Serendipity

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「………ハルカ………」

 不意に名前を呼ばれ、俺は竦み上がる。
 思わず飛び起きて、ジッと彼を見下ろしてしまった。
 疲れ果てた顔が、ゆるゆると俺を見る。
 目線を合わせる事が出来なくて、俺は顔を伏せた。

「……どういうつもりなんだよ、オマエ?」
「ご………ごめんなさいっ!」

 口をついて出た言葉は、そんな情けない一言で。
 でも、咄嗟にひれ伏した俺の頭に、大きくて筋張った手が乗せられる。

「なんだよ、謝るのか?」
「えぇ?」

 顔を上げると、彼は呆れたような顔をしていた。

「俺はてっきり、オマエがもう俺との生活を終わりにしたくて、俺に嫌がらせを仕掛けてきたのかと思った」
「そんなっ!」

 言い訳を口にしかけて。
 でも、言われてみれば俺の行動はそう受け取られたって仕方がない。

「東雲サン、俺……っ」

 上手い言葉が見つからず、俺は身体を起こした彼にしがみついた。

「追い出さないで…………、俺、他に行く所なんて無いんだ…………」
「バッカ、知ってるよ」
「だって……俺っ!」
「どうせ友達と飯食いに行った先でバカな下ネタでも繰り広げて、頭沸騰させて帰ってきたんだろ? でも、この次からは二度とゴメンだぜ?」

 彼の言葉にビックリして顔を上げた俺に、いつもの優しい笑みが応えてくれた。

「次………って? 許してくれんの?」
「許されたくないワケ?」
「そうじゃ………ないけど。でも、普通怒るだろ?」
「怒ってるさ。…でも、いつまでも眦吊り上げてたって仕方ないだろ? オマエはちゃんと反省してるんだし、俺にだって落ち度はあったんだろうからさ。そんなコトでいつまでも煩わされるのは、鬱陶しいだけだろ?」

 俺は彼の筋張った手を取ると、その甲に口唇を押しつける。

「ゴメンナサイ…………」
「もう、解ったって。……身体痛ェから風呂入りたいんだ、手伝ってくれないか?」
「うん」

 白い身体を抱いて、俺は立ち上がる。

「バッカッ! 誰が姫抱きにして連れてってくれっつったんだよっ! 危ねェから降ろせ………っつーか、蹌踉めくな~!」
「暴れンなよ、余計危な………」

 ふらつきながら、俺はようやくの思いで彼をバスルームに運び込んだ。
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