42 / 64
42 王妃様との対話
しおりを挟む
「この度は招待してくださり、ありがとうございます。――王妃陛下」
荷物を置き、一度王太子殿下と別れた後。
私は王妃様とのお茶会に参加するため彼女の部屋へと来ていた。
「こちらこそ、来てくれて嬉しいわ」
「王妃陛下のお誘いを断るわけにはいきません」
私が暮らすこの国の王妃様は既に成人した子供が二人いるとは思えないほどに若く美しい方だ。
元は王国の伯爵令嬢で、当時の王太子殿下……今の国王陛下に見初められて王妃になったらしい。
(王族の部屋ってこんな感じなんだ……!)
カルメリア侯爵家やアルデバラン公爵家もかなり裕福ではあったけれど、やはり王宮の華やかさには敵わない。
私が実家で生活していた頃の部屋とは天と地の差だ。
「さあさあ、座ってちょうだい」
「失礼します」
椅子に座ると、侍女が注いだお茶が目の前に置かれた。
「アリス嬢、貴方の家のことは陛下から聞いているわ。災難だったわね」
「王太子殿下が助けてくださったので何ともありません。お母様にそこまで恨まれていたのはショックでしたが……」
「そうね、侯爵夫人がそんなことを企てていたなんて……そこまで愚かな人だったとは驚きだわ」
まるでお母様のことを知っているかのような口ぶりだ。
「王妃様、お母様と親しかったのですか?」
「いいえ……むしろ逆だったわ。前侯爵夫人は私を含めた他の婚約者候補の令嬢に嫌がらせを繰り返していたから。あれは忘れたくても忘れられないわね」
「お母様が……」
お母様のあの性格は第一子が私で義両親に責められたからだと思っていたが、どうやら違うらしい。
最初から歪んでいたというわけだ。
「夫人は王妃という地位にかなり執着していたわ。そこを陛下に見抜かれて結局は婚約者になれなかったわけだけれど」
「そうだったのですね……」
私のお母様は元々カルメリア家より格上の公爵家の出身だという話は聞いたことがあった。
(お母様、きっと本当は王妃になりたかったのでしょうね……)
だからこそ私が王太子殿下と結婚するのを認められなかったのかもしれない。
しかし、だからといって血の繋がった娘を傷付けていい理由にはならない。
(私の母親は最初からいなかったのよ……)
最近はそう思うことで何とか過去を乗り越えている。
「――ところでアリス嬢、舞踏会で娘の失態をカバーしてくれたって聞いたけれど本当かしら?」
「失態?あ……」
(王太子殿下が侮辱されていたときの……)
どうやら王妃様の耳にも届いていたようだ。
あのときは娘に恥をかかせたと怒られることも覚悟の上だったが、こんな風にしてお礼を言われるとは驚きだ。
「礼を言うわ。あの場でハッキリと自分の意見を言えるだなんてよく出来た子ね」
「いえ、私は当然のことをしたまでです」
「ふふふ、王太子殿下に見初められるだけあるわ」
「い、いえ!決してそのようなことは!」
慌てて否定しようと声を上げたそのとき、背後に控えていた侍女がそっと声を掛けた。
「陛下、そろそろ……」
「あら、もう時間?」
どうやら終わりが来たようだ。
王妃とは多忙なのである。
「貴重な時間をありがとうございました、陛下」
「気にしないで、また一緒にお話出来たら嬉しいわ」
「ですが、お忙しいのでは……」
「お茶の時間くらいなら取れるから心配しないで」
王妃様はそう言って優雅に微笑んだ。
女の私でも思わず見惚れてしまうほどの美しい笑みだ。
(外見は王女殿下に似ているけれど……性格は全く違うみたいでよかった)
「本当に素敵な子で驚いたわ。私の娘になってほしいくらいよ」
「む、娘ですか……?冗談を……」
「あら、私は真剣なのだけれど」
「陛下……」
(こんなに優しい人が母親なら私も嬉しいけれど……)
絶対に変えられない事実がこの世にはあるのだ。
認めたくはないが、私の母親はこの世界で一人だけである。
「ありがとうございます、王妃陛下にそう言ってもらえて嬉しいです」
私はニッコリと笑いながらそう返して部屋を出た。
荷物を置き、一度王太子殿下と別れた後。
私は王妃様とのお茶会に参加するため彼女の部屋へと来ていた。
「こちらこそ、来てくれて嬉しいわ」
「王妃陛下のお誘いを断るわけにはいきません」
私が暮らすこの国の王妃様は既に成人した子供が二人いるとは思えないほどに若く美しい方だ。
元は王国の伯爵令嬢で、当時の王太子殿下……今の国王陛下に見初められて王妃になったらしい。
(王族の部屋ってこんな感じなんだ……!)
カルメリア侯爵家やアルデバラン公爵家もかなり裕福ではあったけれど、やはり王宮の華やかさには敵わない。
私が実家で生活していた頃の部屋とは天と地の差だ。
「さあさあ、座ってちょうだい」
「失礼します」
椅子に座ると、侍女が注いだお茶が目の前に置かれた。
「アリス嬢、貴方の家のことは陛下から聞いているわ。災難だったわね」
「王太子殿下が助けてくださったので何ともありません。お母様にそこまで恨まれていたのはショックでしたが……」
「そうね、侯爵夫人がそんなことを企てていたなんて……そこまで愚かな人だったとは驚きだわ」
まるでお母様のことを知っているかのような口ぶりだ。
「王妃様、お母様と親しかったのですか?」
「いいえ……むしろ逆だったわ。前侯爵夫人は私を含めた他の婚約者候補の令嬢に嫌がらせを繰り返していたから。あれは忘れたくても忘れられないわね」
「お母様が……」
お母様のあの性格は第一子が私で義両親に責められたからだと思っていたが、どうやら違うらしい。
最初から歪んでいたというわけだ。
「夫人は王妃という地位にかなり執着していたわ。そこを陛下に見抜かれて結局は婚約者になれなかったわけだけれど」
「そうだったのですね……」
私のお母様は元々カルメリア家より格上の公爵家の出身だという話は聞いたことがあった。
(お母様、きっと本当は王妃になりたかったのでしょうね……)
だからこそ私が王太子殿下と結婚するのを認められなかったのかもしれない。
しかし、だからといって血の繋がった娘を傷付けていい理由にはならない。
(私の母親は最初からいなかったのよ……)
最近はそう思うことで何とか過去を乗り越えている。
「――ところでアリス嬢、舞踏会で娘の失態をカバーしてくれたって聞いたけれど本当かしら?」
「失態?あ……」
(王太子殿下が侮辱されていたときの……)
どうやら王妃様の耳にも届いていたようだ。
あのときは娘に恥をかかせたと怒られることも覚悟の上だったが、こんな風にしてお礼を言われるとは驚きだ。
「礼を言うわ。あの場でハッキリと自分の意見を言えるだなんてよく出来た子ね」
「いえ、私は当然のことをしたまでです」
「ふふふ、王太子殿下に見初められるだけあるわ」
「い、いえ!決してそのようなことは!」
慌てて否定しようと声を上げたそのとき、背後に控えていた侍女がそっと声を掛けた。
「陛下、そろそろ……」
「あら、もう時間?」
どうやら終わりが来たようだ。
王妃とは多忙なのである。
「貴重な時間をありがとうございました、陛下」
「気にしないで、また一緒にお話出来たら嬉しいわ」
「ですが、お忙しいのでは……」
「お茶の時間くらいなら取れるから心配しないで」
王妃様はそう言って優雅に微笑んだ。
女の私でも思わず見惚れてしまうほどの美しい笑みだ。
(外見は王女殿下に似ているけれど……性格は全く違うみたいでよかった)
「本当に素敵な子で驚いたわ。私の娘になってほしいくらいよ」
「む、娘ですか……?冗談を……」
「あら、私は真剣なのだけれど」
「陛下……」
(こんなに優しい人が母親なら私も嬉しいけれど……)
絶対に変えられない事実がこの世にはあるのだ。
認めたくはないが、私の母親はこの世界で一人だけである。
「ありがとうございます、王妃陛下にそう言ってもらえて嬉しいです」
私はニッコリと笑いながらそう返して部屋を出た。
683
あなたにおすすめの小説
婚約者の私を見捨てたあなた、もう二度と関わらないので安心して下さい
神崎 ルナ
恋愛
第三王女ロクサーヌには婚約者がいた。騎士団でも有望株のナイシス・ガラット侯爵令息。その美貌もあって人気がある彼との婚約が決められたのは幼いとき。彼には他に優先する幼なじみがいたが、政略結婚だからある程度は仕方ない、と思っていた。だが、王宮が魔導師に襲われ、魔術により天井の一部がロクサーヌへ落ちてきたとき、彼が真っ先に助けに行ったのは幼馴染だという女性だった。その後もロクサーヌのことは見えていないのか、完全にスルーして彼女を抱きかかえて去って行くナイシス。
嘘でしょう。
その後ロクサーヌは一月、目が覚めなかった。
そして目覚めたとき、おとなしやかと言われていたロクサーヌの姿はどこにもなかった。
「ガラット侯爵令息とは婚約破棄? 当然でしょう。それとね私、力が欲しいの」
もう誰かが護ってくれるなんて思わない。
ロクサーヌは力をつけてひとりで生きていこうと誓った。
だがそこへクスコ辺境伯がロクサーヌへ求婚する。
「ぜひ辺境へ来て欲しい」
※時代考証がゆるゆるですm(__)m ご注意くださいm(__)m
総合・恋愛ランキング1位(2025.8.4)hotランキング1位(2025.8.5)になりましたΣ(・ω・ノ)ノ ありがとうございます<(_ _)>
三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します
冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」
結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。
私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。
そうして毎回同じように言われてきた。
逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。
だから今回は。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
花嫁に「君を愛することはできない」と伝えた結果
藍田ひびき
恋愛
「アンジェリカ、君を愛することはできない」
結婚式の後、侯爵家の騎士のレナード・フォーブズは妻へそう告げた。彼は主君の娘、キャロライン・リンスコット侯爵令嬢を愛していたのだ。
アンジェリカの言葉には耳を貸さず、キャロラインへの『真実の愛』を貫こうとするレナードだったが――。
※ 他サイトにも投稿しています。
さようなら、わたくしの騎士様
夜桜
恋愛
騎士様からの突然の『さようなら』(婚約破棄)に辺境伯令嬢クリスは微笑んだ。
その時を待っていたのだ。
クリスは知っていた。
騎士ローウェルは裏切ると。
だから逆に『さようなら』を言い渡した。倍返しで。
悪役令嬢は手加減無しに復讐する
田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。
理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。
婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる