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56 拉致
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「ねぇ、何だかさっきから誰かに見られているような気がしない?」
「え、そうですか?私は特に何も感じませんけど……」
散歩中、ついに我慢の限界を迎えた私は思いきってレイナに尋ねた。
(レイナは気付いていないみたいだけれど、どうも気にかかる……)
こんなにも視線を感じるのは初めてだ。
しばらくは気にしないフリをしていたが、ここまでくると自分の勘違いだと結論付けるのは無理があった。
「気のせいでは?」
「だ、だけど……たしかに人からの視線を……」
「二度も危険な目に遭っているのですから常に周囲を警戒してしまうのは当然のことだと思いますよ」
「そ、そうかしら……」
違和感の正体を探るために辺りを見回していると、突然ガサガサッと背後から音がした。
(何!?)
刺客か何かかと思い慌てて後ろを振り返ると、そこには――
「あ、あなたは……」
「アリス様、お久しぶりです」
よく知った顔の侍女が立っていた。
彼女は王宮に勤務する侍女の一人で、たしか子爵家の三女だったはずだ。
(ついこの間も一緒に仕事をしたわ)
ここでは同じ立場なのだから敬語でなくても良いと言ったものの、元の身分差を気にしているのか彼女はずっと私に遠慮したままだ。
顔見知りだと知って安心した私は、警戒を解いた。
「あなたから私の元へ来るだなんて珍しいわね」
「急ぎの用件があって、ずっと捜しておりました」
「急ぎの用件?一体何かしら?」
「王妃陛下がアリス様をお呼びしています」
「まぁ、王妃様が?」
「はい、今からアリス様と一緒にお茶をしたいそうです」
王宮へ来てからというものの、たびたび王妃様には世話になっている。
ここでの暮らしに慣れていなくて右も左も分からない私を支えてくれたのは王妃陛下だった。
(そんな王妃様のお誘いを断るわけにはいかないわ)
「そういえば、あなたは王妃様付きの侍女だったわね」
「はい、王妃陛下に言われてアリス様をお迎えに上がりました」
「わざわざありがとう」
礼を言うと、侍女はクスッと笑った。
その笑みに、何故か妙な違和感を感じた。
「では、共に王妃様の元へ参りましょう」
「ええ、そうね」
王妃様を待たせるわけにはいかないからすぐに行く必要がある。
私はレイナにそのことを伝えようと、彼女の方を向いた。
「レイナ、せっかく誘ってくれたのにごめんなさい」
「お嬢様」
「これから王妃様のところへ――」
そう言いかけたとき、レイナが慌てた顔で私に手を伸ばした。
「…………レイナ?」
わけが分からず後ろを振り返ると――
「……!」
何が起きたのか分からなかった。
突然目の前が真っ暗になり、私はその場に倒れ込んだ。
焦ったようなレイナと、誰かが言い争っている声が聞こえてくる。
(だ、誰か……)
声が出すことも出来ず、私はそのまま意識を失った。
***
「…………………!!!」
目が覚めると、薄暗い部屋の中にいた。
(こ、ここはどこ?私はどうしてこんなところに……!)
起き上がろうとしても上手く体が動かせない。
どうやら手足を縛られているようだ。
(これは一体どういうことなの……)
ひとまず縄を解こうともがいていると、ふいに頭上から声がした。
「――あら、目が覚めたのね。おはよう、アリス」
「……!?ど、どうしてあなたがここに……!」
部屋にある玉座の形をした椅子に座ってこちらを見下ろしていたのは、この国の王女であるアメリア殿下だった――
「え、そうですか?私は特に何も感じませんけど……」
散歩中、ついに我慢の限界を迎えた私は思いきってレイナに尋ねた。
(レイナは気付いていないみたいだけれど、どうも気にかかる……)
こんなにも視線を感じるのは初めてだ。
しばらくは気にしないフリをしていたが、ここまでくると自分の勘違いだと結論付けるのは無理があった。
「気のせいでは?」
「だ、だけど……たしかに人からの視線を……」
「二度も危険な目に遭っているのですから常に周囲を警戒してしまうのは当然のことだと思いますよ」
「そ、そうかしら……」
違和感の正体を探るために辺りを見回していると、突然ガサガサッと背後から音がした。
(何!?)
刺客か何かかと思い慌てて後ろを振り返ると、そこには――
「あ、あなたは……」
「アリス様、お久しぶりです」
よく知った顔の侍女が立っていた。
彼女は王宮に勤務する侍女の一人で、たしか子爵家の三女だったはずだ。
(ついこの間も一緒に仕事をしたわ)
ここでは同じ立場なのだから敬語でなくても良いと言ったものの、元の身分差を気にしているのか彼女はずっと私に遠慮したままだ。
顔見知りだと知って安心した私は、警戒を解いた。
「あなたから私の元へ来るだなんて珍しいわね」
「急ぎの用件があって、ずっと捜しておりました」
「急ぎの用件?一体何かしら?」
「王妃陛下がアリス様をお呼びしています」
「まぁ、王妃様が?」
「はい、今からアリス様と一緒にお茶をしたいそうです」
王宮へ来てからというものの、たびたび王妃様には世話になっている。
ここでの暮らしに慣れていなくて右も左も分からない私を支えてくれたのは王妃陛下だった。
(そんな王妃様のお誘いを断るわけにはいかないわ)
「そういえば、あなたは王妃様付きの侍女だったわね」
「はい、王妃陛下に言われてアリス様をお迎えに上がりました」
「わざわざありがとう」
礼を言うと、侍女はクスッと笑った。
その笑みに、何故か妙な違和感を感じた。
「では、共に王妃様の元へ参りましょう」
「ええ、そうね」
王妃様を待たせるわけにはいかないからすぐに行く必要がある。
私はレイナにそのことを伝えようと、彼女の方を向いた。
「レイナ、せっかく誘ってくれたのにごめんなさい」
「お嬢様」
「これから王妃様のところへ――」
そう言いかけたとき、レイナが慌てた顔で私に手を伸ばした。
「…………レイナ?」
わけが分からず後ろを振り返ると――
「……!」
何が起きたのか分からなかった。
突然目の前が真っ暗になり、私はその場に倒れ込んだ。
焦ったようなレイナと、誰かが言い争っている声が聞こえてくる。
(だ、誰か……)
声が出すことも出来ず、私はそのまま意識を失った。
***
「…………………!!!」
目が覚めると、薄暗い部屋の中にいた。
(こ、ここはどこ?私はどうしてこんなところに……!)
起き上がろうとしても上手く体が動かせない。
どうやら手足を縛られているようだ。
(これは一体どういうことなの……)
ひとまず縄を解こうともがいていると、ふいに頭上から声がした。
「――あら、目が覚めたのね。おはよう、アリス」
「……!?ど、どうしてあなたがここに……!」
部屋にある玉座の形をした椅子に座ってこちらを見下ろしていたのは、この国の王女であるアメリア殿下だった――
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