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33話
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ルーファンに導かれる様に向かった私室には、朝食の準備が整っていた。
湯気が立っているポタージュスープにふわふわのオムレツ。
そして焼き立てのパンの芳ばしい匂いに、私は目覚めて朝食も取らずにペンダントの捜索に庭園に行った事を思い出した。
ぐうう、と自然とお腹が鳴る。
恥ずかしげも無く鳴るお腹に、今日、何度も真っ赤に染めた顔が更に赤くなる。
ルーファンに聴こえたのだろうか?
これだけ大きい音だからきっと……。
わ、私は今日、何度となく味わう羞恥心に心臓がバクバクと音を立たせていた。
(は、恥ずかしいよ、紗雪。
え、エレーヌがまるで食べ物に卑しい下品な女と思われたら……。
お、お父様、お母様御免なさい。
グーベルト家を辱めて。
お腹の音を抑える術を持たない私を許して……)
心の中で謝罪する私の顔が蒼白だったのだろう。
チラリと私を見て、ルーファンが苦笑を漏らす。
意地悪ではない、自然な微笑み。
超絶美形の飾り気の無い微笑みの破壊力に私は呆然となってしまう。
(ル、ルーファンの屈託の無い微笑みなんて……。
ゲームをプレイしていた時のスチルにもなかった。
ああ、なんて言うプレミア……)
思わず嘆息を洩らしてしまう。
だって「貴方に心ときめいて」のプレイヤーなら、ううん、ルーファンのファンにとっては垂涎モノ。
既にプレミアを超えているわ。
感情を露わにして苦笑するルーファン。
それにサラサラロングヘアーのルーファンでは無く、耳下で綺麗に切り込んでいるルーファンなんて。
短髪のルーファンて絶対に有り得ない。
製作者と絵師さんが描く、美麗かつ優雅で華麗なルーファンには、流れる様に美しい長髪が似合っている。
女性よりも麗しい、ルーファン。
リリアンヌも、マリーベルも霞んでしまう程の美形度。
傾国の美女と言われてもおかしく無い。
(女性をも凌駕する美貌の持ち主のルーファンなのに、私を軽々と抱き上げた。
抱き締められた腕の強さも逞しい胸も男性のそれで。
ここでのルーファンは正真正銘の男性で……)
ふと、頭に過ぎる一部のファンによるルーファンをヒロインとして捉えての……。
い、いや、止めよう紗雪。
私にはハードルの高い世界。
……。
(や、やだな紗雪。
さっきからずっとルーファンの事ばかり考えている。
こんなのおかしい。
だ、だって、昨日初めて会ったのよ。
それによく考えて、紗雪。
今は私は、エレーヌ・グーベルト伯爵令嬢なのよ。
妙齢の女性が第二王子の私室に案内されて食事を勧められている。
これは由々しき問題では無いの?
ルーファンに促されて私室に居るけど)
今、控えの侍女も侍従もこの部屋には存在しない……。
何かが起きても言い逃れが出来ない。
もし、昨日の様にルーファンに強引に唇を奪われても、ここでの出来事は誰にも証明できない。
最悪、純潔を奪われても……。
思い浮かんだ言葉に背中に冷たい汗が流れる。
妄想が逞しいとか、飛躍し過ぎるとか自分で突っ込んでいても、心の中で渇いた笑いしか出ない。
それに誰が第二王子に異議を申し立てる貴族が存在するの?
ここでの出来事で喩えルーファンに非があったとしても、それが正論であるとは絶対に言い難い。
だってルーファンの私室に疑問を投じる事なく付いていくエレーヌにも、当然、非があるのだから。
「どうした?
何か苦手なものがあるのか?」
中々食事に手を付けない私を案ずるルーファンの言葉にはっとする。
カタカタと指先が震えて掴む力が入らない。
カタンと、スプーンの音が立つ。
極度の緊張と不安が入り混じり上手くスプーンを使う事が出来ない。
そんな私をじっと見詰めるルーファンが怖い。
何か、咎める様で。
「……、何もしないから安心して食事をしてくれ。
お前の好きな桃のコンポートも食後のデザートととして用意している。
バニラアイス添え、好きだったろう」
「え……」
「エレーヌ」
(確かに紗雪の時の私は桃のコンポートが大好きで。
それもバニラアイス添えが。
当然、エレーヌも味覚も、食の好みも一緒だから、この世界でも桃のコンポートのバニラアイス添えはお気に入り。
だけど、それはグーベルト家では知れ渡っているけど、王宮では誰も知らない。
ラルフにも、当然、王妃であるリリアンヌにも言ってはいない)
ルーファンは何処からその情報を手に入れたの?
マリーナ達に密かに聞いたとしても、何かおかしい。
(ルーファンってもしかして……)
私の事を、生前の紗雪の事を知っている……。
(ま、まさかね?)
一瞬、浮かんだ言葉と、昨日、微かに聴こえた言葉が重なっていく。
ぽとり、と心の中に漣が広がっていく。
ルーファンがもしかしたら転生者であるかも知れない。
それも私、久保紗雪の事を知っている人物。
(貴方は一体、誰なの……)
ゆったりと優雅にティーカップに口を運ぶルーファンを見詰めながら、私は自分の心の中に投じた言葉を反芻していた。
湯気が立っているポタージュスープにふわふわのオムレツ。
そして焼き立てのパンの芳ばしい匂いに、私は目覚めて朝食も取らずにペンダントの捜索に庭園に行った事を思い出した。
ぐうう、と自然とお腹が鳴る。
恥ずかしげも無く鳴るお腹に、今日、何度も真っ赤に染めた顔が更に赤くなる。
ルーファンに聴こえたのだろうか?
これだけ大きい音だからきっと……。
わ、私は今日、何度となく味わう羞恥心に心臓がバクバクと音を立たせていた。
(は、恥ずかしいよ、紗雪。
え、エレーヌがまるで食べ物に卑しい下品な女と思われたら……。
お、お父様、お母様御免なさい。
グーベルト家を辱めて。
お腹の音を抑える術を持たない私を許して……)
心の中で謝罪する私の顔が蒼白だったのだろう。
チラリと私を見て、ルーファンが苦笑を漏らす。
意地悪ではない、自然な微笑み。
超絶美形の飾り気の無い微笑みの破壊力に私は呆然となってしまう。
(ル、ルーファンの屈託の無い微笑みなんて……。
ゲームをプレイしていた時のスチルにもなかった。
ああ、なんて言うプレミア……)
思わず嘆息を洩らしてしまう。
だって「貴方に心ときめいて」のプレイヤーなら、ううん、ルーファンのファンにとっては垂涎モノ。
既にプレミアを超えているわ。
感情を露わにして苦笑するルーファン。
それにサラサラロングヘアーのルーファンでは無く、耳下で綺麗に切り込んでいるルーファンなんて。
短髪のルーファンて絶対に有り得ない。
製作者と絵師さんが描く、美麗かつ優雅で華麗なルーファンには、流れる様に美しい長髪が似合っている。
女性よりも麗しい、ルーファン。
リリアンヌも、マリーベルも霞んでしまう程の美形度。
傾国の美女と言われてもおかしく無い。
(女性をも凌駕する美貌の持ち主のルーファンなのに、私を軽々と抱き上げた。
抱き締められた腕の強さも逞しい胸も男性のそれで。
ここでのルーファンは正真正銘の男性で……)
ふと、頭に過ぎる一部のファンによるルーファンをヒロインとして捉えての……。
い、いや、止めよう紗雪。
私にはハードルの高い世界。
……。
(や、やだな紗雪。
さっきからずっとルーファンの事ばかり考えている。
こんなのおかしい。
だ、だって、昨日初めて会ったのよ。
それによく考えて、紗雪。
今は私は、エレーヌ・グーベルト伯爵令嬢なのよ。
妙齢の女性が第二王子の私室に案内されて食事を勧められている。
これは由々しき問題では無いの?
ルーファンに促されて私室に居るけど)
今、控えの侍女も侍従もこの部屋には存在しない……。
何かが起きても言い逃れが出来ない。
もし、昨日の様にルーファンに強引に唇を奪われても、ここでの出来事は誰にも証明できない。
最悪、純潔を奪われても……。
思い浮かんだ言葉に背中に冷たい汗が流れる。
妄想が逞しいとか、飛躍し過ぎるとか自分で突っ込んでいても、心の中で渇いた笑いしか出ない。
それに誰が第二王子に異議を申し立てる貴族が存在するの?
ここでの出来事で喩えルーファンに非があったとしても、それが正論であるとは絶対に言い難い。
だってルーファンの私室に疑問を投じる事なく付いていくエレーヌにも、当然、非があるのだから。
「どうした?
何か苦手なものがあるのか?」
中々食事に手を付けない私を案ずるルーファンの言葉にはっとする。
カタカタと指先が震えて掴む力が入らない。
カタンと、スプーンの音が立つ。
極度の緊張と不安が入り混じり上手くスプーンを使う事が出来ない。
そんな私をじっと見詰めるルーファンが怖い。
何か、咎める様で。
「……、何もしないから安心して食事をしてくれ。
お前の好きな桃のコンポートも食後のデザートととして用意している。
バニラアイス添え、好きだったろう」
「え……」
「エレーヌ」
(確かに紗雪の時の私は桃のコンポートが大好きで。
それもバニラアイス添えが。
当然、エレーヌも味覚も、食の好みも一緒だから、この世界でも桃のコンポートのバニラアイス添えはお気に入り。
だけど、それはグーベルト家では知れ渡っているけど、王宮では誰も知らない。
ラルフにも、当然、王妃であるリリアンヌにも言ってはいない)
ルーファンは何処からその情報を手に入れたの?
マリーナ達に密かに聞いたとしても、何かおかしい。
(ルーファンってもしかして……)
私の事を、生前の紗雪の事を知っている……。
(ま、まさかね?)
一瞬、浮かんだ言葉と、昨日、微かに聴こえた言葉が重なっていく。
ぽとり、と心の中に漣が広がっていく。
ルーファンがもしかしたら転生者であるかも知れない。
それも私、久保紗雪の事を知っている人物。
(貴方は一体、誰なの……)
ゆったりと優雅にティーカップに口を運ぶルーファンを見詰めながら、私は自分の心の中に投じた言葉を反芻していた。
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