54 / 64
54 実行
しおりを挟む
途中視点変わります。
***
王太子殿下と話をした日から三日後の朝。
「ん……」
「おはようございます、アリスお嬢様」
「……レイナ?」
目を開けると、既に夜が明けて朝になっていた。
(昨日はなかなか寝付けなかったのに……今何時かしら?)
部屋にあった時計をチラリと見ると、針がちょうど天辺を差していた。
「もうお昼なのね」
「はい、疲れていらしたようなので起こさない方がいいかと思って……」
「気を遣ってくれてありがとう」
ベッドから身体を起こした私は、着替えを始めた。
こんなに長い時間寝たのは久しぶりだった。
(最近は不安で眠れない日々が続いていたから……)
着替えの途中で、気にかかっていたことを傍にいたレイナに尋ねた。
「ジークハルト王太子殿下は……もう行ってしまったのかしら……?」
「あ、はい……早朝馬車に乗って帰国されました」
「そう……」
ある程度予想はついていたものの、いざ直接確認を受けるとやはり心苦しい。
(私に何も言わずに行ってしまうだなんて……やっぱりあの噂は本当なのだろうか)
――王女殿下との縁談。
彼はその噂に対して否定も肯定もしなかった。
それだけで真実であると決めつけるのはまだ早いというのに、どうしてこんなに不安なんだろう。
「――お嬢様」
「レイナ?」
そのとき、レイナが私の手をギュッと握った。
「大丈夫です、きっと王太子殿下は帰ってきますよ」
「……」
レイナの真剣な眼差しに、私はコクリと頷いた。
彼女のおかげで久々に笑顔を取り戻せたような気がした。
***
「ねぇ、ルーカスはちゃんとやっているのかしら?」
「はい、全て計画通りです」
時は三日前に遡る。
『一体何をする気だ?アメリア』
『三日後にジークハルト王太子が国へ帰るらしいわ』
『……!それは本当か……?』
アリスから王太子が離れるのが嬉しいのか、ルーカスは目を見開いた。
『ええ、間違いないわ。だからアリスと王太子を狙うならその日しかない』
『……』
そして私は彼に計画を一から説明した。
『馬車の御者は既に私の手の者にすり替えてある。人気の無い森に連れ込んで王太子を暗殺するのよ』
『……アメリア』
『貴方一人で勝てるわけがないのは私も分かってる。こういうときにこそ、裏社会の人間を使うに限るわ』
『……そこまでするのか』
引いたようなルーカスに、私はきょとんと首をかしげた。
『何言ってるのよ、そうでもしないとあの男の息の根を止められないじゃない?』
『しかし、大人数で一人を貶めるだなんて……』
『卑怯だとでも言うつもり?貴族社会においては別に珍しいことでもないじゃない』
『いや、そういうわけではないが……』
私はなかなか首を縦に振らない彼の耳元にそっと唇を近付けた。
『アリスを手に入れたいんでしょう?ここで貴方がやらなければアリスは一生あの王太子のものよ?』
『……』
『彼女のこと、好きなんでしょう?今度こそ過ちを犯したりはしないって言ってたじゃない』
誘惑するような囁きにルーカスはしばらく悩んだ後、何かを決心したようにゆっくりと立ち上がった。
『覚悟が決まったみたいね』
『……ああ』
それから彼は何も言わずに部屋を出て行った。
別邸で優雅に侍女の淹れたお茶を飲んでいた私はフッと口角を上げた。
(今日が実行の日。いつ王太子の訃報が届くのか楽しみだわ)
――私はあの女を始末する準備をしないとね。
***
王太子殿下と話をした日から三日後の朝。
「ん……」
「おはようございます、アリスお嬢様」
「……レイナ?」
目を開けると、既に夜が明けて朝になっていた。
(昨日はなかなか寝付けなかったのに……今何時かしら?)
部屋にあった時計をチラリと見ると、針がちょうど天辺を差していた。
「もうお昼なのね」
「はい、疲れていらしたようなので起こさない方がいいかと思って……」
「気を遣ってくれてありがとう」
ベッドから身体を起こした私は、着替えを始めた。
こんなに長い時間寝たのは久しぶりだった。
(最近は不安で眠れない日々が続いていたから……)
着替えの途中で、気にかかっていたことを傍にいたレイナに尋ねた。
「ジークハルト王太子殿下は……もう行ってしまったのかしら……?」
「あ、はい……早朝馬車に乗って帰国されました」
「そう……」
ある程度予想はついていたものの、いざ直接確認を受けるとやはり心苦しい。
(私に何も言わずに行ってしまうだなんて……やっぱりあの噂は本当なのだろうか)
――王女殿下との縁談。
彼はその噂に対して否定も肯定もしなかった。
それだけで真実であると決めつけるのはまだ早いというのに、どうしてこんなに不安なんだろう。
「――お嬢様」
「レイナ?」
そのとき、レイナが私の手をギュッと握った。
「大丈夫です、きっと王太子殿下は帰ってきますよ」
「……」
レイナの真剣な眼差しに、私はコクリと頷いた。
彼女のおかげで久々に笑顔を取り戻せたような気がした。
***
「ねぇ、ルーカスはちゃんとやっているのかしら?」
「はい、全て計画通りです」
時は三日前に遡る。
『一体何をする気だ?アメリア』
『三日後にジークハルト王太子が国へ帰るらしいわ』
『……!それは本当か……?』
アリスから王太子が離れるのが嬉しいのか、ルーカスは目を見開いた。
『ええ、間違いないわ。だからアリスと王太子を狙うならその日しかない』
『……』
そして私は彼に計画を一から説明した。
『馬車の御者は既に私の手の者にすり替えてある。人気の無い森に連れ込んで王太子を暗殺するのよ』
『……アメリア』
『貴方一人で勝てるわけがないのは私も分かってる。こういうときにこそ、裏社会の人間を使うに限るわ』
『……そこまでするのか』
引いたようなルーカスに、私はきょとんと首をかしげた。
『何言ってるのよ、そうでもしないとあの男の息の根を止められないじゃない?』
『しかし、大人数で一人を貶めるだなんて……』
『卑怯だとでも言うつもり?貴族社会においては別に珍しいことでもないじゃない』
『いや、そういうわけではないが……』
私はなかなか首を縦に振らない彼の耳元にそっと唇を近付けた。
『アリスを手に入れたいんでしょう?ここで貴方がやらなければアリスは一生あの王太子のものよ?』
『……』
『彼女のこと、好きなんでしょう?今度こそ過ちを犯したりはしないって言ってたじゃない』
誘惑するような囁きにルーカスはしばらく悩んだ後、何かを決心したようにゆっくりと立ち上がった。
『覚悟が決まったみたいね』
『……ああ』
それから彼は何も言わずに部屋を出て行った。
別邸で優雅に侍女の淹れたお茶を飲んでいた私はフッと口角を上げた。
(今日が実行の日。いつ王太子の訃報が届くのか楽しみだわ)
――私はあの女を始末する準備をしないとね。
2,687
あなたにおすすめの小説
婚約者の私を見捨てたあなた、もう二度と関わらないので安心して下さい
神崎 ルナ
恋愛
第三王女ロクサーヌには婚約者がいた。騎士団でも有望株のナイシス・ガラット侯爵令息。その美貌もあって人気がある彼との婚約が決められたのは幼いとき。彼には他に優先する幼なじみがいたが、政略結婚だからある程度は仕方ない、と思っていた。だが、王宮が魔導師に襲われ、魔術により天井の一部がロクサーヌへ落ちてきたとき、彼が真っ先に助けに行ったのは幼馴染だという女性だった。その後もロクサーヌのことは見えていないのか、完全にスルーして彼女を抱きかかえて去って行くナイシス。
嘘でしょう。
その後ロクサーヌは一月、目が覚めなかった。
そして目覚めたとき、おとなしやかと言われていたロクサーヌの姿はどこにもなかった。
「ガラット侯爵令息とは婚約破棄? 当然でしょう。それとね私、力が欲しいの」
もう誰かが護ってくれるなんて思わない。
ロクサーヌは力をつけてひとりで生きていこうと誓った。
だがそこへクスコ辺境伯がロクサーヌへ求婚する。
「ぜひ辺境へ来て欲しい」
※時代考証がゆるゆるですm(__)m ご注意くださいm(__)m
総合・恋愛ランキング1位(2025.8.4)hotランキング1位(2025.8.5)になりましたΣ(・ω・ノ)ノ ありがとうございます<(_ _)>
三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します
冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」
結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。
私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。
そうして毎回同じように言われてきた。
逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。
だから今回は。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
花嫁に「君を愛することはできない」と伝えた結果
藍田ひびき
恋愛
「アンジェリカ、君を愛することはできない」
結婚式の後、侯爵家の騎士のレナード・フォーブズは妻へそう告げた。彼は主君の娘、キャロライン・リンスコット侯爵令嬢を愛していたのだ。
アンジェリカの言葉には耳を貸さず、キャロラインへの『真実の愛』を貫こうとするレナードだったが――。
※ 他サイトにも投稿しています。
さようなら、わたくしの騎士様
夜桜
恋愛
騎士様からの突然の『さようなら』(婚約破棄)に辺境伯令嬢クリスは微笑んだ。
その時を待っていたのだ。
クリスは知っていた。
騎士ローウェルは裏切ると。
だから逆に『さようなら』を言い渡した。倍返しで。
悪役令嬢は手加減無しに復讐する
田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。
理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。
婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる