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21.病は気から

7.

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 それから数日後のこと。
 キーテとデルミーラは、二人の父親であるヒエロニムス伯爵と対峙していた。


「お父様、大事なお話って一体なんですの?」


 ヒエロニムス伯爵は小さく息を吐くと、二人の娘を交互に見つめた。


「実は、べーヴェル侯爵家の三男から、キーテに縁談を申し込まれている」

「えっ……?」


 キーテの心臓が大きく跳ねる。興奮と感動で、胸が一杯だった。


「キーテはどうしたい? 病弱なお前を妻にと言ってくれる人は、早々現れないだろう。
ただ、相手は三男で、侯爵位は継げない。分家筋の爵位を継ぐことになるらしいが、それでも構わないとお前が言うなら――――」
「ダメよ!」


 声を上げたのはデルミーラだった。目を見開き、信じられないといった表情で妹のことを見つめている。


「姉さま?」


 普段温厚で取り乱すことのない姉の様子に、キーテは面食らってしまう。


「キーテが結婚だなんて…………いえ、エルベアト様は爵位を継ぐべきお方です! わたくしと結婚して、伯爵位を相続していただいた方が絶対良いと思いますの。
大体、どうしてエルベアト様がキーテを? ヒエロニムス伯爵家との繋がりが欲しいなら、姉であるわたくしの方が良い筈ですもの。きっと何かの間違いですわ」


 段々と落ち着きを取り戻しながら、デルミーラはそう口にする。愛娘の言葉に、伯爵はうーーんと唸りながら首を傾げた。


(言わなきゃ……私の気持ち)


 キーテは意を決して身を乗り出す。


「お父様、私はエルベアト様のお申し出を受け入れたいと思っています」

「キーテ!? 一体何を言っているの!?」


 いつになくハッキリとした主張に、今度はデルミーラが面食らう。けれど、キーテは引かなかった。真っ直ぐに父親のことを見つめつつ、ゆっくり大きく息を吐く。


「私はエルベアト様のことが好きです。彼と結婚したいと思っています」

「なっ……な…………」

「分かった」


 伯爵の返事は明確だった。穏やかに目を細めると、キーテの頭をポンと撫でる。


「最近は体調も良いようだし、先方もお前を望んでくれている。すぐに返事をしよう」

「ありがとうございますっ」


 天にも舞い上がりそうな心地のまま、キーテは微笑む。
 父が使者を送るのを見届けると、すぐに部屋へと戻り、ペンを握った。


【エルベアト様、聞いてください。べーヴェル侯爵家の三男が、私のことをお嫁さんにしてくださるんですって! 私、とても幸せです――――】


 部屋の真ん中には、描きかけのキャンバスが鎮座している。エルベアトが外に連れ出してくれた日に見た、地上の星の絵だ。彼への想いを込め、一筆一筆丁寧に、毎日描き続けている。


【次はいつお会いできますか? 早くあなたに会いたい――――】
「キーテ、少し良い?」
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