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「嬉しく存じますわ、ルブランテ様。わたくし、この時をずっと心待ちにしておりましたのよ」
「ははは、そうかそうか、本当に可愛いやつだなロゼッタは、……むっ?」

 ロゼッタはしなだれかかるようにルブランテの腕を取ると、たわわに実った胸元をわざとらしく押し付けてみせた。

「こらこら、そうはやるな。心配せずとも十二分に可愛がってやるから焦らんでよい」

 ごく自然に行われた所作を見るに奥ゆかしさの欠片は微塵もなく、貴族令嬢というよりはどこか娼婦を思わせた。

「はしたない女で申し訳ございませんルブランテ様。ですがわたくしがそれだけ待ちわびていた事なのだと分かってくだされば幸いですわ」
「よいよい。皆まで言わずともロゼッタのことは余が一番分かっている。なにより、それだけ強く求められては男冥利に尽きるというものよ」

 媚を売られていることにも気づかず、すっかり鼻の下を伸ばしてその巨乳の感触を堪能しているルブランテだが、なるほどこういう単純なハニートラップでロゼッタは一国の王太子に取り入ったのだろう。

 その時の光景がありありと想像できるが、別に腹も立たない。
 これまでルブランテがどこでなにをしていたかなんて今さら知ったところで興味もなければ関係もないからだ。

 まして王妃教育と同じように彼もまた将来の王になるための特別な教育を受けているだろうに、この程度のハニートラップに引っかかるその危機意識の薄さに呆れる感情の方が勝ってしまった。

(国王王妃両陛下には申しわけないけれど、彼の人の上に立つ者としての資質は皆無と言わざるを得ないわね。まあ、どう考えても本人が一番悪いのだけれども)

 とはいえそんなことはこの際どうでもよく。
 現在の自分の心情としては、一刻も早く目の前からこの二人にはいなくなってもらいたい。

 そうして晴れて自由の身になったことを祝い、一人楽しくおやつタイムを迎えたかった。

 けれどもその前にこれだけは言っておいた方がいいだろうと思い、私は小ぶりな口を開いた。

「殿下とお茶に向かわれる前に一つだけよろしいですか、ロゼッタさん」
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