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強化編

053 魔剣作り

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 この日から朱王はアイリの分の素材をもらって魔剣を作る。
 千尋の分も作るのでそれで貸し借りなしとした。

 リゼも千尋の分を作るという事で、まずは朱王と一緒に剣のデザインを決める。
 千尋は特にこだわりはなく、武器はカッコよければ何でも良いと言う。

 リゼのアイデアを朱王が絵に描き、様々な絵を描いていく。
 朱王とリゼの話に入って行けずにミリーは拗ねていたが、千尋にサイダーを貰って満足そうな表情をしている。

「千尋君て剣を手に持たないんだよね?」

「そうなのよ…… それなのに剣が好きみたいなのよね」

「まぁ千尋君はファンタジーな物が好きそうだし装飾を多めの剣にしようよ」

「そうね、それならさっき見たのが良いんじゃない?」

 選び出したのはファンタジー色の強めなヴィーキングソード。
 ゲームやアニメに出てきそうなド派手なデザインの剣にした。



「アイリはどんなのが良い?」

 千尋のを考えるうちに大量に描かれた武器の絵。
 その中でアイリが興味を示したのはサーベルだ。
 蒼真や朱王の刀のように弧を描き、大きく装飾されたガードが気に入ったようだ。



 作るものが決まったところでアイリは蒼真の授業に移り、リゼは千尋と剣を作る。
 朱王は作るところが見たいという事でミリーと一緒に見学だ。

 千尋はミスリル内の魔力を寄せ、リゼが工具に魔力を込めて加工していく。

 ある程度加工が進んだところで朱王が立ち上がる。

「よし、じゃあ私達も始めようか」

「はいっ!」

 朱王はミリーと一緒にアイリのサーベルを作る。
 まずはミスリルに線を引いていく。
 剣になる部分を描いていき、ガードなどは立体的な為、別の素材から削り出す事にする。
 魔剣である為、魔力の溜まる素材を使用するのだが、朱王は少し悩みながら線を描き込んでいく。

 魔力の溜まる部分から、二本の魔剣が取れるようなので、あえて二本の魔剣を作る事にした。

 線引きが終わったところでミリーに魔力を寄せてもらい、朱王は魔力を工具に流し込んでミスリルの余分な部分を切り落としていく。
 普段は自分一人でやる作業。
 魔力を寄せてもらう事でサクサクと加工する事ができるミスリルに朱王も驚いていた。

「ミリーの手伝いは上手いでしょ!」

 千尋が言うように、ミリーの魔力制御の上手さが作業を容易にさせていた。

 普段からミスリルの加工を一人で行う朱王は、驚くほど加工が早い。
 工具の使い方が上手く、迷う事なく削り込んでいく。
 そして一度の削りが綺麗な為、面だしも容易に進めていく。
 真剣な朱王の作業をミリーは見つめる。
 それでも久しぶりに会う朱王が見たいとチラチラと視線が朱王の顔に向く。
 普段はニコニコとしている朱王が今は真剣な表情だ。
 朱王の手元を見るのを忘れ、ジッと顔を見つめるミリーだった。



 リゼも隣で加工を進めていくが、朱王ほど手早く加工ができない。
 自分の作業を一旦辞め、朱王の作業を見て技術を学ぼうとする。
 千尋も同じく朱王の作業を見る。
 迷いのない作業で、力の入れ具合、魔力の強度など、どれをとってもリゼを上回る。
 千尋以上の技術力。
 集中する朱王は、息を飲むほどの迫力がある。
 一つ一つの作業に、ピリリとした空気の張り詰め感さえもある。

 わずか一時間程して刃の成型が終わり、二本目を切り出すところからまた始める。

 さらに一時間ほどで二本目の成型が済んだところで一度手を止める。

 千尋やリゼに質問をし、すでに完成してある武器を見ながら作り方を学んでいく朱王。

 削り出すだけですでに艶が出た面を、ミスリルの練り込んだ砥石を当てて磨いていく。
 魔力を調整して研磨力を微調整。
 光を反射していた面から艶が消え、少しずつ面が整えられていく。
 魔法で水を巻き込み、魔力を調整しながら磨いていくとまた輝きを取り戻し始める。





 ここで昼食を摂る事にする。
 面だしをしていたせいか、麺類が食べたくなった朱王。
 工房近くのお店でラーメンのような何かを食べた。
 料理名はラメーン。
 少し残念な名前だ。
 このラメーンはやはり日本のラーメンとは違い、物足りなさがある。
 今後美味しいラーメンを作ってみようと思う朱王だった。





