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第二章 戸惑いの異世界
21.リベンジ成功
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昨日と同じように観光案内所の前を通ると、やはり同じようにお客さんの対応をしているマイの姿があった。どうやら忙しいようでこちらには気が付いていない。これなら、また売れなくて落ち込みながら帰ることになっても待ち構えられることは無さそうで少しだけホッとした。
マーケット広場の空き席を確保し辺りを見回したがロミの姿はない。まだ森から帰ってきていないのだろう。昨日とは顔ぶれがまた違っていたが、隣は木の実の量り売りで若い青年、向かいはロミよりも年上くらいの女性が組み紐のアクセサリーを売っているようだ。
「こんちは、初めて見る顔だね。
俺はジンタって言うんだ、木の実は好きかい?」
「どうも、僕は雷人です、今日はエビのフリッターを売りに来ました。
木の実は食べたことないんですけど、良かったら交換しませんか?」
「いいのかい? じゃあ100ルド分ずつ交換で!
この衣の中にエビが入ってるのか、変わってるね。
味はマヨネーズがいいな」
そんなやり取りをしながら一カップ手渡すと、向こうは入れ物がないらしく、持って来た器へ一掴み淹れて売っていると聞かされた。僕が同じカップを一つ差し出すと、ジンタはその中へたっぷりとナッツ類を入れてくれた。
どうやら餃子と違ってエビフリッターは受け入れられたようだ。ジンタはパクパクと一気に食べてしまってから急に立ち上がりどこかへ行ってしまった。僕はナッツを齧りながら客を待つが、それより先にジンタが戻ってきた。
「いやあ、これは一杯やりたくなる味だな。
本当は昼間から飲んでるとかあちゃんに怒られちゃうんだけど仕方ない。
もう一つくれないか? 交換でもいいけどちゃんと払えるぜ?」
「じゃあカップひとつで100ルドになります。
おいしいって言ってもらえてホッとしました。
昨日はニンニク入りの餃子が大量に売れ残って泣きたいくらいでした」
「うへえ、よくそんなもん作る気になったな。
君はこの辺りの子じゃないんだな、ニンニク食べるのなんて工房の連中くらいだよ。
こっちの焼いてあるやつがニンニク入りの料理なのかい?」
「はい、食べてみます?
今のとこと顔をしかめる人ばかりですけど……」
「やめとく、酒が不味くなっちゃうよ。
ほい、100ルドでいいんだな?」
ジンタがスマメを差し出して来たので、僕もスマメを出して代金を受け取った。今日初めての売り上げに心が軽くなった気分だ。するとそれを見ていた人が何人か買ってくれてあっという間にほぼ完売だ。あと少し残っている分をカップへ入れてマイへの手土産としよう。
「ジンタさんのお蔭で完売になりました、ありがとう。
お礼と言うわけじゃないですけど、木の実をもう100ルド分頂いていきます。
妹へのお土産にするのと、家の者にこれでクッキー作ってもらおうかなって」
「そっか、家の人が作ったもんを売りに来てるのか……
まだ子供なのに偉いんだな、頑張れよ!」
なんだか微妙な勘違いをされているような気もするが、カップ山盛りのナッツを受け取った僕はお辞儀をしてからマーケット広場を後にした。行商を開始してからまだ二時間も経っていないなんて、順調すぎて怖いくらいだ。
次はアンクを挟んで村の反対側、来た門の近くにあると言うラーメン屋ならぬ温麺屋へと向かう。どんな麺を出しているのかわからないが、この生麺を買ってくれるなら在庫が掃けて助かる。場所は確か工房の向こうだと言っていたような……
「おおい、昨日の兄ちゃんじゃないか。
今日はマーケットにいないでこんなところでどうしたんだ?」
昨日餃子を買ってくれた工房の男性と出くわした。これはちょうどいいところで会ったもんだ。僕は早速売れ残りの餃子を買ってもらおうと愛想よく返事をした。
「昨日はどうもありがとうございます。
えっとお名前伺って無かったですね。
僕は雷人と言います」
「俺はダイチ、魔道具職人見習いだよ。
昨日のアレは売れ残ってるのか?
どうせ買うやつなんていなかっただろ」
「そうですね、ビックリするほど売れませんでした。
今日も一つも売れなくて五十個ありますけど、全部で100ルドでいいですよ?」
「よし買ってやろう、でも安すぎるのも悪いから200払うよ。
小遣いが少ないからこれくらいで勘弁してくれな」
買ってくれるだけでもありがたいとお礼を言って餃子を全部手渡した。これで残りはサンプルと手土産だけになり身軽になった。エビの売れ行きが良かったお陰で当然足取りも軽くなるってもんだ。
ダイチに別れを言ってから工房を背に温麺屋へと向かう。しかしふと思うことがあって足を止めた。このままラーメンを持って行って入手経路などを聞かれたらどうすればいいんだ? あまり下手なことを言うと僕が爺ちゃんの孫だとばれてしまう。
いや、本当はばれることは困らないんだけど、特別視されるのが恥ずかしくて嫌なのだ。それにこの麺の作り方を聞かれても正直よくわかってないから答えられない。在庫分だけ売り払ってサヨナラなんてことが通用する相手かどうかも不明だ。
「ライさま? どうかされたの?
温麺屋はあそこにもう見えていますよ?
不安があるならチャーシが偵察に行ってくるわ。
ライさまの不安を取り除くのがチャーシの仕事だもの」
「いや、大丈夫、不安とかそう言うことじゃないんだ。
これを持って行った後々まで考えると責任取りきれないなって思ってさ。
やっぱり僕の考えは浅はかでしょせん子供のものなんだよね。
焦らずにもう少し考えてから出直すことにするよ」
そのことも含めてマイへ相談してみよう。村長でもいいんだけど、やはり年が同じであるマイのほうが話しやすいし、何を相談しても大げさに考え過ぎないでくれるような気がするのだ。
来た道を戻り学校の横を通るところで副校長のカナエに見つかってしまった。嫌だから別にコソコソしていたわけじゃないのだが、学校へ通う件もあるし今はまだ会いたくなかったのだ。だがそんな僕の考えを知る由もないカナエは満面の笑みを蓄えてこちらへ向かってきた。
「これはこれは雷人様、ご機嫌麗しゅう。
本日はお散歩ですか? それとも領内の査察でしょうか。
学校の見学であれば私がご案内いたします」
「いや、だからそんな大仰に接するのは止めてください。
僕は普通の十六歳で、この世界だと就学児未満の知識しかないんですから。
それよりこの間のお茶、おいしかったです、ありがとうございました」
「いいええ、お口にあったなら光栄でございます。
今日は校長が不在でご挨拶できない無礼、どうぞお許しくださいませ」
「ホントそんなに恐縮しないで普通に、普通に接してくれるのが一番うれしいです。
村の人全員にそんな態度でいられたら、ここに住み続けるのが難しくなってしまいますよ」
「そ! それだけはご勘弁ください!
かしこまりました、なるべく意に沿うように致しますのでなにとぞ……」
やはり教育者で、なまじしっかりとした考え方を持っているだけに一筋縄ではいかなそうだ。やはりこのままでは入学するのもはばかられる。どうやら今は休み時間か自習時間のようで、中庭には遠巻きにこちらを見ている生徒が何人かいて、他には思い思いに遊んでいる子たちもいた。
「すいません、授業を中断させてしまって。
とにかく普通に接してもらえないと学校へも通えません。
校長とも相談してもらってどうにかうまくお願いしますね」
子供たちが見ていると言うのにカナエは僕へ向かって深々とお辞儀をして見送ってくれた。正直これでは先が思いやられそうだ。
僕はため息をつきながら観光案内所へと向かった
マーケット広場の空き席を確保し辺りを見回したがロミの姿はない。まだ森から帰ってきていないのだろう。昨日とは顔ぶれがまた違っていたが、隣は木の実の量り売りで若い青年、向かいはロミよりも年上くらいの女性が組み紐のアクセサリーを売っているようだ。
「こんちは、初めて見る顔だね。
俺はジンタって言うんだ、木の実は好きかい?」
「どうも、僕は雷人です、今日はエビのフリッターを売りに来ました。
木の実は食べたことないんですけど、良かったら交換しませんか?」
「いいのかい? じゃあ100ルド分ずつ交換で!
この衣の中にエビが入ってるのか、変わってるね。
味はマヨネーズがいいな」
そんなやり取りをしながら一カップ手渡すと、向こうは入れ物がないらしく、持って来た器へ一掴み淹れて売っていると聞かされた。僕が同じカップを一つ差し出すと、ジンタはその中へたっぷりとナッツ類を入れてくれた。
どうやら餃子と違ってエビフリッターは受け入れられたようだ。ジンタはパクパクと一気に食べてしまってから急に立ち上がりどこかへ行ってしまった。僕はナッツを齧りながら客を待つが、それより先にジンタが戻ってきた。
「いやあ、これは一杯やりたくなる味だな。
本当は昼間から飲んでるとかあちゃんに怒られちゃうんだけど仕方ない。
もう一つくれないか? 交換でもいいけどちゃんと払えるぜ?」
「じゃあカップひとつで100ルドになります。
おいしいって言ってもらえてホッとしました。
昨日はニンニク入りの餃子が大量に売れ残って泣きたいくらいでした」
「うへえ、よくそんなもん作る気になったな。
君はこの辺りの子じゃないんだな、ニンニク食べるのなんて工房の連中くらいだよ。
こっちの焼いてあるやつがニンニク入りの料理なのかい?」
「はい、食べてみます?
