162 / 893
日常
第百六十二話 中華料理
しおりを挟む
祝日ともなれば、朝早いショッピングモールも人であふれている。
今日は家でゆっくりするはずだったのだが、どうして俺はここにいるのだ。……まあ、原因は俺にあるのだが。
外出するとしても昼過ぎにスーパーに行くぐらいか、と思っていた俺はいつもの部屋着を着て、昨日の本の続きを読もうとソファに横になっていた。そしたら母さんが俺の部屋着を見て「新しいのを買いに行こう」と言い出したのだ。
せっかくだから外食しようということで、じいちゃんとばあちゃんも一緒にショッピングモールに来たわけだ。
「別に俺はあれでいいのに」
普段は本屋しか行かないショッピングモールだ。洋服などよく分からない。
そうぼやけば母さんは「何言ってるの」と洋服を探しながら言った。
「よれよれだったじゃない」
「誰かに見せるわけでもないし」
「それにしたってあれはどうなの」
確かにひざはちょっと薄くなってるし、糸のほつれもあるけど……十分温かいしなあ。
「放っておいてもご飯は食べるけど、洋服はどうしてこう興味がないの」
「さすがにTPOはわきまえるよ」
今も外出すると聞いてちゃんとした格好をしている――つもりなのだが。
「それも私が選んだんでしょ」
「そりゃそうだけど」
父さんはのんびりと、俺と母さんのあとをついてきている。じいちゃんとばあちゃんは二人で目当ての店に行っていた。
「同じようなのでいいよ」
「そのまま外に出てもおかしくないようなのがいいでしょ。そっちの方が楽よ」
それは確かに一理ある。
「さっき家で着てたのはせめてパジャマにしなさい」
結局今回も母さんに選んでもらった。
シンプルな紺のトレーナーと黒のスラックス。確かに楽そうだけど、外に着ていってもおかしくはなさそうだ。
「ありがとう」
「今度はボロボロになる前に言いなさい」
「はい」
袋を下げて一階に降り、じいちゃんとばあちゃんと合流する。
「何買ったの」
「マグカップ。取っ手が折れて、買い替えようと思ってたの」
一階にはお歳暮特集や地方のフェアが行われる催事のコーナーがあって、今は陶磁器フェアの横断幕が掲げられていた。
ずらっと陶磁器の皿やコップ、置物なんかが売られている。
なるほどここは俺が近づいてはいけない場所だな。絶対何か割る。
「じゃ、そろそろご飯食べに行く?」
母さんの提案に揃って賛成する。
立体駐車場に停めていた車に乗り込み、ショッピングモールにやってくる車の渋滞を横目に目的地へと向かう。
昼前とあってか、その店の駐車場に車は少ない。
「お、ここはじめて」
「でしょー? 一回連れてきたかったの」
名前はよく聞くが行ったことのない、中華料理の店だった。中華といっても格式高い店ではなく、雰囲気はファミレスに近い。
中に入って香るのは香辛料のいい匂いだ。
窓際のボックス席に座り、運ばれてきた水をちまちま飲みながらメニューを見る。
餃子、エビチリ、春巻き、から揚げ、棒棒鶏……おお、すごい。どれもうまそうだな。
「どうする? いろいろ頼んでみんなで分ける?」
「そうしようか」
「春都、何食べたい?」
「えー……っと」
母さんに聞かれ考え込む。餃子は絶対だし、から揚げも食いたい。エビチリとか最近食ってないしなあ……チャーシューもうまそう。
「好きなの頼んでいいよ。じいちゃんのおごりだから」
母さんはそう言って笑い、じいちゃんの方を見た。じいちゃんは少し呆れたようにしていたが、楽しそうに笑った。
「またお前は……」
「割り勘にしようか?」
「いや、構わん。好きなのを頼め」
じいちゃんの隣に座るばあちゃんも楽しげだ。
「じゃあ、餃子とチャーシューと、麻婆豆腐とエビチリ。と、ご飯」
それから各々食べたいものを一つ二つ頼んで、あとは食べながら考えることにした。
「春都、たくさん食べるでしょ」
「ん、んー」
ひそかにラーメン類もうまそうだなと思っていたところだった。チャーシュー麺、すげーうまそう。デザートも心惹かれるなあ。
「お待たせしました。お先に餃子です」
ご飯と一緒に運ばれてきたのは焼きたての餃子だ。
「いただきます」
酢……いや、今日はこの店特製のたれにしよう。
甘酸っぱいようなうまみのあるたれ。カリサクッとしっかり焼けた表面、もっちりとしっかり食感のある部分、そして、ジューシーな肉だね。これはおいしい。ひとつひとつが大きめだし、いいな。
