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14 傷の手当
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人の価値は生まれで決まるんだ。ちゃんとお金もちの夫婦の元に生まれていたら食べ物に困ってパンを盗むことも、奴隷商に売り飛ばされて死にかけることもないんだから。
不運な奴隷のくせに、親がいないくせに、幸せになりたいって思ってしまう。
痛いことはしないでほしい。誰かに愛されたい。
本当は…。ヴィルの手を取りたかった…。
怒鳴り声を聞き流しながらそんなことを考えた。
噴水の広場で待っていればいつか会えるかもなんて適当な嘘を真に受けて毎晩通うところ。
優しくて純粋なところ。
俺のことを対等に扱ってくれて見下さないところ。
笑顔が素敵なところ。
すぐ赤くなるところ。
俺のことを好きだと言ってくれたところ。
本当はヴィルに会いたい。
また優しく抱きしめて大丈夫だよって言ってほしい。
『ライア』
『ライア』
会いたいな…。
酒瓶で頭を殴られたからくらくらする。
床にはガラスの破片が散らばってて、それが足に刺さって痛い。
左腕を思いっきり蹴られてから痛くて動かない。
怖い。逃げるのが怖い。逃げたらもっとひどいことをされるかもしれない。
でも…。
彼に会いに行かないといけないと思った。また声が聞きたい。
だから、勇気を振り絞って立ち上がりドアまで走った。
「おいてめぇ…どこに行く!」
もしかしたらまた待っててくれる…?
あんなひどいこと言ったあとで都合がいいのはわかってるんだけど…。
ドアを開けると外は大雨だった。空は真っ黒で雷がなっている。
でも躊躇っていられない。俺は傘を刺さずに大雨の中を走り出した。
自分がどの方向に向かっているのかもわからない。ただがむしゃらに走る。
足が痛い。手が痛い。頭が痛い。冷たい。寒い。雷がうるさい。
「はぁ…はあ、はあ、はあ、」
その時、空が割れるような大きな音がして俺は石につまずき派手に転んだ。
「いってぇ…」
早く立ち上がらないと。グレイさんが追いかけてくるかもしれない。
すると、気づいたら目の前には大きな噴水があった。
なるほど、無意識だったけどいつもの癖でここに来てしまったんだ。
足から流れた血が水たまりに滲んだ。
このままずっと外にいたら凍えて死ぬかもしれない。
ザーザーとシャワーのような冷たい雨が石畳に跳ねる。
自分の呼吸の音が大きく聞こえる。
はぁ…はあ、はあ。
一人じゃ、何もできない。ヴィル…。
「ヴィル」
その時ふと雨がやんだ。
雨音は聞こえるのになんで…?
俺は振り返る。するととそこには…。
そこには彼がいた。
金髪の長身の男が傘をこちらに傾けていた。
彼は大きく目を見開く。
「ライア…?」
「ヴィ…わっ」
そして濡れるのも厭わずに俺に抱きついた。
「ライア…ライア」
「なんで…なんでヴィルがここに…」
「ここで待っていれば会えるかもって思った」
その言葉に心がぐらりと揺れた。どうして彼はいつも俺がいてほしいときにいてくれるのだろうか。
「とりあえず、話は後だ。そのひどい怪我をどうにかしよう」
そういって彼は俺を横抱きにして、いつものホテルへと向かった。
俺の冷え切った体とは反対に彼の体はとても温かかった。
「えっと…どうする?まずは傷の手当?それとも体を温める?」
明るいところで見るとかなりボロボロだったらしくヴィルはあたふたとしていた。
「ごめん…先にお風呂はいるね。傷もついでに洗い直してくるよ」
「あ…うん…手伝おうか?」
「へーき。全然痛くないからさ!」
どうしよう。会いたいと思っていたけど、実際あったら緊張してきた…。
なんでまだ俺のこと待っててくれたんだろう?
