まったいい腕だ。それにダンジョンであれだけモンスターを倒したのだ。不思議パワーで強くなっているのだろう。
 その後も舞は、小休止を挟みながらも出てくるモンスターを倒していく。リザードマン以外の敵も、魔法と近接ナイフを織り交ぜ大した傷もなく倒していく。
 俺はポーションを飲んで休憩している舞に近づく。

「もう充分だな、お前ひとりでもやっていけそうじゃん。長かったけど俺たちのパーティーもここで解散だな」
「……まだキングレッドリザードマンを倒してないわ。あいつくらいソロで倒せないと安全とは言えない。今日は疲れたから明日また来ましょう。それまで解散はなしね」

 舞は歯切れの悪い口調で提案する。まあ確かにキングは俺でも苦戦したし、まだすべてを探索してないとはいえ、今まで10層で出くわしたモンスターの中では最強の部類になる。舞に死なれても目覚めが悪いし、そこまでならと俺も了承した。

「ここってモンスターの拠点になる場所って見つからないよな。舞もそういう情報聞いたことないか?これは俺の体験からなんだが、5の倍数の層にある拠点に、ボスのような敵がいるんだよ。あと間違っても拠点見つけても一人で入るようなことするなよ。危険だから」
「そういう話は聞いたことはないわね、そもそもアンタの話自体初耳なんだけど、一体どれだけダンジョンに潜っているのよ」
「まあほぼ毎日?予定のない日はほとんど潜っていたしな、ここ稼げるしギャンブルも出来るし、最高の仕事場だよ。趣味を仕事にするのは難しいとか嘘だよな」
「あんたが異常なのは今に始まったことじゃないから何も言わないでおくわ」

 舞が呆れつつも返事をする。今日の10層探索を切り上げダンジョンから帰還する。
 帰りに商店によると、店主が俺の顔を見てやれやれ生きてやがったよ、って顔をした。
 お前も心配してたんだろ、男のツンデレも気持ち悪いからやめてくれ。

「お得意様のご来店だぞ、もっと嬉しそうにしろよ」
「ばーか、お前がいなくても店は回るんだよ、まあ何もなくてよかったな」
「素直に受け取っておくよ、ありがとう」
「ところで話は変わるんだが、このポーション買わねぇか」

 そう言って店主が取り出したのは部位欠損回復ポーションと書かれていた。

「これってまさか、失った手とか足を再生できるのか?
「そうだよ、今か昔か、いつ失ったかは関係ない。現代の医学では修復不可能な完全な欠損すら再生する魔法の品だよ。ここに回ってきたのもこれ一個だけだ」
「でもお高いんでしょう?」
「10億万円だ」
「買えるか!!いくら俺でもそこまで稼いでねーよ」
「仕方ねぇだろ、現実世界でも需要が高いんだから、手や足を事故で失った金持ちがこぞってダンジョンに潜って使っているらしいしな」
「そりゃ金持ちにとっては10億で手足が再生するならさせるだろうなあ」

 俺はダンジョンの素材が現実で活用されているのを初めて実感した。
 ただこんな高価なものじゃ一般の市井に流通するのはずっと先になるだろうな

「素材は大量の薬草で、レア度や品質はもちろん、それらが影響する。SSR薬草(上)ですら10個は必要らしい。とてもじゃないが大量生産は出来ない代物だ。この一個だって相当無理して卸してもらったんだからな。これはお前や他の有力な冒険者にしか声を掛けてねぇ、早い者勝ちにはなるが冒険者だけ確実に手に入るようにしてある。欲しいのなら早めに買うんだな」

 それってより危険に挑めって言ってるのと変わらないんじゃないか?俺のことは心配するくせに冒険はしろって矛盾してる気もするが。

「なに、こんなの必要にならないのが一番だ。別に冒険で手傷を負ってから使えなんて言うわけじゃねぇ、知人や恩人で必要な奴に送ってやったり、保険の為に持てたらいい程度に考えておいてくれ。伝手はないが別に外で買えないわけじゃないしな」
「そうだな、考えおくよ」

 俺の金欠になっている原因はギャンブルに使っているからだ。
 ならちょっと我慢して金貯めてもいいかもな、3億タラー近くもあるし、タラー割引も考えれば9億か、これUR亀竜の甲羅売ればすぐ手に入るんじゃないか?

「俺当てがあるし案外すぐ手に入るかもな、舞はどうする。欲しいなら譲るけど」
「……ちょっと考えておくわ」

 なにやら思案顔な舞に違和感を覚えつつもその日は帰宅した。
 ギャンブルはしばらく封印しよう。
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