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 二体っきりの交尾に没頭するリュウグウの様子を別室のモニターに映し出し、真剣な顔で凝視する人間達。

「性別を確認出来ていなかったが、コレではっきりしたな」
「寝込んでたのは、繁殖期に向けての身体の変化か?」
「やっぱり番だったんだ」
「でも、昼間体調悪そうにしていた方が雄みたいですけど、今は元気ですね」
「……リュウグウは雌が雄の世話を焼くのかもしれないな」

 日頃の動きから、雌のリュウグウは雄のリュウグウの世話を焼いている様子が日頃から確認されている。
 そして、今日の寝込んでいる雄へ甲斐甲斐しく口移しを施す雌の姿。
 雄優位の生態を築いているのか、それとも本当に情というものが存在しているのか。
 事実映像付きであろうと、実例が二体だけではリュウグウと言う種の習性や在り方を断言するには至らない。

「……に、しても熱烈だな」
「キスをしながらの交尾はイルカと似てますけど、繋がっている時間が長いですね」

 パートナーとのコミュニケーションを取りながら交尾を行う様子はイルカとは確かに似ているが、イルカの交尾時間は十秒程。インターバルを挟んでその十秒を繰り返すイルカと違い、リュウグウの二体は快楽を享受しているような動きで繋がり続けている。
 人間の感性からしたら、極めて官能的な交尾を行っているように見えた。
 動き、反応、時間を記録しながら、リュウグウと人間の夜は更けていった。

※※※

 ヒカチにより、マグの欲求は発散された。

「ありがとうヒカチ」
「……ああ」
「ヒカチのナカ、あったかくてきゅうきゅう締め付けてきて、ナカにあるヒカチのと擦れるとすごい気持ち良かった」
「せ、説明しなくていい」

 すっかり元気になったマグがヒカチにピッタリとくっ付いて水槽内を泳いでいた。

「ヒカチもちゃんと気持ち良かったんだよね?」
「……まぁ」

 マグよりも欲求は溜まっていないものの、刺激を受ければしっかりと反応していた自分を思い出して、恥ずかしさに顔を逸らした。

「今夜もいい?」
「ぇ?」
「下半身がまだ重い。お願いヒカチ」
「しょ、しょうがねえな」

 その夜も、次の夜も、二体は身体を重ねて慰めあった。
 マグよりも遅れていたヒカチの発情もマグに誘発されるように高まっていき、擬似交尾の激しさと繋がる時間も増していった。
 それに伴い睡眠時間が減った事で、開園中寝床で眠るリュウグウ二体が見れるようになったが、事情を知らない来場者はやはり動いてる姿を見たがるものだ。

「リュウグウが交尾の所為で昼夜逆転してる」
「コレじゃ折角見に来てくれてるお客さんに申し訳ないですね。けど、リュウグウ達にも睡眠は必要ですし……」
「交尾のタイミングを昼にズラせないか?」
「夜も交尾前はキョロキョロしてるあたり人間が居ないか見ているように感じます。決まって消灯後、我々が撤退した後に始めてますから」
「交尾中は外敵に襲われる危険性がある行為だ。安全を確認してからシててもおかしくはない」

 リュウグウの健康が一番なのだが、動物園として経営もしている為、それなりに来場者の為にも設備を整えなければならない。
 そこで、実施されたのは昼間の数時間だけ常夜灯へ切り替え、マジックミラー効果のある天幕を下ろす事だった。
 リュウグウは鏡を見ても、映った自分の姿を自分と認識出来ている為、縄張り意識による敵対心の心労は無い。
 しかし、急な環境の変化にストレスを感じぬように、天幕展開と常夜灯は二体の反応を逐一確認しながら行われた。

「最近一日が短い気がする」
「そうだな。寝てる所為かも……」
「……あれ? ミラーだ」
「そういえば、最近人間の居たところにミラーが出てるよな」
「そうなんだ。気付かなかった。大きなミラーだね」

 水槽の上から下までを覆う鏡にマグは楽しそうに自分を写して羽衣を翻していた。
 ヒカチは鏡にペタッと額をくっつけて材質を確認しようとしていたが、自分と目が合うばかり。

「(人間達の考える事が全くわからない。なんでミラーを?)」
「ヒカチ~」
「ん?」
「僕の背中の羽衣また伸びてた」
「そうか」

 鏡で気付いたようで、ヒカチの目の前で成長した背中の羽衣を見せてクルクルと回るマグ。
 この数日で大人の階段を昇っているからか、幼さの中に大人の艶のようなものを持ち始めていた。
 頭の鰭の動きに頭の羽衣も波打つ。

「(……マグって、こんな綺麗だったか? 歯を見せずに笑うだけで、ここまで変わるんだな)」

 薄暗い水槽の鏡に映る自分達の姿。
 大人びつつある身体をまじまじと見せつけられ、ココに入れらてからどれ程の月日が経ったのか……もう、わからなくなってしまった。
 これからもずっと、こんなよくわからない日々が続いていく現実に、ヒカチは胃袋の底でムカデが這う様なゾワゾワとした悪寒と嫌悪に襲われる。
 同時に張り詰めていた糸が緩んで、目の前のマグに寄りかかる。

「ヒカチ、大丈夫?」
「…………疲れた」
「え? もう一回寝る? 休む?」
「…………」

 自分を支えるマグの身体に徐々に体重をかけながら、ピトっと尾を触れ合わせて動きをシンクロさせる。

「!」

 その行為は、ヒカチ達の種族の雌が雄のアプローチを受け入れた際に行う、交尾了承の合図だった。

「(そろそろ発情も落ち着く頃だし……今日できっと最後だ)」
「ヒカチ、疲れたのに交尾したいの?」
「もう何も考えたくない……考えるなら、マグの事だけでいい」
「わ……わぁ」

 もし、マグに両腕があったならヒカチを力一杯抱き締めていただろう。
 
「僕、頑張るから……ヒカチもいっぱい僕の事考えてね」
「ああ……」

 ヒカチがスリットをクパっと広げる姿に、マグは発情とは違う心の沸騰を感じた。
 
「不思議……ヒカチは男の子なのに……なんでだろう。すごく、僕のお嫁さんになって欲しい」
「お前、口に出すなよ……」
「ぁ、ごめん」
「…………この隔離された空間の中でだけなら、マグの嫁で居るのも悪くないな」
「ッ~~~~!」

 気の緩んだヒカチの笑顔にマグは、堪らず額と腹鰭同士を擦り付ける。
 恋人同士がするスキンシップにヒカチは擽ったそうに身体を捩る。

『ズリ』
「……いつもより、硬くないか?」
「興奮してるから……挿れていい?」
「ん、いいよ」

 マグの剛直が、ヒカチのスリット内へ挿し込まれていく。
 
「ぁ、ぁ……ふ、んん」
「(初めての交尾でも無いのに、すごいドキドキする)」
「(やばい……思った以上に、マグに嫁とか言われて……俺、喜んじまってる。マグので女の子になるの、悪くないって、思ってる)」

 根元まで挿入すれば、ぴったりとスリットが密着する。
 幾度となく重ねてきた身体が、今までにない程に熱く猛る。

「……止まれ、ないかも」
「俺も……」
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