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21.病は気から

10.

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(これは……)


 冷たくなったキーテの手のひらに、平べったい石が握らされている。触れただけで瘴気を感じる禍々しい石だ。彼にはこれがなんなのか、一目で分かった。


「――――――全部全部、貴方のせいだったのですね、デルミーラ嬢!」


 エルベアトは立ち上がり、デルミーラの元へ迫り行く。


「あっ…………あぁっ………………」


 彼のあまりの剣幕に、デルミーラは口をハクハクさせ、その場にぺたりと座り込んだ。何のことか分からない周りの人間は、困惑しつつもエルベアトの道を遮る。


「この石はマルアリア原石。粉末状にしたものを飲めば、吐き気や眩暈、発熱症状を引き起こす、所謂毒の一種です。直接触れればその症状を加速させ、酷いときには死に至らしめる。
デルミーラ嬢……キーテを苦しめていたのは他でもない、あなただ! こんなものを妹に使うなんて信じられない。神の試練!? ふざけないでください!」


 デルミーラは顔面蒼白のまま、首を横に振っていた。思わぬ事の真相に、ヒエロニムス伯爵をはじめとした周囲は、完全に言葉を失っている。


「出せ」

「へ……?」

「持っているんだろう? クイニン石を! 早く、出せ!」


 クイニン石は、マルアリア原石と対になる石だ。中毒状態を緩和し、解消へと導く力がある。
 これまでキーテが体調を崩しつつ、すぐに回復をしていたのは、デルミーラがクイニン石を持っているからに違いない。


「こ……これ…………これよ」


 デルミーラはおずおずと左手を広げる。白い小さな石がそこにあった。すぐさまその石を引っ手繰り、キーテの手のひらに握らせる。


「ん……」


 キーテが苦し気な唸り声を上げる。けれど次の瞬間、ゆっくり、ゆっくりと彼女の顔に生気が戻っていくのが分かった。


「キーテ!」

「キーテ様!」


 目に見えた回復を見せるキーテに、皆が歓喜の涙を浮かべる。
 ただ一人――――デルミーラだけが、まるで抜け殻になったかのような表情で、その場に屈み込んでいた。
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