限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第五章 葉月(八月)

115.八月二十九日 午後 八岐大蛇

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 八岐神社に残されている古文書によれば、八岐大蛇の御姿が最後に確認されたのは戦国時代が終わり天下統一がなされて数十年経った頃だと言う。平和の世となっても武士の魂は刀であることに変わりは無く、大名たちは刀剣を保有したり献上したりするために優れた銘品を探し求め、刀鍛冶の元を片っ端から訪れていた。

 そうなれば、このたたらと鍛冶の里である八畑村に目を付けるのも当然だろう。当時一帯を治めていた大名が、八畑村を制圧するためにやってきた。それを撃退し滅ぼしてしまったのが八岐大蛇であるとの伝承が残されているのだ。

 その後もこの領地を与えられた者たちは次々に滅ぼされ、ついには統治へ向かう者はいなくなった。最終的に八岐神社と八家は幕府から存在しないものとされ、地図からも抹消されてしまう。それは明治に入り廃藩置県を切っ掛けに存在が明らかになるまで続いた。

 そして今、数百年ぶりに八岐大蛇がこの現世うつしよに現れたのだ。なぜか予想もしていなかった手のひらサイズではあるが。

「八岐大蛇様…… なのですね?
 私は櫛田家当主、櫛田八早月と申します。
 この度はお目通り叶いまして感激の極み」

「うむ、筆頭家の娘じゃな、もちろん知っておるぞ。
 理由ありてこのような過小なる姿であるが、まあ許せ」

「もちろんでございます、この目で拝見できただけでかたじけなきこと。
 ですがそのようなお姿になってしまわれて問題ないのですか?
 ご無礼でなければ理由わけをお聞かせくださいませ」

「なに易きかな、我が体には八の頭と八の尾があろう?
 頭はたたら場へ伸びおり、尾は貴公らの体内に納められたり。
 胴体は山の中深くに埋もれ社を護れるぞ?
 ならば姿さまを現さぬにはかくし矮小となるよしなり」

 八早月は自分の胸に手を当て、体内にある神刃かみやいばの力を確認してみた。確かに目の前にいる八岐大蛇との繋がりを感じるどころか、力が注がれていることが実感できる。

「私の力となりて下さり誠にありがとう存じます。
 しかし私に納まる神刃は天叢雲剣あまのむらくものつるぎの写し、草薙剣くさなぎのつるぎ形代かたしろでございましょう?
 世間では八岐大蛇様の尾でおわした剣は献上されたと伝わっておるのです。
 八岐神社では櫛田家が鍛えた物を渡したことにはなっておりますが……」

「その伝承は須佐之男命すさのおのみことの戯言であろう?
 あやつが持ちゆきし剣は写しの写し、そなたの剣の写ぞ。
 憂えずとも元の正品は我が胴体の中なり」

「ははっ、これは疑うような妄言でした、どうかご無礼お許しくださいませ。
 それにしてもあの白蛇の呼びかけにお応え下さるとは驚きでございます。
 私たちが行う神事では至らなかったのでしょうか」

 八早月はこの数百年で一度も姿を現さなかったのは、八家の行いになにか問題があったのではないかと恐れていた。そうであるなら今後速やかに改善する必要があるため、筆頭当主としては何としても知りたかったのだ。しかし――

「さようなることはあらぬ、問い無ければことさらに出でてこなり。
 娘、かような憂いはいらぬ、今まで通りに励むべし、我が目は日頃見守れればぞ。
 されどお主は殊更ことさらなるなれば、世間周囲に不満を抱かばならぬ。
 父と母の名が言霊となり我引き寄せ、そなたの一部となりきと知りておくよし」

「お母さまと…… 父上……
 かしこまりました、しかと胸へと刻み込みたく存じます。
 八岐大蛇様、白蛇の件はいかがすればよろしいでしょうか」

「ああ、小さきものか、せむかたなければ仕方ないから囲え。
 長く一人居りてさうざうし寂しいと言うはまことならん。
 水竜は我が命により水をつかさどりし大蛇ぞ。
 あ奴の始末、そなたへ頼みにすまぬのう」

「とんでもございません、ありがたき御言葉として拝命いたしましょう。
 この命尽きる日まで、八岐大蛇様のお力になれますよう励む所存でございます」

「命尽くるまで、か、まことをかしきなり面白いヤツだ
 また用があらば呼ぶべき、夢枕にもうちいでむ現れよう

 最後にそう言い残して八岐大蛇は常世の扉と共に消え失せた。 
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