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旅の終わり編

206 クリムパーティー

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 その日の宿はクリムのオススメ宿とも思ったのだが、彼らは持ち家があるというので泊めてもらう事にし、足りないベッドや毛布などは知り合いの宿の店主にお願いして運んでもらったとの事。
 クリム達は街でも人気の冒険者という事で、このような少し無理なお願いにも街の人は協力してくれるそうだ。
 今夜泊まる宿の心配もなくなったので、車はクリムの家の敷地内に停めさせてもらう事にして役所前から移動する。



 夕食はまた昼と同じ酒場で酒盛りをする事にした。
 酒場では広い室内でテーブルを繋げて食事をする事になり、蒼真からは大事な話があるとして魔族の件について話をする。
 その件を国王が語る前に他者に聞かれるわけにもいかない為、ランの精霊魔法で空気の振動を遮断して声が漏れないようにしているので問題はないだろう。

 その内容はゴールドランク冒険者とはいえ、やはりゼス王国の端にあるヨルグの街の冒険者である自分達が聞いてよかったのかと不安になるクリム達。

「もし、魔族との戦争になれば多くの人々が死ぬだろう。各国が協力して当たる事にはなると思うが、何も知らないまま魔族に攻め入られたとなればそう簡単には覚悟が決まらないだろう。だから戦う力を持ったクリム達にはこの事を知っていてほしくてな」

「ここまで攻め入られるかはわからないし勝てるかもわからない。だからクリム達にはできるだけ多くの人を守ってくれるようお願いしたいかなー」

 彼らは冒険者である。
 だとすれば国や領主からの依頼を受けた、役所からのクエストとして彼らは動くべきなのだ。
 蒼真と千尋はそれでは遅いと考え、多くの人々を守ってほしいと語る。
 それでは報酬も何もないのだが、被害が出てからでは守れるものも守れなくなってしまう。
 だからこれは蒼真と千尋からのお願いとなるのだ。



 千尋達は食事を楽しみながら甘めの酒やデザートなどを注文し、ヨルグの味を堪能している間、ランカとレンジアは酒を飲む手を止めて考え込み、クリムとカミーリアは今聞いた話をまとめながら今後この街を守る為ならと話し込んでいる。

 しばらくして。

「話はよくわかった。オレ達は守れる限りの人達を守り抜く事を約束しよう。なに、この街だけではない。世界各国の危機なんだ。全員が団結して事に当たるべきだろう」

 クリムも報酬も何もない事がわかった上で応えたのだろう。
 そして戦う力のない者を守りながらの戦いは危険なものであり、それを理解した上で了承してくれたのだ。
 千尋も蒼真もクリム達に感謝しかない、と、思ったところ……

「待てよ。何言ってんだよクリム! そうじゃねーだろ!?」

 声を上げたのはランカだ。

「いいや、間違っていない。オレ達は多くの人々を守る必要がある。これは冒険者としてではなく王国の国民として、そして戦う力のある者として当然の行いだ」

 クリムと話し込んでいたカミーリアも同じ意見だ。

「だから何言ってんだよ!? 違えだろ!? お前は戦争が始まったらこいつら千尋達がどこで戦うと思ってんだ!? 間違いなく最前線だろ!? 見た目からしてオレ達より若えこいつらが命懸けて前線に出て戦うんだぞ! 一度オレ達の命を救ってるこいつらが命懸けてんのにオレ達はここで来るとも知れねぇ敵を待つって言うのか!? ふざんけじゃねぇよ!!」

 声を荒げるランカの肩にレンジアが手を置いて話し出す。

「この街を何があっても守るっていうのは俺にもわかる。もちろん損得なしで言ってんのもわかる。俺達の心配してんのだってわかる。けどな、今回はランカの言う通りだぜ。戦争が始まりゃ俺は前線に出る」

 千尋と蒼真の予想外に揉め出したクリムパーティー。
 ランカやレンジアが言うように前線に出る必要があるならば王国から通達があるはずであるし、もちろんとんでもない額の褒賞付きでだ。

「じゃあランカもレンジアもこの街はどうなってもいいって言うのか!? オレ達の守りたいものが、大切なものがここにはあるだろう!!」

「「当然守りてぇに決まってんだろ!!」」

 どんどんヒートアップしていく。
 取っ組み合って今にも殴り掛かりそうだが、客として千尋達がいるせいか殴り合いにはなりそうにない。

 口論が続いているのをよそに千尋と蒼真もまぁいいかと食事と酒を手にして美味しそうに口に運ぶ。
 そんな二人にアイリとリゼも苦笑い。
 やむを得ず口を挟もうとしたところでミリーに手を掴まれ、首を横に振るのを見てまた席につく。
 どうやらミリーも止める気はないようだ。



 しばらくするとお互いに言いたい事をぶつけ切ったのか口数が減り、声も次第に低くなっていく。
 そこで千尋は四人分の新しい酒を注文して一息ついてもらう事にした。

「ランカとレンジアの言ってる事もわかってるんだ。オレだって彼らの力になりたいとは思う。それでもこのパーティーのリーダーとして…… いや、違うな。お前達を、仲間を失いたくないんだ。頼むから生きてくれよ……」

「俺だってお前らに死んでほしいわけじゃねぇよ。でも千尋達は…… その死んじまうかもしれねぇ前線に行くんだ。力尽きたらその場で死んじまうんだぞ……」

 どうやら街を守るどうこういう話ではなく、前線に出る出ないに話は変わっていたようだ。
 そして千尋達を死ぬ前提で話を進めている。

「ちょっと待った! 言っておくけどオレ達死ぬつもりはないよ? むしろ体力尽きたら逃げるつもりだしさぁ」

「回復待ってまた出ればいいしな」

「体力尽きてどうやって逃げるって言うんだよ……」

「もちろん…… 空から?」

「はぁ……」

 クリム達が理解できないのも当然だ。
 飛行装備の事を知らないのだから。

「千尋。ちょっと説明しといてくれ。オレは車から四人分取ってくる。誰か一緒に来てくれるか?」

「行きます!!」

 蒼真とアイリで飛行装備を取りに車へと向かう。
 その間に自分が装備している魔獣素材の腰布が飛行装備である事を説明する千尋。
(何を言ってるんだ?)といった表情を見てめんどくさくなり、外に出て実際に空を飛ぶところを見せると四人共驚愕に大きな口を開いていた。



 蒼真とアイリが数分で戻り、四人の装備に合った色の物をそれぞれプレゼントする。
 朱王や国王達の許可はないが、彼らも前線に出て戦ってくれるのかもしれないのだ。
 戦力となるのであれば渡しても問題はないだろう。
 この飛行装備は、千尋とリゼが魔剣作りをしている間に蒼真とアイリが作ったものだ。
 その間、ミリーとエレクトラは暇をしていたかと問われればそういうわけでもなく、ミリーはエレクトラから貴族や王族の礼儀作法などを学んでいたりする。

 受け取ったクリム達は腰布を装備するのだが、カミーリアはロングコートを着ている為、装備を新調する必要がありそうだ。
 一旦はコートを脱いで装備し、四人で月明かりの下、空を飛んでその性能を確かめた。

 空を舞うというのは多少なりとも恐怖を感じるものであるはずなのだが、彼らは酒が入っている事もあって楽しそうに飛行している。
 しばらくは夜空の飛行を楽しむだろうと、千尋達は店内に飲み直しに戻っていく。



 ある程度飛行装備に満足したのか、二十分程すると店内に戻ってきて席につき、酒を注文して千尋達と向かい合う。

「思いの外楽しくて待たせてしまったな。しかしこれ程の装備をもらってもいいのだろうか?」

「各国の王様達が素材を用意してくれた物だから勝手にあげたりはできないんだけどね。戦力になりそうなクリム達なら渡しても問題ないよ」

「これなら戦場でヤバくなっても逃げられそうだしな。ヨルグの街が危ねぇってんなら前線離れてこっちに戻ってもいいだろうしよぉ。行こうぜクリム」

「確かにこれなら死の危険からは回避できる確率は格段に上がるが…… しかしヨルグに危険が迫ったとしても報せがあるまで相当な時間がかかる。それまで保ち堪える事ができるかどうか……」

 悩むクリムだが、千尋達にとってはその報せもすぐにできるのだ。
 蒼真が持っていたリルフォンを五個渡し、その機能を説明してしまえば連絡が簡単にとれる事で報せの問題も解消し、また、やがてくる魔族との戦いの為の拠点を移す必要もなくなってしまう。
 残りの一つは役所の所長にでも預けておけばいいだろう。



 あっさりと二つの問題を解消できたのだが、千尋はさらにもう一つ提案する。
 それはもちろんヨルグの冒険者達の強化だ。
 冒険者仲間の話を聞くと、シルバーランクまではいないものの、五人パーティーのパープルランクと四人ずつのブルーランクパーティーが二つあるそうだ。
 その実力も高く、持っている装備もミスリル武器やキメラ武器などという事でその三つのパーティーを強化する事にした。
 魔力練度を確認してからとなるが、おそらくはアルテリア仕様の300ガルドで充分と考えられる。
 以前ザウス王国の聖騎士達も300ガルドの強化であれば、単独で魔族とも勝利を収める事ができたと考えれば性能としても充分だろう。
 これでヨルグの街の防衛問題も解決する。

 とんとん拍子に話が進み、全ての問題が解決しそうだという事でクリム達も連絡があり次第、前線へと応援に駆け付けてくれる事が決まった。

 それならば千尋達が街にいるうちにという事で、ランカはその三つのパーティーを呼び出そうと提案し、ランカとレンジアで二つのパーティーを探しに行った。
 それぞれ宿にいるか、行き付けの酒場のどちらかにはいるはずだと駆け出した。

 そして三つのうちの一つ、パープルランクのパーティーは店内にいたという事で探しに行く必要はない。
 そのパーティーの五人のうち、壮年の魔術師だけは魔力練度もクリムに匹敵する高さだった為、ミスリルロッドを擬似魔杖化して精霊魔導師になってもらった。
 試しに魔法を放つ事はできないが、全員武器に魔力が溜められらようになった事はわかるだろう。
 強力な魔法が簡単に発動する事ができるようになるはずだ。

 その後ランカやレンジアに連れられた二つのパーティーも酒場に到着し、全員のミスリル武器やキメラ武器を強化した。



 強化を終えて、せっかく集まってもらった事だし三パーティーを含めて酒盛りを開始し、ヨルグの街の夜を楽しんだ。

 彼らの話の中で映画の日も語られたのだが、どうやらミスリルモニターはこの街の領主邸前に設置されているらしく、当日にはやはり街をあげてのお祭り騒ぎとなっているそうだ。
 以前も静かでいい街ではあったものの、今は週末には楽しい娯楽があり楽しい街になったと喜んでいるようだ。
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