22 / 64
22 知らない女 アルデバラン公爵視点
しおりを挟む
アメリアが騒ぎを起こした舞踏会の日。
早めに公爵邸へと帰った私は、そこで信じられない光景を目にすることとなる。
「旦那様、大変です!」
「一体何だ?」
帰宅するなり公爵家の侍女が慌ただしい様子で私の元へとやって来た。
(珍しいな、こんなに焦っているなんて)
それに何だか屋敷内が騒がしいような気もする。
「ア、アメリア王女殿下が部屋で暴れていて……」
「……何だと?」
(アメリアが暴れているだと?あのアメリアが?)
すぐに信じることは出来なかった。
私の中での彼女は聖母のように優しい心を持つ女性だったから。
「お止めになるよう言っても聞かなくて……」
「……案内してくれ」
「はい」
侍女の案内で現場へ向かうと、そこには髪を振り乱して部屋の中を散らかすアメリアの姿があった。
(……誰だ、これは)
少なくとも今私の視界にいるこの女は、私のよく知る彼女ではなかった。
「ああ、ムカつく!!!」
「……アメリア?」
「……あら、ルーカスじゃない。帰ってたのね」
アメリアは私を一瞥して、少しだけ落ち着きを取り戻したようだった。
私はそんな彼女に慌てて駆け寄った。
「アメリア、何をしてるんだ!ここは……公爵夫人の部屋?」
アメリアが暴れていたのは代々アルデバラン公爵家の正妻が使用してきた部屋――少し前まではアリスが暮らしていた場所でもあった。
彼女はボサボサになっていた髪を整えると、私の服に縋りついた。
「ねぇルーカス、お願いがあるの!この部屋を今すぐ跡形も無く消してちょうだい!」
「な、何を言っているんだ……?」
「だってこの部屋、あのアリスって女が使ってた場所なんでしょう?そんな部屋が存在している屋敷に住んでいるってだけで気持ち悪いわ!不愉快極まりないから今すぐ無くしてほしいの!」
「なッ……」
言葉が出ない。
彼女が言っていることを理解出来ないのは私だけではないはずだ。
後ろに控えている使用人たちも皆絶句している。
「アメリア、そんなこと出来るわけないじゃないか」
「どうして?あなたは私のためだったら何だってしてくれるじゃない」
「そ、それは……」
たしかに私はアメリアのためならどんなことだってしてきた。
少々高価な宝飾品だって彼女が欲しがれば迷うことなくプレゼントしてきたし、本来なら王女がやらなければならない仕事を代わりに引き受けたことだってあった。
「私のお願いなら何だって聞けるんでしょう?昔言ってたじゃない」
「……」
アメリアが上目遣いでじっと見つめてくる。
少し前ならそんな彼女が愛おしくてたまらなかったはずだ。
しかし、今は酷く疲れているせいか心が動かされることは無かった。
「そんなこと……出来ないよ……」
優しくそう言い聞かせるのが精一杯だった。
私の答えを聞いたアメリアは特に落ち込んだ様子も見せず、つまらなさそうに私から離れた。
「ふーん……貴方、この五年間で随分変わったのね」
「変わったって?変わったのはむしろ……」
”アメリアの方じゃないか”と言おうとしたところで彼女がさっと私の言葉を遮った。
「あのアリスって女のせいかしら?三年間結婚してたって聞いたけど、あの侯爵家のお荷物に随分と絆されたようね」
「お荷物……?何を言っているんだ?」
「あら、もしかして貴方は何も知らないのかしら?」
意味が分からないというような顔をする私を見て、アメリアはキャハハと笑った。
「三年間も一緒にいて何も知らないだなんて!笑っちゃうわ」
「何も知らない?一体何の話をしているんだ!」
「何で私がわざわざ説明しないといけないのよ。あ、でも少なくともこの邸にいる使用人たちは知ってるんじゃないかしら?」
「……」
私は後ろにいた使用人たちをの方を振り返った。
私の視線を受けた彼らはビクッと肩を震わせ、全員が気まずそうに目を逸らした。
(何だ……?)
早めに公爵邸へと帰った私は、そこで信じられない光景を目にすることとなる。
「旦那様、大変です!」
「一体何だ?」
帰宅するなり公爵家の侍女が慌ただしい様子で私の元へとやって来た。
(珍しいな、こんなに焦っているなんて)
それに何だか屋敷内が騒がしいような気もする。
「ア、アメリア王女殿下が部屋で暴れていて……」
「……何だと?」
(アメリアが暴れているだと?あのアメリアが?)
