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最強ヤンキーくんの初恋。最終話

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「ミケ、準備出来たか?」
「おー!出来た出来た!怜愛も?」
「勿論出来てる。行こうぜ」
待ち合わせ場所である寮の入口へ向かうと既にゼロと紅蓮は待っていた。
「おはよう。レアちゃん、ミケちゃん」
「ゼロ、おはよ。紅蓮も」
「おぅ!おはよー!今日は楽しみだな」
全員集まった所で早速寮を出る。
今日は日曜日で紅蓮の部活もない。
だから初めて4人で出掛けることにしたのだった。
提案したのは怜愛だ。
1週間前に「そう言えば4人で遊んだことねぇし遊ぼうぜ」と声を掛けてくれたのがきっかけだ。
「日曜日に友達と遊びに行くなんて初めてなんだけど!」と興奮する俺に気遣ってくれた3人が行きたい場所を聞いてくれた。
「ミケ、何処か行きたいとこあるか?」
「ある!遊園地っ!」
「わぁ、いいねぇ。遊園地なんて大分行ってないから楽しみ」
「俺もあんまり行ったことないや。行きたい!」
俺の意見に合わせてくれたこともあって、行き先は遊園地になった。
家族とも遊園地に行ったことがない俺は今日が初めてということになる。
正直、楽しみ過ぎて昨夜は眠れなかった。
こんなにワクワクするのはいつ以来だろう。
遊園地までの道程も楽しく、3人と一緒にいるだけで楽しかった。
(マジで今が人生で一番楽しいかもしんねぇ)
友達と笑い合う──たったそれだけのことがこんなにも幸せだなんて。
大袈裟のようだけれど俺は本気でそう思っていた。

遊園地に着いた瞬間「おぉ!」と声を上げた。
「遊園地だーっ!」
「そんなに感動する高校生いるか?」
呆れたように言う怜愛に俺は「ここにいるじゃん」と返す。
「ミケちゃん初めてって言ってたもんね。観覧車もジェットコースターも見えるし感動するのも分かるかも」
「だろ?流石ゼロ!人の気持ち分かってる」
「でもレアちゃんの気持ちも分かるけど」
「え!?どっちの味方だよ?」
「んー、どっちもかな」
ふふっと笑ったゼロは「それより皆で写真撮らない?」と続けた。
「お、いいじゃん。俺そういうの好き!スタッフさんに言ってくる」
紅蓮はだっと駆け出し、すぐにスタッフを呼んできた。
スタッフは慣れているようで一番見栄えのいい場所に俺たちを誘導し「撮りまーす」と元気良く言った。
4人で並んで各々ポーズを取る。
スタッフに渡されたスマホの画面を見ると全員ピースしていた。
「何も言ってねぇのにこうなるよな、大体」
「でも仲良しって感じで最高じゃん!」
苦笑する怜愛に紅蓮は笑顔を返す。
「まぁな。折角来たんだし4人で写真撮れて良かったぜ」
「じゃ、あとで皆に送っとくな!撮ってくれてありがとうございました!」
大声でスタッフに礼を言う紅蓮に倣って俺たちも「ありがとうございました」と言ってから遊園地に入った。
中は想像よりも可愛くて一瞬たじろいでしまった。
「うっ……すげぇな。男4人で来るとこじゃねぇかも」
「ゼロが可愛いからオッケー!」
「ゼロよりミケの方が可愛いけどな」
「ミケも可愛いかもだけどゼロはめっちゃ可愛いからな!ゼロの勝ち!」
「……ミケちゃん、2人のこと置いていこっか」
不毛な言い争いを始めた怜愛と紅蓮を放置し、ゼロは俺の腕を掴んで歩き出した。
「初めてだしミケちゃんが選んでいいよ。どれ乗る?」
「俺、最初は絶対これって決めてたんだ!」
入り口付近のアトラクションに指をさす。
「やっぱり。メリーゴーランドは定番だよね」
ふふっと笑ったゼロは俺の腕を掴んだまま後ろを振り返る。
「ってわけでメリーゴーランド乗っちゃうからね。ミケちゃん貰っとく」
「おい、ゼロ」
