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【第四章】資金調達編

【第六十三話】

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 ごろつきに囲まれていた二人は、肥っている方がアイガランドという名で、その護衛がナイオルというらしい。


 俺とゼフナクトも簡単に名乗ると、四人で通りにある食堂に入った。


 特に変わった所がない食堂だったが、通り沿いにあるからなのか、客で賑わっている。


「これは、アイガランド殿。よくぞいらっしゃいました」


 中に入るや否や、店の店主と思われる男性がアイガランドを出迎えた。


 この辺りでは有名なのだろうか。


「諸用で近くによったのだが、この二人と出会ってな。個室は空いてるか」


「ええ、こちらへ」


 店の奥にある、幾つか並んだ個室のひとつに通された。


 表の客席よりも、綺麗に設えてある個室だった。


「ここは、私が開店の資金を用意した食堂なのだ」


「なかなか良い食堂ではないか、アイガランド殿」


 ゼフナクトとアイガランドは、早くも打ち解けている様子だった。


「それにしても、店に出資できる程とは。やはりなかなかの商人なのではないか?」


「まぁ、一応はな。これでも、苦労はしているのだよ」


 他愛もない、よくある世間話だった。


 ゼフナクトとアイガランドが活発に喋り、俺と従者のナイオルはただそれを聞いていた。


 俺は少し退屈な気分だったが、話を聞いているうちに、アイガランドは商人としてはかなり成功しているのだと分かった。


 ゼフナクトもそれを見抜いたようで、少しづつ踏み込んだ質問もしている。


 一時間ほど経った頃だった。


 表の客室が何やら騒がしくなっていたので、それを確認するために俺は個室を出た。


 二十人ほどの若者が、他の客を外に追い出し、店の主人の胸ぐらを掴んで怒鳴っていた。


「この店に、でっぷりと肥った大男と、細い身体の従者が入っているだろう。早く出しやがれ」


 若者の中に、先程ナイオルに打ち倒された男も混じっている。


 仲間を引き連れて、仕返しに来たようだった。


「だ、誰のことなのか、分かりませんが」


 店の主人がそう言うと、胸ぐらを掴まれたまま殴られ、数人の男に取り囲まれて暴行されていた。


「先程のごろつきが、仲間を連れて二人を探しています。ざっと数えただけでも二十人は居ます」


 状況を伝えに戻ると、ゼフナクトとアイガランドは変わらない様子で話を続けていた。


 報告しても、二人とも特に気にした様子は無い。


「アイガランド様、私が行ってまいります」


 ナイオルが、席を立った。


「分かった」


 アイガランドはそれだけ言い、酒を口に含んだ。


 ナイオルだけで、あの若者の集団を相手するというのか。


 人数は、さっきの倍である。


 いくら強いと言っても、無謀だろうと思った。


「俺も行ってきます」


 ゼフナクトと目を合わせ、彼はただ頷いただけだった。


「俺も、助太刀します。ナイオル殿」


「必要はありません。危ないので、隠れていてください」


 邪魔と言われたように聞こえたので、俺は一瞬かっとなった。


「一人で二十人の相手は、無謀でしょう。俺も一応、武術の心得があります」


 ナイオルは、目を合わせようとしなかった。


「好きにしてください」


 素っ気なくナイオルは言い、表の客室に出た。


「おい居たぞ、さっきの奴だ」


 店の主人は、地面に倒れて動かなくなっていた。


「よくも俺様の仲間を倒してくれたな、このガキ」


 まとめ役と思われる大男はそう言うと、力強くナイオルに打ち込んできた。


 見事な動きで、ナイオルはそれをかわし、避けた勢いを利用して大男の顔面に回し蹴りを食らわした。


 見事な跳躍で、天井近くまで身体が跳んでいた。


 別のもののように大男は地面を転がり、そのまま動かなくなった。


 すぐさま、他のごろつきがナイオルに襲いかかった。


 ナイオルは脚を使って闘うのが得意なようだったが、拳もよく使っていた。


 力強さではなく、拳が速く、相手の力の流し方が上手いのだろう。


 傍で見ていて、自分の肌に粟がたつのを感じた。


 ナイオルは一度に二、三人を相手にし、倒すとすぐに他のごろつきに襲いかかった。


 助太刀しようにも、俺は何も手を出せないでいた。


 数分もしないうちに、立っているごろつきは一人もいなくなっていた。


 ナイオルの呼吸は、全く乱れていない。


「おお、盛大に暴れたな、ナイオル」


 個室から出てきたアイガランドが、軽くそう言った。


 ゼフナクトは驚いているようだったが、顔には出さないようにしているのが分かった。


 店の中はかなり荒れて、壊れた卓や椅子が散乱している。


 ごろつきは床に倒れたまま動かないが、死んではいない。


 ナイオルは急所を外し、気絶だけさせたようだ。


 一人でこれだけの人数を相手にして、到底出来ることではなかった。


 思った以上に、ナイオルの武術の腕は相当なもののようだ。


 ナイオルが倒れた店の主人に拳で活を入れると、大きく息を吸いながら目を覚ました。


「主人、申し訳ありません。大切な店を壊してしまいました」


 ナイオルが頭を下げると、後ろに居たアイガランドが歩み出た。


「主人、店の修理費用は、私が出させてもらおう。それと、用心棒も雇っておくので、ごろつきからの報復は安心するのだ」


 アイガランドは、店の主人の肩に手を置きながら言った。


 やはり、金はある。










「ゼフナクト殿、カイト殿。もし宜しければ、この街の外れにある私の屋敷に来ませんか? 酒でも飲みながら、今夜は泊まってください」
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