なんて謝ろう。というかこの傷はどう説明しよう…。
色々考えることが多くて頭がパンクしそうだ。まぁいい。とりあえず傷をどうにかしよう。
脱衣所の鏡で見てみると腕は真っ青になっていた。うまく力が入らないし曲げられない。
膝は擦りむいててガラスの破片が刺さっている。後頭部は出血しているみたいだ。
今更だけど体中古傷だらけだ。
これ、ヴィルに見られたくないな…。
「はぁ…」
不運な奴隷のくせに、親がいないくせに、幸せになりたいって思ってしまう。
痛いことはしないでほしい。誰かに愛されたい。
本当は…。ヴィルの手を取りたかった…。
怒鳴り声を聞き流しながらそんなことを考えた。
噴水の広場で待っていればいつか会えるかもなんて適当な嘘を真に受けて毎晩通うところ。
優しくて純粋なところ。
俺のことを対等に扱ってくれて見下さないところ。
笑顔が素敵なところ。
すぐ赤くなるところ。
俺のことを好きだと言ってくれたところ。
本当はヴィルに会いたい。
また優しく抱きしめて大丈夫だよって言ってほしい。
『ライア』
『ライア』
会いたいな…。
酒瓶で頭を殴られたからくらくらする。
床にはガラスの破片が散らばってて、それが足に刺さって痛い。
左腕を思いっきり蹴られてから痛くて動かない。
怖い。逃げるのが怖い。逃げたらもっとひどいことをされるかもしれない。
でも…。
彼に会いに行かないといけないと思った。また声が聞きたい。
だから、勇気を振り絞って立ち上がりドアまで走った。
「おいてめぇ…どこに行く!」
もしかしたらまた待っててくれる…?
あんなひどいこと言ったあとで都合がいいのはわかってるんだけど…。
ドアを開けると外は大雨だった。空は真っ黒で雷がなっている。
でも躊躇っていられない。俺は傘を刺さずに大雨の中を走り出した。
自分がどの方向に向かっているのかもわからない。ただがむしゃらに走る。
足が痛い。手が痛い。頭が痛い。冷たい。寒い。雷がうるさい。
「はぁ…はあ、はあ、はあ、」
その時、空が割れるような大きな音がして俺は石につまずき派手に転んだ。
「いってぇ…」
早く立ち上がらないと。グレイさんが追いかけてくるかもしれない。
すると、気づいたら目の前には大きな噴水があった。
なるほど、無意識だったけどいつもの癖でここに来てしまったんだ。
足から流れた血が水たまりに滲んだ。
このままずっと外にいたら凍えて死ぬかもしれない。
ザーザーとシャワーのような冷たい雨が石畳に跳ねる。
自分の呼吸の音が大きく聞こえる。
はぁ…はあ、はあ。
一人じゃ、何もできない。ヴィル…。
「ヴィル」
その時ふと雨がやんだ。
雨音は聞こえるのになんで…?
俺は振り返る。するととそこには…。
そこには彼がいた。
金髪の長身の男が傘をこちらに傾けていた。
彼は大きく目を見開く。
「ライア…?」
「ヴィ…わっ」
そして濡れるのも厭わずに俺に抱きついた。
「ライア…ライア」
「なんで…なんでヴィルがここに…」
「ここで待っていれば会えるかもって思った」
その言葉に心がぐらりと揺れた。どうして彼はいつも俺がいてほしいときにいてくれるのだろうか。
「とりあえず、話は後だ。そのひどい怪我をどうにかしよう」
そういって彼は俺を横抱きにして、いつものホテルへと向かった。
俺の冷え切った体とは反対に彼の体はとても温かかった。
「えっと…どうする?まずは傷の手当?それとも体を温める?」
明るいところで見るとかなりボロボロだったらしくヴィルはあたふたとしていた。
「ごめん…先にお風呂はいるね。傷もついでに洗い直してくるよ」
「あ…うん…手伝おうか?」
「へーき。全然痛くないからさ!」
どうしよう。会いたいと思っていたけど、実際あったら緊張してきた…。
なんでまだ俺のこと待っててくれたんだろう?
なんて謝ろう。というかこの傷はどう説明しよう…。
色々考えることが多くて頭がパンクしそうだ。まぁいい。とりあえず傷をどうにかしよう。
脱衣所の鏡で見てみると腕は真っ青になっていた。うまく力が入らないし曲げられない。
膝は擦りむいててガラスの破片が刺さっている。後頭部は出血しているみたいだ。
今更だけど体中古傷だらけだ。
これ、ヴィルに見られたくないな…。
「はぁ…」
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