「おいしい」
「それはよかった」
それからは次々と料理が運ばれてきた。
麻婆豆腐はうちで作るのより香辛料が効いている。でもくどくなくて、辛いけどうま味がある。豆腐はとろとろだし、ひき肉もしっかり味がある。
チャーシューは思ったよりも柔らかい。しかもこのかかっているタレ、甘くておいしい。添えられた野菜と一緒に食うのが一番おいしいな。
エビチリ、エビがでかい。ピリッとしながら甘みのあるトロトロの味付けがたまらんな。エビの食感も最高だ。
これはご飯が進んでしょうがない。
「春都、こっちも食べる?」
父さんが差し出して来たのはレバニラ炒めだ。
「レバー?」
「おいしいぞ」
レバーはあまり食べ慣れていないが、どうだろう。
あ、これおいしい。しっかり歯ごたえはあるけど、ふわっと溶ける感じ。レバー独特の食感だ。でも臭みがなくて、味付けもおいしい。にらの風味がすごいな。
「春巻きも食べていいよ」
これはまた立派に揚がった春巻きだ。パリッパリの皮は香ばしく、中の具材はトロッと優しい味がする。シイタケ、タケノコ……いろんな具材がたっぷり入った餡は熱々で、うま味にあふれている。
「まだ入りそうねえ」
母さんがそうつぶやいたタイミングでご飯が空になった。
「何か頼んでもいいよ」
「じゃあ……」
チャーシュー麺。なんかどうしても食べたかった。
ただでさえやわらかかったチャーシューだが、スープに浸されてさらに柔らかくとろとろになっている。器一面にチャーシュー、夢のような光景だ。
細麺ではなくいわゆる中華麺だ。歯ごたえがいいし、スープがよく絡む。そして、チャーシューと一緒に食べるのが最高だ。肉のうま味と脂身の甘さ、豚骨スープと麺がいいバランスである。
最後にデザートも頼んでしまった。ゴマ団子。
プチプチと香ばしいゴマともちもちの生地、風味のいいこしあんの甘さが熱い口にやさしくなじむ。
「はー……満足」
「食ったなー」
じいちゃんが「気持ちのいい食べっぷりだった」と笑った。
「うん。おいしかった」
何よりみんなで食べに来るのが久しぶりで、思わず食べてしまった。
また来れるといいなあ。
「ごちそうさまでした」
今日は家でゆっくりするはずだったのだが、どうして俺はここにいるのだ。……まあ、原因は俺にあるのだが。
外出するとしても昼過ぎにスーパーに行くぐらいか、と思っていた俺はいつもの部屋着を着て、昨日の本の続きを読もうとソファに横になっていた。そしたら母さんが俺の部屋着を見て「新しいのを買いに行こう」と言い出したのだ。
せっかくだから外食しようということで、じいちゃんとばあちゃんも一緒にショッピングモールに来たわけだ。
「別に俺はあれでいいのに」
普段は本屋しか行かないショッピングモールだ。洋服などよく分からない。
そうぼやけば母さんは「何言ってるの」と洋服を探しながら言った。
「よれよれだったじゃない」
「誰かに見せるわけでもないし」
「それにしたってあれはどうなの」
確かにひざはちょっと薄くなってるし、糸のほつれもあるけど……十分温かいしなあ。
「放っておいてもご飯は食べるけど、洋服はどうしてこう興味がないの」
「さすがにTPOはわきまえるよ」
今も外出すると聞いてちゃんとした格好をしている――つもりなのだが。
「それも私が選んだんでしょ」
「そりゃそうだけど」
父さんはのんびりと、俺と母さんのあとをついてきている。じいちゃんとばあちゃんは二人で目当ての店に行っていた。
「同じようなのでいいよ」
「そのまま外に出てもおかしくないようなのがいいでしょ。そっちの方が楽よ」
それは確かに一理ある。
「さっき家で着てたのはせめてパジャマにしなさい」
結局今回も母さんに選んでもらった。
シンプルな紺のトレーナーと黒のスラックス。確かに楽そうだけど、外に着ていってもおかしくはなさそうだ。
「ありがとう」
「今度はボロボロになる前に言いなさい」
「はい」
袋を下げて一階に降り、じいちゃんとばあちゃんと合流する。
「何買ったの」
「マグカップ。取っ手が折れて、買い替えようと思ってたの」
一階にはお歳暮特集や地方のフェアが行われる催事のコーナーがあって、今は陶磁器フェアの横断幕が掲げられていた。
ずらっと陶磁器の皿やコップ、置物なんかが売られている。
なるほどここは俺が近づいてはいけない場所だな。絶対何か割る。
