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ウェストラル王国編

177 シルヴィアと魔剣と聖剣

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 聖剣を偽物と交換して来た翌朝。

「魔剣オルナだ。溜め込める魔力量は4,000ガルド程だがある程度軽く振れるように作ってある。ニコラスが言うには君も雷属性にするみたいだから迅雷と下級魔法陣にはサンダーを組み込んであるよ」

 朱王が差し出す鞘に納められた魔剣オルナを受け取るシルヴィア。
 ガードとグリップを見ただけでもわかる超がつく程の大業物。
 鞘を払って魔剣の全貌を見つめる。

 白銀の刃が光り輝き、剣身は僅かに浅く彫られて金の装飾が入り、その内側には花緑青エメラルドグリーンに染められた面がまた美しい。
 ガードは透し彫りが多く入り、複雑な装飾には艶消しの白銀に着色された花柄模様もあって女性らしさを演出。
 浮き彫りされた部分には金色に、装飾の底面には白銀や花緑青はなろくしょう色に染められている。
 グリップは金色の装飾と艶消しの白銀、ポンメルには花緑青色の多角形の宝石風とし、金色の台座をデザインして取り付けてある。
 そのポンメルの内部には魔力色の魔石も組み込んである。

 うっとりとした表情で魔剣オルナを見つめるシルヴィア。
 引き込まれるような美しさを持つ魔剣に心を奪われている様子。
 言葉を発する事さえ忘れて魔剣を見つめている。

「ねぇシルヴィア。気に入ってくれた?」

「…… あ、はっ、はい! この様な美しい魔剣を作って頂き、誠に光栄極まりなく!」

「うん、じゃあ精霊契約しよっか」

 庭の土壌が剥き出しになっている場所で魔法陣を描き、呪文を唱えて精霊を召喚する。
 放電しながら顕現したヴォルトに名前とイメージ、魔力を渡す。

「よろしく、ヴァリエッタ」

 魔力を受け取ったヴォルトは魔剣へと飛び込み、再びシルヴィアの肩へと顕現すると放電する鳥の形へと変貌していた。
 冠羽のある鳥だが何の鳥だろう。
 オウムに見えなくもないが羽毛があるわけではないのでわからない。

 続いて貴族用ドロップには煌めきの魔石を追加して、上級魔法陣ボルテクスも組み込んで終了。

 魔力色は白色を選択して、飛行装備も天使の翼仕様に魔石を追加した。

 シルヴィアの強化が完了したのを確認し、ハリー達も仕事へと向かって飛び立った。



 さて、休暇を取得したので訓練場に行くわけにもいかない。
 どこで訓練するべきか。
 それならば王国から出てしまえばどこで訓練しても構わないだろうと、弁当を買って魔獣も多くいる森の方へ行く事にする。
 拓けた場所を探して訓練すれば迷惑も掛からないだろう。
 出発前にメンバーを選ぶ。
 千尋とリゼは聖剣の改造があるので留守番。
 朱王もこのタイミングで魔剣を作るとの事だが、ミリーは回復係として行かなければならない。
 と、いう事でシルヴィアの訓練に着いて行くメンバーは、蒼真、ミリー、アイリ、朱雀の三人と一精霊。
 エレクトラは自分の妖刀がどの様にして作られたのかと、朱王の手伝いに申し出たようだ。

「エレクトラさん! 朱王を口説いてはいけませんよ! その獣耳をアピールしないでくださいね!!」

「安心してくださいミリーさん。朱王様がついついわたくしを意識されたとすれば仕方のない事かもしれませんが…… わたくしは口説いたりはしませんよ」

「ふおぉぉぉお!! 私やっぱり行くのやめてもいいですか!?」

「駄目だ。ミリーがいないと回復できないだろ」

「でもぉ!!」

「もお!! 私が見張っておくから安心して行って来なさい!! エレクトラもミリー弄りをしない!!」

「怒られてしまいました……」

「私がリゼさんを頼る日が来るとは……」

「どういう意味かしら!?」

 ワイワイと騒ぐ女性陣だがいつもの事なので気にしていられない。
 ウルハもミリーを挑発し始め、エイミーも千尋に寄り添ってリゼの思考は停止する。

 涙目になりながらもシルヴィアの訓練に同行するミリーだが、ウルハも同行しなさいとのニコラスの指示に、朱王が誘惑される危険性はエレクトラだけに絞られたのでとりあえず我慢する。
 友人であるエレクトラを信じて……
 思考の停止したリゼを信じて……
 結局不安は拭えなかった。



 訓練へと飛び立ったので騒ぎも収まり、朱王はエレクトラと千尋、リゼを連れて作業小屋へと移動する。

 作業小屋は車庫のすぐ隣にあり、扉を開くとたくさんの工具や素材、機械的な部品などが置かれた部屋となっていた。
 ソファやテーブルなども置かれ、この場所でくつろぐ事もできる。

 千尋とリゼ、朱王とエレクトラとに別れて作業を始める。

 千尋とリゼは聖剣の改造となるが、今回ウェストラル国王の依頼する聖剣の改造案はそれ程難しいものではない。
 今よりも長くてシンプルに、それでいて美しい仕上がりに仕上げて欲しいという事で、ある程度の魔力量を稼ぎつつ鞘もミスリルで作る事にしよう。

