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ウェストラル王国編

200.1 しんしんと

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 朱王様方とディミトリアス大王他北の魔貴族の方々とリルフォンでお繋ぎしたのが昨日。
 戦闘で疲れただろうという事で、人間領へと戻るのを今日という事にしたんですがね。
 困った事に雪が降ってきてしまいました。

 今回人間領へと向かうのが私とフィディック。
 それと魔人領からはアリス王女とセシール侯をお連れします。
 お二人共人間領に行ける事を喜んでいたのですが、雪が降っては仕方がありません。
 雪が止むのを待って出発としましょう。



 マーリンとメイサは昨日から装備の加工を始めています。
 我々の寝袋は各種耐性を備えた素晴らしい素材を使用していますからね。
 なんの躊躇いもなくナイフで切り裂いて加工を進めていますが、あれでいてお二人共なかなかに器用ですから心配はいりません。
 魔獣の素材と寝袋から切り出した素材を合わせて、この寒さでも問題のない装備を作ってくれるでしょう。

 やはり皆さん装備には興味があるようで、マーリン達の作業を食い入るように見つめておりました。
 魔獣装備は熱による接着は人間領も魔人領も同じように施行するようですが、魔法で熱した石で熱溶着しているという事で魔人領での加工は綺麗には出来ないようです。
 我々はミスリル金属のナイフで加工するのですから切り口も真っ直ぐだ溶着も熱が均等で綺麗に仕上がります。
 とはいえ朱王様から教えてもらった加工方法なのですがね。

 人間領の装備と言えば魔獣装備はそれ程普及しておらず、金属かミスリルの装備が主流です。
 通常魔獣の素材で加工した装備ではそれ程強度がない為、装備ではなく衣類という扱いですし、金属の装備の方が防御性能は高いでしょう。
 高難易度魔獣の素材で作るのであれば、魔力による再生機能もあり、強度や柔軟性、魔法への防御性能も高くミスリル装備よりも優位な点が複数あります。
 ただその素材が簡単に手に入るかといえば難しい問題ですね。
 高難易度魔獣を倒せる冒険者も少ないですし、倒したとしても痛みの酷い状態の素材となります。
 加工前に傷んでしまうと魔力を流してもその部分は再生しませんからね。



 さて、出発できませんから私も一つ作業をしましょうか。
 寝袋から必要素材を切り取った事で、魔石を投入する部分が残ります。
 寝袋に組み込まれていた為、装飾等のない魔道具単体ですね。
 装飾はありませんが高級寝袋に組み込まれていただけあって磨かれてあって見た目も悪くはありません。
 こちらには表面をミスリルコーティングされた針が付いているのですが、その針が魔石に接触する事でヒートストーン等の魔法効果を得られる仕組みです。
 一箇所に起点を置いてミスリル針の重さで魔石に接触させ、その下は魔石を固定する為のポケットが配された構造となります。
 魔石の効果はミスリル針の接触面積で調整していますので、寝袋では先端が少し潰れた程度のミスリル針が丁度いいのです。

 大王城はしっかりとした作りとはいえ、ガラスもないので木製の窓を閉めると客室内はやや薄暗いです。
 室内の所々には光の魔石が埋まっているので真っ暗というわけではないのですが。
 魔石の効果を利用しているではないですかとも思ったのですが、天然の光る石を利用していると言っておりましたので、このような光る鉱石という認識のようです。

 さてこの魔道具をどうするのか。
 寝袋を二つ分解しましたので魔道具は二つ分ありますし、普段から皆さん入り浸っているこの客室を快適なお部屋にしましょう。
 一つは灯り用として天井付近に設置します。
 ゴーストから手に入れたライトストーンはたくさんありますのでこちらを使用。
 魔道具の内部から天井に強い光が当たって反射する事で柔らかい光が室内を照らすようになりました。
 影の出来方が少し気になりますので、今後天井や壁を白く塗れば良くなるかもしれません。
 もう一つにはヒートの魔石を入れて室内を暖めます。
 室内を暖めるという事でミスリル針の先端を潰して熱量を調整してありますし、この寒い時期でも快適に過ごせるでしょう。



 その後、また映画を観に戻ってきた皆さんですが、この部屋の暖かさ、明るさに大変喜んで頂けました。

「もうこの部屋から出たくはないな」と言うディミトリアス大王は、守護者の方々に指示を出して部屋を改装していました。
 客室という事で置かれていたテーブルや椅子は室外へと運び出され、ディミトリアス大王の自室から複数のソファを運び込んでおりました。
 後部に配されたソファでは見づらいと、床の石材を積んだりと工夫もしていましたね。
 とても快適だと満足し、この日からは客室ではなくモニター部屋と呼ばれるようになっておりました。

 今後人間領から戻ってくる際には、魔道具をたくさん持って来たいところですがかさばりますからね。
 器は魔人領の人々に作ってもらう事にして、ミスリル針と部品だけであればたくさん持って来られるでしょう。





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 雪が降り始めてから一週間。
 それ程多くの雪が降っているわけではないのですが、降り積もった雪はすでに50センチ程もあるでしょうか。
 雪が止んで出発したとしてもそれ程速くは移動できないかもしれませんね。
 ある程度の耐寒装備を着ているとはいえ、剥き出しの肌はこの寒さには耐えられません。

 しかし…… ディミトリアス大王や守護者の方々は毎日映画を観て楽しまれていますが、お仕事の方は大丈夫なんでしょうか。
 日に何度か城を訪れる他の領地の遣いの方達のお相手をする以外は仕事をしているようには見えません。
 そもそも大王や守護者の方々は決まった仕事などは無いのかもしれませんね。
 領地を任された魔貴族の方々が統治し、報告や税を受け取っているだけという可能性もあります。
 今後人間領と関わっていくとなると、ディミトリアス大王も魔人領の統治には苦労する事でしょう。
 報告を受けているだけでは管理はできませんからね。
 今後その辺りは魔貴族の方々と話し合ってもらう事にしましょうか。



 そうそう。
 マーリンとメイサの耐寒装備作りは四日程で終わりましたね。
 魔獣装備はミスリルナイフで溶着までの加工もできるのですが、各種耐性素材は熱溶着ができません。
 持ってきていた裁縫道具で縫い合わせる必要がありました。
 もしもの時に強度のある紐が必要になる場合もありますからね。
 念の為持ってきたミスリル糸が役に立ちました。

 完成した装備は上着と腰布なのですが、ここ魔人領では最上級の出来でしょう。
 二人共職人ではないので人間領の通常装備に比べれば見劣りするかもしれませんが、素材も上位魔獣装備ですから人間領の職人でもここまでの加工はできないはずです。

 魔獣装備ですから派手さはないものの、八人分…… 八魔人分でしょうか、少しずつ違いがあって皆さんお似合いです。
 それぞれ使用していた外套をベースに作ったようですが、アリス王女の毛皮のコートは全員の装備に使用されています。
 男性は毛皮のマフラーとして首に巻いてあるようですね。
 メイサから聞きましたがマフラーの中には耐性素材が仕込まれているのでとても暖かいのだとか。
 我々の出発が遅れた事もあってアリス王女とセシール侯にも魔獣装備をお渡ししました。
 マーリンとメイサは元の装備を返していましたし、人間領に行ったらまた何か服でも買って差し上げましょうか。
 女性の皆さんの装備はというと、襟元と袖口、腰布の裾に毛皮が使用されており、とても可愛らしく仕上げられています。
 この完成した耐性装備にはディミトリアス大王も皆さんもとても満足そうで、作ったマーリンとメイサも作った甲斐があると言うものですね。



 雪が降る中で空へと舞い上がったスタンリー侯でしたが、耐寒耐冷機能のおかげで速度を上げて飛行しても凍えるという事もないようです。
 ただ剥き出しの肌は耐性効果がありませんので、雪が降る中の移動はやめた方がいいでしょう。





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 雪が降り止んだのは降り始めてから十二日後の事でした。
 辺り一面雪景色ですが、雲一つない晴天の為出発をしても良さそうです。
 念の為クイーストのテンクスに天気の確認をしましたが、あちらも昨日から晴れているという事でしたのでしばらくは問題はないでしょう。

 特にこちらから持って行くものはありませんし、食料もほとんど手をつけてない非常食があります。
 非常食とはいえ日持ちのする干し肉や乾パンなどですからそこそこ美味しく食べる事ができますし、アリス王女達も不満はないでしょう。
 テントと寝袋、非常食を持ったら出発です。

「それではマーリン、メイサ、レイヒムは皆さんと仲良くしていてくださいね。何か必要な物があればリルフォンで連絡してもらえば持ってきますから」

 朱王様としていたように私も彼等と定時連絡をとる事にしました。

「行って参ります、ディミトリアス大王様! お土産を期待していてください!」

「うむ。西の国を渡る時はくれぐれも注意するのだぞ」

 アリス王女は不安よりも好奇心が勝っているようですね。
 嬉しそうに皆さんと出発の挨拶をしています。
 それはセシール侯も同じですか。
 二人共この日をとても楽しみにしていましたからね。

 アリス王女達の飛行速度に合わせて、いざ人間領へと向かいましょう。
 我々は空へと飛び立ちました。
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