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 病院のベッドに寝かされているトビアスの瞼が、ゆっくりと持ち上がる。
 それを見て、カティは声を上げた。

「トビアス様!」
「っ、うっ……カティ……?」
「トビアス様……トビアス様……っ」
「大丈夫か、カティ……? 怪我はない……?」

 体を起こしたトビアスは真っ先にカティの心配をする。カティの顔や体を見て、怪我がないかを確認している。
 カティの瞳から、ぽろぽろと涙が零れた。

「っなんで、私の心配なんか……。自分のことを心配して下さいっ。私なんて、一つの傷も負っていません……トビアス様が、助けて下さったから……っ」
「そうか、よかった……」

 トビアスは本当に安心したように微笑む。

「でも、カッコ悪いね……こんなにボロボロにされて……もっとカッコ良く助けられたらよかったのに」

 自嘲し、痣だらけの顔を歪めるトビアスを見て、更に涙が溢れた。

「カッコ悪くなんてありませんっ……。そんな風に、笑わないで下さい……っ。こんなに、傷だらけで……私のせいなのにっ……私のせいで、トビアス様が……!」
「カティのせいじゃないよ。俺が君を追いかけてしまったから……」

 ベッドの上できつく握り締められたカティの手に、トビアスの手が重なる。

「カティ、俺は本当に君を愛してる。一人の女性として、心から愛しく思っているんだ。君を抱かなかったのは……」
「わかっています」

 トビアスの言葉を遮り、カティは言った。

「私の為に、そうしてくれていたんですよね。私の気持ちを、考えてくれたんですよね……」
「カティ、もしかして……」

 目を見開くトビアスに、カティは頷く。
 カティの記憶は戻っていた。倒れ伏すトビアスを見たときに強いショックを受け、そのときに一気に記憶が蘇ったのだ。

「でも、ごめん……。カティを傷つけたくなかったのに、俺の行動は結局君を傷つけるだけだった……。そのくせ、しつこく追いかけたりして」
「トビアス様……」
「愛してるんだ……どれだけ嫌われても、カティを愛してる……」
「……嫌いになんて、なっていません」

 嫌いになれるのなら、とっくに嫌いになっていた。トビアスの気持ちなんて無視して離婚して、とっくに彼の前からいなくなっている。
 彼の愛を信じられないと思いながら、それでも信じたいと思ってしまうのだ。

「私は今でも、トビアス様を愛しています……」

 重ねられたトビアスの手を握る。

「信じるのが怖い……でも、信じたいんです。私はトビアス様と一緒にいたい……貴方の傍にいたい」
「カティ……」

 カティの手を、トビアスが強く握り返してくれる。

「これから、やり直させてほしい。もう間違わない。君だけを愛すると誓うよ、カティ」

 引き寄せられるように、どちらからともなく唇を重ねた。
 涙の交じる口づけはしょっぱくて、けれどとても甘かった。




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