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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
Nightmare/3
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窓から入り込む光が、微笑ましいふたりを波打つように照らしては、壁の影に隠れてを繰り返す。
一階へと続く階段へ近づくと、崇剛は瞬のひまわり色をした可愛らしい頭を、冷静な水色の瞳に移した。
一段ずつ、足をそろえて降りるという可能性が99.99%――
策略家の導き出した数値は、小さな子供にいとも簡単にひっくり返されるのだった。茶色のロングブーツと一緒に歩いていた小さな靴は、普通に階段を一歩でどんどん降り出した。
小さな子供にチェックメイトされた主人は、いつもと違って優しく微笑んだ。小さな体で大人が使っている階段を一生懸命降りている瞬へ、
「階段を上手に降りられるようになったのですね」
「うん!」
大きく首を縦に振って、ひまわり色の髪が元気に飛び跳ねた。崇剛は高く聳え立つ窓から空を見上げる。
瞬と私はほとんど接していませんからね。
以前は、一段ずつ足をそろえて降りていましたが、成長したのですね。
霊界にいる彼女も喜んでいるかもしれませんね。
瞬はぴょんぴょんと、最後の二段は両足でジャンプして、一階の廊下に可愛らしく着地した。いつも氷河期みたいな崇剛の瞳は、陽だまりのように穏やかに緩む。
食堂とは正反対の位置にある教会の扉。一番東へ向かって、主人と純真無垢な子供は、四角く切り取られた秋の日差しを浴びながら、再び歩き出した。
金木犀の風香りが窓からあふれ、華やかな空気がふたりの頬に触れてゆく。
乱れた後れ毛を神経質な手で、崇剛が耳にかけると、瞬がふと顔を上げた。
「せんせい?」
「えぇ」
呼ばれて、視線を下へ合わせると、かけたばかりの紺の後れ毛が頬にまた落ちてしまった。
小さな子供が次に何を言うのか。可能性から導き出した策略家は、優雅な笑みで話し出すのを待った。
(ピアノの話ですか? 私たちは今、ピアノの置いてある部屋の前を通っていますからね)
予想通りの答えが、瞬の小さな口から出てきた。
「チューリップ、ひけるようになった」
崇剛は自分の後れ毛をかけ直すこともせず、神経質な手でひまわり色の柔らかい髪をゆっくりなでた。
「そうですか。よかったですね」
屋敷の中に響いてくる、つたないメロディーは、崇剛の脳裏で綺麗な色をつけていた。
(一週間前までは、三小節目でつかえていましたが、弾けるようになったのですね。あなたは様々なことを、あなたらしく吸収していくみたいです)
小さなピアニストはこれ以上ないくらい嬉しく微笑んだ。
「こんどは、ちょうちょにするの」
「瞬はピアノがとても好きなのですね。ほとんど毎日、弾いていますからね」
「うん!」
ご機嫌になって、歩くスピードが少し速くなった瞬の手を引きながら、体は小さくても、大きな可能性を無限大に持っている存在に、大人の自分が何をできるのか、崇剛は窓の外に広がる中心街を眺めながら考える。
あなたには音楽の才能があるのかもしれませんね。
私もたまに弾きますが、上手とは言えません。
ですから、教えて差し上げることはできません。
涼介と相談して、ピアノの講師にきていただいてもいいのかもしれませんね。
崇剛と瞬というなかなかない組み合わせで、屋敷の中をUターンするように歩き回り、教会のドアの前までふたりはやってきた。
ロイヤルブルーサファイアのカフスボタンのひとつが、古い屋敷にしては新しい取手へと近づき押し開けた。
すると、青いステンドグラスを窓という窓に惜しげもなく使い、まるで海の中にいるような錯覚をもたらす聖堂が現れた。
青い絨毯が神へと導くように、身廊に真っ直ぐ敷かれている。執事を探そうとするが、視力が低下している崇剛にはすぐ見つけられるものではなかった。
千里眼を使おうとすると、瞬が急に手を離して、幼い声が聖堂中にこだまし、
「パパ!」
身廊の奥へと向かって走り出した。
一階へと続く階段へ近づくと、崇剛は瞬のひまわり色をした可愛らしい頭を、冷静な水色の瞳に移した。
一段ずつ、足をそろえて降りるという可能性が99.99%――
策略家の導き出した数値は、小さな子供にいとも簡単にひっくり返されるのだった。茶色のロングブーツと一緒に歩いていた小さな靴は、普通に階段を一歩でどんどん降り出した。
小さな子供にチェックメイトされた主人は、いつもと違って優しく微笑んだ。小さな体で大人が使っている階段を一生懸命降りている瞬へ、
「階段を上手に降りられるようになったのですね」
「うん!」
大きく首を縦に振って、ひまわり色の髪が元気に飛び跳ねた。崇剛は高く聳え立つ窓から空を見上げる。
瞬と私はほとんど接していませんからね。
以前は、一段ずつ足をそろえて降りていましたが、成長したのですね。
霊界にいる彼女も喜んでいるかもしれませんね。
瞬はぴょんぴょんと、最後の二段は両足でジャンプして、一階の廊下に可愛らしく着地した。いつも氷河期みたいな崇剛の瞳は、陽だまりのように穏やかに緩む。
食堂とは正反対の位置にある教会の扉。一番東へ向かって、主人と純真無垢な子供は、四角く切り取られた秋の日差しを浴びながら、再び歩き出した。
金木犀の風香りが窓からあふれ、華やかな空気がふたりの頬に触れてゆく。
乱れた後れ毛を神経質な手で、崇剛が耳にかけると、瞬がふと顔を上げた。
「せんせい?」
「えぇ」
呼ばれて、視線を下へ合わせると、かけたばかりの紺の後れ毛が頬にまた落ちてしまった。
小さな子供が次に何を言うのか。可能性から導き出した策略家は、優雅な笑みで話し出すのを待った。
(ピアノの話ですか? 私たちは今、ピアノの置いてある部屋の前を通っていますからね)
予想通りの答えが、瞬の小さな口から出てきた。
「チューリップ、ひけるようになった」
崇剛は自分の後れ毛をかけ直すこともせず、神経質な手でひまわり色の柔らかい髪をゆっくりなでた。
「そうですか。よかったですね」
屋敷の中に響いてくる、つたないメロディーは、崇剛の脳裏で綺麗な色をつけていた。
(一週間前までは、三小節目でつかえていましたが、弾けるようになったのですね。あなたは様々なことを、あなたらしく吸収していくみたいです)
小さなピアニストはこれ以上ないくらい嬉しく微笑んだ。
「こんどは、ちょうちょにするの」
「瞬はピアノがとても好きなのですね。ほとんど毎日、弾いていますからね」
「うん!」
ご機嫌になって、歩くスピードが少し速くなった瞬の手を引きながら、体は小さくても、大きな可能性を無限大に持っている存在に、大人の自分が何をできるのか、崇剛は窓の外に広がる中心街を眺めながら考える。
あなたには音楽の才能があるのかもしれませんね。
私もたまに弾きますが、上手とは言えません。
ですから、教えて差し上げることはできません。
涼介と相談して、ピアノの講師にきていただいてもいいのかもしれませんね。
崇剛と瞬というなかなかない組み合わせで、屋敷の中をUターンするように歩き回り、教会のドアの前までふたりはやってきた。
ロイヤルブルーサファイアのカフスボタンのひとつが、古い屋敷にしては新しい取手へと近づき押し開けた。
すると、青いステンドグラスを窓という窓に惜しげもなく使い、まるで海の中にいるような錯覚をもたらす聖堂が現れた。
青い絨毯が神へと導くように、身廊に真っ直ぐ敷かれている。執事を探そうとするが、視力が低下している崇剛にはすぐ見つけられるものではなかった。
千里眼を使おうとすると、瞬が急に手を離して、幼い声が聖堂中にこだまし、
「パパ!」
身廊の奥へと向かって走り出した。
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