初恋の王女殿下が帰って来たからと、離婚を告げられました。

ましゅぺちーの

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42 王妃様との対話

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「この度は招待してくださり、ありがとうございます。――王妃陛下」


荷物を置き、一度王太子殿下と別れた後。
私は王妃様とのお茶会に参加するため彼女の部屋へと来ていた。


「こちらこそ、来てくれて嬉しいわ」
「王妃陛下のお誘いを断るわけにはいきません」


私が暮らすこの国の王妃様は既に成人した子供が二人いるとは思えないほどに若く美しい方だ。
元は王国の伯爵令嬢で、当時の王太子殿下……今の国王陛下に見初められて王妃になったらしい。


(王族の部屋ってこんな感じなんだ……!)


カルメリア侯爵家やアルデバラン公爵家もかなり裕福ではあったけれど、やはり王宮の華やかさには敵わない。
私が実家で生活していた頃の部屋とは天と地の差だ。


「さあさあ、座ってちょうだい」
「失礼します」


椅子に座ると、侍女が注いだお茶が目の前に置かれた。


「アリス嬢、貴方の家のことは陛下から聞いているわ。災難だったわね」
「王太子殿下が助けてくださったので何ともありません。お母様にそこまで恨まれていたのはショックでしたが……」
「そうね、侯爵夫人がそんなことを企てていたなんて……そこまで愚かな人だったとは驚きだわ」


まるでお母様のことを知っているかのような口ぶりだ。


「王妃様、お母様と親しかったのですか?」
「いいえ……むしろ逆だったわ。前侯爵夫人は私を含めた他の婚約者候補の令嬢に嫌がらせを繰り返していたから。あれは忘れたくても忘れられないわね」
「お母様が……」


お母様のあの性格は第一子が私で義両親に責められたからだと思っていたが、どうやら違うらしい。
最初から歪んでいたというわけだ。


「夫人は王妃という地位にかなり執着していたわ。そこを陛下に見抜かれて結局は婚約者になれなかったわけだけれど」
「そうだったのですね……」


私のお母様は元々カルメリア家より格上の公爵家の出身だという話は聞いたことがあった。


(お母様、きっと本当は王妃になりたかったのでしょうね……)


だからこそ私が王太子殿下と結婚するのを認められなかったのかもしれない。
しかし、だからといって血の繋がった娘を傷付けていい理由にはならない。


(私の母親は最初からいなかったのよ……)


最近はそう思うことで何とか過去を乗り越えている。


「――ところでアリス嬢、舞踏会で娘の失態をカバーしてくれたって聞いたけれど本当かしら?」
「失態?あ……」


(王太子殿下が侮辱されていたときの……)


どうやら王妃様の耳にも届いていたようだ。
あのときは娘に恥をかかせたと怒られることも覚悟の上だったが、こんな風にしてお礼を言われるとは驚きだ。


「礼を言うわ。あの場でハッキリと自分の意見を言えるだなんてよく出来た子ね」
「いえ、私は当然のことをしたまでです」
「ふふふ、王太子殿下に見初められるだけあるわ」
「い、いえ!決してそのようなことは!」


慌てて否定しようと声を上げたそのとき、背後に控えていた侍女がそっと声を掛けた。


「陛下、そろそろ……」
「あら、もう時間?」


どうやら終わりが来たようだ。
王妃とは多忙なのである。


「貴重な時間をありがとうございました、陛下」
「気にしないで、また一緒にお話出来たら嬉しいわ」
「ですが、お忙しいのでは……」
「お茶の時間くらいなら取れるから心配しないで」


王妃様はそう言って優雅に微笑んだ。
女の私でも思わず見惚れてしまうほどの美しい笑みだ。


(外見は王女殿下に似ているけれど……性格は全く違うみたいでよかった)


「本当に素敵な子で驚いたわ。私の娘になってほしいくらいよ」
「む、娘ですか……?冗談を……」
「あら、私は真剣なのだけれど」
「陛下……」


(こんなに優しい人が母親なら私も嬉しいけれど……)


絶対に変えられない事実がこの世にはあるのだ。
認めたくはないが、私の母親はこの世界で一人だけである。


「ありがとうございます、王妃陛下にそう言ってもらえて嬉しいです」


私はニッコリと笑いながらそう返して部屋を出た。






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