【完結】「ニセ聖女」と言われ婚約破棄されました。どうやら彼は私の能力を勘違いしているようです。

彩伊 

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4 告白

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 「なあ。フリージア、こいつ殺してもいーの??? お前に暴力振るってたよなぁ???」


 レンはいつもあまり感情を表に出さない人でしたが、今日は違いました。
 .........確実に怒っていました。
 声色は数段低く、瞳はギラギラと炎が燃えているかのように見えました。

 「だ、ダメです!!殺しちゃ!! レンが悪者になってしまいます!!!」

 「........別に良いけど?」

 「わ、私が悲しいですから!!! それに、流石に神殿が動いてくれると思うので...........。」


 私はニセ聖女ではありません。
 神具に選ばれた紛れもない聖女です。
 それだけは確かです。
 神具に魔力を貯められないと、神殿の方達はとても困ります。


 それに大司教が選んだ聖女が偽物だと騒がれては、神殿の権威に関わります。
 こんな騒ぎを起こしたことが知られれば、いくらヨハネス様でもお咎めなし、なんてことにはならないはずです。


 「じゃー殴っていいかな? 俺、今すげーイラついてるんだわ」


 レンはそう言いながらニコリと笑いました。
 .............綺麗な笑顔でした。
 そして、私の返事は聞かずにヨハネス様の鳩尾に思いっきり拳を打ち込んだのです。

 
 鈍い音がした後、ヨハネス様は声も出せずに身体を抱えてうずくまっていました。
 苦しそうに咳き込んだ後、ヨハネス様はフラフラと立ち上がりました。
 そんな彼を見て、レンは呑気に口笛を吹きました。


 「お前..........!!!私が誰かわかっているのか!!!........絶対に許さない..........。お前の家族全員まとめて殺してやる.......!!!」

 「お前、まだ口聞く元気があるのか。良かったよ、殴りたりねーと思ってたとこだよ」


 レンは指をポキポキと鳴らしました。
 その音に、ヨハネス様は顔は青ざめました。


 「だ、だ、大体!!! お前に、私とフリージアのことは関係ないだろう!!! こいつが生きていられているのも、俺の家が神殿に金を寄付してやっていたからだ!!!こいつの命は俺のものなのだ!!!」

 「金、ねえ.........。んじゃ、これやるわ」


 レンは胸元から金の鎖のネックレスを取り出し、首から外しました。
 そして、ヨハネス様へ投げつけたのです。
 まるで果実を投げて渡すかのように軽く。


 そのネックレスは本物の金でできていました。
 そして中央の飾りには複雑な模様が描かれていて、その間には細かい宝石がいくつも散りばめられていました。
 宝石に縁のない私でもわかります。
 このネックレスはおそらく値段がつけられないくらいの価値があるものでした。


 「お前、何者だ........」


 そうレンに尋ねたヨハネス様の声は、震えていました。
 私よりずっと宝石に縁深い彼のほうが、その価値を理解できたのでしょう。

 レンはその問いには答えず、ヨハネス様に近づきました。
 ヨハネス様は後ずさりましたが後ろの木にぶつかり、足が止まりました。
 レンはそんな彼を上から見下ろしています。


 「お前、フリージアとは婚約破棄したんだろ?」

 「.........................だ、だったらなんだ!?」

 「フリージアのことは諦めて、さっさと帰んな。彼女はお前の好きにできるような価値の女性じゃないぞ???」

 「黙れ......黙れ黙れ!!!俺はキャンメル侯爵の息子で正当な後継.....ヨハネス・キャンメルだぞ!!!貴族の中の貴族だ!!!平民の女と結婚はしない!だから妾にしてやるんだ!!!この女にはそれがお似合いだ」


 その言葉を聞いたレンはヨハネス様の後ろの木を思いっきり殴りつけました。
 頰のすぐ横を拳が通ったヨハネス様は呆気にとられたようにレンの.........血がサラサラと溢れる拳を見てゾッとしたような視線をレンの顔へと向けました。


 「そうか.........。自己紹介どうも。俺は..........この国の第4皇子ローレンス・アーヴァスノットだ」


   レンがそう言った瞬間、空気が凍りました。
 その言葉を理解するのに、私もヨハネス様も数秒の時間が必要でした。
 そして、その数秒の後ヨハネス様は目を見開いた後、唇をわなわなと震わせました。


 「神に誓った婚約に割り込むことはできないと思っていたが、助かった。お前が婚約破棄をしてくれたおかげで俺はフリージアに気持ちを伝えられるよ」


 爽やかに微笑んだレンは再びヨハネス様の鳩尾に、今度は蹴りを入れました。
 ヨハネス様はくの字に倒れ込み、息をするのも辛そうでした。

 そのままレンは私に近づいて来ました。
 私は彼の血塗れの拳にハッとし、ワンピースの袖の一部をを引きちぎり、彼の手に当てました。
 幸い出血はひどくないようで、私はホッと息をつきました。