「じゃ、そろそろご飯食べに行く?」
母さんの提案に揃って賛成する。
立体駐車場に停めていた車に乗り込み、ショッピングモールにやってくる車の渋滞を横目に目的地へと向かう。
昼前とあってか、その店の駐車場に車は少ない。
「お、ここはじめて」
「でしょー? 一回連れてきたかったの」
名前はよく聞くが行ったことのない、中華料理の店だった。中華といっても格式高い店ではなく、雰囲気はファミレスに近い。
中に入って香るのは香辛料のいい匂いだ。
窓際のボックス席に座り、運ばれてきた水をちまちま飲みながらメニューを見る。
餃子、エビチリ、春巻き、から揚げ、棒棒鶏……おお、すごい。どれもうまそうだな。
「どうする? いろいろ頼んでみんなで分ける?」
「そうしようか」
「春都、何食べたい?」
「えー……っと」
母さんに聞かれ考え込む。餃子は絶対だし、から揚げも食いたい。エビチリとか最近食ってないしなあ……チャーシューもうまそう。
「好きなの頼んでいいよ。じいちゃんのおごりだから」
母さんはそう言って笑い、じいちゃんの方を見た。じいちゃんは少し呆れたようにしていたが、楽しそうに笑った。
「またお前は……」
「割り勘にしようか?」
「いや、構わん。好きなのを頼め」
じいちゃんの隣に座るばあちゃんも楽しげだ。
「じゃあ、餃子とチャーシューと、麻婆豆腐とエビチリ。と、ご飯」
それから各々食べたいものを一つ二つ頼んで、あとは食べながら考えることにした。
「春都、たくさん食べるでしょ」
「ん、んー」
ひそかにラーメン類もうまそうだなと思っていたところだった。チャーシュー麺、すげーうまそう。デザートも心惹かれるなあ。
「お待たせしました。お先に餃子です」
ご飯と一緒に運ばれてきたのは焼きたての餃子だ。
「いただきます」
酢……いや、今日はこの店特製のたれにしよう。
甘酸っぱいようなうまみのあるたれ。カリサクッとしっかり焼けた表面、もっちりとしっかり食感のある部分、そして、ジューシーな肉だね。これはおいしい。ひとつひとつが大きめだし、いいな。
「おいしい」
「それはよかった」
それからは次々と料理が運ばれてきた。
麻婆豆腐はうちで作るのより香辛料が効いている。でもくどくなくて、辛いけどうま味がある。豆腐はとろとろだし、ひき肉もしっかり味がある。
チャーシューは思ったよりも柔らかい。しかもこのかかっているタレ、甘くておいしい。添えられた野菜と一緒に食うのが一番おいしいな。
エビチリ、エビがでかい。ピリッとしながら甘みのあるトロトロの味付けがたまらんな。エビの食感も最高だ。
これはご飯が進んでしょうがない。
「春都、こっちも食べる?」
父さんが差し出して来たのはレバニラ炒めだ。
「レバー?」
「おいしいぞ」
レバーはあまり食べ慣れていないが、どうだろう。
あ、これおいしい。しっかり歯ごたえはあるけど、ふわっと溶ける感じ。レバー独特の食感だ。でも臭みがなくて、味付けもおいしい。にらの風味がすごいな。
「春巻きも食べていいよ」
これはまた立派に揚がった春巻きだ。パリッパリの皮は香ばしく、中の具材はトロッと優しい味がする。シイタケ、タケノコ……いろんな具材がたっぷり入った餡は熱々で、うま味にあふれている。
「まだ入りそうねえ」
母さんがそうつぶやいたタイミングでご飯が空になった。
「何か頼んでもいいよ」
「じゃあ……」
チャーシュー麺。なんかどうしても食べたかった。
ただでさえやわらかかったチャーシューだが、スープに浸されてさらに柔らかくとろとろになっている。器一面にチャーシュー、夢のような光景だ。
細麺ではなくいわゆる中華麺だ。歯ごたえがいいし、スープがよく絡む。そして、チャーシューと一緒に食べるのが最高だ。肉のうま味と脂身の甘さ、豚骨スープと麺がいいバランスである。
最後にデザートも頼んでしまった。ゴマ団子。
プチプチと香ばしいゴマともちもちの生地、風味のいいこしあんの甘さが熱い口にやさしくなじむ。
「はー……満足」
「食ったなー」
じいちゃんが「気持ちのいい食べっぷりだった」と笑った。
「うん。おいしかった」
何よりみんなで食べに来るのが久しぶりで、思わず食べてしまった。
また来れるといいなあ。
「ごちそうさまでした」
14
あなたにおすすめの小説
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる