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第2章 カフェから巡る四季

第25話 春の景色

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 莉子が完璧な腕を確保し、店をしっかりリノベーションを終えて新装開店したのは、彼らと出会って1年が過ぎていた────

 現在、新装開店してから1ヶ月ほど。
 外観も洗練されたイメージに切り替わり、店内も雑貨など扱い、おしゃれなカフェとしてOLを中心に話題となっているという。
 そのお陰か、新規のお客も入り始め、平日でも賑やかになってきた。
 若干変化のある客層にあわせてメニューを組み、今日も1人で莉子は切り盛りしている。

 いつもどおり、バタバタと動き回る莉子を眺めるのは三井だ。
 今日は珍しく1人での来訪である。
 おかげで、他のOLさんの視線を独り占めである。
 時折髪をかきあげ、ネクタイを緩める姿に艶がありすぎるからだろう。
 莉子はもう見慣れているため、ドキリともしない。
 コーヒーサーバー片手に三井の横へとついた。

「コーヒー、おかわりいります?」

 それまで気づいていなかったのか、露骨に驚いた表情を浮かべられ、莉子も驚いた顔になる。

「……あぁ、もらうかな」
「珍しいですね」
「なにがよ」
「1人で来るのも、考え事してるのも。その顔は女の子のこと考えてない顔でした」

 莉子は空のカップにコーヒーを注ぎ足す。
 コーヒーが湯気をあげ、湯気につられて視線が莉子へと戻るが、

「なぁ、連藤……最近どうだ?」

 三井が言ったのは、ありがとうでもなければ、しかも連藤のことだ。
 他人のことに真剣になれるのかと驚きながらも、莉子は小さく首をかしげる。

「……どういう?」
「様子とか、そんなの」

 コーヒーをすする三井は莉子を見ない。

「そうですね。……あんまり元気はない、ですかね?」

 銀杏の木が揺れる。
 春の風がさざ波のように、葉をしゃらしゃらと鳴らしている。

「……連藤、目が見えなくなったの、春なんだわ」

 莉子は、三井が見る窓の先を見やった。
 その先には、杖を鳴らしながら淡々と歩く連藤がいる。
 慣れた歩き方だ。
 一歩を的確に踏みしめて、あたりの気配に気を配り、歩幅を変えずに進んでくる。

「迎えに行ってくるかな」

 コーヒーポットをカウンターに置き、莉子は駆けていった。
 莉子のサポートも慣れたもの。
 連藤の歩幅に合わせるように、連藤も莉子の歩幅に合わせるように、淡々と歩いている。
 何を話しているのか、笑い合う顔が窓から見え、それに三井も笑顔が浮かぶが、いちょうの若い草色が、季節が、この気持ちの邪魔をしてくる気がする。

「早く、夏になればいいのに」

 三井はまだ熱いコーヒーを一気に飲み込んだ。
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