 午後からまた研磨を再開する。
 刀身を鏡面まで磨きあげ、次に刃付けを行う。

 ここでまた千尋やリゼからアドバイスをもらい、薄く刃を整えていく。
 朱王の魔力練度は千尋と同等。
 さらに高い魔力を持つ朱王は加工する速度が異常なほど早い。

 薄く正確に、二振りの輝く刃が完成したのは十六時を回った頃。

 次にガードを作らなければいけないが、大きなミスリルのブロックは……
 朱雀丸を作った時のミスリルの残り。
 まだブロックとして残っており、魔力も溜められる部分だ。
 ミスリルのブロックからガードを作る。
 丸みをつけて円錐状に削っていく。
 ガードからポンメルまで繋がっているように作る為、形や大きさに気をつけながら加工していく。

 魔力を溜め込む量は大きいがこのままでは重くて使いにくいだろうと、ガードの中をくり抜き、綺麗に形を整えていく。
 タングの入る穴を正確に開け、一つ目が成型までできたところで今日の作業を終える。



 ミリーも手伝いと称しながらじっくりと朱王の表情を堪能した一日だった。

 リゼも成型まで終えて明日からは磨き込みを行うようだ。
 千尋は自分の剣を作るリゼを見て嬉しそうに手伝いをしていた。

 蒼真とアイリは氷の授業だったようで、コップの水を凍らせる練習をしていた。
 なかなか難しいらしく、アイリも溜息を漏らす。



 エイルに戻って朱王は一人部屋を借りる。

 各々部屋に戻り、お風呂で今日の汗を流してロビーに集まる。
 朱王もそれにならってロビーに来る。
 千尋の魔法のヘアオイルを見て感動していた。

 ミリーの髪は朱王がブロー魔法をかける。
 今日はサラサラのストレート。
 ヘアオイルもオリエンタル系の大人っぽい香りのものを選んだ。



 夕食は朱王がお土産に持って来た調味料で味付けをしている。
 普段食べることのない味に、誰もが美味しいと絶賛していた。
 千尋や蒼真には馴染みの深い味、マヨネーズだ。
 それを朱王が調理し、揚げた肉の上に乗るのはタルタルソースだ。
 作り方も簡単なのでレイラも今後作ってくれるだろう。

 朱王を交えた夕食は賑やかで、ハウザー達ともお酒を飲み交わしている。
 あっと言う間に時刻は二十一時を過ぎ、食堂の消灯時間となる。



 朱王やハウザー、ベンダーは一人部屋。
 一人部屋は一階となる為、廊下の左側に朱王が泊まり、向かいにハウザー、その奥にベンダーの部屋となる。
 二人部屋の千尋と蒼真、アニーとリンゼは二階に。
 三人部屋のリゼ、ミリー、アイリは三階の部屋へと戻っていく。





