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魔王誕生編

船上の儀式

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 快晴の青空の下、四本の柱に白帆を広げた木造船が海上を進んでいる。
 空から『海神』が落ちてきて、大地を全て破壊した日から三百年以上が過ぎた。
 生き残った人間達は海に浮かぶ樹木を拾い集め、船の上で暮らし始めた。

「偉大なる『地上神様』。どうかどうかどうか、我々に今一度大地のお恵みをお与えくださいませ」

(この儀式も今回で何千回になるだろうか?)

 いやはや、私も六十二だ。もうとっくに一万回を超えている。
 祈る父親の背中を見て育ち、その父親は爺さんの背中を見て育った。
 先祖代々何十年、何百年と続く不毛な儀式だ。
 神がいるのに、別の神を望むとは無礼にも程がある話だ。

 船の甲板に魚を捧げただけの質素な祭壇を築き、五十人以上で祈りを繰り返す。
 白いローブを身に纏い、祭壇に捧げられた大きな銀魚に祈り続ける。
 地上神からの返事は来ない。当然来るはずもない。海で取った魚だからだ。

 誰もが期待する時期はとっくに過ぎ去った。幼き日の頃から続く日課になり変わった。
 ただただ希望を失わない為、資源が尽き、船が壊れる絶望的な未来を見ない為、ただただ祈り続けている。

「ん? 何だあれは?」

 空を見上げていた不謹慎な男が、祭壇上空を指差して言った。
 他の者も意識を祭壇の魚から空に移していく。私も続いて空を見上げた。

「雪か?」「鳥か?」「流れ星?」

 皆が次々に言う。私の目には光る何かが落ちてくるのが見える。
 そうあれは間違いない。待ちに待った神々しき『希望の光』だ。

「いや、あれは地上神様だ」
「「「えっ?」」」

 今日の私には空は眩し過ぎる。両目から熱いものが流れていく。
 父や爺さんの祈りがやっと届いた。世界が変わる日がとうとうやって来た。
 地上神様よ、感謝します。

 ♦︎

「ぐあああああ⁉︎」

 浮遊感を感じたのは一瞬だけだった。すぐに落下を開始した。
 何故か空中にいた。前も森から荒野に移動していた。
 もしや警官に撃たれた危機的状況で俺の『瞬間移動能力』が覚醒したのか?

「ぐはあ‼︎」

 そんな訳あるか。
 馬鹿なこと考えずに受身を取ればよかった。
 数秒で木造船の甲板に激突した。
 
「痛てえー‼︎ 痛、痛え、痛えよぉー‼︎」

 この痛みは生きている証拠と明るく生きたいが無理だ。
 甲板の上を転げ回る。でも、転げ回ったら折れた手足が痛い。
 でも、転げ回らないと痛みに耐えられない。だから、転げ回るしかない。
 痛みの無限ループが完成してしまった。

「おお‼︎ 地上神様だ‼︎ 地上神様が降臨くださったぞ‼︎」
「やっとだ‼︎ やっと我々の願いが届いたんだ‼︎」
「嗚呼~地上神様‼︎ 本当に本当にありがとうございます‼︎」

 状況は分からんが、男女の喜んでいる声が聞こえる。
 熱烈な歓迎ムードだが、こっちは喜んでいる状況じゃない。
 手足以外も落下の衝撃で折れた気がする。もう絶対に折れてる。
 もう俺死んだ。死ぬのも時間だ。

「地上神様、大丈夫ですか? どこかお怪我でも?」
「あん?」

 白い厚手の布ローブを纏っている初老の爺さんが心配顔で話しかけてきた。
 やっぱり転がった方が痛いから停止すると、周囲を見回した。
 空を見上げたら、太い木柱に広げられた白い帆が見えた。
 横を見ると五十人以上の白ローブの集団が見えた。若い女もチラホラ見える。
 それに波の音に海の匂いがする。間違いなく海の上だ。

 そして、一番重要な情報はDV兄貴がいない事だ。
 命の危険はしなくてよさそうだ。

「もしかして、私の言葉が理解でき——」

 爺さんが白ローブの集団に振り返って、何か言おうとしていたが。
 寝転がった体勢のまま爺さんを睨みつけて、威厳のある声で訊いた。

「お前がこの船の船長か?」
「はい⁉︎ あ、はい、そうでございます⁉︎」
「やはりお前か。俺に何の用だ?」

 爺さんが驚いて、かなり緊張しているのが分かる。
 最初に話しかけて来る奴が大抵責任者だ。当てずっぽうだが当たりは当たりだ。

「はい、地上神様には……」
「おお‼︎ やはり地上神様だ‼︎ 我々は救われるんだ‼︎」
「きゃ~♪ 地上神様ぁ~♪」

 爺さんが理由を話し始めたが、他の連中が騒いで聞き取りにくい。
 現状で分かったのは、俺が神様だと期待されている事だ。
 だとしたら、骨の髄までしゃぶらさせてもらう。
 手始めに女だ。さあ、楽しませてもらおうか。

「……という訳でございます。地上神様のお力で何卒大地を取り戻してくださいませ」

 爺さんの話が終わったみたいだが、全然聞いてなかった。
 まあいいか。

「分かった。だが、その前に俺の願いを聞いてもらおうか」
「ははっ! 我々に出来ることなら何なりとお申し付けくださいませ!」
「いい覚悟だ」

(じゃあ、遠慮なく乱交パーティーやっちゃいまぁ~す♪ だ・れ・に・し・よ・う・か・なぁ~?)

「では、そこの金髪と黒髪の二人は前に出ろ」
「「は、はい!」」

 爺さんが好きに抱いていいと言ったので、十八歳前後の美少女二人を視線で選んだ。
 流石の俺も手足が折れた状態で三人は無理だ。3Pで我慢する。

 船の乗組員は五十人ちょっとだ。そのうち女は三分の一ぐらいいる。
 その中で若そうなのは七人だ。顔立ちは西洋系で、肌は日焼けしている。
 女なら誰でも良い訳ないが、高校生の時から日焼けギャルは大好物だ。

「お待たせしました、神様。何なりとお申し付けください」

 二人は寝転がった俺に恐る恐る近づくと、俺の前で正座した。
 怖がらなくても痛い事はしないよ。むしろ気持ち良いよ。
 黄金の指は封じられているけど、黄金の大砲は健在だよ。

 船での戦いは『パイレーツ・オブ・レズビアン~嫌われた男達~』で知っている。
 船の操舵輪に裸にした女船長をロープで縛って、三十四分間熱い戦いを繰り広げるやつだ。

 あれは最高の映画だった。二十八回以上は見た。
 まあ、今の俺は怪我しているから、あのプレイは再現不可能だ。
 今回は病院のベッドでの戦い方になる。
「院長」と爺さんを呼んだ。

「はい! 何でしょうか?」

 これが神対応か。爺さんが血相変えて走ってきた。
 尻を出せと言えば本当にやりそうだが、汚い尻を見る趣味はない。

「部屋を用意しろ」
「は、はい! すぐに!」

 さて、俺も羞恥心ぐらいはある。
 大勢の前で自慢の大砲を撃つつもりはない。
 個室が必要だ。

「それと、その、神様……」
「ん? 何だ? 言いたい事があるならハッキリ言え」

 部屋を用意すると言ったのに、爺さんが俺の方をジロジロ見て、何か言い難そうにしている。
 まさか、混ざりたいとか言わないだろうな?

「何故、裸なんでしょうか?」
「……」

 海よりも深い沈黙の後に俺はハッキリと言った。

「裸で悪いか?」
「めっ、滅相もございません‼︎ 大変お美しい身体です‼︎」

 ——ゾクッ‼︎

 この爺さんガチだ‼︎ 俺と混ざり合うつもりだ。
 俺の経験と本能が危険を知らせている。さっさと部屋に女達と閉じ籠るか。

「世辞はいい。聞きたい事はそれで終わりだな? 俺は手足を拘束されて動けない。若い女達全員で部屋まで運べ」
「ははっ! かしこまりました!」

 変態爺さんとの話はこれで終わりだ。
 それに我ながら賢い手だ。これで部屋に若い女を全員連れていける。
 朝から晩まで骨折が治るまで、何ヶ月も交代で看護させてやる。

「地上神様、もう一つよろしいでしょうか? その手錠には一体どんな意味があるのでしょうか? それと部屋で何をするんですか?」
「……」

 チッ。しつこい爺さんだな。二つじゃねえかよ。
 こっちは早く部屋でイキたいのに、いや、部屋に行きたいのに邪魔してくる。
 さっさと適当に誤魔化して黙らせるしかねえな。

「はぁ~、全部言わないと分からないとはな……。部屋でこの手錠を外す神聖な儀式をする。この手錠は俺の力を封じる物で、俺の力に嫉妬した神がしたものだ——」

 盛大に溜め息を吐き出すと、日々鍛えたそれっぽい嘘を吐き始めた。

「手錠を外すには清らかな乙女の協力が必要だ。爺さんあんたには無理だ。俺の力が必要ならば、儀式が終わり、手錠が外れるまで部屋に近づくな。分かったな?」
「ははっ! 畏まりましたぁー‼︎」
「分かればよろしい。よし、運べ」

 爺さんが盛大に頭を床につけて謝罪した。
 これにて一件落着だ。さあ、部屋で大砲を撃ちまくるぞ。

 ♦︎
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