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第16章 迷走の果てのため息

No,183 不真面目な電車の話②

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「それにしてもヒデちゃんの勇気は凄いよ。普通、大人に痴漢されたら高校生なんて怖がるのが当たり前なのに、逆にナンパしちゃうんだから大したもんだ」

 みんな同時に
「うんうん!確かに……」

 俺は話の矛先ほこさきを変えた。
「痴漢って言えば、山○線の第○車両とか、総○線の第○車両とかに多く集まるって聞くけど、あれ本当?」
 もちろんゲイの世界の痴漢の噂だ。つまり逆に言うと、それらの車両は女性にとっては大変安全だとも言える……のか?

 ケンちゃん応答。
「ああ、それは昔から有名な話だけど、痴漢って言うよりはハッテン場ってニュアンスなのかも?」

「ええっ?!」
 その言葉におののいた。
「ハッテン場?それ、公共の乗り物の中で危ないよね?間違ってノンケに手を出したりしたら、本当に痴漢になっちゃうよね?!」
(ハッテン=ゲイの世界で言うナンパ行為のようなもの)

 ヒデちゃん待ってましたと
「そうなんだよ!彼は痴漢してきたんじゃないんだよ!僕にハッテン仕掛けて来たんだよ!」

 ナッキー目を丸くして
「だって、追っ掛けて振られたのはヒデちゃんの方だろ?そいつは単なる高校生ショタの変態痴漢だから」
 って一刀両断。

「あ……はい……」
 ヒデちゃんしょぼん。

 俺は以前から感じていた事を口にした。
「なんかさ~、電車に乗ってるとやたらといい男が目に付かない?あ、あの人タイプ!なんて思って目で追っていても、電車から降りると普通の人になっちゃうのは何でだろう?」

 みんな同時に
「あ、それ分かる~!」

「それって、もしかすると何か心理学的な理由があるのかもね?ほら、夏の海や冬の山で知り合った人と街で会ったら、あれ?こんなだっけ?ってな話に似てない?」
 ってナッキーは言うけど、だれもそれにこたえられる博識はいない。

 ヒデちゃんが言うには
「確かに、座席に腰掛けていると何となく対面といめんの乗客を端から端まで見渡してしまうけど、あれって結局、タイプの男さがしだよね」

 みんな同時に
「うんうん」とうなずく。
 結論=全員すけべ。

 アッ君ぼそっと
「オレなんてズバリ、出来るか出来ないか?って基準で男を見ちゃうもんな」
(出来る出来ないとは、ずばりSEXの対象になるか?ならないか?と言うこと)

 そんなアッ君の発言にケンちゃんクスッと笑う。
「アッ君らしいね。で、やり手のアッ君としてはイケてる男がいたら粉かけちゃうの?」
「まさかまさか!脳内妄想だよ。いくらいい男がいたとしても電車の中じゃ粉まで掛けない。相手がゲイかどうかも分からないしね」
 案外慎重意見なアッ君だった。

「粉を掛けるって、なに?」
 ヒデちゃんの問いにアッ君が応答。

「昔から言う表現でね、そうだな、タイプな相手に自分をアピールしたり、自分の事どう思っているのか反応を見たり、まあ、気を引いたりとかね。男同士の場合だと、まず相手がゲイかどうか探ったりとか」
「え~っ、そんな難しいテクニック、僕には無理だよ~」
 ヒデちゃん驚愕。

 アッ君も同意。
「確かにね~、互いがゲイだって確定している二丁目の中ならとにかく、電車の中じゃ、ちょ~っと無理だね」

 そこにナッキーが爆弾発言。
「そう言えば理久、電車の中で粉かけるの上手だよね。名人級だと思う。今まで何人引っ掛けた?
てか、オレなんかと一緒にいても平気で粉かけ回るからちょっと迷惑。いつの間にか連れが一人増えてたりして」
 ゲゲッ!ナッキー何を言い出す!

「そう言えば理久、電車で目が合っちゃった~とか言って、この店にも何人か連れて来たね」
 ケンちゃんまで何を?!

 俺は思わず躍起となった。
「違うよ!粉なんか掛けてない!」
 俺は続ける。
「あのね、それは向こうがこっちをじ~っと見るから、あれ?俺のこと好きなのかな~?って、そう思って目を合わせると顔を赤らめてうつむいたりするから、なるほどね、やっぱりそうなのかと、そう思いながらもまだ確信が無いから、だからわざわざそいつの近く
まで行って何となく電車の揺れにまかせて軽くぶっかってみたり?
向こうが座っているなら、わざとその正面に立って目の前で股間を強調して見せたりするわけ。そうするとさ、かなりの率でまた目が合ったりするからね、ちょこっと小首をかしげて見せたりとか?
笑って見せたりとか?
そうしたら俺が降りた駅で一緒に降りて追っ掛けて来るから、ああやっぱりねって、ただそれだけ」

 みんな同時に
「それが粉かけ!!!」


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