376 / 893
日常
番外編 嶋田観月のつまみ食い②
しおりを挟む
部活もなければ予定もない、そんな休みも当然ある。明日がそうだ。
そういう日は決まって、どう過ごせばいいのか悩むことになる。時間をつぶすのが下手なのかなあ、僕。
いつも通りの時間に起きて、朝食を済ませ、部屋に戻る。そして、過ごし方に悩んでいるうちに、一日が終わるんだ。
「することないよなあ……」
課題も終わってるし、好きに時間を使っていいはずなのに、どうもこう、なにも思いつかない。忙しくしてる時の方が、やりたいことがたくさんあるように思う。
「お出かけ日和なんだよなあ、明日」
夜、自室でぼんやりと明日の天気予報を思い出す。まだ寝る時間ではないが、布団に寝転がった。
行きたいところも特にないので、まあ、散歩でもしようかな。せっかくだし。で、その後どうしよう。
そう思って寝返りを打った時、スマホが鳴った。春都だ。
「もしもし、春都」
『ああ、観月。今大丈夫か?』
「全然問題ないよ。どうしたの?」
電話の向こうの春都は、少し困っている様子だった。
『実はさ、博物館の招待券をもらったんだ。親が。でも二人とも行く暇ないし、じいちゃんもばあちゃんもお店空けらんないからって、俺に回って来てさ』
「うんうん」
『招待券、二枚なんだよ。で、展示期間がもうすぐ終わるし、行くとしたら明日ぐらいしかなくて。せっかくだし、見に行きたいと思ってんだけど、よかったら一緒にどうだ?』
おや、これは珍しい。春都から誘ってくるとは。
これは行かずにはいられまい。展示内容もなんか面白そうだったし。
「いいよいいよ~、大歓迎」
『そうか、よかった。それじゃあ時間なんだが……』
開館と同時に行った方が人が少ないらしい。確かに、展示は落ち着いて見たいものである。
途端に明日が楽しみになってきたなあ。いろいろ準備しようっと。
待ち合わせ場所であるバス停に行けば、春都はもう来ていた。
「おはよー春都。今日は招待どうも~」
大きなロゴが入った白シャツにシンプルな黒のパーカー、カーキのカーゴパンツという私服姿の春都は、こちらを見て少し笑って手を振った。ショルダーバッグには必要最低限の荷物しか入れてないらしい。
「おはよう。急に悪いな」
「全然。むしろ良かったよ。暇だったし」
「そうか?」
バスは案外空いていた。
「この手の展示を一緒に楽しめそうなの、観月ぐらいしかいなくてな」
春都は背もたれに身を預けながら言った。
確かに。春都の交友関係をぼんやりと辿ってみるが、この手の展示をおもしろいと思うような人はいなさそうだ。
「ゲームでさ、こういうのモチーフにしてるのもあるから、結構楽しみだよ」
「そうそう。なんかコラボ企画もあるみたいで……」
博物館まではそこそこ距離があったけど、話していたらあっという間だった。
久々に春都とレールバスで会ったとき、春都が向かっていた博物館とはまた違う場所だ。建物は新しくて、きらきらしている。動く歩道もあるらしい。近くには天満宮もあるから、周辺にはお店も充実していた。
「わ、このチケット、普通に買うなら結構な値段するんだね」
「本当だ。すごいな」
人が少ない博物館は、なんだかワクワクする。このまま貸し切り状態で楽しめたらいいのになあ、なんて。
「……展示場所はどっちだ?」
「こっち。ほら、パネル出てる」
「ああ、そっちか」
特別展示の場所には、コラボしているゲームのキャラクターのパネルも展示されていた。
「写真撮ろ! 写真!」
「そうだな」
なんでも、中の展示も一部は撮影していいらしい。なんて素敵な。
なんかもう入る前からワクワクしてる。実物見たらどうなっちゃうんだ。
「すごかったなあ」
昼食後、天満宮の参道を歩いていたら、春都がしみじみとつぶやいた。
「ね、すごかったね」
薄暗い展示室の中で見た展示物はもう、なんか、すごかった。昼ご飯の時にさんざん話したはずなのに、最終的に「すごかった」にしか着地しないんだ。
「さて、これからどうしようか」
春都はスマホで時間を確認する。
「帰ってもいいけど……」
「もうちょっと楽しみたいよね」
せっかくここまで来たんだし。
「俺、あれ食べたい。餅」
春都が言う餅とは、この辺の名物だ。いろんな店が出していて、店ごとに味が結構違う。
「いいね、そうしよう」
カフェに入るのもいいけど、食べ歩きや店先で食べるのもいい。
それぞれ好きな店が違ったので、各々で買って、食べ歩きすることにした。
「いただきます」
サクッとした表面に、とろりと溶けるような餅の食感。あんこは結構甘くて、粒々食感がたまらない。
「その店のあんこって、結構甘いだろ?」
「うん。好きなんだー、この甘さ」
「そうか。今度はそっちも食べてみたいな」
と、春都は言って、自分の餅を一口食べた。なんかそっちもうまそうに見えてくる。
「せんべい屋さんもあるよね」
「買うか」
「あはは。言うと思った」
まさか、退屈になんとなく過ごすはずだった休日が、こうも楽しくなるとはなあ。
ぼんやり過ごすのもいいけど、こうやって充実した休日が過ごせるのは、とてもいい気分だな。
さて、せんべい屋に入る前に餅を食べ終わっておかないと。
なんて、もうあと一口なんだけどね。
「ごちそうさまでした」
