「貴方に心ときめいて」

華南

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34話

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ルーファンとの朝食は緊張の連続だったが、最後のデザートに大好きな桃のコンポートとバニラアイス添えだったので気持ちが一気に緩み、つい笑みが零れていた。

(うーん、美味しい。
ま、満足~)

至福に時、と心の声がだだ漏れだったのか、ルーファンがくすくすと笑っている。
大輪の花が咲き綻んだ様な麗しいルーファンの笑み。

思わず、ぼーと見惚れてしまう。

(本当に綺麗な男性……)

「貴方に心ときめいて」の主要キャラ達は超美形揃いだけどルーファンはその中でも抜きんでいる。
プレイヤーさんの中で誰が一番の美形かと問うても、多分、誰もがルーファンの名を挙げるだろう。
それ程の美麗キャラである。

好みの問題はさて置いて、だけど。

(余りに神々しくて近寄り難いし、本音としては避けたい相手だわ。
美形は遠目で鑑賞するのが一番。
毎日直近で見ていたらコンプレックスに陥ってしまう。
自分よりも綺麗で整っていて、そしてもし恋人となったら……)

それ以上の事を考えて、はたと現実に戻る。
有り得ない展開を抱きつつある自分に心の中で叱咤する。

何、分不相応な事を思うんだろう。
エレーヌが唯のモブキャラである事を忘れ去っている。
いくら今モブからヒロインにチェンジしても、本来のエレーヌは唯のモブキャラであって、主要キャラ達との恋愛では対象外。
だから、もし好きになってしまったら。
シンデレラの様にヒロインと言う魔法が解けて、唯のモブキャラに戻ってしまったら。

絶対に恋愛対象として、ううん、見向きもされない。
生前の久保紗雪の様に、誰にも愛されない……。

(ああ、やだやだ。
ネガティヴになっている。
今はエレーヌなんだから、紗雪の事は過去の事。
引き摺っても何も変わらないでしょう。
今のこの世界で幸せになると決めたのに、何故、後ろ向きになってしまうんだろう)

エレーヌに転生して両親にも兄達にも、そしてグーベルト家に仕えている人々にも愛されて幸せなのに。

なのに紗雪の事を思い出して、時折、翳りを抱いてしまう。

何か大切な事を忘れていると思ってしまって……。

「……」

「え?」

「どうかしたのか?」

思いに耽っている私にルーファンの表情が硬くなっている。
私を心配してそんな表情を?

ま、まさかね。

(ま、全く紗雪ったら。
さっきから自惚れの連続よ。
ルーファンが私の事を気に留めると思うなんて)

でも、そんな勘違いをさせる程、ルーファンは私に対して気遣っている。
朝食だって私の行動を推測して整えていたに相違ない。
だって好きなデザートまで用意して。

この時期に桃のコンポートなんて……。

何処で手に入れたの?と聞いてみたい。
そしてどうして私が好きなのを知っているのも。

(この行動がルーファンが公式とは違う、誰に対しても気遣うキャラなら疑問を持たないんだけど。
さっきの言い振りになんか、俺様な感じととってしまったし。
もしかしてツンデレキャラなら有り得ないと思う……)

「エレーヌ……」

ソファに腰掛けていた私の側に座り、ルーファンが私の顔をの覗き込む。
いつの間にかルーファンが側にいる。
側に体温を感じる。

ルーファンのフレグランスが鼻腔を擽る。
そしてルーファンの美ボイスが鼓膜を奪う……。

そんな感想を抱く私の目の前に、オリバー兄様からプレゼントされたペンダントがある。
ルーファンが差し出している。

留め金が直っている?
まだ昼にはなっていない。
なのに何故。

「誰から貰った……」

「え?」

「……オレ以外の誰から貰った」

「……」

一瞬、ルーファンの言葉に思考がフリーズした。
い、今、なんて言ったの、ルーファン!

オレ以外って、ルーファンとは昨日、初めて逢ったでしょう!
な、何、嫉妬丸出しの言葉を放つの!

(な、何、こ、この展開は!
ル、ルーファンがし、嫉妬しているって、そんなバカな……)

や、やだ紗雪。
頬が熱くなっていくよ。
こんなドキドキ展開ってないでしょう。

だから、ペンダントを拾っても返さなかったの?
留め金が壊れていたのも本当は嘘なの?

私の首元から外したって言うの?
私の勘違いと思いたい。

「これはお前には相応しくない……」

そう言って私の首元に手を回す。
かたり、と音がする。
それ以上に胸の鼓動の方が激しい。

思わず俯いて目を瞑ってしまう。
何をしているの?

「目を開けろ」

ルーファン言葉に従って目を見開く。
胸元に飾られるペンダントが違う。

オリバー兄様のでは、無い。

「ルーファン様……」

「お前にはそれが相応しい」

耳元で囁かれて、私の頸に手を添える。
ルーファンの手の熱さに私の体温が一気に上昇する。

(か、身体が熱い。
ル、ルーファンの手の熱さが伝わって熱い……)

ううん、違う。
ルーファンの手の熱さでは無い。

これはルーファンの行動が、言葉が私を熱くさせる。
くらくらする。

(綺麗なアクアマリンのペンダント。
こんな見事な輝きを放つアクアマリンなんて見た事も無い)

ルーファンの瞳の様に綺麗で見惚れていると、くい、とルーファンに顎を掴まれる。
視線が交わる。

「エレーヌ……」

目が離せない。
綺麗な、綺麗なルーファンの瞳。
魂まで吸い込まれる程の……。

重なっていく。
ルーファンの唇が重なって、そして。

私は自然とルーファンとのキスを受け入れていた。
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