オッドアイの守り人

Chapter 6:生い立ち

「中野と今日打ち合わせだったんだけど、君の事をまたしつこく聞いて来たんだ…。君の事が心配になって…。」


そうか、中野は海外出張でずっと不在だったから今日課長から話を振られるまで気にしてなかったけど、染谷にも俺の事聞いてたんだな。一体何なんだろう…。俺の能力の事に勘付いているのだろうか？いや、常識的にはありえない。


「いや、話してないならいいんだ。とてもデリケートな話だと思うし、余り人には話さない方がいい事もあると思うし…。」


染谷はいつも俺を守ろうとしてくれる。彼とは大学から一緒だ。
バイト漬けで有名だった俺に興味を持った彼は、あるゼミが一緒になった時に聞いてきたのだ。
どうしてそんなに働いているのかと。俺をバイト三昧から大学生らしい生活に引き込んでくれたのも彼だ。彼がいなければ俺の学生生活は小中高と同様無残なものだっただろう。


俺は普通の家庭よりもとても複雑な環境で育っている。
小学校へ上がる前には父親は姿を消していた。父親の記憶はない。


母親は俺と兄とを一人で育てなければならなかったから、朝も昼も夜も働く母親を見て、俺は家のことを出来る限り自分でするよう努めた。家の事をしない兄貴とはいつも喧嘩ばかりだったが、今では大人になって、たまに実家で会う。しかし仲が良いとは言えない関係のままだ。


　経済的に逼迫していることを早くに察知して居た俺は、小さい頃から働きづめだ。知り合いの家の家事手伝いや小さい子の家庭教師をして小銭を稼ぐ事に必死だった。


普通の子供がゲームや外遊びをしている時間は、俺にはどうやって稼いで生きていくか、というサバイバルだった。


これは言い訳だろうが、幼少期に友人とどう付き合うかというベースのコミュケーション力を培う時間は俺にはなかった。自分自身ではコミュニケーション障害だとは感じていないが、この人見知りと人当たりの悪さはその人間関係の構築ベースが成り立っていないからではないかと感じている。


　大学で染谷に出会えたのは本当に運が良いとしか言いようがなかった。


　染谷は人の事を詮索しない。話したい時に話すだけだった。でもその柔らかな雰囲気と、優しげな存在に癒されて、俺は仕事だけの人生から一歩踏み出し、友人がいる人生を歩めている。


　たった一人、信頼できる友人だ。そしてそれが揺らぐことが無いと信じている。たとえあんな事があったとしても…