そういう日は決まって、どう過ごせばいいのか悩むことになる。時間をつぶすのが下手なのかなあ、僕。
いつも通りの時間に起きて、朝食を済ませ、部屋に戻る。そして、過ごし方に悩んでいるうちに、一日が終わるんだ。
「することないよなあ……」
課題も終わってるし、好きに時間を使っていいはずなのに、どうもこう、なにも思いつかない。忙しくしてる時の方が、やりたいことがたくさんあるように思う。
「お出かけ日和なんだよなあ、明日」
夜、自室でぼんやりと明日の天気予報を思い出す。まだ寝る時間ではないが、布団に寝転がった。
行きたいところも特にないので、まあ、散歩でもしようかな。せっかくだし。で、その後どうしよう。
そう思って寝返りを打った時、スマホが鳴った。春都だ。
「もしもし、春都」
『ああ、観月。今大丈夫か?』
「全然問題ないよ。どうしたの?」
電話の向こうの春都は、少し困っている様子だった。
『実はさ、博物館の招待券をもらったんだ。親が。でも二人とも行く暇ないし、じいちゃんもばあちゃんもお店空けらんないからって、俺に回って来てさ』
「うんうん」
『招待券、二枚なんだよ。で、展示期間がもうすぐ終わるし、行くとしたら明日ぐらいしかなくて。せっかくだし、見に行きたいと思ってんだけど、よかったら一緒にどうだ?』
おや、これは珍しい。春都から誘ってくるとは。
これは行かずにはいられまい。展示内容もなんか面白そうだったし。
「いいよいいよ~、大歓迎」
『そうか、よかった。それじゃあ時間なんだが……』
開館と同時に行った方が人が少ないらしい。確かに、展示は落ち着いて見たいものである。
途端に明日が楽しみになってきたなあ。いろいろ準備しようっと。
待ち合わせ場所であるバス停に行けば、春都はもう来ていた。
「おはよー春都。今日は招待どうも~」
大きなロゴが入った白シャツにシンプルな黒のパーカー、カーキのカーゴパンツという私服姿の春都は、こちらを見て少し笑って手を振った。ショルダーバッグには必要最低限の荷物しか入れてないらしい。
「おはよう。急に悪いな」
「全然。むしろ良かったよ。暇だったし」
「そうか?」
バスは案外空いていた。
「この手の展示を一緒に楽しめそうなの、観月ぐらいしかいなくてな」
春都は背もたれに身を預けながら言った。
確かに。春都の交友関係をぼんやりと辿ってみるが、この手の展示をおもしろいと思うような人はいなさそうだ。
「ゲームでさ、こういうのモチーフにしてるのもあるから、結構楽しみだよ」
「そうそう。なんかコラボ企画もあるみたいで……」
博物館まではそこそこ距離があったけど、話していたらあっという間だった。
久々に春都とレールバスで会ったとき、春都が向かっていた博物館とはまた違う場所だ。建物は新しくて、きらきらしている。動く歩道もあるらしい。近くには天満宮もあるから、周辺にはお店も充実していた。
「わ、このチケット、普通に買うなら結構な値段するんだね」
「本当だ。すごいな」
人が少ない博物館は、なんだかワクワクする。このまま貸し切り状態で楽しめたらいいのになあ、なんて。
「……展示場所はどっちだ?」
「こっち。ほら、パネル出てる」
「ああ、そっちか」
特別展示の場所には、コラボしているゲームのキャラクターのパネルも展示されていた。
「写真撮ろ! 写真!」
「そうだな」
なんでも、中の展示も一部は撮影していいらしい。なんて素敵な。
なんかもう入る前からワクワクしてる。実物見たらどうなっちゃうんだ。
「すごかったなあ」
昼食後、天満宮の参道を歩いていたら、春都がしみじみとつぶやいた。
「ね、すごかったね」
薄暗い展示室の中で見た展示物はもう、なんか、すごかった。昼ご飯の時にさんざん話したはずなのに、最終的に「すごかった」にしか着地しないんだ。
「さて、これからどうしようか」
春都はスマホで時間を確認する。
「帰ってもいいけど……」
「もうちょっと楽しみたいよね」
せっかくここまで来たんだし。
「俺、あれ食べたい。餅」
春都が言う餅とは、この辺の名物だ。いろんな店が出していて、店ごとに味が結構違う。
「いいね、そうしよう」
カフェに入るのもいいけど、食べ歩きや店先で食べるのもいい。
それぞれ好きな店が違ったので、各々で買って、食べ歩きすることにした。
「いただきます」
サクッとした表面に、とろりと溶けるような餅の食感。あんこは結構甘くて、粒々食感がたまらない。
「その店のあんこって、結構甘いだろ?」
「うん。好きなんだー、この甘さ」
「そうか。今度はそっちも食べてみたいな」
と、春都は言って、自分の餅を一口食べた。なんかそっちもうまそうに見えてくる。
「せんべい屋さんもあるよね」
「買うか」
「あはは。言うと思った」
まさか、退屈になんとなく過ごすはずだった休日が、こうも楽しくなるとはなあ。
ぼんやり過ごすのもいいけど、こうやって充実した休日が過ごせるのは、とてもいい気分だな。
さて、せんべい屋に入る前に餅を食べ終わっておかないと。
なんて、もうあと一口なんだけどね。
「ごちそうさまでした」
23
あなたにおすすめの小説
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる