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9 2nd ミッション:デート(仮)に行こう(蓮Side)

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そして、デート(仮)当日。
祝日の月曜日は良い天気だった。
秋の澄んだ空気は心地良く、絶好のお出掛け日和だな…と。一人舞い上がりぎみの蓮は、桜木町の駅前にいた。

約束の時間15分前。
落ち着かない気持ちを持て余して、ソワソワしながら改札口の傍に立っている。

背が高く、男にしては少し長めの髪にピアス。
中性的で華やかな顔立ちの蓮は、人に見られることに慣れている。
だが今日に限っては、締まりのないニヤニヤ顔のせいで道行く人に二度見されまくっているのだが、本人はそのことにすら気付いていない。

自覚のない片想い期間が長かったことを思えば、夢のような気分で。
笑いが止まらなくても仕方ないよな?と半ば開き直っている。

「デートとか全然思ってませんが、年上とのお出掛けだからある程度はちゃんとしてないとね?」というコンセプトで服を吟味する所から始まり、ヘアスタイルやアクセサリーも、悩みに悩んだ。

オリーブグリーンのアラン編みのカーディガンと、グレンチェックのパンツ。
髪はいつものようにハーフアップにはしないで、後ろでひとつに束ねた。アクセサリーは小さなクロスのシルバーピアスを左耳にひとつだけ。時計はスポーツタイプのものにして、ハイブランド系は止めておいた。

結果、少しラフめながら無難な雰囲気に落ち着いた、と思う。

(泉水さん、どんなカッコで来るのかな……)

カフェでの仕事着姿しか知らないので、服の好みは全然知らない。
シンプルな感じが好きそうな気はする。清潔感のある雰囲気とか……
そんなことを妄想してワクワクするなんて、最近は無かったなぁと気付く。
相手から告白されて始まる恋愛がほとんどで、自分からの片想いなんてもの凄く久しぶりだ。

(それで暴走ぎみな自覚は、一応あるけどね)

自嘲気味に笑って気持ちを少し落ち着けようとスマホを手にした。
『Celestite』でこれまでに撮った写真のアルバムなどを眺め始める。
その日の空。テラスとカフェの景色。
コーヒーとサンドイッチ。
――日替わりのサンドイッチも、蓮のお気に入りだ。刻んだ黒オリーブが入ったツナサンドが特に美味しい。
泉水がカウンターに飾る花――これは中庭から摘んだり、近所の花屋から買ったりすると言っていたなと思い出す。
それと、泉水の写真。
お願いして二人で撮ったものもあれば、働いている姿を何となく撮ったものもある。
考えてみれば、少し前はただのファンを自認していたから案外気軽にツーショットを撮っていたのだ。

(え、今の俺、こんなこと気軽にできるか……?)

その事実に愕然としていた時――


「蓮くん」
「わあっ!」

泉水が後ろからふいに現れた。

「随分早いんだね。ごめん、待たせちゃったか」

そう言って笑う泉水に、蓮の目は釘付けになる。
ネイビーブルーのジャケットに白のチノパン。インナーはスタンドカラーの薄いブルーのシャツ。
思った通り、清潔感のある白とブルーの爽やか系コーデである。
派手さはないが、細身の身体と柔らかな髪の効果で、堅すぎない優しい雰囲気だ。
いつもと同じ笑顔も、どこか特別輝いて見えて。またもや後光が差している気がした。

(……え、こんなに紺のジャケットと白のパンツが似合う人って、この世に他にいる??)

はあぁ、と声にならない吐息が感嘆と共に唇から溢れ落ちる。早くも膝から崩れ落ちそうだ。

「蓮くん?どうかした?」

ん?と、やや下からこちらを見上げ、覗き込んでくる。

(あ、近…っ)

切れ長の目が問いかけるような色を宿し、上目遣いに蓮を見詰めている。
近くで見ると肌のキメが細かく透明感がハンパない……などと思い、目が離せなくなった。
思ったより睫が長いとか、すこしだけシャンプーの香りがするとか、これまで以上に解像度の高い情報が蓮に押し寄せ、脳内の処理が追い付かなくなる。
つまりは供給過多で「オーバーフロー状態」になったらしい。
蓮は頭に血が昇って何も考えられなくなった。

(えっ、俺ってこんな奴だっけ……??)

我ながら唖然としてしまう。いやいや、ボーっとしてる場合じゃない、何か言わなければ。

「いや大丈夫、何でもない…!じゃあ、早速行こうか」

妙に大きな声を上げてしまい、ぎくしゃくと歩き出した。

――危ない。余りにも尊過ぎてずっと見詰めていたい気分になってしまった。
いやしかし、今日はずっと一緒な訳だから、いくらでも見てていいんだよな…!?
そんな幸せな状況があっていいのだろうか?

バクバクと自分の鼓動がうるさくなり、蓮の思考を邪魔してくる。
テンションの高過ぎる自分の感情をいきなり持て余し気味だ。制御するのに必死である。

こんな感じで今日一日、つのか?俺――

意識しすぎて、泉水の方を見れずにただ真っすぐ歩くことしか出来なかった。
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