限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第三章 水無月(六月)

46.六月十一日 放課後 お見舞い

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 あれこれと余計なことを考えているうちに美晴の家の近くまでやって来た。するとすでに誰かが見舞いに来たのか、家の前に公立の制服を着た男子生徒が一人立っているのが見える。年は八早月やよいたちと同じくらいなので小学校の同級生だろうか。

 それを証明するかのように夢路が声をかける。

「あれー? 涼君じゃないの。
 美晴のとこ来るなんて珍しいね、どうしたの?」

「くっ山本か、いや、なんと言うか、ちょっと用があってさ。
 板山は一緒じゃなかったのか?」

「美晴は今日風邪でお休みだったのよね。
 だから帰りに友達とお見舞いに来たってわけ。
 涼君はいまさら告白でもしに来たんじゃないだろうね?」

「な、な、なに言ってんだよ! そんなことしねえよ。
 うちの学校でお前らの学校の話になったから聞きに来たんだ。
 ちょうどいい、山本でも構わないから知ってるかどうか教えてほしいんだ」

「なによ、山本でもいいとかその適当な感じ。
 私はお見舞いに来てるんだし友達も一緒なんだからその辺考えなさいよ。
 そんで知りたいことってなんなの?」

 どうやら小学校時代の同級生であることは間違いなさそうだ。夢路とはあまり良好な関係には見えず、八早月からは夢路がやや攻撃的な印象を受けた。それに、美晴にいまさら告白とか言っていたことから、この男子は卒業アルバムを見せてもらったときに教えてくれた橋乃鷹涼はしのたか りょうという子だろう。

「実は変な話なんだけどさ……
 九遠中の一年女子にケンカがめちゃ強いやついないか?
 上級生をブッ飛ばしたらしいけど、ちょっと信じがたいよな?」

「さあ? ウチの学校にケンカしたりしそうな子はいないよ。
 しかも女子でしょ? みんな大人しいし清楚で上品なんだからね。
 粗暴なアンタたちと一緒にしないで欲しいもんだっての」

「そうか、もしかして板山のことかもと思ったけど違うならいいんだ。
 それにアイツだったらそもそも知り合いだろうしなぁ」

「そんなおかしな話、いったい誰から聞いて何のために調べてんのよ。
 なんか涼君って中学上がってから普通っぽくなったと言うかいまいちだね。
 小学校の時はサッカーやってるとことかカッコよかったのに残念」

「中学でもサッカーは続けてるよ、相変わらず失礼な奴だなぁ。
 これでも一年生でレギュラー取れるかどうかってとこまでは来てるんだぜ?
 まあさすがに中学ではいろいろ厳しいこともあるけどさ」

 ここで思わず口を挟んでしまった。この橋乃鷹が探している女子に心当たりがあったと言うこともあるし、公立の金井中での厳しいことにも当てがあったからだ。

「もし? あなたが橋乃鷹さんかしら?
 私は夢路さんや美晴さんたちの同級生で櫛田と申します。
 その中学での厳しいことと言うのは『いじめ』なのかしら?」

「なんで急に横から…… まあいじめはたしかにあるよ。
 それと運動部の場合は上級生からのしごきってやつもな。
 だけどそんなもんどこにでもあるし、耐えて乗り切ってこそってもんさ」

「本当にくだらない考え方ね、甘んじて受け入れるのもいいでしょう。
 でも自分たちがやられた分を、来年以降入ってくる後輩へ行うのでしょ?
 だからいつまでたっても理不尽な風習が無くならないのだわ」

「そんなこと言ったって仕方ないだろ? 正面切って殴り合いできるはずないし。
 先生に言っても大して対応してくれもしない、無くす気なんてないんだよ」

「それは正論のようでただの諦めの言葉よ。
 先生がダメなら教育委員会やマスコミへ言ったっていいわ。
 そもそも自分の親へ相談することくらいは出来るでしょ?」

「出来ないやつだっているんだよ、なんでも持ってるやつがアレコレ言うな!
 少なくとも俺は先生とかへ言いつけてレギュラーになれなくなるのは嫌だ。
 決定権が先輩である主将にあるんだから言うこと聞くしかねえんだよ!」

 まあ確かに八早月では理解できないことも多いだろう。それでもいじめなどの理不尽な対人関係によって生み出される憎悪や怨念が妖を呼んでしまうのも事実であり、退治している八早月たちにとっては絶ちたい問題で無関係とも言えない。

「それでその誰にも相談できない上中下ひとそろいさんがどうかしたの?
 まさかまだいじめられ続けていると言う事かしら?」

 八早月の口から上中下左右さうの名前が出たことで、夢路も涼も驚いたような反応を見せた。特に涼にとってはなぜ名前を知っているのかと同時に、左右がいじめを受けていることも知っているらしい。つまり涼が探しているケンカの強い暴力女子とは、この目の前にいる小柄な女子である可能性が高い。

 夢路は夢路で少し異なる驚きだった。いくら印象的な名前だからと言って、ここですんなり名前が出てくるなんて特別な意味があるに違いない。やはり八早月は左右のことが気になっているのではないか、などと考える程度には恋愛脳である。

 だが八早月にとっては二人の考えはどうでもよく、上中下左右が思いつめておかしな行動を取ることを心配していた。この辺りでは前近代的な恨みのまじないは一般的に行われており、先日八早月たちが救出した少年も、お守りを釘で打ち込むと言う伝統的手法により妖を呼んでしまい自らが憑りつかれていた。

 こうして三人がそれぞれの思惑を持ちながら顔を見合わせていると、その気配に気づいたのか、美晴が部屋から顔を出し声をかけてきた。

「ちょっとあなた達? 人の家の前で何してんのよ!
 みっともないから上がってくれると助かるんだけど?」
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