133 / 203
21.病は気から
7.
しおりを挟む
それから数日後のこと。
キーテとデルミーラは、二人の父親であるヒエロニムス伯爵と対峙していた。
「お父様、大事なお話って一体なんですの?」
ヒエロニムス伯爵は小さく息を吐くと、二人の娘を交互に見つめた。
「実は、べーヴェル侯爵家の三男から、キーテに縁談を申し込まれている」
「えっ……?」
キーテの心臓が大きく跳ねる。興奮と感動で、胸が一杯だった。
「キーテはどうしたい? 病弱なお前を妻にと言ってくれる人は、早々現れないだろう。
ただ、相手は三男で、侯爵位は継げない。分家筋の爵位を継ぐことになるらしいが、それでも構わないとお前が言うなら――――」
「ダメよ!」
声を上げたのはデルミーラだった。目を見開き、信じられないといった表情で妹のことを見つめている。
「姉さま?」
普段温厚で取り乱すことのない姉の様子に、キーテは面食らってしまう。
「キーテが結婚だなんて…………いえ、エルベアト様は爵位を継ぐべきお方です! わたくしと結婚して、伯爵位を相続していただいた方が絶対良いと思いますの。
大体、どうしてエルベアト様がキーテを? ヒエロニムス伯爵家との繋がりが欲しいなら、姉であるわたくしの方が良い筈ですもの。きっと何かの間違いですわ」
段々と落ち着きを取り戻しながら、デルミーラはそう口にする。愛娘の言葉に、伯爵はうーーんと唸りながら首を傾げた。
(言わなきゃ……私の気持ち)
キーテは意を決して身を乗り出す。
「お父様、私はエルベアト様のお申し出を受け入れたいと思っています」
「キーテ!? 一体何を言っているの!?」
いつになくハッキリとした主張に、今度はデルミーラが面食らう。けれど、キーテは引かなかった。真っ直ぐに父親のことを見つめつつ、ゆっくり大きく息を吐く。
「私はエルベアト様のことが好きです。彼と結婚したいと思っています」
「なっ……な…………」
「分かった」
伯爵の返事は明確だった。穏やかに目を細めると、キーテの頭をポンと撫でる。
「最近は体調も良いようだし、先方もお前を望んでくれている。すぐに返事をしよう」
「ありがとうございますっ」
天にも舞い上がりそうな心地のまま、キーテは微笑む。
父が使者を送るのを見届けると、すぐに部屋へと戻り、ペンを握った。
【エルベアト様、聞いてください。べーヴェル侯爵家の三男が、私のことをお嫁さんにしてくださるんですって! 私、とても幸せです――――】
部屋の真ん中には、描きかけのキャンバスが鎮座している。エルベアトが外に連れ出してくれた日に見た、地上の星の絵だ。彼への想いを込め、一筆一筆丁寧に、毎日描き続けている。
【次はいつお会いできますか? 早くあなたに会いたい――――】
「キーテ、少し良い?」
キーテとデルミーラは、二人の父親であるヒエロニムス伯爵と対峙していた。
「お父様、大事なお話って一体なんですの?」
ヒエロニムス伯爵は小さく息を吐くと、二人の娘を交互に見つめた。
「実は、べーヴェル侯爵家の三男から、キーテに縁談を申し込まれている」
「えっ……?」
キーテの心臓が大きく跳ねる。興奮と感動で、胸が一杯だった。
「キーテはどうしたい? 病弱なお前を妻にと言ってくれる人は、早々現れないだろう。
ただ、相手は三男で、侯爵位は継げない。分家筋の爵位を継ぐことになるらしいが、それでも構わないとお前が言うなら――――」
「ダメよ!」
声を上げたのはデルミーラだった。目を見開き、信じられないといった表情で妹のことを見つめている。
「姉さま?」
普段温厚で取り乱すことのない姉の様子に、キーテは面食らってしまう。
「キーテが結婚だなんて…………いえ、エルベアト様は爵位を継ぐべきお方です! わたくしと結婚して、伯爵位を相続していただいた方が絶対良いと思いますの。
大体、どうしてエルベアト様がキーテを? ヒエロニムス伯爵家との繋がりが欲しいなら、姉であるわたくしの方が良い筈ですもの。きっと何かの間違いですわ」
段々と落ち着きを取り戻しながら、デルミーラはそう口にする。愛娘の言葉に、伯爵はうーーんと唸りながら首を傾げた。
(言わなきゃ……私の気持ち)
キーテは意を決して身を乗り出す。
「お父様、私はエルベアト様のお申し出を受け入れたいと思っています」
「キーテ!? 一体何を言っているの!?」
いつになくハッキリとした主張に、今度はデルミーラが面食らう。けれど、キーテは引かなかった。真っ直ぐに父親のことを見つめつつ、ゆっくり大きく息を吐く。
「私はエルベアト様のことが好きです。彼と結婚したいと思っています」
「なっ……な…………」
「分かった」
伯爵の返事は明確だった。穏やかに目を細めると、キーテの頭をポンと撫でる。
「最近は体調も良いようだし、先方もお前を望んでくれている。すぐに返事をしよう」
「ありがとうございますっ」
天にも舞い上がりそうな心地のまま、キーテは微笑む。
父が使者を送るのを見届けると、すぐに部屋へと戻り、ペンを握った。
【エルベアト様、聞いてください。べーヴェル侯爵家の三男が、私のことをお嫁さんにしてくださるんですって! 私、とても幸せです――――】
部屋の真ん中には、描きかけのキャンバスが鎮座している。エルベアトが外に連れ出してくれた日に見た、地上の星の絵だ。彼への想いを込め、一筆一筆丁寧に、毎日描き続けている。
【次はいつお会いできますか? 早くあなたに会いたい――――】
「キーテ、少し良い?」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,066
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる