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39 罪 アルデバラン公爵視点
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「な……それは、本当か……?」
「はい、旦那様……」
アメリアが部屋を出て行った後、私は使用人たちから前妻のアリスの過去を聞いた。
私はこれまで彼女について全く知らなかった。
政略結婚で娶った女だからと、知ろうともしなかったのだ。
(私は、何てことをしてしまったんだ……!)
全てを知ったとき、激しい後悔に苛まれた。
離婚という選択が彼女にとってどれほど残酷なものだったか、今になって思い知ったのである。
「そ、そんな……馬鹿な……」
「……」
使用人たちは狼狽する私を呆れたような顔で見ている。
そういえばアリスが出て行ってから、公爵邸の使用人たちが冷たくなったような気がする。
(ハハハ……当然だな……)
馬鹿な男に愛想を尽かしたのだろう。
彼らはアリスを公爵夫人としてかなり慕っていたから。
もちろん、私だってアリスのことが嫌いだったわけではなかった。
彼女と一緒にいる時間は楽だったし、初々しいアリスのことを可愛いなとも思っていた。
だからこそ、アメリアが帰って来ると聞いてもアリスと離婚するという選択肢はなかった。
最初のうちは、だが。
アメリアの悲惨な結婚生活の話を聞いてから私の気持ちは変化した。
傷心している彼女を支えたいという思いが強くなり、そこでアリスとの離婚を決意した。
(今思えば、別に離婚するほどでも無かったな……)
あのときの私はアメリアを傷付けられたという怒りで冷静な判断が出来なかったのだろう。
何も考えずに妻に離婚を突き付けた。
そのときの光景が今になって鮮明に頭に浮かんだ。
(……………待て、私はあのときアリスに何て言った?)
『ええい、うるさい!とにかく私はもう君との結婚生活を続けるつもりは無い!明日、荷物をまとめて出て行ってもらうからな』
それを伝えたときの彼女の傷付いたような顔。
未だにはっきりと思い出せる。
(とんだ下衆野郎だな……)
後悔してももう遅い。
そんなことは分かっている。
だからこそ、辛かった。
「旦那様……大丈夫ですか?」
「ああ、平気だ」
顔色の悪くなった私を見て、執事が心配そうに声を掛けた。
「旦那様、一つお聞きしたいのですが」
「……何だ?」
「アメリア殿下をどうなさるおつもりですか?」
「……」
その問いに、私はすぐに答えることが出来なかった。
このままアメリアを公爵邸に置いておいても良いことなど無い。
それはさっきの件で十分に理解した。
(アメリア……何が君をそこまで変えてしまったんだ……)
優しかった彼女はどこへ行ってしまったのだろうか。
王太子が彼女を変えたのか、それとも最初からああいう性格だったのか、今となってはもう分からない。
落ち込んでばかりの私に、今度は侍女が声を掛けた。
「旦那様、奥様……アリス様がここを出る前に何とおっしゃっていたかご存知ですか?」
「……何だ?」
私に対する恨み言でも言ったのか。
それを言われたところで私に彼女を咎める資格なんて無い。
しかし、侍女から返って来たのは意外な言葉だった。
「旦那様には幸せになってほしいのだと……旦那様が愛する人と一緒になれるのならかまわないと……」
「……!」
それを聞いた途端、目から一筋の涙が零れた。
(何故君は……そんなにも優しいんだ……)
少しくらいは文句を言ってもいいものを。
まるで聖母のような女性だ。
そのことを知ったとき、優しい彼女を救いたいという気持ちに駆られた。
そしてそれを実行に移すまでにそう時間はかからなかった。
「旦那様、どちらへ行かれるのですか?」
「……カルメリア侯爵家だ」
「えっ!?何をなさるおつもりですか!?」
使用人たちが驚いた顔で尋ねた。
「――決まってるだろう、アリスを迎えに行くんだ」
「はい、旦那様……」
アメリアが部屋を出て行った後、私は使用人たちから前妻のアリスの過去を聞いた。
私はこれまで彼女について全く知らなかった。
政略結婚で娶った女だからと、知ろうともしなかったのだ。
(私は、何てことをしてしまったんだ……!)
全てを知ったとき、激しい後悔に苛まれた。
離婚という選択が彼女にとってどれほど残酷なものだったか、今になって思い知ったのである。
「そ、そんな……馬鹿な……」
「……」
使用人たちは狼狽する私を呆れたような顔で見ている。
そういえばアリスが出て行ってから、公爵邸の使用人たちが冷たくなったような気がする。
(ハハハ……当然だな……)
馬鹿な男に愛想を尽かしたのだろう。
彼らはアリスを公爵夫人としてかなり慕っていたから。
もちろん、私だってアリスのことが嫌いだったわけではなかった。
彼女と一緒にいる時間は楽だったし、初々しいアリスのことを可愛いなとも思っていた。
だからこそ、アメリアが帰って来ると聞いてもアリスと離婚するという選択肢はなかった。
最初のうちは、だが。
アメリアの悲惨な結婚生活の話を聞いてから私の気持ちは変化した。
傷心している彼女を支えたいという思いが強くなり、そこでアリスとの離婚を決意した。
(今思えば、別に離婚するほどでも無かったな……)
あのときの私はアメリアを傷付けられたという怒りで冷静な判断が出来なかったのだろう。
何も考えずに妻に離婚を突き付けた。
そのときの光景が今になって鮮明に頭に浮かんだ。
(……………待て、私はあのときアリスに何て言った?)
『ええい、うるさい!とにかく私はもう君との結婚生活を続けるつもりは無い!明日、荷物をまとめて出て行ってもらうからな』
それを伝えたときの彼女の傷付いたような顔。
未だにはっきりと思い出せる。
(とんだ下衆野郎だな……)
後悔してももう遅い。
そんなことは分かっている。
だからこそ、辛かった。
「旦那様……大丈夫ですか?」
「ああ、平気だ」
顔色の悪くなった私を見て、執事が心配そうに声を掛けた。
「旦那様、一つお聞きしたいのですが」
「……何だ?」
「アメリア殿下をどうなさるおつもりですか?」
「……」
その問いに、私はすぐに答えることが出来なかった。
このままアメリアを公爵邸に置いておいても良いことなど無い。
それはさっきの件で十分に理解した。
(アメリア……何が君をそこまで変えてしまったんだ……)
優しかった彼女はどこへ行ってしまったのだろうか。
王太子が彼女を変えたのか、それとも最初からああいう性格だったのか、今となってはもう分からない。
落ち込んでばかりの私に、今度は侍女が声を掛けた。
「旦那様、奥様……アリス様がここを出る前に何とおっしゃっていたかご存知ですか?」
「……何だ?」
私に対する恨み言でも言ったのか。
それを言われたところで私に彼女を咎める資格なんて無い。
しかし、侍女から返って来たのは意外な言葉だった。
「旦那様には幸せになってほしいのだと……旦那様が愛する人と一緒になれるのならかまわないと……」
「……!」
それを聞いた途端、目から一筋の涙が零れた。
(何故君は……そんなにも優しいんだ……)
少しくらいは文句を言ってもいいものを。
まるで聖母のような女性だ。
そのことを知ったとき、優しい彼女を救いたいという気持ちに駆られた。
そしてそれを実行に移すまでにそう時間はかからなかった。
「旦那様、どちらへ行かれるのですか?」
「……カルメリア侯爵家だ」
「えっ!?何をなさるおつもりですか!?」
使用人たちが驚いた顔で尋ねた。
「――決まってるだろう、アリスを迎えに行くんだ」
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