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5章 復讐は我にあり

5-65 無事という意味の定義、辞書を

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‥‥‥脱出できたのは良いだろう。竜魔法での空間接続のため、切った今出てくることはない。

 下方向に出る方法はあるのかもしれないが、それだとしてもすぐにまたあのドロドロになった元狂竜戦士とやらに出会うことはないはずである。

「そして出来れば、今いるこの場所に関してどこなのかを知りたいけど‥‥‥分かるか、ゼナ?」
「ただ今計測中‥‥もうちょっとかかりマス」
「まだ明るいから星とかはないのに、わかりますの?」
「大丈夫デス。時空間移動対応型センサーがありますので、少々時間がかかりますが分かるのデス」

 何だそりゃとツッコミをいれたいが、そんな謎の物があるからこそ今の場所が探れるので特に文句を言うようなこともない。

 周囲を見渡しつつカタカタと音が鳴りつつ、俺たちはおとなしく結果を待つだけだ。

「それにしてもドラゴンさん、大丈夫なの?落下した際に、私達の下敷きになってましたけれども」
「燃料が無くて、飛べませんでしたものね‥‥‥フィー、ぎっちぎちに包帯を巻かれてますけど、痛くないかしら?」
「ああ、そんなに気にするようなことはないよ。なまじドラゴンの血が入っているせいか頑丈な体でもあるし、疲弊していたとはいえ軟着陸のためにもう一度ブレスを吐いて衝撃をやわらげたからな。‥‥‥その代わり、潰されたんで骨がちょっと逝ったが問題あるまい」

 幸いというべきか、ルルシアたちには鎧を着せており、そちらには色々な安全装置が組み込まれているので彼女達に怪我はない。

 その代わりに、俺が下敷きになる形で落下してしまったので潰されて‥‥‥いや、飛行する目的もあったので軽量化された鎧ゆえにそこまでの重みは無かったのだが、いかんせん頑丈に作られ過ぎていたので、その固さによってちょっとばかり骨にひびが入ったのである。

 一応、ゼナの手当てを即座に受けているので、しばらく安静にすればすぐに癒えるだろう。


「っと、計測結果が出ましたが‥‥‥ふむ、ちょっと不味いデス」
「というと?ここがどこか物凄い紛争地帯だったとかいうのか?」
「いえ、そうではなく‥‥‥ここ、雲海が見えますよネ」
「ああ、怪我とか何かトラブルが無ければ、綺麗な景色として楽しめそうなほどの広大な光景があるよな」
「それもそうですガ‥‥‥これ、雲じゃないデス」

 計測を終えたようで、結果を告げるゼナ。

 雲じゃないとなると、何なのだろうか?

「雲ではないようで、生命反応を確認しまシタ。魔獣デス」
「へぇ、魔獣かぁ。それなら納得で‥‥いやちょっとまてぇ!?これ魔獣なのか!?」
「ハイ、見えている分全部デスネ。それと、現在進行形で私たちに気が付いているようで、物凄く遅いですガこちらに迫って来てますネ」
「もうちょっと早くそれを言えよ!!」

 まさかまさかの、雲海ではなく雲に擬態した飛行するタイプの魔獣だった。

 生きとし生けるものたちを狙うような存在が、こんなに大量にいて良いのだろうか。

「擬態しているようですが、成分までは出来てないデス。全身が口のようなものであり、包み込んで捕食するのでしょウ。とは言え、雲の魔獣なので吹き飛ばしが有効デス。ソードスクリューモード」

 ガゴンっと音を立て、巨大な筒状の形態に変わるゼナ。

 今の俺の状態だと安静にした方が良いので、彼女自身が変形した方が良いと判断したのだろう。

「少々、風の刃も追加して細かく散らし、消しましょウ。『ウイングサイクロン』!!」
「わたくしも暴風ならできますわ!!唸れ『サンダーストーム』!!」

 強力な風の刃が飛び交う竜巻と、雷撃が舞う台風。

 双方それぞれ周囲の雲に擬態していた魔獣を吹き飛ばし、消し飛ばしていく。

「‥‥‥何と言うか、凄まじいなぁ」
「ストームとサイクロン、どう違うの?」

 そこはツッコむことはしない。あとで色々と面倒になるというか、その場のノリのようなものもある。

 何にしても二人のおかげで周囲の魔獣は見事にいなくなり、安全は確保できた。


「ふぅ、結構綺麗に片付きまシタ」
「お疲れ様。ああ、それと周囲のが魔獣だったという結果はともかく、現在地は分かったのか?」
「ハイ。そちらの報告も申しあげマス。現在地、医療大国の所有する無人島『ボルゴンス島』のようデス。実験を行うための施設があった島のようですが、数十年前に廃棄命令が出され、放棄された島でもありマス」
「医療大国の?いや、別に不思議な話でもないか」

 あの破神布とかのなんとかさん‥‥‥うん、名前を忘れたので布被りの変質者が言っていたことを思い出す。

 変質者が所属していた組織が、最近起こった医療大国と占星国の戦争の原因という話があり、先に事を起こしたのは占星国の方ではあったが、医療大国の方もその組織に与していたのであれば、所有する島を貸し出したりしていてもおかしくはないはない話ではある。

「海を渡れば無事にミルガンド帝国、いえ、位置的にはドルマリア王国の沿岸部にたどり着くことが出来るでしょウ。距離としても物凄く離れておらず、ご主人様が回復すればすぐにでもたどり着ける計算デス」
「そうか、場所が分かったのならよかった」

 どこか見知らぬ土地というのは不安になる事だったが、知っている土地からの位置が分かったのであれば不安も軽減されるものだ。

 まぁ、今の状態を考えるとすぐに向かえないが…‥‥それでも、返れない場所ではないという朗報となる。

「ですが問題もありマス。先ほど、地中の方にセンサーで確認したのですガ‥‥‥まだ、元狂竜戦士の崩れた細胞体が蠢いている状態で、別ルートから地上へ出ようとしていることが測定できまシタ。およそ3時間後にはふもとの方に到達し、噴き出してくるでしょウ」

 朗報が来たかと思えば、すぐに最悪な知らせの方がやってきてしまった。

 どうやら案の定というか、下からの抜け道をあの液状生命体と成り果てた生物は見つけ出していたようで、現在進行形で内部を突き進み、地上へ出ようとしているらしい。

「地下施設の存在も確認しましたが‥‥‥生命反応はすでに無いようデス。緊急時に備えて証拠を無くすためのものを稼働させたのでしょうが、その前に相手が動いたがゆえに脱出が遅れたのでしょウ」
「そうか。まぁ、自業自得な話にも‥‥‥ん?」
「あの、ゼナ。聞いて良いかしら?」
「何でしょうカ?」
「証拠隠滅用の装置を稼働させたりしたことが分かったのはすごいのですけれども‥‥‥その装置ってどういうものか分かりますの?帝国の場合、機密情報がある施設を廃棄する際には、爆破解体をしますわよ?」
「‥‥‥大体同じ仕様と見て良いでしょうネ。再度センサーで確認…ア」

 なにやらカタカタと再び音を立て、探っていたゼナが物凄い嫌な予感を感じさせる言葉を発した。

「まさかとは思うけど、今かなり不味い状況に?」
「…‥‥ハイ。熱量増加を確認し、計算して‥‥‥およそ、10分後にこの島が吹き飛ぶほどの大爆発が起きますネ」
「つまり?」
「それまでに脱出しないと、完全に巻き込まれマス」

 そんな事実知りたくなかった。

 いや、知らなかったらただのんきに回復を待っているだけで死亡しかねない状態だったので、知ってよかったのかもしれない。

 とにもかくにも、どうやら俺たちに休む時間はそうやすやすと与えられないようであった…‥‥


「ついで言えば、液状生命体の方もこの事実に気が付いたようで、動きが加速してマス。あと3分で再び出て来るでしょウ」
「3時間を3分にどう圧縮して結果出せると!?」


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