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第十ニ話 墓参り

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 この世界に帰還してから、3ヶ月が経った。

 「あ、今日」

 朝食を食べ終え、カレンダーを見たアニスは何かを思い出したような表情を浮べた。

 「どうしたんだ?アニス」

 「あ、えっと、私のパパとママの命日だったことを思い出して」

 命日だと?

 アニスの両親の。

 「そうなのか。では、直ぐに行かなくては」

 「あ、でも今から向かったら、明日になってしまうので、少し経ってからにしましょう」

 「大丈夫だ、アニス。直ぐに向かう手段がある。だから、街の名前を教えてくれるか?」

 アニスは不思議そうな表情を浮かべながら、場所を教えてくれた。

 場所はイタリアの北側の街だった。

 この街の近くなら行ったことがあるから、直ぐに移動できるだろう。

 「アニス。準備を終えたら、私を呼んでくれ」

 「えっと、まさか魔法というのを使うのですか?」

 「ああ、だから何も問題無い」

 「ありがとうございます、ハータさん。私、直ぐに準備してきますね」

 アニスは嬉しそうな表情を浮べ、自室に戻っていった。

 俺も着替えるか。

 身支度を整え、リビングで待っていると、身支度を整えたアニスがやってきた。

 「お待たせしました、ハータさん」

 「じゃあ、俺の手を取ってくれ」

 俺はアニスの方に手を伸ばした。

 アニスは俺の手を伸ばした手を取ってくれた。

 「それではお願いします」

 俺は離さないように手を握った。

 「ヴァッサァヴァンデルソ」

 すると、俺達の体は水と一体化し、一瞬で目指していた場所の近くに到着した。

 到着したアニスは近くの花屋で花を購入してから、アニスの両親が眠っている墓地に向かった。

 墓地の中を歩いていると、1つの墓前で止まった。

 その墓の前でアニスは女の子座りして、花を置いた。
 
 「久し振り、パパ、ママ」

 俺はアニスの墓参りが終わるまで後ろでただ待っていた。
 
 「パパ、ママ。また来るね」

 アニスは土を落としてから立ち上がり、私の方を向いた。

 「お待たせしました。行きましょう、ハータさん」

 俺は無意識に悲しそうな表情を浮かべてしまった。

 「そんな悲しそうな顔しないで下さい」

 アニスは両手を胸に置き、笑顔を浮べた。

 「私のパパとママは私が幼い頃に死んでしまいました。それからは長官に育てて貰いました。だから、寂しくは無いですよ」

 だが、その笑顔は無理矢理作った表情だった。

 本当は寂しかったのだろう。

 一緒に暮して生きたかったのだろう。

 最近になって、迷惑という言葉の意味が分かった。

 アニスは何かしらの存在に狙われている。

 そして、あの悪魔の王もそれの尖兵なのだろう。

 それがトラウマなのか、1週間に2度くらいの割合で、夜中に飛び起きる。

 悲鳴と共に。

 俺に出来ることはアニスに精神を落ち着かせる効果があるハーブティーを淹れることぐらいだろう。

 もし、この悪夢が覚めるとしてら、それはアニスを狙う何かしらを倒した時だろう。

 今の俺にはどうすることも出来ない。

 いつか、アニスが心の底から笑っている姿を見てみたい。

 幸せそうに満面の笑みを浮かべているのを。

 
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