 まずは聖剣の延長から。
 ガードも要らないとの事なので、剣身に魔力量を集中させる必要がある。
 それならばと、魔力の溜め込める部分を見極めて聖剣を切断。
 今回はリゼも流石に焦る。
 剣身の付け根から切り落としたのだから無理もない。
 しかし今回は聖剣の魔力を溜め込める部分だけを聖剣とし、溜め込めない部分は新たに作り直す事にする。
 魔力を溜め込める素材を探して接着し、圧力をかけてしっかりと結合させる。
 ウェストラル国王の要望通りの長さになるよう継ぎ足していき、少し長めになったので先端を切断。
 刃毀れした部分も削る為、先端側も不要とした。
 今回は切っ先からポンメルまでの長さを130センチとした

 長さを決めたところで刃を潰し、新しく剣身を整えていく。
 グリップ側は新しくミスリルの板を接着した為、剣の形へとまた整える。
 表面を磨いて平らに仕上げたところで魔力量を確認すると、およそ3,200ガルドを少し上回る程度。
 少し厚みを持たせつつ、ブレードとグリップの継ぎ目部分には装飾を加える事でもう少し魔力量を稼ぐべきか。

 薄く切り出した魔力の溜め込めるミスリル板に装飾を施し、両面完成したところで剣身に接着する。
 このミスリル板には方向の呪文も装飾に交えて刻んである。
 再び魔力量を確認し、まだ少し足りないとミスリルの飾りパーツを作り始める。
 ウェストラルは海の美しい王国。
 そして装飾には海をイメージしたものがいいと言う国王の要望に応え、波をイメージしつつ美しさを感じさせようと、波と花を組み合わせた波の花をデザインして装飾とする。
 国王と話し合った作りとは違うが、リゼも絶賛する綺麗な剣となった。

 夕方には鏡面仕上げと刃付けまでが完了し、残りのグリップとポンメル部分は翌日作る事にした。



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 朱王とエレクトラはニコラスの魔剣作りだ。
 ニコラスは元聖騎士長である為、騎士の両手直剣をベースに朱王の好みでデザインする。

 素材選びをして魔力量を確認しながら切り出し、若干幅の広い剣として加工を進めていく。
 切っ先側から広がる剣身だが、ガード側になると少し窪ませてデザイン性を持たせてみる。
 剣身の表面を僅かに彫り込み、面と浮き彫りを加えて装飾とした。
 ガードは剣を扱いやすいようにとそれ程大きくなく、丸みを帯びさせつつも両端には爪のようなデザインを設ける。
 装飾は浮き彫りとして、中央には宝石のような形を作り込む。
 グリップは持ちやすいようにと、ニコラスの手の大きさに合わせて作る為、タングもグリップに合わせて削ってある。
 グリップは通常ミスリルを使用するが、魔力の流れを速くするのが目的だ。
 形を整えて装飾を彫り込んで、握りやすさと美しさを加える。
 ポンメルにはクリスタルをデザインした鋭利なものとし、内部には魔力色の魔石を埋め込む穴も加工する。

 夕方までには鏡面仕上げと刃付けを行い、残りは着色だけとなるがこの日はここで終了。



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 その日帰って来たシルヴィアは表情が死んでいた。
 身体的なダメージや体力は回復されているものの、心が完全に疲れ切っている。
 それはウルハも例外ではない。
 ミリーの回復による終わりの見えない実戦訓練が、帰宅する時間まで続いたのだ。
 精神が磨り減らされる思いだ。



 シルヴィアはさすがは聖騎士長と言うだけあり、技術的には蒼真も目を見張るほど。
 洗練された剣技は息を飲むほどに美しい。
 しかしながら精霊魔導に関しては初心者のシルヴィア。
 精霊の制御、教育がなかなかに上手くできない。
 精霊魔法を最小威力に抑え込んでの戦闘訓練をしたのだが、精霊であるヴァリエッタが渡した魔力以上にシルヴィアから引き出して魔法を発動する。
 自我が芽生えたばかりの精霊、要は契約したばかりの精霊は僅かな魔力では精霊魔法を発動してくれないのも原因だ。
 シルヴィアのイメージが込められた少ない魔力を渡しても、精霊としてはそれでは満足出来ないと、契約者から強引に魔力を引き出す。
 威力は乱れ、イメージも崩れる事でまともに制御ができないのだ。

 しかしミリーもアイリもシルヴィアのその制御しきれない精霊魔法をあっさりと受け止め、相殺しながらシルヴィアの訓練に付き合っている。

  

 朱雀はウルハとの訓練だ。
 ウルハはニコラスに鍛えられている為、剣術の実力は相当なもの。
 しかし擬似魔剣を手に入れた事で更なる強さを得たものの、精霊魔導がまだ不慣れだ。
 魔剣に比べて擬似魔剣の自我の薄い精霊であれば、それ程制御に苦労する程でもないが簡単でもない。
 朱雀の加減は絶妙で、ウルハの安定しない精霊魔法にも上手く対応してくれる。
 長時間に渡る訓練の為、精霊魔法といえども威力を抑えた訓練だ。
 魔力よりも先に体力と気力が尽き、体力だけ回復してまた続行。
 蒼真の指示によって気の無い攻撃をした場合には、朱雀が全力で攻撃を振るう為気が抜けない。
 気力が尽きたとしても命を掛ければ引き出せるものもあるだろう。
 朱雀との訓練ではあるが、気を抜けば怪我をする。
 痛いのは嫌だし傷が残るのだけは絶対に避けたい為、実際は己との戦いとなる。
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