それはきっと、夜明け前のブルー

遠藤さや

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1.はじまりは黒と青

黒②

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「じゃあ、荷物をまとめて、引いた番号の席に移動してね」

 担任の吉川先生の号令で、みんなが楽しそうに移動しはじめる。けれど、私は黒板をじっと見つめたまま動けなかった。

「離れちゃったけど、お弁当は一緒に食べようね……って、顔怖いよ」

「わ、ほんとだ」

 荷物を持った由真ちゃんと夏梨ちゃんが、顔をこわばらせて石のように固まる私を心配そうに振り返る。
 新しい席は、ふたりの席と教室の端と端くらい遠く離れてしまっていた。大袈裟に思えるだろうけれど、私にとっては今生の別れに等しい。
 もちろん一年間この席で過ごせるとは思っていなかったけれど、こんなに早く席替えなんてあんまりだ。

「大丈夫、すぐ馴染めるよ」

「ほら、詩ちゃんの席は窓際の一番後ろだし、特等席だよ! 早弁し放題!」

 しないよ、早弁……。

 そう言い返す気力もなく、とぼとぼと新しい席に向かう。私の席の前にもその隣にもすでに男の子が座っていて、がくりと肩が落ちた。

 でも、まだ望みはある。

 教科書を机の中にしまいながら、最後の望みをかけてまだ誰も座っていない隣の席を横目でちらりと確かめる。
 窓際最後尾の私の席は、前と右斜め前、そして右隣しか人がいない。だから、残る希望はこの一席のみ。 

 どうか、どうか女の子が来ますように……!

 そう祈りながらぎゅっと目を閉じた時、隣でドサッと鞄を置く重そうな音がした。反射的に振り向いて、体が凍りつく。昔の記憶が頭を過り、さあっと血の気が引いていくのがわかった。

「……何?」

 ぶっきらぼうな感じの声と、怪訝そうな顔。

 うわわわ、男の子だ。それも、めちゃくちゃ怖そうな人……!

 恐怖で声が出なくて、必死になってぶんぶんと首を横にふる。
 よく日に焼けた背の高いその人は、それ以上何も言わず気だるそうに隣の席に座った。その態度は怒っているようにも見えて、この世の終わりみたいな気分になる。

 私は涙を堪えて、身体を小さく縮こめることしかできなかった。
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