明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

文字の大きさ
666 / 967
心霊探偵はエレガントに〜karma〜

Nightmare/3

しおりを挟む
 窓から入り込む光が、微笑ましいふたりを波打つように照らしては、壁の影に隠れてを繰り返す。

 一階へと続く階段へ近づくと、崇剛は瞬のひまわり色をした可愛らしい頭を、冷静な水色の瞳に移した。

 一段ずつ、足をそろえて降りるという可能性が99.99%――

 策略家の導き出した数値は、小さな子供にいとも簡単にひっくり返されるのだった。茶色のロングブーツと一緒に歩いていた小さな靴は、普通に階段を一歩でどんどん降り出した。

 小さな子供にチェックメイトされた主人は、いつもと違って優しく微笑んだ。小さな体で大人が使っている階段を一生懸命降りている瞬へ、

「階段を上手に降りられるようになったのですね」
「うん!」

 大きく首を縦に振って、ひまわり色の髪が元気に飛び跳ねた。崇剛は高く聳え立つ窓から空を見上げる。

 瞬と私はほとんど接していませんからね。
 以前は、一段ずつ足をそろえて降りていましたが、成長したのですね。
 霊界にいる彼女も喜んでいるかもしれませんね。

 瞬はぴょんぴょんと、最後の二段は両足でジャンプして、一階の廊下に可愛らしく着地した。いつも氷河期みたいな崇剛の瞳は、陽だまりのように穏やかに緩む。

 食堂とは正反対の位置にある教会の扉。一番東へ向かって、主人と純真無垢な子供は、四角く切り取られた秋の日差しを浴びながら、再び歩き出した。

 金木犀きんもくせいの風香りが窓からあふれ、華やかな空気がふたりの頬に触れてゆく。

 乱れた後れ毛を神経質な手で、崇剛が耳にかけると、瞬がふと顔を上げた。

「せんせい?」
「えぇ」

 呼ばれて、視線を下へ合わせると、かけたばかりの紺の後れ毛が頬にまた落ちてしまった。

 小さな子供が次に何を言うのか。可能性から導き出した策略家は、優雅な笑みで話し出すのを待った。

(ピアノの話ですか? 私たちは今、ピアノの置いてある部屋の前を通っていますからね)

 予想通りの答えが、瞬の小さな口から出てきた。

「チューリップ、ひけるようになった」

 崇剛は自分の後れ毛をかけ直すこともせず、神経質な手でひまわり色の柔らかい髪をゆっくりなでた。

「そうですか。よかったですね」

 屋敷の中に響いてくる、つたないメロディーは、崇剛の脳裏で綺麗な色をつけていた。

(一週間前までは、三小節目でつかえていましたが、弾けるようになったのですね。あなたは様々なことを、あなたらしく吸収していくみたいです)

 小さなピアニストはこれ以上ないくらい嬉しく微笑んだ。

「こんどは、ちょうちょにするの」
「瞬はピアノがとても好きなのですね。ほとんど毎日、弾いていますからね」
「うん!」

 ご機嫌になって、歩くスピードが少し速くなった瞬の手を引きながら、体は小さくても、大きな可能性を無限大に持っている存在に、大人の自分が何をできるのか、崇剛は窓の外に広がる中心街を眺めながら考える。

 あなたには音楽の才能があるのかもしれませんね。
 私もたまに弾きますが、上手とは言えません。
 ですから、教えて差し上げることはできません。
 涼介と相談して、ピアノの講師にきていただいてもいいのかもしれませんね。

 崇剛と瞬というなかなかない組み合わせで、屋敷の中をUターンするように歩き回り、教会のドアの前までふたりはやってきた。

 ロイヤルブルーサファイアのカフスボタンのひとつが、古い屋敷にしては新しい取手へと近づき押し開けた。

 すると、青いステンドグラスを窓という窓に惜しげもなく使い、まるで海の中にいるような錯覚をもたらす聖堂が現れた。

 青い絨毯が神へと導くように、身廊に真っ直ぐ敷かれている。執事を探そうとするが、視力が低下している崇剛にはすぐ見つけられるものではなかった。

 千里眼を使おうとすると、瞬が急に手を離して、幼い声が聖堂中にこだまし、

「パパ!」

 身廊の奥へと向かって走り出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【R18】仲のいいバイト仲間だと思ってたら、いきなり襲われちゃいました!

奏音 美都
恋愛
ファミレスのバイト仲間の豪。 ノリがよくて、いい友達だと思ってたんだけど……いきなり、襲われちゃった。 ダメだって思うのに、なんで拒否れないのー!!

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...