「言い争ってる2人が悪いんでしょ。行こ行こ」
ゼロに促され、メリーゴーランドに向かう。ちょうど空いていたようでスタッフはすぐに案内してくれた。
好きな乗り物に乗っていいらしく、俺は赤毛の馬に乗った。
隣の白馬に乗ったゼロは妙に似合っていた。
「似合ってるな。ゼロのこと見る度に物語の登場人物みたいだって思う」
「そういう感じのこと、よく言われる。俺自身はその気持ちよく分かんないんだけどね」
「まぁ、自分の顔だもんな。綺麗すぎるってこと!」
「ミケちゃんに褒められるの嬉しいな。お世辞とか言えなさそうだから素直な気持ちって感じがする。癒し系だよねぇ」
のほほんと言うゼロの方が癒し系にピッタリだと思うのだが、そういう部分も自分では分かりにくいのかもしれない。
そう言うとゼロは「ミケちゃんって色々教えてくれるね」と笑った。
「俺って自分でもよく分からないこと多いから助かる」
「でもさ、そんなもんじゃねぇ?俺も俺のこと分かってるつもりでいたけど皆と話すようになっていい部分も悪い部分も見えてきたし」
「……確かに。案外皆そうなのかもね。勉強になるなぁ」
笑って話している俺たちの後ろに怜愛と紅蓮も乗ったらしい。
後ろを向くとまだ言い合っていた。
「大丈夫か?」
「あ、ミケ!レアのこと何とかしてくれよ。ああ言えばこう言うから面倒」
「怜愛は正論返し得意だからなぁ。そういう意味では紅蓮と相性悪いかも」
「俺に口喧嘩で勝つのは難しいと思うぜ?紅蓮」
ニシシと笑う怜愛に紅蓮は「ぐぬぬぬぬ」と返す。
「でもこんなとこまで来て言い合いなんてすんなよ。怜愛も悪い」
「ミケがそう言うならここらへんでやめとく」
「マジでレアってミケの言うことしか聞かなくなったよな!」
「そういうもんだろ」
リリリとベルが鳴り、メリーゴーランドが動き出した。
「うわっ!意外と速っ」
上下に動く馬にしがみつく。見た目よりもずっと速く、本気で驚いた。
ゼロは隣ではしゃいでいたし、怜愛と紅蓮は何かを張り合っていた。
そんな光景すら俺には貴重で。
(普通のことしてるだけなのにすげぇ楽しい)
きっと俺の表情は終始笑顔だったはずだ。
メリーゴーランドが止まった頃にはもう既に頬が痛くなっていたから。

「初っ端から回転したんだしもっと回転しちゃおっか」
ゼロの謎の提案で次はコーヒーカップになった。
4人で乗り込むと紅蓮が「任せろ!」と盛大に円盤を回し、カップは有り得ないほど速く回転した。
「ああああああ」
「うううううう」
俺と怜愛の呻き声がこだまし、紅蓮は「たーのーしー!」とはしゃぐ。
数分響いた声はカップが止まったと同時に止まった。
「有り得ね……っ」
「コーヒーカップってこんなにすげぇのか……」
放心しかけた俺たちよりも問題だったのは開始から一言も発しなかったゼロだ。
目に見えてぐったりとしている。
紅蓮は心配そうにゼロの顔を覗き込んだ。
「ゼロー!大丈夫か?」
「全然……大丈夫じゃない……」
「もっと回転してぇって言ってたから得意なのかと思ってた。お前に喜んで欲しくて。ごめんな!」
軽くゼロを担ぎ、紅蓮はひょいっとカップを降りた。
2人の体格差はあまりないが、紅蓮は軽々とゼロを持ち上げていた。
「紅蓮って意外と力あるんだな」
「ミケより強くないとはいえ元ヤンキーだしな。あとゼロが軽過ぎるっていうのもある」
「あぁ。確かに軽そうだ。って、ゼロ本当に大丈夫か?」
追いかけて声を掛ける。担がれたままゼロはゆるく笑った。
「少し休めば大丈夫だと思う」
「とりあえずそこ座ろうぜ。俺、飲み物4人分買ってくる」
そう言って歩き出した怜愛の後を追い掛ける。
「俺も行くって。こういう時、2人きりにした方がいいんだろ?」
「ミケの気遣い方は面白ぇな。けどこういう時は俺も2人きりになりたかったからって言う方が可愛いぜ?」
「え?あ、はっ!?言わねぇよ、そんなん!」
必死に否定する俺を見て怜愛はハハッと楽しそうに笑った。
からかわれたのだということは一目瞭然だった。
「まぁ、ミケがそんなこと言い出したら普通にビビるけどな。とにかくお前がずっと楽しそうで良かったぜ」
「うん。すっげぇ楽しい。連れてきてくれてありがとな」
「楽しいこと沢山教えてやるって言っただろ?色んなとこ連れてってやる」
ニッと笑顔を見せる怜愛が眩しくて照れてしまう。
付き合って大分経つが未だにこうして照れるのは怜愛がいちいちカッコイイ所為だ。
一挙一動が様になっている──なんて思ってしまうのは恋人だからかもしれないけれど。
「……ありがと」
「ミケの照れ顔好き」
「お前って本当意地悪だよな。そんなこと言わなくてもいいじゃん」
「思ったことは言うようにしたんだよ。誰かの影響でな」
「それって……俺?」
「他に誰がいるんだよ」
ククッと笑った怜愛は自販機でペットボトルを4本買った。2本受け取って戻るとゼロは笑顔で手を振ってきた。
「ゼロ!もう大丈夫なのか?」
「大分良くなった。ありがとう。炭酸貰うね」
4本の中から炭酸を渡す。ゴクゴクと飲んで「ふう」と息を吐くゼロの隣に座った紅蓮は明らかに落ち込んでいた。
恋人を体調不良にしてしまったのだから当然と言えば当然だ。
何を言えばいいか分からず、俺は怜愛に視線を向けた。
意味を理解した怜愛はぱしんと紅蓮の頭を軽く叩いた。
「んな顔すんなよ。起こしちまったことは仕方ねぇだろ。大事なのはこの後どうするかってことじゃねぇの?」
「レア……サンキュー。そうだよな。俺らしくなかった」
「そうそう。お前はヘラヘラしてる方が似合ってるって」
「ヘラヘラって言うなよな!」
怜愛の言葉で元気を取り戻した紅蓮は改めてゼロに謝罪した。
「ゼロ、本当ごめんな。これからは先に聞くから」
「いいって。俺が言わなかったのも悪かったし」
なでなでとゼロは紅蓮の頭を撫でた。今の紅蓮の髪色は黒とピンクのツートンヘアだ。
春休みに入った時にこの色に変えていた。
夏は前髪の真ん中だけを金髪にしていたし、秋は所々に緑のメッシュを入れていて、冬は全部真っ青にしていた。
この1年間だけでも様々な紅蓮を目にしたことになる。
同時にもう高校3年になるのだと思うと長いようで短い1年だった。
怜愛と同じ部屋になって驚いたことも遠い昔のようだ。けれど昨日のことのようにも感じる。
気になっていた人とまさか付き合うなど思いもしなかった。
そういうことは無関係だと思っていたし、自分は今も変わらず喧嘩を続けているものだと思っていた。
間違いなく17年間生きてきて一番濃厚で一番大切な1年間だった。
「ミケ?大丈夫か?」
紅蓮に声を掛けられてハッとする。
気付けばスカイサイクルの前に立っていた。そういえばこれなら乗れそうだとゼロが言ったのだった。
「悪ぃ、悪ぃ。ちょっとぼーっとしてた。あれ?紅蓮の隣、俺でいいのか?」
「ゼロと乗るつもりだったんだけどレアと話があるんだってさ。だからミケも俺で我慢して」
「我慢って。全然いいぜ。紅蓮、めっちゃ足使ってくれそうだし」
スカイサイクルは自転車を漕ぐようにして動かすアトラクションだったはずだ。
乗ってみると思っていた以上に恐怖感を覚えた。
「怖っ!」
「怖いよなー!俺も初めて乗った時そう思った。てかミケがこういうとこ来たことないっての意外だった」
「まぁ俺って見た目だけは社交的に見えるからな。今までマジで友達いなかったからさ」
「それも意外!喧嘩強いし慕われてそうなイメージだった」
「喧嘩の強さっていう意味では慕われてたかもなぁ。でもそれって友達じゃねぇじゃん?だから周りにどれだけ人がいてもぼっちな気がしてた」
「あー、分かる。俺も結構そうだったな。友達はいたけど本音はぶつけられない、みたいな」
紅蓮は俺に合わせてサイクルを漕いでくれているらしい。
適度な速さで進むサイクルはいい感じに風を切ってくれる。
爽やかで気持ち良く、俺の中でこのアトラクションはお気に入りになった。
「紅蓮も悩み多いもんな。普通にはない悩み持つのって大変だろ。分かってもらえないことの方が多そうだ」
「うん。大体分かってもらえない。昔はそれがすげぇ嫌だった。でも今は分かってくれてる人がいるからそれだけで充分っていうか。昔と比べて恵まれ過ぎてる気さえする」
いつもヘラヘラと笑っている紅蓮が真剣な顔をするのは珍しい。
思わず足を止めてじっと見つめてしまった。
「あ、サボってる」
「だって紅蓮がマジで語るから」
「マジ語り似合わないけど実はすっげぇ考えるタイプなんだぜ、俺って」
「そっか。紅蓮のこと知れて嬉しい」
「ゼロの言う通り素直だなぁ、ミケは。今時珍しいって言われねぇ?」
「ん?素直なのは紅蓮も同じだろ」
俺の言葉に紅蓮は「そうだけど」と笑った。
「ただ俺の場合は本当に素直じゃないっていうかさ。ミケはピュア可愛いの」
「何だそれ。違いがあんのか?」
「9割同じ素直って部類、1割俺の方が悪どい──みたいな?」
「んー、それならほぼ同じでいいだろ」
すっかり足を止めてしまった俺だったが紅蓮は気にせず漕いでいてくれた為、ちゃんと終点に辿り着いた。
降り際に紅蓮は「ありがとう」と笑った。
「え?何が?むしろ俺の方が漕いでくれて感謝してんのに」
「同じって言って貰えて嬉しかった」
それだけ残して紅蓮は先に降りていたゼロの方へ走って行った。
詳細は分からない。だが紅蓮は紅蓮なりに「何か」を抱えていたのだろう。
そしてその「何か」に対して俺の言葉が役立ったらしい。
ゼロも紅蓮も俺に感謝してくれるけれど、むしろ俺の方が感謝したいぐらいだ。
だって俺が知らない世界を教えてくれた。
それは2人にしか出来なかったことだと思うから。
(怜愛と出会えたことと同じぐらい──奇跡なんだろうな)
「ミケ!行くぞ」
怜愛に名前を呼ばれ、手を上げて駆け寄る。
この一瞬一秒を──一生大切にしたい。

「はぁ、もう夜か。1日早かったなぁ」
閉園時間前、最後に乗ったのは観覧車だった。
4人で乗るのも悪くなかったが話し合いの末、ペアで乗ることになった。
俺の目の前には当然怜愛が座っている。
「初めての遊園地は楽しかったか?」
「勿論!このメンバーで来れて良かったって何回も思ってた」
「確かに今日のミケは考え事してる雰囲気あったもんな」
「マジ?そんな素振り見せなかったつもりなのに。でも考えてたのは事実だからそう見えちまったんだろうな」
窓の外には夜景が広がっている。
暗闇に広がるカラフルな電気は綺麗で、そして今見ると少し寂しい気持ちになる。
楽しかった1日が終わってしまうのだと。
「また来ようぜ。4人でも2人でも。他にミケが行きたいとこあんならそこ行くし」
「行きたいとこいっぱいある。俺、マジで喧嘩するしか脳がなかったから無知だなって思い知ったんだよな。もっと色んな物見て色んなこと知って、視野広げてぇわ」
「それ、趣味にしてもいいんじゃねぇの?」
「旅行っつーこと?」
「そう。旅行ってのはつまり色んなとこ行って色んなこと知ることだろ?今のミケにピッタリだ」
じわりと頭が熱くなった。まるで心が熱を持ったような。
ただ新しい趣味が見つかっただけだというのに、まるで自分の使命を発見したかのような感覚がして。
「……うん、そうだな。きっとそれだ。俺が見つけたかったもの。見つけるまでに1年掛かっちまったけど」
「1年掛けて見つけた趣味だ。本物だと思うぜ。それに朗報だ。俺も同じ趣味なんだよな」
「え?でも怜愛の趣味って……」
怜愛が唇の前で人差し指を立てる。そしてウインクをひとつ。
察した俺は大きく頷いた。
多趣味な怜愛なのだから、これもきっと。
「ん、そうだな。同じ趣味持てて嬉しい」