 そんな私をレンは優しい笑顔で、見つめていました。
 そして、自分の上着を私にかけてくださった後、彼は言いました。


 「フリージア、お前が好きだ。俺と王都に来て欲しい」


 その言葉に、私は目を見開きました。
 ”好き”と言う言葉を他人から言われるのは初めての体験だったのです。


 レンは言葉を続けました。


 「死にかけていた俺を必死に救おうと奮闘してくれたその優しさに惹かれ、一緒に過ごす時間の穏やかさと楽しさに心が安らいだ。それに理不尽な目にあっていても文句ひとつ言わずに前だけを見ているお前を見ていると.......俺がこの手で護って甘やかしてやりたくなった」

 「...............」


 一緒にいると楽しい、そう思っていたのは私だけではなかった。
 その事実だけで、心がとても......ぽかぽかと暖かくなりました。
 

 ヨハネス様と過ごす時間は私にとっては苦痛の時間で、いつも早く時が過ぎれば良いのにと思っていました。
 だけど、レンと過ごす時間は一瞬で過ぎ、一ヶ月毎日話していても全然話したりませんでした。


 (.........もっと、一緒にいたい.......この気持ちが”好き”なのでしょうか???)


 自分の中の自覚していなかった気持ちに気がついた私は顔が真っ赤になるのを感じました。
 見上げるとレンはまっすぐに私を見つめていました。


 「今度は一ヶ月だけじゃなく、ずっと俺のそばにいて欲しい」

 「.........!!!」

 「だめか.......???」

 「..........私も........レンと一緒に行きたいです。.....................きっと......私も”好き”、なのです。」


 その私の言葉が言い終わらないうちに、レンは私を抱きしめました。
 

 「ヤベー超嬉しい。夢見てんのか?俺」

 「夢じゃないですケド.......」


 レンの抱きしめる腕の力が強くて、私は窒息しそうになりましたが、彼の”嬉しい”という気持ちが伝わってくるようで、私は笑みをこぼしました。
 


 「.........ダメダ.........ダメだぞ........フリージア。お前を逃がすものか.......お前は俺のものだ.......」


 ヨハネス様は再びフラフラと立ち上がりながらそう言いました。
 そんな彼を見て、レンは思い切り顔をしかめました。


 「ちょっとこいつ川に沈めて来ていいか???」

 「だめです!!!」

 「殺さねーから。ちょっと重い石に括り付けて沈めるだけだから」

 「レン!?!?」

 「わーったよ」


 レンは諦めたように両手を挙げました。
 私は..........ヨハネス様に死んで欲しい訳ではないのです。
 ちゃんと生きて、自分の罪を自覚して悔い改めて欲しいのです。
 それが私の願いでした。


 レンは胸元から、小さな笛を取り出しそれを吹き鳴らしました。
 ”馬を呼んだ。賢いやつなんだ”とレンは言い、軽い身のこなしで木の上へと乗り、あたりを見回しはじめました。

 「最後にそいつになんか言っておきたいこととかねーの?ガツンと言ってやれよ、ガツンと。不満溜まってただろ?」

 その言葉に私は少し考えて、頷きました。
 そして、ヨハネス様の方へと歩みを進めました。


 「ヨハネス様?」

 私が名前を呼ぶと彼はパッと顔をあげました。

 「.......!! フリージア、やはりお前は私の....「私、よく考えてみると、昔から貴方が心底嫌いでした」

 その言葉にヨハネス様は目を見開きました。
 それでも、私は言葉を止めませんでした。


 「でも貴方は私が昔好きと言った好物を覚えていて、よく神殿に持って来てくれていたでしょう?貴方の中にも、私を思う気持ちが少しでもあったからだと信じています。...........だから、貴方のことを恨みはしません。今日のことも..........いつかは忘れましょう」

 「........フリージア.........私はっ......!!!」

 「さようなら、ヨハネス様。マリア様とお幸せに」

 「待て!フリージア!!」


 私の腕を掴もうとしたヨハネス様との間にレンが立ちはだかりました。
 レンは私をヨハネス様から遠ざけ、ヨハネス様の手を払い除けました。
 そして、ヨハネス様の耳元で囁きかけました。
 
 「力での支配はいつか力で押しつぶされる。ヨハネス・キャンメル、よく覚えておくんだな。」


 私はもう振り返りませんでした。
 彼への未練など一つもなかったからです。


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