初恋の王女殿下が帰って来たからと、離婚を告げられました。

ましゅぺちーの

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21 殿下の提案

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家族と使用人たちが出て行った後、私たちは元いたソファへ座って話を始めた。


「で、殿下……今のは一体どういうことですか?しっかりと説明してくれないと……」
「ああ、すまないな。突然あのようなことをして驚いただろう」
「当然です、何も聞かされていなかったのですから」


未だに戸惑いが隠せない。
何故殿下が私に求婚したのか、聞きたいことは山ほどある。


(私は王太子殿下に釣り合うような女ではないのに……どうして……)


もしかすると、遊びなのではないか。
惨めな女をからかっているんじゃないか。
一度大切な人に裏切られたからか、そう簡単には人を信じられなかった。


「……さっきのあれは本気なのですか?」
「私が大勢の前で冗談を言うとでも?」
「い、いえ、そんなことは……」


さっき見せた殿下の表情は真剣そのものだったし、とても嘘を付いているようには見えなかった。
しかし、それなら一体どうして。


「何故、私に結婚を……?」
「さっき言わなかったか?君の人柄に強く惹かれたと」
「それが理解出来ません……」
「そうか……上手く伝わっていなかったか」


ボソリとそう呟くと、殿下はフッと口角を上げた。
気のせいか、その顔は少し嬉しそうだ。


「昨日の舞踏会で、君だけが私を庇ってくれたと聞いた」
「え……あ……」


(王女殿下と話したときのこと……殿下の耳にも入っていたのね……)


あれほど大きな騒ぎを起こせば当然のことだが、本人に知られていたというのは少し恥ずかしい。


「侍従から話を聞いたんだ。アメリア王女やその取り巻きたちが私を悪く言っているのに対し、君だけがそれに対して否定的な意見を言っていたと」
「……」
「純粋に嬉しかったよ。打算無しで家族以外の人間に優しくされたのは初めてだったからね」
「殿下……」


そう言った殿下の顔は普段よりもずっと柔らかかった。


(殿下……嬉しそう……)


「それから、側近に君のことを調べさせたんだ」
「わ、私のことをですか……?」
「ああ、気になって眠れなくなってしまってな」


殿下が恥ずかしそうに目を逸らしながら笑った。


「そうしたらカルメリア侯爵家での凄惨な仕打ちと、今現在窮地に立たされているのだということが分かった」
「……」
「それを知ったとき、私は君をこの侯爵家から救いたいと思った。私も君に助けられたのだから、今度は私が君に手を差し伸べる番だ」
「殿下……」


驚くことに、殿下は私の状況も侯爵家での仕打ちも全てを知ったうえで結婚を申し込んでいたのだ。
私の全てを受け入れるということだろうか。


少しだけそんな期待をしてしまう自分がいる。


「もちろんすぐに結婚とはいかないだろう。お互いに離婚したばかりだからな。しかし、隣国の王太子である私と親しくしているとすれば君の家族や使用人たちも君に手は出せなくなるはずだ」
「それは……その通りですね」
「――だから、少々強引な手を取らせてもらった」


彼は意地悪そうにニヤッと笑みを浮かべた。


(……それで、あんなに大勢の前で私に結婚を申し込んだわけね)


たしかにあんな風にされれば屋敷の人間たちは今後私をそんざいに扱えなくなるだろう。
王太子の恋人に傷が付いては大変だから。


殿下の意図を聞き、私の中で様々な思いが芽生えた。


(彼の求婚を受けて悪い気はしなかった…………家のことを考えるならこれ以上良い相手はいないわね……それに加えてとても優しい方だし……。……でも、私ではどう考えても釣り合わないわ)


申し訳ないと思いながらも、私は断ることを決めた。
殿下が良くても、彼の両親や国民たちが私のような女を王妃として認めるわけがないから。
父親はガッカリするだろうが、こればっかりは仕方が無い。


「殿下、私は……」
「もちろん強制はしない。さっきも言った通り君の意思を尊重するつもりだ。だから、君が私の求婚を断るなら隣国に住む家を用意しよう」
「え……」
「家族とも縁を切り、君がこの先穏やかに暮らせるように手配する」
「そ、そこまでしてもらうわけには……!」
「――どちらを選ぶかは君の自由だ」


そこまで言うと、殿下は上着を羽織って立ち上がった。
私の返事を今日聞くつもりは最初から無かったと言ったような振る舞いだ。


「私は君を恨んだりしない。だから自分の好きなほうを選んでくれ。時間はたっぷりある」
「……」
「それでは、そろそろ失礼する。急な訪問すまなかった、アリス嬢」


それだけ言い、殿下は応接間を出て行った。


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