「だから色んなとこ行こうぜ。近くでも遠くでも。卒業したら海外もいいよな」
「最高だな、その夢。叶えようぜ」
拳を向けると拳が返ってきた。
「ミケらしいアクションだな」
「じゃあ逆に怜愛らしいのって何?」
「俺は……」
ぐいっと顔が近付けられ、驚く間もなくキスされた。
すぐに顔を離した怜愛はウインクをする。
「これかな」
「……気障っぽい」
「似合うからいいだろ?」
「まぁな。怜愛だから許す。ってか普通にそういうのカッコイイし憧れる」
「けど俺にならなくていいからな」
怜愛はついと視線を外に向けた。
その視線に誘導されるように外を見る。
「一番てっぺんだ」
「だな。いい景色」
ふわりと笑った怜愛が可愛くて、ドキッとして──俺の身体は勝手に動く。
ガバッと怜愛に抱き着いてしまった。
「お、珍しい」
「……分かんねぇけど抱き着きたくなった」
「そういう衝動もいいと思うぜ。ミケは素直だからな」
なでなでと頭を撫でられる。気持ち良くて猫になった気分だ。
思えば自分の名前は猫が由来なのだとこんな時に思い出す。
オスの三毛猫が生まれるのはかなり珍しいらしい。両親はそんな稀少な子になって欲しいと願ったという。
抱き着いたまま怜愛にその話をすると大きく笑ってくれた。
「すげぇいい話だな。俺もミケはいい名前だと思うぜ。確かに稀少な奴になったし」
「そうか?稀少ってレアってことじゃん。俺別にレアじゃ……え?あ、そういうこと!?」
怜愛が言いたかったことを理解して途端に恥ずかしくなる。
「ククッ、すげぇ偶然。ミケの両親とあだ名付けてくれたゼロに感謝しねぇとな」
「なんか運命っぽくてすげぇ」
「運命ね。本当にそうかもな」
ふと目が合ってキスをする。
先程よりも長いキスは永遠に続けていたくなるぐらい甘かった。

「うわ、絶対何かあった顔じゃん」
観覧車を降りてすぐゼロはそう言って俺たちの顔を見比べた。
「そうか?いつも通りに見えるけど」
「紅蓮はこういうの鈍感だから分からないでしょ」
「否定出来ねぇ!で、何かあったのか?レア」
「秘密。閉園時間過ぎてっから早く出ようぜ」
曖昧に誤魔化して歩き出した怜愛にゼロはしつこく「怪しいなぁ」と疑いの眼差しを向けていた。
「何かあったのか?ミケ」
今度は俺の方に顔を向けた紅蓮だったが当然俺も答えるわけにはいかない。
怜愛のように上手く誤魔化すことは出来ないから笑って「帰ろ帰ろ」と紅蓮の身体を押した。
これが俺の初めての遊園地の思い出。
──そして新しく芽生えた趣味の一歩。

「ミケ!起きろ!置いてくぜ」
「うわっ!?こんな時間!?もっと早く起こせよ、怜愛!」
4月5日、始業式。今日から3年だ。
相変わらず起きられない俺を起こしてくれる怜愛とは今年も同室だ。
安心すると同時に嬉しくなる。
「叩いても起きなかったんだっての。どんだけ爆睡してんだ」
「んなこと言われても……あ、ゼロ」
バタバタと準備をして部屋を出るとゼロが廊下を歩いていた。
「おはよう。相変わらず騒々しい部屋だね」
「100%ミケの所為だけどな」
「怜愛も怒鳴ってたんだから10%ぐらい怜愛の所為!」
「はいはい。ラブラブなのは分かったから。そう言えばネタバレするけど今年も同じクラスらしいよ。宜しくね」
「え!?マジで!?嬉しい!」
「朝練行った紅蓮が先に見たって言ってた。今年は紅蓮も一緒みたい。もっと五月蝿くなりそう」
「紅蓮も一緒なのか!最高っ!」
靴を履いて寮を出る。
見上げれば突き抜けるような青空で。
「また1年宜しくな、ミケ」
隣に立ってニッと笑った怜愛に左手を上げる。
パチンと返ってきたその手にも俺の手にも光る銀の指輪。
──この先も絶対、幸せな予感しかしない。
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