まるでシンデレラの姉の様に

華南

文字の大きさ
上 下
6 / 22

6

しおりを挟む
「一体、貴方は何が言いたいんですか?」

自分の声が怒気を含んでいる事が解る。
義父をこの男は散々馬鹿にした。
何も事情を知らないくせに……。
ううん、違う。
多分、瞳の身辺を調べている内に内情を知った。
そして判断したんだろう。

この男が持つ常識で。

確かに、義父の人の良さは企業家として致命的かも知れない。

でも、私はそんな義父を誰よりも尊敬している。
こんな、ただ家に寄生していた私に多大な愛情を注いでくれた。

私の魂の恩人。

この人との出会いが無ければ、私は人の優しさを知る事が無かったかも知れない。
喩えあったとしても、それは目に見える優しさだけだろう……。

ふと、したことで感じる人の優しさ。
さり気ない心使い、決して人に悟られないように気遣う、思い遣りの心。
そして男が皆、自分が今まで思っていた「ケダモノ」だけではないと言う事も。
異性を想う心を義父は私に教えてくれた。

「……、何も知らない癖に」

「?」

「あんたは何も知らない癖に、何を偉そうにお義父さんの事を非難するの?
私も瞳も決して、今の状況を不幸とは思っていない。
あんたから見ると上等な生活とは思えないでしょう……。

でも私たちには互いに思い遣る気持ちがある。
互いが大切だと、ただ一人の家族だと。
それがどれだけ幸せか、あんたは知らないでしょう。
これはお義父さんが私と瞳に与えてくれた感情。
幸せなのよ!」

「……、へえ、随分と威勢良く幸福論を語るが、現実、これからどうなるか君は解っているのか?」

「何が言いたいの!」

「瞳は君と違って世間を知らない。
今まで父親に保護され苦労を知らずに育った。
君とは生きてきた環境が全く違う。
そんな瞳が君との生活に馴染んでいくと思うのか?
始まったばかりで今はそうは言っているが、保障されない不安定な生活が瞳に陰りを作って行かないとでも思うのか。
世間に塗れて穢されていく義理の妹を君は快く思うのか。
私の元にくれば生活は保障される。
今まで以上に瞳には裕福な生活を与える事が出来る。

瞳が大切にしていたピアノ……。

競売にかけられていたあのピアノは私の家にある。
瞳の為に用意された部屋にピアノは置かれている。
また、瞳に音楽を学ばせることが出来る。
瞳が音楽の道に進みたい事を君は知っているのだろう?

瞳の夢も将来も私達の元にくれば輝かしいものになる。
それを君は君が語る幸福論で潰そうとするのか?
全く愚かとは思わないか。
まだ成人もしていない、半人前、いや半人前とも言えない君の偉そうな御託を、私が納得すると思うのとは。
馬鹿らしくて話にもならない」

くつくつと笑いながら語る言葉に、私は何一つ反論する事が出来なかった。

確かにこの男が言っている言葉は正しい。

瞳がこの男の元に行けば生活は保障される。
だけど、瞳の心はどうなるのだろうか?

勘当された母親の娘で、家の恥さらしとまで言われて、瞳は辛い思いをするのでは。

そんなの、駄目!

瞳の心をこれ以上傷つけては絶対に駄目。
父親を亡くしてそれだけでも辛いのに、その父親が実の父親ではなかった。
母と私達が関わらなければ、決して知る事の無かった事実。

知らずに父と思い、ずっと生きることが出来た……。

そして母が殆どの財産を奪った所為で、今までの様な生活も営む事も出来ない。
家もピアノも、そして大切な思い出までも私達の所為で奪われてしまった。

もう十分、傷ついているのに、これ以上瞳を哀しませたくない!

「あんたが言っている事は正しいかも知れない。
でも、果たして瞳の心があんたたちの元に言って傷つかないと言う保障はあるの?
瞳を本当の家族と思って大切にしてくれるの?

瞳が心からの笑顔をあんた達の元に行って浮かべる事が出来るのなら、私は反対しない。
瞳を説得してでもあんた達の元に行かせる。
でも、瞳を家族とも思わない、ただ、世間体だけで引き取ろうとするのなら、私は絶対に瞳を渡さない!
瞳は私にとってたった一人の義妹だから。
ただ一人の家族だから……」

いつの間にかぼろぼろと泣いている自分がいた。
感情が高ぶって涙が止まらない。

悔し涙だ、これは。
哀しくて泣いているのでは、決して無い。

なのにこんな風に泣いていると、瞳と離れる事に泣いている様に取られてしまう。
義父を失った悲しみをこの男に悟られてしまう。

この男に同情などされたくない。
義父を馬鹿にし、せせら笑うこの男に……。

俯きながら泣く私にどんな目で見つめられていたか、私は知らない。

ただ、この時、確かに私達の中で何かが始まった。

互いの感情が動き始めた瞬間だった……。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:190,416pt お気に入り:12,207

断罪の果てに

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:853pt お気に入り:41

なんで元婚約者が私に執着してくるの?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:5,978pt お気に入り:1,906

愛しているなら何でもできる? どの口が言うのですか

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,161pt お気に入り:3,840

一年後に死ぬ予定の悪役令嬢は、呪われた皇太子と番になる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,732pt お気に入り:935

愛のない婚約かと、ずっと思っていた。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:127pt お気に入り:670

Fate of love 〜運命の恋〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:31

処理中です...