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①
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「俺別に相川にぞっこんなわけじゃねーし」
静まり返った放課後の教室に響く男子たちの声。
その中でも私が一番大好きな声は、一番残酷な事実を紡ぎ出した。
「は? 嘘つけ。お前たち幼馴染だろ? 相川にベタ惚れなのはバレバレだっつの」
「そんなことねーよ。むしろ相川の方が俺にぞっこんなんだよ」
「モテる男は辛いな。羨ましー」
「まあお前なら別れてもすぐ新しい彼女できそうだしな。そこまで相川にこだわる必要ねーか」
「まあな」
残酷な事実はどんどんと広がっていき、私の足元からは黒いモヤが広がっていく。
声の主は原田拓真。
私の幼稚園の頃からの幼馴染で、彼氏だ。
家が近所で母が知り合いだったことから家族ぐるみの付き合いになり、自然と幼い頃から一緒に遊ぶことが多かった。
中学校は別々の学校だったものの、偶然高校で再び一緒になったのだ。
拓真はどんどん身長も大きくなり、声も低くなって、私が知っている拓真ではなくなりつつある。
彼の見た目は女子生徒たちの憧れの的。
そんな拓真が女子たちから告白される様子を何度も目にしてきたのだ。
だが拓真が特定の誰かと付き合っているという話を聞くことはなく。
どうやら全ての告白を断っていたらしい。
◇
「なあ、お前今好きなやついんの?」
「何いきなり」
高校三年生になり、互いに十八歳を迎えてしばらく経ったある日のこと。
突然私の家を訪れた拓真は、いつものように母に案内されて私の部屋を訪れると開口一番にそう尋ねた。
「拓真さ、いい加減勝手に私の部屋入ってくるのやめてよ」
「勝手じゃねーし。おばさんにちゃんと許可取ってる」
「それもどうかと思うんだけど」
私の母親は幼馴染の拓真に絶大な信頼を寄せているようだ。
「で、何の用?」
「浅野が、お前が告られてんの見たって」
その数日前、私は同じクラスの新庄直哉に付き合ってほしいと告白されていた。
委員会の仕事を一緒にしたことがきっかけで仲良くなったのだけれど、私は新庄に対してそういった感情は持っていなかったので断ったのだが。
「お試しでいいから、ちょっとだけでも付き合ってくれない?」
とまあこんな具合に粘られた挙句、返事は保留にさせてもらったのだ。
「ウケる。見られてたんだ」
「おい、流すなよ。お前なんて返事したわけ?」
「何でそんな怒った顔してんの。拓真には関係ないし」
「いいから、なんて答えたんだよ!」
なぜかいつもより低く怒鳴るような声でそう尋ねる拓真の姿に、私は戸惑った。
「……断ったけど、しつこく粘られて」
「で?」
「とりあえず保留にした」
「はあ!? 保留ってなんだよ。好きだったら保留なんてないだろ!」
「うるさいんだけど。拓真なんてただの幼馴染のくせに、私の恋愛までいちいち口出さないでよ。自分は女の子のこと振りまくってるくせに」
実は少なからず拓真に惹かれていた私。
だが高校に入り眩しいほどに成長してしまった拓真と私の間には隔たりを感じるようになった。
女子に告白されているその姿も、最初は心苦しかったがいつしか見慣れたものになり。
拓真と自分が付き合うことはないと心のどこかで諦めに似たような踏ん切りをつけていたのかもしれない。
「ふざけんな」
ボソっとそう呟くと、拓真は突然私の腕を掴み自らの胸の中に引き寄せた。
顔が拓真の胸元に押しつけられ、濃いほどに鼻をつく彼の香りも合わさって息が苦しくなる。
「ん、ちょっ拓真……くるし……」
必死にその苦しさから逃れようともがくが、拓真の腕の力は強くなるばかり。
「俺お前が好きだから」
「は?」
「新庄とは付き合うなよ。これ命令な」
「はぁ!?」
突然の告白に、私の頭の中は真っ白になった。
静まり返った放課後の教室に響く男子たちの声。
その中でも私が一番大好きな声は、一番残酷な事実を紡ぎ出した。
「は? 嘘つけ。お前たち幼馴染だろ? 相川にベタ惚れなのはバレバレだっつの」
「そんなことねーよ。むしろ相川の方が俺にぞっこんなんだよ」
「モテる男は辛いな。羨ましー」
「まあお前なら別れてもすぐ新しい彼女できそうだしな。そこまで相川にこだわる必要ねーか」
「まあな」
残酷な事実はどんどんと広がっていき、私の足元からは黒いモヤが広がっていく。
声の主は原田拓真。
私の幼稚園の頃からの幼馴染で、彼氏だ。
家が近所で母が知り合いだったことから家族ぐるみの付き合いになり、自然と幼い頃から一緒に遊ぶことが多かった。
中学校は別々の学校だったものの、偶然高校で再び一緒になったのだ。
拓真はどんどん身長も大きくなり、声も低くなって、私が知っている拓真ではなくなりつつある。
彼の見た目は女子生徒たちの憧れの的。
そんな拓真が女子たちから告白される様子を何度も目にしてきたのだ。
だが拓真が特定の誰かと付き合っているという話を聞くことはなく。
どうやら全ての告白を断っていたらしい。
◇
「なあ、お前今好きなやついんの?」
「何いきなり」
高校三年生になり、互いに十八歳を迎えてしばらく経ったある日のこと。
突然私の家を訪れた拓真は、いつものように母に案内されて私の部屋を訪れると開口一番にそう尋ねた。
「拓真さ、いい加減勝手に私の部屋入ってくるのやめてよ」
「勝手じゃねーし。おばさんにちゃんと許可取ってる」
「それもどうかと思うんだけど」
私の母親は幼馴染の拓真に絶大な信頼を寄せているようだ。
「で、何の用?」
「浅野が、お前が告られてんの見たって」
その数日前、私は同じクラスの新庄直哉に付き合ってほしいと告白されていた。
委員会の仕事を一緒にしたことがきっかけで仲良くなったのだけれど、私は新庄に対してそういった感情は持っていなかったので断ったのだが。
「お試しでいいから、ちょっとだけでも付き合ってくれない?」
とまあこんな具合に粘られた挙句、返事は保留にさせてもらったのだ。
「ウケる。見られてたんだ」
「おい、流すなよ。お前なんて返事したわけ?」
「何でそんな怒った顔してんの。拓真には関係ないし」
「いいから、なんて答えたんだよ!」
なぜかいつもより低く怒鳴るような声でそう尋ねる拓真の姿に、私は戸惑った。
「……断ったけど、しつこく粘られて」
「で?」
「とりあえず保留にした」
「はあ!? 保留ってなんだよ。好きだったら保留なんてないだろ!」
「うるさいんだけど。拓真なんてただの幼馴染のくせに、私の恋愛までいちいち口出さないでよ。自分は女の子のこと振りまくってるくせに」
実は少なからず拓真に惹かれていた私。
だが高校に入り眩しいほどに成長してしまった拓真と私の間には隔たりを感じるようになった。
女子に告白されているその姿も、最初は心苦しかったがいつしか見慣れたものになり。
拓真と自分が付き合うことはないと心のどこかで諦めに似たような踏ん切りをつけていたのかもしれない。
「ふざけんな」
ボソっとそう呟くと、拓真は突然私の腕を掴み自らの胸の中に引き寄せた。
顔が拓真の胸元に押しつけられ、濃いほどに鼻をつく彼の香りも合わさって息が苦しくなる。
「ん、ちょっ拓真……くるし……」
必死にその苦しさから逃れようともがくが、拓真の腕の力は強くなるばかり。
「俺お前が好きだから」
「は?」
「新庄とは付き合うなよ。これ命令な」
「はぁ!?」
突然の告白に、私の頭の中は真っ白になった。
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