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第2章 カフェから巡る四季

第62話 最近どう?

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 今日は奈々美と優が来店している。
 涼しい店内に一息つきながら、今日は2人ともに冷製パスタのご注文である。

 冷製パスタは夏限定のメニューなので、こうした暑い日によくでるのだが、本日はアボカドとエビの冷製パスタになる。
 意外と作り方は簡単で、まずは大きいボウルにオリーブオイルと醤油を、2人分なので大さじ2杯ずつ。
 次にわさびはなんとなく4センチぐらいと、すりおろしたニンニクをふたかけ分をとく。
 味を見てみて、濃い目でOK。

 次に、パスタを茹ではじめながら、具材の準備だ。

 茹でたむきエビは身を半分にそぎ切り、カニカマは食べやすい大きさに、大葉を千切り、アボカドを1センチに切って、さきほどのボウルへ投入。
 茹で上がったパスタは一度水でしめてからオリーブオイルをからめたあと、具材の入ったボウルへ。

 混ぜ合わせながらさらに味を見てみて、仕上げの醤油をひと垂らし。
 お皿に山になるように盛り付け、彩りよく具材を散らし、さらにミニトマトを半分に切ったものをバランスよく添えて、完成!

 これに合うワインは白ワインだろうか。
 などと考えながら二人にパスタを出しつつ、

「今日は飲みます?」
「私は飲みたいなぁ。奈々美は?」
「優が飲むなら、飲んじゃおうかなぁ。莉子さん、オススメありますか?」
「したら、北海道のワインはどうでしょう?」


「「北海道のワイン?」」


 二人の声が揃うが、まずは飲んでみていただかなければ、とワインクーラーに氷を詰めてボトルを差し込んだ。
 グラスを用意し、ほどよく食事が進んだところでワインの登場である。

「このワインは北海道のへそ、富良野のワインになります」

「北海道でもワインって作れるんですか?」奈々美が言うのもわかる気がする。
 極寒の土地の北海道でワインが育つのだろうか、と。

「品種改良を重ね、厳しい冬でも乗り越えられる品種にしているようです。有名なフランスと緯度も近いので、それらの品種を改良して育てているようですよ。こちらの白ワインは食中酒としては最適です。香りはほのかに、酸味は緩く、辛口なので後味スッキリな印象です。この和風の味にもなじみやすいかと」

 いいながらグラスに注いでいくと、色味は白に近い黄金色。
 グラスのフチにかかるくぼみは小さく、辛口と言われた通りの見た目をしている。
 香りは清々しい葡萄の香りがする。
 パスタを頬張り、ワインを飲み込むと爽やかな風味となって口の中に広がっていく。

「繊細さにはちょっぴり欠けるかもとは思いますが、爽やかな葡萄の香りと力強い味を楽しめると思います」

 莉子はそのまま席を離れようと背を向けたが、それを優が止めてきた。

「ねぇ、莉子さん、」

 莉子はくるりと振り返り、「何かありました?」声をかけた。

「ねぇ、莉子さんの料理っていっつも美味しいけど、かコツとかあるの?」
「コツ? ……レシピ通りに作る、ぐらいですけど」

 別の席からの新しいオーダーを受け、それをこなしながら莉子は少し首をひねっていた。
 どうも優の質問が引っかかるようだ。
 手元に目線を置いたままカウンターを挟んで座る二人へ、料理を作るのかと尋ねてみると、奈々美が代わりに口を開いた。

「優が、今度、瑞樹くんにご飯作るって言ってて……」

 そう言われ手元を覗くように視線を投げると、優の指先にはいくつも絆創膏が貼られている。

「いつ、ご飯作るんですか?」
「今週末なんだよね」

 優の言葉尻の声が小さく消えていく。
 彼女にとってこれは大きな問題のようだ。
 莉子は大きくうなずくと、そんな優にあっけらかんと、

「今日の冷製パスタ、食べさせてみるのはどうですか?」
「でも、コツとかあるんでしょう……?」

 もうすでに泣きそうである。
 莉子は優の頭をぽんぽんと撫でると、もう1枚のエプロンを差し出した。

「コツっていうなら、それなりに美味しいオリーブオイルがあればいけます。ほとんど包丁もいらないから、やってみましょう」

 莉子が満面の笑みを浮かべるが、優は怯えた瞳のままだ。

 さっそく鍋に水を入れてもらい、湯を湧かしている間に、先ほどと同じように作っていく。
 ただニンニクはチューブのニンニクにし、エビは冷凍の背ワタをとってあるものを使用。大葉はキッチンバサミで千切りにしてもらい、アボカドは半分に切ったあと、手で皮をむいてもらう。

「アボカドってこんなに簡単にむけるんだ……」
「思ったよりきれいにむけるでしょ? アボカドは柔らかいから、食べる時のナイフで切れば、手を切る心配ないかな」

 お湯が沸いたところで、細めの冷製パスタ用の乾麺を取り出した。

「普通であれば書いてある茹で時間より少し短くするのがいいんだけど、茹でたパスタを水でしめるので、同じ時間か、少し長めにしてもパスタによってはいいかも」

 でも一度食べてみるのが一番いいから、時間はあくまで目安に!
 そんな説明をすること5分。
 細めのパスタは茹で上がりにそれほど時間がかからない。タイマーが鳴り、一本つまんで食べてみてる。
 優からはちょうどいい、とのことでもう1分ほど足すことにした。

「なんで足すの?」
「水でしめて固くなるから、美味しいアルデンテよりしっかり茹で上がってる方がいいんです」

 そう話しながらザルにあけ、パスタに水をかけてしめていく。
 しっかり水を切ったあと分量外のオリーブオイルを薄くまぶしておく。
 味付けした具材が入ったボウルにパスタを加え、味をなじませるように混ぜ合わせ、ここで一度味見をする。
 くるりと手のひらに巻かれたパスタは少し醤油の色にぬれて美味しそうなこげ茶色だ。

「優さん、お味はどうですか?」
「ちょっと薄いかも」
「そう思ったら醤油を足してください」

 彼女は、ひと垂らしし、慣れない手つきで混ぜ合わせる。

「はい、で、できました」
「あとはこれを盛り付けるだけです。白い皿が無難です。大きめがいいかも。ここに山のようにのせ、積み上げる。高さを出せばそれなりに見えますから。で、すりごまを飾り程度にふりかけ、ちょっとだけ残しておいたシソを乗せれば、完成です。先ほど召し上がっていただいたのと、同じものですけども。じゃ、私が味見」

 莉子が早速とフォークを取り出し、一口すすった。
 シソの風味が爽やかで、まったりとしたアボカドと、ピリッとくるワサビが食欲をそそる。

「おーいしー! さ、優さんも食べてみて」

 優も一口食べてみると、「……おいしいっ」これしか言葉が出てこない。
 さらにどれどれと奈々美もパスタを口に運んでゆくと、

「優、すごくおいしい! 今までの中で一番、おいしいと思う」

 褒めているのか貶しているのか、ただ間違いなく食べられる料理が作れるようになったことは間違いない。

「今、簡単にレシピを書いておきます。アレンジはダメです。メシマズの一歩です」

 優は大きく頷くが、

「こんなに簡単にパスタが作れるって、思ってなかった! ……莉子さん、本当にありがと!」

 優からのハグは、連藤の抱擁より、熱く、激しかった。
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