すぐに信じることは出来なかった。
私の中での彼女は聖母のように優しい心を持つ女性だったから。
「お止めになるよう言っても聞かなくて……」
「……案内してくれ」
「はい」
侍女の案内で現場へ向かうと、そこには髪を振り乱して部屋の中を散らかすアメリアの姿があった。
(……誰だ、これは)
少なくとも今私の視界にいるこの女は、私のよく知る彼女ではなかった。
「ああ、ムカつく!!!」
「……アメリア?」
「……あら、ルーカスじゃない。帰ってたのね」
アメリアは私を一瞥して、少しだけ落ち着きを取り戻したようだった。
私はそんな彼女に慌てて駆け寄った。
「アメリア、何をしてるんだ!ここは……公爵夫人の部屋?」
アメリアが暴れていたのは代々アルデバラン公爵家の正妻が使用してきた部屋――少し前まではアリスが暮らしていた場所でもあった。
彼女はボサボサになっていた髪を整えると、私の服に縋りついた。
「ねぇルーカス、お願いがあるの!この部屋を今すぐ跡形も無く消してちょうだい!」
「な、何を言っているんだ……?」
「だってこの部屋、あのアリスって女が使ってた場所なんでしょう?そんな部屋が存在している屋敷に住んでいるってだけで気持ち悪いわ!不愉快極まりないから今すぐ無くしてほしいの!」
「なッ……」
言葉が出ない。
彼女が言っていることを理解出来ないのは私だけではないはずだ。
後ろに控えている使用人たちも皆絶句している。
「アメリア、そんなこと出来るわけないじゃないか」
「どうして?あなたは私のためだったら何だってしてくれるじゃない」
「そ、それは……」
たしかに私はアメリアのためならどんなことだってしてきた。
少々高価な宝飾品だって彼女が欲しがれば迷うことなくプレゼントしてきたし、本来なら王女がやらなければならない仕事を代わりに引き受けたことだってあった。
「私のお願いなら何だって聞けるんでしょう?昔言ってたじゃない」
「……」
アメリアが上目遣いでじっと見つめてくる。
少し前ならそんな彼女が愛おしくてたまらなかったはずだ。
しかし、今は酷く疲れているせいか心が動かされることは無かった。
「そんなこと……出来ないよ……」
優しくそう言い聞かせるのが精一杯だった。
私の答えを聞いたアメリアは特に落ち込んだ様子も見せず、つまらなさそうに私から離れた。
「ふーん……貴方、この五年間で随分変わったのね」
「変わったって?変わったのはむしろ……」
”アメリアの方じゃないか”と言おうとしたところで彼女がさっと私の言葉を遮った。
「あのアリスって女のせいかしら?三年間結婚してたって聞いたけど、あの侯爵家のお荷物に随分と絆されたようね」
「お荷物……?何を言っているんだ?」
「あら、もしかして貴方は何も知らないのかしら?」
意味が分からないというような顔をする私を見て、アメリアはキャハハと笑った。
「三年間も一緒にいて何も知らないだなんて!笑っちゃうわ」
「何も知らない?一体何の話をしているんだ!」
「何で私がわざわざ説明しないといけないのよ。あ、でも少なくともこの邸にいる使用人たちは知ってるんじゃないかしら?」
「……」
私は後ろにいた使用人たちをの方を振り返った。
私の視線を受けた彼らはビクッと肩を震わせ、全員が気まずそうに目を逸らした。
(何だ……?)
712
あなたにおすすめの小説
婚約者の私を見捨てたあなた、もう二度と関わらないので安心して下さい
神崎 ルナ
恋愛
第三王女ロクサーヌには婚約者がいた。騎士団でも有望株のナイシス・ガラット侯爵令息。その美貌もあって人気がある彼との婚約が決められたのは幼いとき。彼には他に優先する幼なじみがいたが、政略結婚だからある程度は仕方ない、と思っていた。だが、王宮が魔導師に襲われ、魔術により天井の一部がロクサーヌへ落ちてきたとき、彼が真っ先に助けに行ったのは幼馴染だという女性だった。その後もロクサーヌのことは見えていないのか、完全にスルーして彼女を抱きかかえて去って行くナイシス。
嘘でしょう。
その後ロクサーヌは一月、目が覚めなかった。
そして目覚めたとき、おとなしやかと言われていたロクサーヌの姿はどこにもなかった。
「ガラット侯爵令息とは婚約破棄? 当然でしょう。それとね私、力が欲しいの」
もう誰かが護ってくれるなんて思わない。
ロクサーヌは力をつけてひとりで生きていこうと誓った。
だがそこへクスコ辺境伯がロクサーヌへ求婚する。
「ぜひ辺境へ来て欲しい」
※時代考証がゆるゆるですm(__)m ご注意くださいm(__)m
総合・恋愛ランキング1位(2025.8.4)hotランキング1位(2025.8.5)になりましたΣ(・ω・ノ)ノ ありがとうございます<(_ _)>
三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します
冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」
結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。
私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。
そうして毎回同じように言われてきた。
逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。
だから今回は。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
花嫁に「君を愛することはできない」と伝えた結果
藍田ひびき
恋愛
「アンジェリカ、君を愛することはできない」
結婚式の後、侯爵家の騎士のレナード・フォーブズは妻へそう告げた。彼は主君の娘、キャロライン・リンスコット侯爵令嬢を愛していたのだ。
アンジェリカの言葉には耳を貸さず、キャロラインへの『真実の愛』を貫こうとするレナードだったが――。
※ 他サイトにも投稿しています。
さようなら、わたくしの騎士様
夜桜
恋愛
騎士様からの突然の『さようなら』(婚約破棄)に辺境伯令嬢クリスは微笑んだ。
その時を待っていたのだ。
クリスは知っていた。
騎士ローウェルは裏切ると。
だから逆に『さようなら』を言い渡した。倍返しで。
悪役令嬢は手加減無しに復讐する
田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。
理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。
婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる