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第四章 文月(七月)
79.七月二十七日 午前 川遊び
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夏休みに入り、中学生の櫛田八早月を初めとする女子四人組はのんびりした日々を満喫していた。なんと言っても町から遊びに来ている板山美晴、山本夢路、寒鳴綾乃の三人にとっては非日常的で刺激的な日々だし、ホストである八早月にとって友人が泊まりに来ると言うのは一大イベントである。
ただし、同じ学園へ通っている上級生の四宮直臣、高等部の六田楓、そして高等部教員のドロシーにとっては、休みだからと微塵も遠慮などしてくれない八早月にいつもと変わらず早朝からしごかれて、全然のんびりした夏休みでもなんでもなかった。
こうしてそれぞれの夏休み最初の一週間が過ぎようとしているのだが、これまでは天候がぐずついていて残念な毎日だった。しかし今日はようやくすっきりと晴れ渡たり全員の気分は高揚していた。
「それじゃ待望の川遊びへ参りましょうか。
この天気なら水の中へも入れそうで良かったわ」
「うんうん、渓流って水が冷たくて透き通ってて気持ちいいもんね。
前回は六月でまだ肌寒かったから足だけだったからなぁ。
でも泳げるほどの場所はないんだよね?」
「そうね、私が知る限りで泳げるほど深くて水量のある場所はないわね。
この辺りにある川は全て沢って程度の大きさの支流だもの」
「でも寝っ転がれば全身で水浴びできるし、きっと気持ちいいだろうな。
早くいこー、楽しみ楽しみ。
そう言えばさ、八早月ちゃんって水着買ったの初めてって言ってたよね?
去年まではどうしてたの?」
「えっ? プールは無かったから必要なかったので……
―― なんでみんなそんなにじっと見つめるの?……」
八早月の言動が怪しいからなのか、全員が真相を聞き出そうと興味津々といった様子である。これは観念するしかないと腹をくくった八早月は、去年までどうしていたかを正直に話した。
「実は…… 肌着で入ってたのよ……
この辺の子はほぼ全員そんな感じだし、水着着るのなんて中学生以上だもの。
そもそもうちから一番近い川には誰も来ないから見られることもないわね」
「それじゃ着替えとかもその場で?
ちょっと八早月ちゃん……小学生だって高学年でそれはヤバいよ……」
「美晴さんの言うことはもっともだけど、その時はなんとも思って無くてね……
今思うと恥ずかしいけど、きっと玉枝さんがいつも一緒だったから安心しきってたんだわ」
「誰も来ないって言ってたけど、この間は四宮先輩に会ったじゃない?
そういう時ってなかったの?」
「あっ、そう言えば数回くらいは一緒に水遊びした気がするわね。
向こうは確か……まるは――」
八早月が途中まで言いかけたことを遮るように、夢路が顔を抑えながらキャーっと叫んだ。だがそれも確か低学年の頃の話だし、従妹同士ならまあそんなもんではないのだろうか。いや、そうでないと今更ながら恥ずかしくなってきた八早月である。
八早月が恥ずかしいと気付かされた過去を他の三人がほじくりながら山道を歩いていき、四十分ほどで目的地へと到着した。さすがにこの季節だといい汗をかいて軽い疲労感を感じているが、沢のそばまで来ると宙に舞う霧のような水しぶきに包まれてかなりの心地よさだ。
「すごいね! こんな心地よさはなかなか味わえないなー
というより私は初めてでホントに感動してるわよ!
こんな場所なら八早月ちゃんが開放的になっちゃっても仕方ないわね」
「それ、まだ言うの? 大前提として私は裸になってないわよ?
ただ水着ではなかったと言うだけなんだから」
「そう言えば水遊びした後の着替えはどうするの?
いや、これは昔のことじゃなくて今日のことね。
誰も来ないって言われてもこないだは先輩が来たじゃない?」
「それは大丈夫、今日はテントを持ってきているの。
一人しか入れない小さなものだけれど、着替えが出来るのは確認済みよ?
運転手の板倉さんがお勧めだって買ってきてくれて良かったわ」
通学中に友達と川へ行く話をしていたら、昔オートバイで野宿するときにワンマンテントが便利だったからと教えてくれただけではなく、わざわざ売っているところを探して買ってきてくれたのだ。オートレースへ行った帰りに、ではあるが。
「よかったぁ、野外で裸になるなんて考えたこともなかったもの
でももしその辺で着替えることになったらそれはそれで初体験だったね。
どうせ誰か来ても四宮先輩ならまあセーフ? だし……」
「もう、夢ったら何言ってんのよ。
アンタが良くたってアタシは嫌に決まってるじゃないの!
ホント名前の通り夢見がちなんだからさぁ」
「夢ちゃんって結構マセてるもんね。
小学校の時は彼氏とまで行かなくてもいい関係の男子はいたの?」
「小学生のうちからそんな子いなかったよー
そういう綾ちゃんはどうなの? 女子力高いって雰囲気出てるもんなぁ」
そんな風にはしゃぐ様子からは、川遊びをしているのかおしゃべりが主なのかわからないが、とにかく楽しい時間を過ごしている事だけは間違いないだろう。飛び散る水しぶきは四人の弾ける若さを引き立てる。
山の中を流れる水の音のみが存在していたひと気のない渓流が、あっという間に妖精たちのすみかへと変わった、そんなひと時だった。
ただし、同じ学園へ通っている上級生の四宮直臣、高等部の六田楓、そして高等部教員のドロシーにとっては、休みだからと微塵も遠慮などしてくれない八早月にいつもと変わらず早朝からしごかれて、全然のんびりした夏休みでもなんでもなかった。
こうしてそれぞれの夏休み最初の一週間が過ぎようとしているのだが、これまでは天候がぐずついていて残念な毎日だった。しかし今日はようやくすっきりと晴れ渡たり全員の気分は高揚していた。
「それじゃ待望の川遊びへ参りましょうか。
この天気なら水の中へも入れそうで良かったわ」
「うんうん、渓流って水が冷たくて透き通ってて気持ちいいもんね。
前回は六月でまだ肌寒かったから足だけだったからなぁ。
でも泳げるほどの場所はないんだよね?」
「そうね、私が知る限りで泳げるほど深くて水量のある場所はないわね。
この辺りにある川は全て沢って程度の大きさの支流だもの」
「でも寝っ転がれば全身で水浴びできるし、きっと気持ちいいだろうな。
早くいこー、楽しみ楽しみ。
そう言えばさ、八早月ちゃんって水着買ったの初めてって言ってたよね?
去年まではどうしてたの?」
「えっ? プールは無かったから必要なかったので……
―― なんでみんなそんなにじっと見つめるの?……」
八早月の言動が怪しいからなのか、全員が真相を聞き出そうと興味津々といった様子である。これは観念するしかないと腹をくくった八早月は、去年までどうしていたかを正直に話した。
「実は…… 肌着で入ってたのよ……
この辺の子はほぼ全員そんな感じだし、水着着るのなんて中学生以上だもの。
そもそもうちから一番近い川には誰も来ないから見られることもないわね」
「それじゃ着替えとかもその場で?
ちょっと八早月ちゃん……小学生だって高学年でそれはヤバいよ……」
「美晴さんの言うことはもっともだけど、その時はなんとも思って無くてね……
今思うと恥ずかしいけど、きっと玉枝さんがいつも一緒だったから安心しきってたんだわ」
「誰も来ないって言ってたけど、この間は四宮先輩に会ったじゃない?
そういう時ってなかったの?」
「あっ、そう言えば数回くらいは一緒に水遊びした気がするわね。
向こうは確か……まるは――」
八早月が途中まで言いかけたことを遮るように、夢路が顔を抑えながらキャーっと叫んだ。だがそれも確か低学年の頃の話だし、従妹同士ならまあそんなもんではないのだろうか。いや、そうでないと今更ながら恥ずかしくなってきた八早月である。
八早月が恥ずかしいと気付かされた過去を他の三人がほじくりながら山道を歩いていき、四十分ほどで目的地へと到着した。さすがにこの季節だといい汗をかいて軽い疲労感を感じているが、沢のそばまで来ると宙に舞う霧のような水しぶきに包まれてかなりの心地よさだ。
「すごいね! こんな心地よさはなかなか味わえないなー
というより私は初めてでホントに感動してるわよ!
こんな場所なら八早月ちゃんが開放的になっちゃっても仕方ないわね」
「それ、まだ言うの? 大前提として私は裸になってないわよ?
ただ水着ではなかったと言うだけなんだから」
「そう言えば水遊びした後の着替えはどうするの?
いや、これは昔のことじゃなくて今日のことね。
誰も来ないって言われてもこないだは先輩が来たじゃない?」
「それは大丈夫、今日はテントを持ってきているの。
一人しか入れない小さなものだけれど、着替えが出来るのは確認済みよ?
運転手の板倉さんがお勧めだって買ってきてくれて良かったわ」
通学中に友達と川へ行く話をしていたら、昔オートバイで野宿するときにワンマンテントが便利だったからと教えてくれただけではなく、わざわざ売っているところを探して買ってきてくれたのだ。オートレースへ行った帰りに、ではあるが。
「よかったぁ、野外で裸になるなんて考えたこともなかったもの
でももしその辺で着替えることになったらそれはそれで初体験だったね。
どうせ誰か来ても四宮先輩ならまあセーフ? だし……」
「もう、夢ったら何言ってんのよ。
アンタが良くたってアタシは嫌に決まってるじゃないの!
ホント名前の通り夢見がちなんだからさぁ」
「夢ちゃんって結構マセてるもんね。
小学校の時は彼氏とまで行かなくてもいい関係の男子はいたの?」
「小学生のうちからそんな子いなかったよー
そういう綾ちゃんはどうなの? 女子力高いって雰囲気出てるもんなぁ」
そんな風にはしゃぐ様子からは、川遊びをしているのかおしゃべりが主なのかわからないが、とにかく楽しい時間を過ごしている事だけは間違いないだろう。飛び散る水しぶきは四人の弾ける若さを引き立てる。
山の中を流れる水の音のみが存在していたひと気のない渓流が、あっという間に妖精たちのすみかへと変わった、そんなひと時だった。
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