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ウェストラル王国編

178 聖剣と魔剣が完成

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 また翌日もシルヴィアと蒼真達は昨日と同じように訓練に向かう。
 そしてこの日はウルハと交代してエイミーも訓練に同行する。
 ウルハから昨日の訓練を聞き、顔を青くしてついて行くエイミーだが大丈夫だろうか。



 千尋とリゼは聖剣カスタムの続き。
 まずはグリップを作るのだが、これまで完成している部分までの魔力量で3,400ガルド程。
 精霊は水属性のウィンディーネと契約しているが、今後何があるかもわからないので、念の為あと100ガルドは欲しいところ。
 グリップは扱いやすいようにと通常のミスリル素材で作り、ポコポコとした波打つグリップとして作り込む。
 指が馴染んで握り易いので、片手で振るっても良さそうだ。
 装飾も彫り込んで鏡面まで磨き込んでグリップは完成。
 ポンメルには魔力の溜め込める素材を使用して、クリスタルをデザインして多角形に削り出して鏡面に磨き込む。

 重厚に輝くミスリルの聖剣を今度は着色する。
 剣身と刃は白銀とし、装飾にと彫り込んだ溝には鮮やかな青を入れる事で、目の錯覚から青味がかった剣身に見えるようになる。
 波の花からなる装飾は青の濃度を変えながらグラデーションを与える事で美しく仕上げ、中心の宝石の装飾には朱王の七色魔石を着色し、その上から青を乗せる事でブルーオパールのように仕上げる。
 グリップには装飾で彫り込んだ溝には青を入れ、表面を青緑とする事で深みを与える。
 ポンメルには宝石をそのまま取り付けたかのように球状のものとし、台座に小さく白銀の装飾を入れた。
 ポンメルにもブルーオパール色で着色して完成。

 完成された聖剣はシンプルながらも美しく妖麗な剣となり、国王よりも女性が持った方が似合いそう。



 続けて聖剣の鞘作りだ。
 今回もミスリル製の鞘を魔力を溜め込める素材を使用して作る事にする。
 長めの直剣となるので、抜刀には向かないとは思うのだが。
 よくよく考えると稀少な素材ではあるが、朱王の在庫は信じられない程に多くある。
 聖剣、魔剣素材の山が無造作に箱に詰められているのだ。
 そのミスリルの塊にミスリル製の取手を付けるだけで威力の高い武器になると考えれば、この作業小屋は宝の山と言っていいだろう。

 鞘に使えそうな素材を集めて聖剣を当て、剣身の形に彫り込んでいく。
 同じような二枚の素材にいつものように魔力の流れない素材を貼り付けて接着。
 抜刀用の鞘のように鞘尻には装飾したミスリルを組み込むので別に作る。
 細身の聖剣となる為、鞘も薄く細く加工しながら魔力量を調整。
 能力のエンチャントに必要な1,500ガルドを狙って出来るだけ軽くなるように作る事にする。
 装飾した鞘尻のミスリルを接着し、鞘口側にも装飾のミスリルを作って接着して狙い通りの魔力量とした。
 色は装飾部を白銀に、鞘本体は黒くする事でブラッククロームの様な仕上がりとなった。
 鞘尻にある装飾部の中央にも宝石をデザインしてブルーオパール色として、鞘に聖剣を納めた時のバランスを取る。

 完成した聖剣を見つめる千尋とリゼ。
 鞘に納めた状態、抜刀した状態で確認するが、聖剣としてみた場合に物足りなさを感じてしまう。
 見事な作りではあるが、これまで好き勝手にど派手に仕上げてきた為、感覚がおかしくなっているのかもしれない。

 この聖剣にも名前が必要だろうと、聖剣フロッティと名付ける事とした。
 ウェストラル国王は精霊ウィンディーネと契約する予定という事で、暴水をエンチャントして下級魔法陣ウォーターを組み込んだ。
 貴族用ドロップを使用していたので、上級魔法陣はドロップに組めばいいだろう。



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 朱王とエレクトラも魔剣作りの続きだ。
 すでに磨き込みまで完成している為、着色して鞘を作れば完成だ。
 魔剣の彫り込んだ装飾部の底面は黒く塗り潰し、黒を塗り重ねる事で暗黒色とする。
 ガードの底面やグリップの地の部分も同じ様に暗黒色に着色。
 刃は着色せずにミスリルの重厚な銀、剣身の装飾も同じく着色は無しとする。
 ガードとグリップの未着色の部分には金を入れ、ガードに浮き彫りされた宝石のデザイン部には、千尋の真似をして七色の魔石に天色を塗り重ね、ジェリーオパールのような輝きを放つ。
 同じ色でポンメルのクリスタル部分も着色した。

 ニコラスは精霊ヴォルトと契約している為、迅雷をエンチャントして下級魔法陣サンダーを組み込む。
 魔力量4,000ガルドを超える魔剣の為、ヴォルトの器としてもまだ余裕はある。

 次に鞘作り。
 魔剣の剣身の形を変えた為、少し幅広な鞘を作る。
 剣身の幅に合わせて二枚の素材を彫り込んで、魔力の流れない素材を貼り付けて接着。
 装飾には別に作ったミスリルを貼り付けるので表面を薄く慣らして鏡面に仕上げる。
 鞘尻にも魔力の溜め込める素材で装飾を入れた部品を作り、鞘に重なる部分には透し彫りとして金に着色する。
 鞘口側にも装飾部品を作って固定。
 金の透し彫りの装飾が落ち着いた印象を与えつつも、気品のある仕上がりとなっている。

 鞘の魔鞘化も魔力の溜め込める素材を全て使用するわけではないのだが、鞘尻側に魔力の溜め込める素材を使用する事で魔鞘となる。

 完成した魔鞘に魔剣を納め、全体のバランスを確認して朱王も満足そうな表情を見せる。
 一緒に手伝ったエレクトラも新たに作られた魔剣を見て、その完成度にうっとりとした表情を見せる。
 自分の持つ夜桜がこのようにして造られたのかと思うと、より一層自分の夜桜が愛しく感じるのだった。



 朱王は完成した魔剣と魔鞘を見つめ、何か鞘に付与できる能力はないかと考える。

 しばらく考えたが思い浮かばず、千尋と相談してみる事に。

「ねぇ千尋君。直剣の鞘に付与する能力で何か良いのないかな?」

「抜刀じゃダメなの?」

「直剣だと抜刀の軌道を阻害しちゃうと思うから上体がブレると思うんだよねー」

「んー、じゃあ打突って事でノーモーションからの石突で打ち付けるのはどお? シルヴィアの話だと国王様も狙われてるかもしれないし良いかなーと思うんだよね」

「打突って事は剣は発射しないのか…… 護身用にはいいね。ニコラスだと雷撃も加えられるしそれにしよう!」

「オレが考えてたのは突然斬り掛かられたのを防ぐのが目的だけどね」

「目的は違うけど条件は同じかー」

 という事で朱王は攻撃を目的とした打突、千尋はを咄嗟の時の抜剣を目的として能力を付与する事にした。



 十五時のお茶を淹れに来たニコラスに完成した魔剣を渡す朱王。

「ニコラスの魔剣ラーグルフだ。シンプルに仕上げてみたけど出来はなかなか良いと思うよ」

「これを私に…… おお、なんと美しい…… 宝剣と言っても過言ではありませんぞ」

「精霊を移して使ってね」

 震えながら魔剣を抜き、その剣をしばらく見つめるニコラス。
 これから使用する事になる魔剣ラーグルフは、自分の命を預ける重要なもの。
 その剣の隅から隅まで記憶するよう見つめる。



 しばらく見つめ、擬似魔剣化したミスリル剣からヴォルトを移した。

 今度は魔剣を振るう事でこれまでのミスリル剣との違いを感じ取り、自分の体を合わせ込むよう一振り一振り修正していく。
 しばらく魔剣と剣技の修正を繰り返し、元のミスリル剣の作りの悪さ、そして今手にする魔剣の完成度に驚きの表情だ。
 剣技の修正後は明らかに剣速が速く、体の動きに無理がない。
 ミスリル剣が空気を切り裂くのに対し、魔剣は滑るような斬撃となる。

 そして朱王の説明から打突を試してみる。
 魔剣を鞘に納め、魔力を流し込む事によって魔剣が射出。
 鞘から抜き放たれない位置で止まるのだが、目にも留まらぬ速さでの抜剣が可能だ。
【打突】という事は攻撃に利用する目的もあるのだろうと、的になりそうな物を探すと朱王がミスリルの端材を持って受け止める姿勢。
 ニコラスの意思で放たれる石突による打突。
 魔剣に組み付けられたポンメルはクリスタルの様な鋭利なもの。
 朱王の持つミスリル板に突き刺さり、中央から貫通する程の威力があった。
 ただの打突でこの威力であれば、雷撃による追加効果で体内から内臓を焼き尽くされる事になるだろう。



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 聖剣と魔剣が完成したので国王用の飛行装備を作る必要がある。
 ウェストラル国王には、正室である王妃の他にも後宮の側室が三人いる。
 そして王子や王女が五人。
 十着分も作らなければならない。
 明日には国王との謁見を予定している為、今日中に作る必要があるだろう。

 まだ大量にある素材の中から特に状態のいいもの、強力な個体のものを選んで作る事にした。

 千尋と朱王で型に合わせてどんどん素材を切り裂いていき、リゼとエレクトラは着色の魔石とミスリルを削って粉末にする。
 国王から全員のイメージカラーを聞いていたので、それに合わせて着色したミスリル粉末をブラストして着色。

 国王の飛行装備は全て青にして金色の装飾を入れて綺麗に仕上げる。
 バックルも金に着色し、ウェストラル国王らしい飛行装備が完成した。

 王子達は国王と同じく全て青の飛行装備だ。
 しかし国王との違いは装備の色に金を使用する事はなく、ミスリルの鎧を使用する為銀の装飾を入れて、ところどころに別の色を入れる事で違いを出す。

 王女二人には真っ白な飛行装備を作り、銀と青の装飾を入れてウェストラル王国らしく仕上げる。
 こちらも別の色を一色ずつ入れる事で違いを出した。

 王妃には淡い水色の飛行装備に青と金の装飾を入れて綺麗にまとめる。
 バックルも金色にする事で王妃である事を強調する。

 側室の妃達三人の分はそれぞれ違う色で作る事にした。
 装飾は銀となるが、濃紺、青緑、青紫の三色として青に因んだ色としてある。



 全員分が完成したのが十七時を過ぎたところ。

 シルヴィアと蒼真達も十七時前には帰ってきており、もう少しで完成するという事でコーヒーを飲みながら待っていた。

 シルヴィアはこの日もぐったりとしており、エイミーもやはり目が死んでいた。
 自分の限界を知りながらも即回復、即戦闘の繰り返し。
 終わりのない戦闘は自分の限界を超え、そして限界の限界を超え、何度も回復されるうちにさらにその先の限界を超えさせるという地獄の様な訓練。
 すり減った心は目から涙を流し、癒された体は無意識のうちに武器を構えさせる。

 コーヒーカップを持ち上げる事すら出来ないほどに手が震えるシルヴィアとエイミー。
 両手で支え、コーヒーを口に含むとまた自然と涙が溢れていた。
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