今のとこと顔をしかめる人ばかりですけど……」
「やめとく、酒が不味くなっちゃうよ。
ほい、100ルドでいいんだな?」
ジンタがスマメを差し出して来たので、僕もスマメを出して代金を受け取った。今日初めての売り上げに心が軽くなった気分だ。するとそれを見ていた人が何人か買ってくれてあっという間にほぼ完売だ。あと少し残っている分をカップへ入れてマイへの手土産としよう。
「ジンタさんのお蔭で完売になりました、ありがとう。
お礼と言うわけじゃないですけど、木の実をもう100ルド分頂いていきます。
妹へのお土産にするのと、家の者にこれでクッキー作ってもらおうかなって」
「そっか、家の人が作ったもんを売りに来てるのか……
まだ子供なのに偉いんだな、頑張れよ!」
なんだか微妙な勘違いをされているような気もするが、カップ山盛りのナッツを受け取った僕はお辞儀をしてからマーケット広場を後にした。行商を開始してからまだ二時間も経っていないなんて、順調すぎて怖いくらいだ。
次はアンクを挟んで村の反対側、来た門の近くにあると言うラーメン屋ならぬ温麺屋へと向かう。どんな麺を出しているのかわからないが、この生麺を買ってくれるなら在庫が掃けて助かる。場所は確か工房の向こうだと言っていたような……
「おおい、昨日の兄ちゃんじゃないか。
今日はマーケットにいないでこんなところでどうしたんだ?」
昨日餃子を買ってくれた工房の男性と出くわした。これはちょうどいいところで会ったもんだ。僕は早速売れ残りの餃子を買ってもらおうと愛想よく返事をした。
「昨日はどうもありがとうございます。
えっとお名前伺って無かったですね。
僕は雷人と言います」
「俺はダイチ、魔道具職人見習いだよ。
昨日のアレは売れ残ってるのか?
どうせ買うやつなんていなかっただろ」
「そうですね、ビックリするほど売れませんでした。
今日も一つも売れなくて五十個ありますけど、全部で100ルドでいいですよ?」
「よし買ってやろう、でも安すぎるのも悪いから200払うよ。
小遣いが少ないからこれくらいで勘弁してくれな」
買ってくれるだけでもありがたいとお礼を言って餃子を全部手渡した。これで残りはサンプルと手土産だけになり身軽になった。エビの売れ行きが良かったお陰で当然足取りも軽くなるってもんだ。
ダイチに別れを言ってから工房を背に温麺屋へと向かう。しかしふと思うことがあって足を止めた。このままラーメンを持って行って入手経路などを聞かれたらどうすればいいんだ? あまり下手なことを言うと僕が爺ちゃんの孫だとばれてしまう。
いや、本当はばれることは困らないんだけど、特別視されるのが恥ずかしくて嫌なのだ。それにこの麺の作り方を聞かれても正直よくわかってないから答えられない。在庫分だけ売り払ってサヨナラなんてことが通用する相手かどうかも不明だ。
「ライさま? どうかされたの?
温麺屋はあそこにもう見えていますよ?
不安があるならチャーシが偵察に行ってくるわ。
ライさまの不安を取り除くのがチャーシの仕事だもの」
「いや、大丈夫、不安とかそう言うことじゃないんだ。
これを持って行った後々まで考えると責任取りきれないなって思ってさ。
やっぱり僕の考えは浅はかでしょせん子供のものなんだよね。
焦らずにもう少し考えてから出直すことにするよ」
そのことも含めてマイへ相談してみよう。村長でもいいんだけど、やはり年が同じであるマイのほうが話しやすいし、何を相談しても大げさに考え過ぎないでくれるような気がするのだ。
来た道を戻り学校の横を通るところで副校長のカナエに見つかってしまった。嫌だから別にコソコソしていたわけじゃないのだが、学校へ通う件もあるし今はまだ会いたくなかったのだ。だがそんな僕の考えを知る由もないカナエは満面の笑みを蓄えてこちらへ向かってきた。
「これはこれは雷人様、ご機嫌麗しゅう。
本日はお散歩ですか? それとも領内の査察でしょうか。
学校の見学であれば私がご案内いたします」
「いや、だからそんな大仰に接するのは止めてください。
僕は普通の十六歳で、この世界だと就学児未満の知識しかないんですから。
それよりこの間のお茶、おいしかったです、ありがとうございました」
「いいええ、お口にあったなら光栄でございます。
今日は校長が不在でご挨拶できない無礼、どうぞお許しくださいませ」
「ホントそんなに恐縮しないで普通に、普通に接してくれるのが一番うれしいです。
村の人全員にそんな態度でいられたら、ここに住み続けるのが難しくなってしまいますよ」
「そ! それだけはご勘弁ください!
かしこまりました、なるべく意に沿うように致しますのでなにとぞ……」
やはり教育者で、なまじしっかりとした考え方を持っているだけに一筋縄ではいかなそうだ。やはりこのままでは入学するのもはばかられる。どうやら今は休み時間か自習時間のようで、中庭には遠巻きにこちらを見ている生徒が何人かいて、他には思い思いに遊んでいる子たちもいた。
「すいません、授業を中断させてしまって。
とにかく普通に接してもらえないと学校へも通えません。
校長とも相談してもらってどうにかうまくお願いしますね」
子供たちが見ていると言うのにカナエは僕へ向かって深々とお辞儀をして見送ってくれた。正直これでは先が思いやられそうだ。
僕はため息をつきながら観光案内所へと向かった
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