 翌朝目覚めたリゼとアイリ。
 ミリーを起こそうとしたところで気付く、何故か黒髪になったミリーが寝ていた。

「ミ、ミリー!? ちょっと! 起きてよ!」

「ミリーさん起きてください!」

「おはようございます…… むぅ…… まだ眠たいです……」

 目を擦りながら体を起こすミリー。

「あなたどうして黒髪になってるの!?」

「…… ああ、これですか」

 目を開けずにフラフラと上体が揺れている。

「昨夜…… ね、寝付けずに…… 朱王に黒髪にしてもらいました」

「…… 朱王さんと同じにしたかったの?」

「はいそうです…… 変ですか?」

 まだ眠そうなミリーだが目をなんとか開いている。

「んー、ミリーっぽくなくなったけど可愛いわね! 似合うと思うわよ! ねぇ?」

 アイリに振るリゼ。

「そうですね。お肌も白いしすごく似合ってます」

「むふふー。褒められちゃいました」

 眠そうだが嬉しそうな表情をするミリー。



 リゼやアイリは手早く準備を済ませてテラスへ向かうがミリーは眠気が取れず準備が遅い。

 千尋はいつものように魔力の訓練をしており、リゼとアイリに気付いて挨拶を交わす。
 コーヒーも四人分持って来たがミリーがまだいない。

 遅れてやって来たミリー。

「おはようございます! 千尋さん!」

 ミリーを振り向く千尋。

「あれ!? ミリー黒髪にしたの!?」

「えへへー。そうなんです、変えてもらいました!」

「へー、似合うね! 朱王さんとお揃いにしたんだね!」

「ま、まぁそうなんですけど……」

 赤面して横を向くミリー。
 ミリーも黒髪に赤目、妖艶な雰囲気を醸し出す。

 コーヒーを飲みながらチラチラと時計を気にするミリー。

「そ、そろそろ起こして来ますね!」

 ガタッと立ち上がるミリー。

「はいはい。いってらっしゃい」

 ニヤニヤとミリーを見て手を振るリゼ。
 ミリーは小走りに朱王の部屋へと走って行った。



 また鍵のかかっていない部屋へと足を踏み入れるミリー。

「朱王さん! 朝ですよ! 起きてください!」

 朱王からの返事がない。

「朱王さ…… 朱王起きて」

 呼び方を変えると起き上がる朱王。

「んん…… ミリーおはよ」

「おはよう朱王」

 笑顔で見つめ合う二人。

「あは。黒髪だ。少し見慣れないね」

 そっとミリーの髪を指で梳く。

「朱王と一緒が良かったんですよ……」

 口を尖らせて言うミリー。

「うん。黒髪のミリーも綺麗だよ」

 言って抱き締める。
 キスをしてから準備を始める朱王は、防具などの装備がない為私服を着る。
 今日は首元が広めに作られた白いカットソーに、赤いスキニーパンツを履く。
 刀は腰に下げずに下げ紐で肩から吊るしている。
 下げ紐やブーツは黒で統一し、アクセサリーも黒と銀の物を身につける。
 手早く準備を済ませてテラスへ向かう朱王とミリー。



「おはよう。君達はいつも早いね」

 千尋達に声をかける朱王。
 挨拶を交わしてミリーからコーヒーを受け取る。

 黒髪の朱王とミリー。
 なんだかミリーが大人びて見えるのは気のせいだろうか。
 朱王と重なって大人っぽい雰囲気に見えるだけかもしれない。

 そしてミリーが朱王と呼ぶ事、朱王もミリーと呼ぶ事に気付いたが、恋人同士【さん】付けをやめようという事だろうと勝手に判断する。


  
「髪色変えるのも新鮮で良いわね」

 ミリーを見ながら羨ましそうに言うリゼ。

「リゼも髪色変えるの?」

「私が別の髪色だと…… ち、千尋はどう思う?」

「リゼは何色でも可愛いと思うよー」

 笑顔で答える千尋。

「リゼさんは何色にしたいんですか?」

 アイリが問いかける。

「千尋みたいな銀髪も良いかなー…… なんて……」

 朱王とミリーが一緒なのが羨ましいらしい。
 チラチラと千尋の顔を見るリゼ。

「じゃあオレは金髪にしようかなー」

「ええ!? どうして!?」

「魔力の色に合わせたいじゃん! 超◯◯◯人みたいになれる!」

 察してよ! と思いながら落ち込むリゼだった。

 この後起きてきた蒼真もミリーの髪色に驚いていた。
 朱王の真似かと心の中で思いつつ。





 工房で作業を始める朱王とミリー。

 まずは模様付け、朱王の得意分野だ。

 昨日同様ミリーが魔力を寄せて朱王はサクサクと加工していく。
 ガードの正面と背面の手元には花の模様をあしらい、女性らしい美しい剣になりそうだ。
 ある程度模様ができたところでしっかりと彫り込んでいく。
 陰影をハッキリと付け、磨き込む事で見え方がだいぶ変わってくる。
 午前いっぱい時間をかけて模様付けを行い、午後になるとグリップの作製、そして色付けをする。
 刀身をほんの僅かに紫に染め、ガードは着色無しの重厚な銀。
 花の部分を薄紫とし、グリップを黒く着色する。
 グリップにある模様は銀とした。

 まずは一本完成したところで、ミリーと一緒に鞘を買いに行く。
 武器屋の隣には鞘を作ってくれる工房があり、丁度良さそうな鞘を探す。
 店主に作ったばかりの剣を見せると、その出来栄えに驚いていた。
 これは最高の鞘を用意したい。
 店主は数日待ってくれと言い、型を取って仮の鞘を渡してきた。
 二本分の鞘を注文し、お題は後日支払う事にして工房へと戻る。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 翌日もアイリの二本目のサーベルを作る。
 ガードの模様付けからなので今日も早いうちに完成するだろう。
 まったく同じデザインで仕上げていく朱王。
 十四時には二本目も完成し、仮の鞘に納めて一息つく。



「アイリ、剣ができたよ」

 勉強会の終わっていたアイリに剣を渡す朱王。

「鞘は今注文してあるのでそれは代用品です!」

 ミリーが補足する。

 鞘を払うと美しい刀身が現れる。
 鏡面に磨かれた刀身、ガードには僅かに色の違いがあり、シンプルな色合いながら惹き込まれるような美しさがある。

「すごい…… とっても綺麗です! あ、あの、朱王様…… 本当に受け取っても良いんですか?」

「私がアイリの為に作ったんだよ。受け取ってくれるだろう?」

「あ、ありがとうございます!」

 顔を赤くして嬉しそうにお礼を言う。

 サーベルはアイリの体から考えると長い。
 全長100センチほどのサーベル。
 アイリが扱いやすいようにと薄刃のスピード重視の剣とした。

「魔剣クラウ・ソラスだ。一本につき魔力量は3,500ガルド程溜められるよ」

 アイリはレベル9で魔力量は60,000ガルドほどで、この世界の住人としては相当高い魔力を持っている。
 普段はそれほど魔力を放出する必要も無いので大丈夫だろう。

 魔剣クラウ・ソラスを見つめてうっとりしているアイリを満足気に見る朱王だった。

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